ケータイで操られる家畜!? 「スポット派遣」の悲惨
不純愛トーク 第193夜
日本は、「エリートしか結婚できない社会」に向かいつつある。その大きな原因のひとつに貧富の差の拡大がある――という話を、前回、お届けしました。「貧富の差」を生み出している最大の原因が、「派遣労働者」の増加。今回は、その中でももっとも悲惨、と言われる「スポット派遣」の現状を、管理人・長住哲雄の実体験をもとにお話したいと思います――。
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哲雄 ウーン、こりゃ、深刻だ。
AKI どうしたんですか、哲ジイ、頭抱えちゃって?
哲雄 つい、最近、発表されたんだけどね、
日本の貧困率が16%になっちゃった。
これは、たいへんな数字ですよ。
AKI エッ、貧困率って……?
哲雄 むずかしく言うと、「貧困」というのは、《「等価可処分所得」がその中央値の半分に満たないもの》と定義されてるんだけど、その割合が16%、つまり、国民の6人に1人が「貧困者」という社会になった――ということですよ、この日本が。
AKI すみません。チンプンカンプンなんですけど……。その「等価なんとか」って何ですか?
哲雄 そうだね。まず、「可処分所得」ってのは、所得から税金などの強制的に差し引かれるものを除いた所得額のことです。数式で書くと、
可処分所得=所得-〈税金、社会保険などの強制的に徴収されるもの〉
ここまではわかるよね。で、その前の「等価」ってとこなんだけど、これは、世帯全体の収入を世帯の人数で割った額ってことなんだけど、ただ割るんじゃなくて、「世帯人数の平方根」で割る――という意味なんだ。数式にすると、
等価可処分所得=世帯の可処分所得÷√世帯の人数
ってことになる。「√(ルート)」はわかるよね?
AKI エーッと、「ひとよひとよにひとみごろ」とか言うあれですよね?
哲雄 ハイ。「√2」は、「1.41421356…」、「√3」は、「1.7320508…」。中学校で覚えたよね。
AKI どうして、そんなややこしい割り方をするの? 単純に人数で割ってはダメなんですか?
哲雄 この数字はね、ひとりひとりの豊かさを表そうという数字なんだけど、単純に世帯人数で割ってしまうと、割りすぎなんだよね。ていうのもね、「世帯」というのは、「生計」を共にしているグループっていう意味でしょ。共にしている以上、家具とか家屋とかもろもろの家電類とかっていうふうに、家族で共有して使っているものもある。世帯人数が多くなるほど、「共有」のメリットが大きくなるので、「除数(割る数字)」も実際の人数より低くなると考えるのが合理的でしょ? じゃ、「√」で割ればいいんじゃないか――と、ま、そんなことで編み出された数式だろうと思うんだ。
AKI フーン。そうして出した「貧困者」の割合が16%? 6人に1人? 多いですね。
哲雄 参考までにその「等価可処分所得」の「中央値(分布上の中央に位置する値)」は、2006年には254万円だったんだけど、今回、発表された2009年の調査では224万円。2009年の数字で言うと、「等価可処分所得」が112万円に満たない者は「貧困者」ということになるわけですね。中央値も下がってるから、国全体が貧乏になってるんだけど、問題は「貧困率」が上昇しているってことなんだよね。
AKI つまり、それって、貧富の差が拡大した――ってことですか?
哲雄 そのとおり。よく暴動が起きないよな……ってぐらいの数字なんだよね。さて、きょうのテーマは、その貧困率を高める大きな原因となっていると思われる「非正規雇用労働者の増加」という問題、中でも「スポット派遣」の問題を取り上げてみたいと思うわけです。
AKI ね、哲ジイ。ちょっと確認したいんですけど、「スポット派遣」というのは、ふつうの「派遣」と違うんですか?
哲雄 ハイ、大違いです。「派遣」の形にはいろいろあるんだけど、ま、大別すると「レギュラー」と「スポット」に分けることができるかな。「レギュラー」は、言葉どおり、ある期間、定期的にその仕事に就労できるシステムのこと。「スポット」というのは、「きょうは仕事あるけど、明日? そりゃ明日にならないとわからないな」という「日雇い」システムのこと。その「スポット」を大量に使っているのが、前回、お話した……。
AKI あ、ロジ……なんとかって業界なんですよね? 何ですか? そのロジ……なんとかって?
哲雄 ロジスティクス。簡単に言うと、物流システムの一種なんだけど、生産から消費までを1箇所で集中的に管理して、効率的に運用しようというシステムなんだよね。そう言ってもピンと来ないよね。AKIクンは、通販は好きですか?
AKI そりゃあもう……。お店では買いにくい商品とかも、いろいろあるので……。
哲雄 あ、そっちのほうね。ま、そっちはほっときましょう。通販の会社っていうのは、だいたい大きな倉庫を持っていて、そこにいろんなメーカーの商品を一挙に集めて、注文に応じてピックアップした商品を、直接、消費者に発送する、という方法をとります。もちろん、メーカーから取り寄せる商品のロットも、注文の動向を見て決めるわけだから、ムダがない。もうひとつ、ムダがないのは?
AKI もしかして……従業員?
哲雄 ビンゴ!
翌日、何人の作業員が必要になるかを、
前日の注文状況を見て決定してるわけだよね。
これって、ひどくない?
AKI そうかぁ……。働く側から言うと、きょう仕事があったからと言って、明日もあるとは限らないですよね。
哲雄 もうちょっとひどい。いつ入ってくるかわからない仕事を、ケータイ握り締めて待ってるしかない。「スポット」というのは、そういう労働のシステムなんです。これを、通販会社でもやってる、運送会社もやってる、みなさんご存じの文具宅配システムの会社もやってる。物流に関わる多くの企業が、そんなシステムを採用してるんだよね。確かに、雇用する企業側にとっては、ものすごく効率的なシステムだと言える。しかし、これでいいのか?
