バーコードで管理されるミツバチ? 「派遣労働」というお仕事
不純愛トーク 第194夜
結婚もできない、アパートさえ借りられない――そんな「ワーキング・プア」を生み出す元凶となっているのが、前回からお話している「スポット派遣」というシステム。ニッポンの幸せな結婚を破壊するこのシステムを、何よりも憎む長住、本日は、怒りを込めて、その悲惨な労働環境をレポートいたします――。
【今回のキーワード】 ワーキング・プア 労働組合 派遣会社
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AKI ねェ、哲ジイ。哲ジイが老体にムチ打って働いてたっていう、そのロジ……なんとかってところ、派遣で働いてる人たちって、どんな人たちだったんですか?
哲雄 ロジスティクスね。それにね、私はまだ、老体なんぞじゃありません。これでも、みなさんから「お若いですねェ」と言われてるんですから。
AKI それ、ヤバいですって、哲ジイ。「若い」に「お」がつくようになったら、もうお終まいですよ。
哲雄 エッ、そうなの? それで、質問は? あ、どういう人たちがいるか――でしたっけ。えっと……派遣で来ている人たちね。バイト感覚で来ている学生もいれば、ちょっと小遣い稼ぎをしたいっていう主婦もいるし、これが本業という非正規雇用の労働者たちもいる。ま、雑多っちゃ雑多。「ちょっと、パチンコ代稼ぎたくて」というおばちゃんたちも、「これしか仕事なくてね」と必死でくらいつくおっちゃんたちも、フリーターの若者も、みんな同じ「派遣」という立場で働いてるんだよね。
AKI 正社員もいるんでしょ?
哲雄 いるにはいるんだけど、正社員は、どっちかというと、派遣の人たちを監督する立場。エーッとね、ロジスティクスでの仕事っていうのは、大きく分けると、ピッキング、梱包、あとはフォークリフトってことになるんだけど、フォークは、免許が必要だから、だれでもできるってわけじゃない。それを除くと、倉庫の中で実際に動き回って仕事してるのは、ほとんどが派遣労働者なんだよね。
AKI その……ピッキングっていうのは、まさか、あのカギをこじ開ける……あれじゃないですよね?
哲雄 よくわかったね――って、そんなわけないでしょ。「ピッキング」は、ロジスティクスでは中心的な作業になるんだけど、注文伝票に合わせて、膨大な陳列棚から商品をピックアップする作業のことを言います。倉庫つっても広いからね。ここを一日中、歩き回ることになるわけです。けっこう足に来ます。それに、中には、重い荷物もありますからね。服とか化粧品中心の倉庫ならいいけど、洗剤とか酒類の倉庫とかだと、確実に、腰に来ます。
AKI それをやってるのが、派遣スタッフ?
哲雄 この作業は、ほとんどが派遣スタッフだけでやってるね。社員は、それをチェックしたり、監督したりしてるだけ。でね、だいたいひとつの倉庫には、3社から4社ぐらいの派遣会社がスタッフを送り込んでる。
AKI 一社にまかせてるわけじゃないんですか?
哲雄 そう。そこが、このシステムの大きな問題点。倉庫会社側は、たえず複数の派遣会社から人を入れることで、彼らを競争させるわけですよ。派遣会社てのは、いま、ちょっと過当競争状態になっててさ、ある会社が「時給1000円×人数」で人を入れてると、そこへ別の会社がやってきて、「うちだったら900円×人数で入れられますよ」なんてやったりするわけだ。当然、倉庫側にしてみれば、コストは低く抑えたいわけだから、競争によって派遣の費用が下がれば、それだけおいしいわけじゃない。
AKI ちょ……ちょっと待ってくださいよ。哲ジイが「○○チャンネル」の倉庫で働いたときの時給は、700円でしたよね?
哲雄 あ、ピンハネのことね。残念ながら、派遣会社がその仕事を時給いくらで受注してるのかは、わからないんだ。「元はいくらで取ってるの?」って、何度か突っ込みを入れたんだけど、頑として教えてくれなかった。だから、これは想像なんだけど、もし、われわれに支払う時給が700円だとすると、おそらく800~900円は取ってるだろうと思う。たとえば、1人1時間あたり100円のピンをハネるとして計算すると、そういうスタッフを50人入れた場合の派遣会社側の1日あたりの粗利は、《100円×7h×50人》で、3万5000円ってことになるよね。1ヶ月で100万ちょっと。そこから、派遣会社側の社員の給料とか、オフィスの維持費とかをまかなうわけですよ。
AKI 単純な疑問なんだけど、倉庫側からすると、派遣会社なんか経由せずに、直接、スタッフを集めたほうが、コスト的には得――ってことになりませんか?
哲雄 前にも言ったでしょ。それをやると、倉庫側が直接、彼らを「雇用」したってことになるじゃない。「雇用」ってのは、企業にとっては、すごく大きなリスクなんだよね。「ハイ、きょう、雇用しました。明日は要らない」なんてことにはならない、つーか、できない。いったん雇用した社員は、簡単には解雇できないことになってるし、「雇用」となると、「労災保険」「雇用保険」「厚生年金」「健康保険」などの保険をつけて、法令で定められた負担料率を企業が負担しなけれならなくなる。
AKI 派遣にすれば、そのリスクを避けられるってことですね?
