なぜ、共産主義の社会には「自由」がないのか?
不純愛トーク 第190夜
産業革命以降の人間のあり方に大きな影響を与えた「資本主義」という価値観は、近代人に「疎外」という精神的病を植え付けた。前回は、そんな話をしました。その疎外から労働者を解き放つために登場したのが、「共産主義」。しかし、その共産主義もまた、人間を解放するにはいたりませんでした。なぜか? 今回は、そんな話を――。
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哲雄 近代人は、「資本」によって、「ただの労働力」=「剰余価値を生み出すための道具」として雇用されることになった。そこから、「疎外」という近代人に特有の問題が発生した。前回は、そこまでお話したんでしたね。
AKI ハイ。もしも、私の「エステ」というお仕事が、工場のように生産ライン化されたらどうなるか――という、たいへんわかりやすい例(?)で解説していただきました。
哲雄 大量生産、大量消費の文明の中に突入したわれわれが、この仕組みをもう一度、「独立自営の生産者の時代」に戻せ、と言っても、たぶん、もうムリだろうと思います。
AKI でも、哲ジイ、農業や漁業では、まだ、そのシステムが続いているんじゃありませんか?
哲雄 日本ではね。でも、そのうち、農業や漁業も、アメリカの農業がそうなってるように、大資本が運営する時代になるかもしれない。そうなると、農民も、漁民も、ただの農業労働者、漁業労働者になってしまうでしょうね。
AKI 壊れますよね、日本の農村も、漁村も?
哲雄 壊れるでしょうね、農村、漁村だけじゃなくて、土壌も、海も。でもね、この問題は、「スロー・ライフ」という《価値観》にも関係してくる問題なので、あとで詳しく触れるとして、その前に、工場労働者の問題を解決しなくちゃ……。
AKI 前回は、資本主義が好き勝手に利潤追求に走るのにまかせていたら、社会は大変なことになる、という話をしたんですよね。
哲雄 ハイ。そこで登場したのが、ひとつは、「共産主義」という考え方だと、申し上げました。
AKI あの……基本的な質問なんですが、「共産主義」と「社会主義」って、違うんですか?
哲雄 ものすごく簡単に言うと、「社会主義」っていうのは、工場などの生産手段をできるだけ国有化して、資本の暴走に歯止めをかけ、利益の配分などを労働者側にも手厚くしよう――とする考え方だと思えばいいと思います。政策的にも、社会福祉を重視したり……とかね。一時期、イギリスなどは、そういう方向に向かいかけたことがありました。政党で言うと、「社会党」とか「社民党」とか「労働党」と名前のついた政党が目指すのは、そういう方向だと思います。
AKI 「共産主義」は?
哲雄 この「社会主義」をもっと徹底的に推し進める考え方です。究極の「共産主義」では、いっさいの「私有財産」を認めません。工場ばかりか、農地も宅地もすべて国のもの。つまり、あらゆる資産は、その社会全体の「共有」としようという考え方なんですね。理想的っちゃ、理想的。人間が、私利私欲から完全に解き放たれれば、そういう社会も実現できるでしょうね。実は、聖書が理想として説いている「野の花、空を飛ぶ鳥のようであれ」という考え方を追求していくと、人間は、私利私欲から解放され、「原始共産制」みたいな世の中が実現できるはずなんですが、しかし、これはあくまで、理想にすぎない。
AKI つまり、絵に描いた餅――ってことですか?
哲雄 なので、「共産主義」はしばしば「空想的社会主義」とも言われます。実際のところ、人間は、この私利私欲から完全には自由になれない。そこで、「共産主義」を実現しようとしたら、「力ワザ」に頼るしかなくなります。
AKI 力ワザ……? つまり、「強権」が必要、ってことですか?
哲雄 ビンゴ! で、出てくるのが「共産党」による「一党独裁」という考え方。社会をその基盤からごっそり変えてしまうためには、「共産党」のような党が全面的に政権を掌握して、「国民」の自由を制限してでも、強権的に共産主義への移行を果たすしかない。それと、理想的な共産社会を実現するためには、もうひとつ、条件がある。
AKI 何でしょ? わかんない……。
哲雄 世界同時革命……ということです。つまり、世界中が、一斉に共産主義体制に移行しない限り、その理想は実現できない――っていう考え方なんだよね。
AKI エーッ、どうしてぇ? 一国だけじゃダメなの?
哲雄 ちょっと考えてみてください。どこかの国が共産主義に移行して、効率中心の生産は止めましょう、労働者の立場を強くして、工場はみんなで運営しましょう――ということを始めたとします。しかし、一方では、労働者の横っ面を「効率と報酬」というアメとムチで引っぱたきながら、「もっと働け、もっと作れ!」とやってる国があるとする。すると、どうなります? 当然、「アメとムチ」政策を続行している国の生産力のほうが上になりますよね。もちろん、生産力=国の力、ではないわけだけど、そこには「国際市場」てぇものがあります。
AKI あ、そうか。共産体制で作った国の生産物は、アメとムチで作った国の生産物には、価格的にも太刀打ちできませんよね。
哲雄 ということになりますよね。当然、「国の経済力」という点では、どんどん格差が生まれてしまいます。なので、共産主義化は、世界同時に進めないと、うまくいかない。「世界同時革命」とは、そういうことなんだけど、実際は、そうはなりませんでした。先に共産主義化を進めた旧ソ連や中国は、「共産主義革命」を輸出しようとしたけど、それを押し留めようとする「資本主義体制」の国々との間で、戦線が膠着して、一進一退の状態になってしまいました。
AKI それが「冷戦構造」って言われてたものですね?
