《手コキの経済学》 なぜ働く喜びが得られないのか?
不純愛トーク 第189夜
産業革命以降の近代人が直面することになった、精神の危機。近代人の価値観を規定いる上で、大きな影響を及ぼすことになった「疎外」という問題を、今回は、AKIクンが本業で使う職業上のスキル=「手コキ」を例に、わかりやすく解説してみます――。
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哲雄 近代とは何か――と、もし、問う人があれば……。
AKI おっ、大きく出ましたね。ハイ、問う人があれば……?
哲雄 人が、「生産手段」としての土地から引き剥がされ、郷里を失っていった歴史である――と言えると思います。
AKI 土地から引き剥がされて、ただの「労働力」になっちゃったんですよね。
哲雄 そう。その「ただの」ってところが、とても重要。産業革命以降に大量に誕生した「工場労働者」っていうのは、別に、自分でなきゃダメっていうスキルを必要とされるわけじゃない。ま、多少の熟練を求められる種類の仕事もあるかもしれないけど、どこかからイキのいい若いのを連れて来て教え込めば、くたびれた「熟練工」よりも、よっぽど効率よく、ラインの「生産性」を上げることができる。つまり、こうです。
「ただの労働力」とは、
「取り替え可能」で、「生産性」以外に「売るもの」がない労働力のことである。
AKI つまり、「効率」ということでしか評価されない「労働力」ということですね。そういう「労働力」が大量に必要になったのが、産業革命以降? 日本で言うと……?
哲雄 そうですね、日本が明治維新を迎える頃には、欧米諸国はすでにそういう状態になっていた、とお考えください。さて、問題は、キミの言う「効率」だけで評価される「労働力」の担い手たる労働者が、そんな自分の立場をどう感じていたか――ということです。
AKI 面白くはなかったでしょうねェ……。
哲雄 面白くはないでしょうねェ。でも、それだけじゃない。わかりやすくするために、キミの仕事を例にとりましょうか?
AKI エーッ!? 私たちの仕事? だって、私たちは、お客さまひとりひとりと向かい合って、ちゃんとコミュニケーションをとって、心身ともにリラクゼーションしていただくという仕事ですよ。ま、最後に、ちょっと……手で、あれをおなぐさめしちゃったりもしますけど……。
哲雄 キミとしては、そういう仕事にやりがいを感じてもいるんだよね?
AKI ハ、ハイ……。
哲雄 ところが、あるとき、すごい経営者がやって来ました。「きょうから、このエステの作業をライン化します」と言うんだね。一日、30~50体の「オトコ」を流すから、肩をもむ者、背中をくすぐる者、ふくらはぎをもむ者、ももをなで上げる者、アレを手コキする者……それぞれ位置について、一日で最低30体のノルマをこなすように。このラインをA~Dまで作ります。ノルマの30体を超えたラインには、その本数に応じて報奨金を出すので、チームワークよく、効率的に作業を進めるように。あ、AKIクン、キミはAラインの手コキ・ポジションに入ってくれたまえ――てなことになっちゃった。
AKI あり得ないですよ、そんなの?
哲雄 だから、わかりやすいたとえ話として話してます。キミは、キミのポジションに流されてきた、すでにチンチンおっ立ち状態の「オトコ」のアレを、次から次に手コキして、「あっ」という間に放出させ、次の「お疲れ様でした」ポジションに流す。さて、これでも、AKIクン、キミは「エステ嬢・AKI」としてのやりがいや、「いやし系女」としての生きる喜びを持ち続けることができるか?
AKI できませんよ、そんなの。それじゃ、ただの「手コキ・マシーン」じゃありませんか?
哲雄 だよね。いくら、ガンバって手コキしても、キミは、手コキした「オトコ」に対して愛着を感じることもなければ、その作業を誇りに思うこともできない。もし、何かしらやりがいを感じることがあるとすれば、「きょうは50本も抜いちゃった。ガンバったわ、私の右手」ぐらいのことでしょう? つまり、キミの存在価値は、「ノルマを超えた20本分」とほとんど同義になってしまう。「ただの労働力」になるというのは、そういうことなんだよね。
AKI かわいそう。近代人って、かわいそうですね。
哲雄 でしょ? そうして「効率」のみによって評価される「労働力」になった多くの近代人は、その効率によって生み出される「剰余価値」というものの中に、自分の生きがいや働く喜びを「外化」してしまう。自分という存在が「剰余価値」の中に奪い去られてしまうんだね。精神的には、この状態を「疎外」と言います。
AKI その「剰余価値」って? もう少しわかりやく説明してください。
哲雄 ちょっと下の図を見てくださいな。

図の左側にある「労働の価値」が、右の図では「利潤」+「労賃」になってるよね。「利潤」には利子収入とかも含まれるから、厳密にはイコールじゃないんだけど、この「利潤」のほとんどは、労働が生み出した「剰余価値」なんだよね。AKIクン、「資本」の目的って、何だと思う?