哲雄 しかも、その日、必要な人数だけを、「あんたのところは、明日は○人ね」と、派遣会社に注文すればいいわけでしょ。こんな、都合のいいシステムはないわけですよ。その注文を受けて、派遣会社のほうで、「明日、○○の倉庫だけど、行ける?」と、エントリーした派遣要員に連絡して人数を確保するわけです。そんなシステムだから、中には、エントリーしたものの、いつになったら仕事が来るかわからない――って人だって出てくる。
AKI それじゃあ、生活できませんよね。
哲雄 できません。「パチンコ代稼ぎたくて」なんていうおばちゃんたちなら、それでもいいでしょうけど、それで生計を立てたいという人は、生活どころか、生きていけない。ネットカフェに泊まって、カップラーメンで飢えをしのぐ――なんて、もはや、人間の生活じゃないでしょう?
AKI 派遣の中には、レギュラーで入ってる人たちもいるんでしょ?
哲雄 私が行ってた「○チャンネル」を例にとると、ざっと見て、派遣の約半数がレギュラー。この人たちは、いちいち「明日、行ける?」なんて確認なしで、毎日、就業できるわけですよ。残りの半数は、その日の荷物の量、つまり仕事の量に応じて調節される「スポット」でしたね。
AKI 働く環境としては、どうなんですか? そういう職場の場合?
哲雄 端的に申し上げるなら、派遣、特に「スポット」は、人間扱いされてない――という感じでしたね。出勤すると、カッターナイフをひとり一本ずつ渡されるんだけど、そのカッターナイフにバーコードがついててね、それをバーコード・リーダーに読み取らせて、これがタイム・カード代わり。終わったときも、バーコード・リーダーで読み取らせる。オレたちは、ミツバチかよ……って感じ。
AKI エッ!? 何すか、その……ミツバチって?
哲雄 あ、ミツバチって、背中にバーコードみたいな模様がついてるじゃないですか。あれって、バーコードみたいに読み取ることができるんだって。それを使うと、きょうは何匹、蜜を集めに出かけて、何匹帰って来た。一匹が一日に何回、出勤した――なんてことが、把握できるらしいよ。ま、余談ですけどね。でね、バーコードでしか認識されない「倉庫のミツバチ」たちは、「おい」とか「そこのおまえ」とかでしか呼ばれない存在なわけですよ。私が、就労している間にも、キレた学生アルバイトが監督してる社員に食ってかかって、あわや乱闘になりかけた……なんてことがありました。かわいそうなのは、ピッキング・ミスなんかをした場合。
AKI 正座させられる……とか?
哲雄 さすがにそれはないけど、「私は、不注意から、ピッキング・ミスをしてしまいました。二度とこのようなことがないよう、注意します」なんていう反省文を書かされて、それを一日中、倉庫内の掲示板に貼り出される。ま、さらし者になるわけですね。
AKI 雇用の保証もしないくせに……?
哲雄 そう。そこなんですよ、問題は。
雇用の保証もしないくせに、
来れば、まるで奴隷並みに扱う。
派遣労働者の職場というのは、そのような環境にある――と言っていいと思います。通常だと、そういう労働環境などについては、何か問題があれば、「労働組合」がモノ言う、ってことになるんだけど、いま、日本では、「労働組合」の力がすごく弱くなってる。たとえ、労働組合があっても、非組合員である派遣労働者の問題までは、組合も相手にしない。
AKI 作れないんですか? 派遣労働者の組合……みたいなもの?
哲雄 実はねェ……そこがむずかしいんです。派遣のような非正規雇用の労働者の組合を作ろうという動きもあるんだけど、そうなると、その組合の交渉相手はだれか――ということになる。派遣労働者を雇用しているのは、各派遣会社なわけだから、日本だと、組合を作るなら、その派遣会社に対して作る――ってことになるよね。たとえば、Aという派遣会社で組合を作りました。交渉の結果、派遣の時給を一律50円UPするってことになったとしましょう。A社は、派遣先の企業に、「実は……」と派遣費用のUPを要求します。その結果、どうなるか?
AKI あ、そうか。「あんたのところは、もう、いいよ」になってしまうんですね?
哲雄 そういうことです。これが、日本の労働組合の最大の問題点。
AKI エッ、どういうこと?
哲雄 日本では、労働組合が各企業ごとに結成されてます。各雇用主とそこで働く労働者の個別の関係なんだよね。ところが、欧米の主要国では、労働組合は産業別に結成されてます。たとえば、自動車産業であれば、全自動車メーカーの労働者が「全米自動車労組」みたいな単一の組織でまとまってるわけです。しかも、「ユニオン・ショップ制」をとってる。
AKI エッ、ショップ……? お店……?
哲雄 いやいや、「ショップ」と言ってもお店じゃなくて、「従業員と組合員の関係」を表す言葉で、「ユニオン・ショップ」というのは、その職場で働く労働者には「労働組合に加入することを義務づける」という制度なんだ。そして、組合員の資格を失うと、従業員の資格も失う、というシステムになってる。だから、組合の影響力が、かなり強い。しかも、産業ごとにまとまってるから、「おまえのところは、組合がうるさいから、他社に切り替える」ってわけにはいかない。
AKI あ、そうか。つまり、もし組合を作るなら、「全派遣労働者の組合」を作らなくちゃ意味がない――ってことなんですね?
哲雄 そのとおり!
日本から「ワーキング・プア」を失くすためには、
非正規雇用の労働者が安心して結婚できる環境を作るためには、
「全派遣労働者労組」の結成こそ、急務である!
わたくし長住哲雄は、強く、そう、お訴えをさせていただいて、本日のトークを終えたいと思うのであります。
AKI ご清聴ありがとうございました。薄毛、独身、ややメタボな長住哲雄でございました。

管理人は常に、下記3つの要素を満たせるように、脳みそに汗をかきながら、記事をしたためています。
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