哲雄 そうです。主には、ソ連・中国・東欧諸国vs西欧・アメリカ・日本・韓国という東西対決となりました。さて、こうした状況下で、東側=共産主義陣営が、西側の経済力に対抗しようとすると、どうすればいいか?
AKI ムチを使うしかなくなる……?
哲雄 そうですね。資本主義体制の中では、ムチを使うのは「資本家」だったわけですが、共産主義体制の中では、国家がそれをやるしかない。国家とは、結局、官僚ということになります。本来は、労働者を解放するために始まった共産主義革命だったんだけど、結果的には、官僚が国民を締め付ける体制になってしまった。「スターリン主義」というのは、そういう体制のことを言うわけで、これが、国民の不満を高めることになってしまいました。
AKI 「共産主義体制」=「自由」がない、って私たちは思ってるんだけど、それは、そういう理由からだったんですか?
哲雄 共産主義体制に自由がない、というときの「自由」は、二重の意味で使われます。ひとつは、「共産党の一党独裁」だから、まず、「政治的自由」がない。しかし、共産主義の本来の理想から言うと、これはあくまで、過渡的な施策だったはずなんですよ。
AKI 過渡的……? どこへ行き着くための「過渡的」なの?
哲雄 世界の共産主義化が完成して、すべての労働者が解放されたら、もはやだれも人民を束縛する必要がなくなる。統治機構としての官僚も、政府も、必要なくなる。国境も要らなくなるし、最終的には「国家」そのものも必要なくなる。理想としては、そうなるはずなんだよね。
AKI ジョン・レノンの『イマジン』みたいな世界ですねェ。
哲雄 『イマジン』もそうだし、仏教が言うところの「浄土」もそういう世界だし、聖書が説く理想も、突き詰めれば、そういう世界になります。でもね、これは、あくまで理想。「空想的」と言ったほうがいいかもしれません。
AKI 実際には、それとはほど遠い世界になっちゃったわけですね。
哲雄 ほど遠いです。実際には、世界の共産主義化は思ったほど進まなかったしね。すると、共産主義の世界には、「政治的不自由」という「束縛」だけが残ったように、人々には見えた。たぶん、共産国家にいる人たちの目には、「いいなぁ、西側は」と映っただろうと思うんだ。「自由だし、豊かだし、ポルノだって見られるし……」ってね。
AKI ポルノは余計だと思います。
哲雄 ハイ、余計でした。でね、彼らが感じた「豊かだし…」っていうのが、実は、もうひとつの「自由」と関係するんだけど、共産主義に「自由がない」というときのもうひとつの「自由」の意味は、「経済活動が自由にできない」なんだよね。資本主義体制のように、「よし、ひともうけしてやろう」と会社を興したり、作った物を自由にマーケットに売り出したり……ということができない。経済が国家の統制下にあったからね。
AKI そこで、「いいなぁ、西側は……」になっちゃったわけですね。
哲雄 しかし、彼らは見ていませんでした。確かに、資本主義の社会では経済活動は自由ですから、もうけようと思えば、どんな商売だってできる。しかしね、その結果、ものすごい貧富の差が生まれてしまう。彼らが「豊か」と見ていたのは、貧富の「富」のほうだけで、その陰に、すさまじい「貧困」があることを見ていなかった。だから、自由経済へと移行したロシアにしても、改革開放路線へと方向転換した中国にしても、その結果、貧富の差がものすごく拡大して、いま、国民の間には、大変な不満が鬱積しています。
AKI やっぱり、元の共産主義のほうがよかったわ……と思っている人たちも、いるでしょうね。
哲雄 いますよ、実際に。ただ、中国は、開放したのは経済だけで、政治的には、共産党が一党独裁体制を続けてますから、「天安門事件」のようなことが起こるわけです。いまの中国は、「共産主義」とは名ばかり。むしろ、独裁制の強欲資本主義国家……みたいな様相を呈してるんだね。このままだと、第二、第三の「天安門事件」が、きっと起こるであろう――と、不肖・長住は懸念しているんですよ。
AKI なんだか、きょうは、池上彰さんの番組みたいなトークになっちゃいましたけど、ちょっとまとめちゃいましょうか。要するに、効率と利潤至上主義の資本主義の中で、「ただの労働力」として人間性を剥奪されていった労働者を解放するために、共産主義というものが産声を上げたけど、その共産主義も、人間を真に解放するにはいたらず、資本主義的な富に目がくらんで方向転換し、結果、ますます貧富の差を拡大させることになってしまった。こんな私にだれがした――と、本日は、そんなところでよろしいでしょうか?
哲雄 なんと、素晴らしいまとめ。次回は、もうひとつの方向。資本主義の矛盾を「大きな政府」の力によって修正しようという、言ってみれば「社会資本主義」みたいな動きについて、お話したいと思います。
AKI きょうは、ないんですか?
哲雄 な、何が……?
AKI ところで、AKIクン、ボクはキミをフーゾクの「拝金主義」から解放したいと思うんだけど……とかなんとかいう、いつものやつ?
哲雄 アナログ放送は、間もなく終了します。
AKI な、なんすか、それ……?

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