AKI 哲ジイは、そういう仕事をしてたことがあるんですよね?
哲雄 2年間ほど。具体的にイメージを持っていただくために、その経験をお話しましょう。何社か経験したんだけど、いちばんひどかったところの話。そこは「○○チャンネル」といって、TVで毎日毎日、ショッピング番組(BSです)を流してる会社なんだけど、本体は、日本を代表する財閥系の商社なんだよね。その倉庫は、こないだ液状化でやられちゃった湾岸の埋立地にあります。会社をつぶした私は、とにかく食っていかなくちゃならないので、「○○トラスト」という派遣会社に登録して、そこの仕事にエントリーしたわけです。
AKI エ、エントリー……?
哲雄 たいていの派遣会社はそうしてると思うんだけど、登録者は、派遣会社で紹介している仕事の一覧から、「これ、やりたい」という仕事を選んで、エントリー・シートを書くわけです。しかし、その派遣会社は、ひどかった。
AKI ひどかった……?
哲雄 顔が見えないわけですよ、相手の。キミは、パチンコの景品交換所って行ったことありますか?
AKI ハァ……なにげに2度か3度ほど。
哲雄 景品交換所ってさ、向こうの顔が見えないような作りになってるよね。窓口は、小さな窓が開いてるだけで、その穴っぽこから景品を差し入れると、スーッとお金が差し出される。あれとおんなじなんだ。エントリー・シートもその穴から差し入れる。給料だって、その穴から渡される。いっさい顔をつき合わせずに、そうやって、金も仕事もやり取りされる。
AKI それ、ひどいですね。なんか、人間扱いされてないみたい。
哲雄 されてないと思いますよ。少なくとも繊細な私の神経には、「家畜扱いされてる」としか感じられませんでしたから。実はね、この会社、秋葉原にあったんだけど、秋葉原って、そういう派遣会社のメッカなんだよね。ホラ、トラックで歩行者天国に突っ込むっていう事件があったでしょう? 突っ込んだのも、派遣労働者だったんだけど、私もちょうどその頃、秋葉原の派遣会社に通ってる頃で、「ああ……」と思ったんだよね。これじゃあ、そういう行動に走っちゃうやつが出ても不思議じゃないよな――って。私は、2年間だけだったけど、これをもっと続けてたら、どこかで、人間が壊れてただろうな……と思いました。あ、話、逸れちゃったね。
AKI それで? エントリー・シートを提出したあとは、どうなるんですか?
哲雄 あとは、すべて、ケータイで管理されます。仕事が入ると、「明日、仕事がありますけど、どうですか?」というメールがケータイに入ります。「やります」という返信メールに自分の登録IDを打ち込んで送ると、「明日、午前○時に○○の駅改札に集合」という指示が返ってきます。それからが面倒。翌日、起きると、「いま、起きました」というメールを打つ。家を出るときに「いま、出ます」というメールを打つ。集合場所に着いたら、「いま、集合場所に到着」というメール。仕事場に入って仕事が始まる段階で、「これから仕事を開始します」とメール。仕事が終わった時点で、「いま、終了しました」とメール。どれか忘れたりすると、「給料を払えない場合があります」なんて、就業ルールに書いてある。
AKI なんか、聞いてるうちに、ハラが立ってきました。ケータイ一本で遠隔操作されてるロボットみたいじゃないですか、それじゃあ……。それで、いったい、いくらになるんですか、一日、仕事に出て?
哲雄 「○○トラスト」の「○○チャンネル」の仕事は、時給700円でした。9時~5時の8時間拘束だけど、うち1時間は昼休みだから、実働7時間(←これも、ひどい話である)と計算されて、4900円。往復の交通費も支給してくれないから、往復の交通費720円は自腹。つまり、手取り4180円。月に22日、フルに働いても9万ちょっとにしかならない。
AKI ひど~い! それじゃ、生活できないじゃありませんか。
哲雄 できません。家賃だって払えない――つーか、そもそも、部屋を借りることができない。いくらガンバったって、入居に必要な初期費用なんて貯められるわけないので、仕方なく、ネットカフェで寝泊りするようなことになる。でなきゃ、派遣会社が用意した寮に潜り込むか……。
AKI エッ!? 寮があるんですか?
哲雄 寮を用意してる派遣会社もあります。しかし、これがまたひどい。中には、寮とは名ばかり。8畳ぐらいの部屋に、二段ベッドを2つ用意して、それを「寮」と称しているところもある。これじゃ、「寮」じゃなくて「仮眠室」でしょ。
AKI まるで『蟹工船』の世界ですね。
【注】『蟹工船』……小林多喜二が書いた日本プロレタリア文学の傑作。蟹漁に出ては、獲った蟹を缶詰に加工する「蟹工船」で働く労働者の悲惨な現実を描いた作品。最近、復刻版が刊行されて、若い人たちに人気となった。
哲雄 オッ、『蟹工船』を知ってるとは、エライ。まさに、そんな世界です。「ロジスティクス」は、現代の「蟹工船」と言ってもいい。
AKI で、職場の中はどうだったんです?
哲雄 これがまた、ひどい。少し、恋愛と離れちゃったけど、実はね、現代のプアな若者たちが結婚できなくなってるその現実を知ってもらうために、この話、もう少し続けようと思います。なので、その職場環境についての話は、次回に。
AKI 引き続き、社会派モードでお送りしますよォ~!

管理人は常に、下記3つの要素を満たせるように、脳みそに汗をかきながら、記事をしたためています。
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