AKI そりゃ、もうける――ってことじゃないですか?
哲雄 だよね。経済学の上では、それを「利潤」と言います。その「利潤」は、どこから生まれると思います?
AKI そりゃ、あれですよ。ピンはねでしょ?
哲雄 オーッ、よくおわかりで。ピンをはねる――これを、経済・社会学用語としては、「搾取」と言います。たとえば、キミが個人的にだれかの魂をいやしてあげたいと思って手コキしてあげるとしましょうか? ハウマッチ?
AKI エ……?
哲雄 だから、キミの手コキの価値は、いくらぐらいかとお訊きしてるわけです。
AKI ここで言うんですかぁ? そりゃ、他のことをやらないで、手コキだけだったら、そうですねェ、だいたい5000円ぐらいに相当するかと……。
哲雄 じゃ、5000円としましょうか。もし、キミが個人的に営業するとしたら、その5000円は、そのままそっくり、キミのふところに入ってきます。しかし、これを「工場」として運営するとしたら、キミに5000円をそっくり支払ったんじゃ、経営者側の取り分はなくなってしまいます。
AKI ま、しかし、いろいろ設備費とかもかかってるし、電気代とか、工場の家賃とかもかかるだろうし……。
哲雄 経費ですね。じゃ、その分として、1000円は差し引くことにしましょうか?
AKI それに、一応、社長とかマネジャーも仕事してるし……。
哲雄 じゃ、その給与分として、そうですね、ひとり500円ずつ差し引くことにしましょう。あと、もろもろの材料費として100円。全部で、1600円差し引く。キミの取り分は3400円ってことになりますね。でも、それだけじゃないでしょう?
AKI 他に、何か……ありましたっけ?
哲雄 キミのとこの社長は、雇われでしょ? その上に、金を出してるオーナーがいるんじゃないの?
AKI あ、います、います。顔も見たことないけど、そういう人、いるらしいです。
哲雄 厳密に言うと、「資本」っていうのは、そういう人のことなんだよね。株式会社だと、株主がそれに当たるんだけどね。でね、この人たちは、ただ「金を出している」というだけで、「もうけを寄越せ」と主張する人たちです。しかも、この主張は、「資本主義」というシステムの中では、「至上命令」になります。
AKI 至上命令……ですか? たとえば、お客さんが少なくなって、売上がダウンしたりしたら……。
哲雄 とにかく、「資本」というのは「利潤」にしか興味のない存在ですから、売上が落ちたら、従業員の取り分を減らしてでも「もうけを出せ」と要求します。働きのわるいやつは、首を切れ、とも要求します。もっと、長時間、働かせろ、と要求する場合もあるだろうし、従業員をもっと安く使えるフィリピーナに替えろ、なんて要求だってするかもしれない。極端な場合には、「手コキじゃもうからないから、売春までさせろ」と要求するオーナーだっているかもしれない。
AKI そう言えば、そういう話、チラホラと、耳にしたことがある。つまり、オーナーっていうのは、ただ、「利潤を寄越せ」と要求するだけで、従業員の「働く喜び」なんかには目もくれない、クールな存在なんですね?
哲雄 まれに、とびきり人道的なオーナーもいたりするみたいだけど、そういう甘いオーナーは、この競争社会の中では淘汰されていきます。それにね、中には、「従業員のモチベーションを高めるために」というので、やたら福利厚生を充実させたりするオーナーも現れたりするんだけど、それも、結局は、そのほうが結果的には売上も伸びて、利潤が上がるから――という理由が隠されているんだよね。
AKI てことはですよ、哲ジイ。つまり、こういうことですか?
「資本」が「労働力」を使用するというシステムである限り、
働く人間は、「利潤」を生み出すための道具として、「疎外」されるしかない
そういうことなんですね?
哲雄 イエ~ス! 資本主義という価値観は、そういう価値観だからね。しかし、それじゃまずい――という声が、当然、起こります。
AKI 起て、万国の労働者! ですね?
哲雄 それ、それ。ひとつは、19世紀末になって、マルクスなどが提唱し始めた「共産主義」の考え方。もうひとつは、ケインズなどが主張し始めた、資本主義を修正していこうという考え方です。どちらも、資本主義が利潤追求に走るままにまかせていては、社会は大変なことになる――という危機感から生まれた価値観なんですが、ここから先は長くなるので、次回ということにしましょうか? ところで、AKIクン……。
AKI なんか……いやな予感……。
哲雄 ピンはねのない、キミが喜びを感じられるような「手コキ」を、やって見る気、ない? この紳士を相手に……?
AKI キャッ。それだったら、私、疎外されてるほうがましかも……。

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