「無関係の市民」なんていう「市民」は、存在しない
不純愛トーク 第185夜
愛のあり方を大きく左右する「価値観」。その価値観を生み出す宗教の話から、前回は「テロ」の話へと話が進みました。今回は、ちょっと寄り道。テロが報道される度に使われる「無関係な市民」という言葉の意味を、少し掘り下げてみたいと思います。筆者の立場は、「無関係な市民」なんていう「市民」は、存在すべきでない、なのですが――。
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AKI あの……わたくし、いわゆる「一般市民」としてお尋ねするんですけど、前回、テロは「無関係の市民」を犠牲にするから許せない――と申し上げたときに、確か、哲ジイは……。
哲雄 ハイ、申し上げましたよ。「無関係の市民」なんていう市民は存在しない、いや、存在すべきでない――と、ハッキリ申し上げました。
AKI でも、たとえば、市街地に仕掛けられた爆弾で市民が巻き添えになるってことだってあるじゃないですか?
哲雄 だから、それは「巻き添え」なんじゃなくて、標的にされたってことなんです。
AKI ど、どうして?
哲雄 標的にされるのは、その国が、あるいはその国の何らかのグループが、相手地域でその勢力と敵対するような行動をとったからですよ。
AKI 市民は何もしてなくても……?
哲雄 何もしてないからいけないんじゃないですか?
AKI エーッ、よくわかんない。
哲雄 じゃ、わかりやすい話をしましょうか? たとえば、ワールド・カップで日本がどこかの国と闘って、勝ったとしましょう。AKIクンは、「やったぁ! ニッポン、ニッポン!」と、歓声を挙げたりしませんか?
AKI ま、熱狂しやすいほうですからね。それくらいはやるかもしれません。
哲雄 無関係の一般市民なのに?
AKI だ、だって、チーム・ジャパンは、私たちの代表ですもん。
哲雄 ホーッ。サッカーチームに関しては、AKIクンは「無関係な市民」ではなくなっちゃうんだね。じゃ、自衛隊は?
AKI エッ!? 自、自衛隊? 何かありましたっけ?
哲雄 これだよ。あのね、自衛隊は、いま、世界の紛争地で、いろいろ仕事をしてるんだよ。イラクにも部隊を派遣してました。アフガンでも、給油艦が活躍してました。どちらも、いまは引き上げちゃってるけどね。でも、現に紛争中の地域に出かけていって、自衛隊が、争っているどちらかの側に加担する行動をとったとしたら、その相手側にとっては、日本は自分たちの敵だ、ということになる。この理屈はわかるよね?
AKI ハ、ハァ……。
哲雄 自衛隊は、何も勝手に出かけていくわけじゃない。われわれ日本人の代表として行くわけですよ。「無関係の市民」という言い方はね、「いや、あれは自衛隊が勝手に行ったんです。私らには関係がありません」と言ってるのと同じことなんだよね。
AKI そうなっちゃいますか?
哲雄 ハイ、なっちゃいます。その国の組織が何かの行動をとれば、それは、国がそういう行動をとることを容認した国民、つまり市民ひとりひとりの責任なんだよね。民主主義てのは、そういう制度なわけです。どうもね、そこらへんをわかってない人が、マスコミの中にもいる。「無関係の市民を巻き込んだテロには、私たちは怒りを禁じ得ません」なんてことを平気で口にしているキャスターなんかを見ると、バカか、おまえ……と思ってしまうわけです、このガンコ親父は。
AKI それって、自衛隊派遣だけの問題ですか?
哲雄 いい質問ですねェ。答えはNO! たとえば、日本の大企業が、海外に出て行って、どこかで石油を採掘したとします。しかし、その石油採掘によって、現地の自然を破壊して農民や漁民に多大な迷惑をかけたとか、あるいは現地の人たちを劣悪な条件で働かせて、大規模な反日運動を誘発してしまった――なんてことがあったとしましょうか。もちろん、いちばんの責任は、当の企業にあるんだけど、しかし、私たち日本国民にも責任がないわけじゃない。
AKI その石油を使ったから?
哲雄 というより、もっと積極的な責任があるかもしれない。たとえば、その企業が現地の労働者を低賃金でこき使わなくてはならなくなった理由が、「安い石油」に飛びつくわれわれの消費行動にあって、しかも、その企業の海外採掘を後押しするような行動をとったとすれば、その責任は決して小さくはない。
AKI でも、ふつう、そこまでは考えないでしょう? 通常の消費生活の中では?
哲雄 でも、たえず、そういう問題意識を持ち続けるってことは、たいせつだよね。自分が当たり前と思ってとっている行動が、もしかしたら、世界のどこかに矛盾を生み出すことになってるんじゃないか――っていう意識。少なくとも、ジャーナリズムには、それを指摘する義務がある、と私は思っています。
AKI つまり、この国のだれかが、たとえそれが国の機関でなかったとしても、世界で問題を引き起こすような行動をとろうとしたら、反対しなさい――ってことですね?
哲雄 反対もするし、もっと積極的に、そういう行動を阻止するための意思表示をしなさい――ってことだね。それが、市民の責任である、と長住は思うのであります。少なくとも、
サッカーやオリンピックのときだけ
「国民」になるような市民であってはいけない
と、わたくし長住は思います。でもね……。
AKI ハイ? まだ何か……?
哲雄 こと戦争に関して言うと、近代の戦争というのは、それ以前の戦争とは、意味合いが変わってしまいました。
AKI どういうことでしょう?
哲雄 ある時代まで、戦争というものは、軍隊と軍隊の戦いでした。つまり、プロ同士の戦闘だったわけで、その際、「非戦闘員」は巻き込まない――というのが、ま、グランド・ルールというか、騎士道とか武士道とかの精神でもあったわけですが、第二次世界大戦あたりから、ガラッ……とその性質が変わりましたからね。
AKI そうか……。原爆とか落としちゃったしね。
哲雄 オッ、AKIクンって、1000回に1回くらい、いいこと言いますね。
AKI もっと、言ってると思いますけど……。
哲雄 そうなんだよね。原爆がいい例。それとか、市街地への絨毯爆撃。市街地への爆撃てのはさ、目標は、軍事施設じゃないわけですよ。つまり、これってさ、AKIクン流に言うなら、「無関係の市民」にダメージを与えて、戦意喪失させようって作戦なんだよね。これをいちばん度ハデにやらかしたのが、アメリカ。東京大空襲では、20万人もの非戦闘員が焼き殺されちゃったし、広島では14万人、長崎では7万人を超える死者が出て、さらにその後の原爆症などによる死者も含めると、膨大な数の犠牲者を出しました。アメリカは、ベトナムでも、この空爆作戦を敢行して世界中から非難を浴びたし、イラクやアフガンでの空爆でも、多くの非戦闘員を犠牲にしました。
AKI つまり、あれですか? 現代の戦争では、非戦闘員も攻撃の対象になる――と。てことは、テロだけが卑劣なわけではない――ってことなんですね。
哲雄 それは、前回も申し上げましたから、もう繰り返しません。ただ、よく使われる「無関係の市民」という言葉を「非戦闘員」という言葉に置き換えて考えると、少し、ものの見方が変わってくる、と言いたかったわけです。実はね、「戦闘員」と「非戦闘員」をハッキリ区別する社会というのは、ものすごく前近代的な社会でもあるわけです。
AKI そ、そうなんですか? エッ、よくわかんない……。
哲雄 AKIクンは、「士農工商」って言葉、知ってるよね?
AKI エーと、江戸時代までの、身分制度ですよね? 「士」がいちばん偉かったんでしょ?
哲雄 ハイ。「士」は「武士」ってことだよね。で、江戸時代までは、この武士にだけ武器を持つことが許されてて、戦争をする特権が与えられてました。
AKI 戦争するのって、特権だったんですか?
哲雄 そう。武器を持って戦争ができる人たちは、たぶん、どの世界でも社会の上層を占めてました。日本では「武士」だし、西欧では「騎士」。「封建制」と呼ばれる社会の中では、「武力」は、上層階級だけに持つことが許された特権だったわけですよ。つまりね、「戦闘員」と「非戦闘員」の間には、「身分」という名の厳密なラインが引かれてた。
AKI そういう時代だと、「無関係な市民」も存在し得たわけですね?
哲雄 「市民」じゃなくて、ただの「庶民」としてね。
AKI ウン? 「市民」と「庶民」って違うんですか?
哲雄 近代っていうのはね、この身分差別をなくすことによって成立するんだけど、その段階で登場するのが、「市民」という概念なんです。「市民社会」は、たいていの場合、「市民革命」によって、王政だとか帝政だとかを打倒することによって、成立しました。「戦闘員」と「非戦闘員」の身分差別も、このプロセスを経て解消されるわけですが、その結果、戦争のあり方も変わっていったんですねェ。そして、価値観も……。
AKI そこ、重要ですね。
哲雄 重要です。結婚のあり方も大きく変わります。ほんとは、その話をしたかったんだけど、本日は、長くなってしまったので……。
AKI では、次回を楽しみにしてますわ。

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