戦争は美徳でテロは悪――という理屈は、成り立たない
不純愛トーク 第184夜
あなたの愛のあり方を左右する「価値観」。その価値観に大きな影響を及ぼすのが宗教です。ここ3回ほど、連続してお届けしているキリスト教的価値観とイスラム教的価値観の問題ですが、今回は、イスラムの価値観の中から、なぜ、テロに走る過激な考え方が生まれたのかを、考察してみます――。
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哲雄 AKIクン、ボクたちは、当たり前のように、西欧近代文明の価値観を受け入れて生活してるよね?
AKI ハイ、マックとか、毎日のように行ってますし……。
哲雄 ま、そういうのもあるけど、もっと大きくは、一夫一妻制を当たり前みたいに受け入れてるし、女性の参政権や社会進出も、まるで常識みたいに受け入れてる。株を買い占めてひとの会社を乗っ取る……なんてことも平気でやっちゃうし、親が学校の教育方針に口を出すなんてことも当たり前だ――と思っちゃってる。でも、ほんとに、これでよかったのか?
AKI 哲ジイが一夫一妻制を快く思ってないことは存じ上げてますけど、そんなに何もかも、疑問に感じちゃってるんですか?
哲雄 いや、私が……じゃなくてね、当然、そういう疑問を感じる人もいるはずだ――という話を、きょうはしようと思っているわけです。で、そういう疑問を、いちばん強く感じていた、そして現在も感じ続けているのが、イスラム原理主義の人たちではないかと思うのです。AKIクンは、イスラム原理主義が誕生して、いまもその考え方をベースにして社会が動いている国・地域は、どこだと思いますか?
AKI イラン……かな?
哲雄 ホメイニ師がイラン革命を起こした頃のイランは、そうでしたね。でも、いまはそうでもない。シーア派が多数を占めるイランって国はね、昔から、「ウラマー」と呼ばれる宗教指導者たちの力が強かったんだけど、それと同じくらい、リベラルな考えを持った知識層の力も強かった。この両者が拮抗して、立憲派→保守派→立憲派→保守派……と、体制がめまぐるしく入れ替わってたんですよ。ところが、第一次世界大戦のあと、イギリスの後押しを受けた軍人、レザー・シャーが共和国を樹立して、のちにパフラブィー王朝を成立させ、これがホメイニの革命までの間、独裁的な政治を続けるんだよね。これに反発したのが、ホメイニ率いる保守派と知識層を中心としたリベラル派。イラン革命は、この両者が手を結んだ形で成功するんだよね。
AKI フーン。じゃ、カダフィのリビア……?
哲雄 カダフィは軍人だよね。言ってみれば、「世俗」の代表ですから、イスラム原理主義ではあり得ない。原理主義グループを政治的には利用するかもしれないけど、その体質は、きわめて世俗的です。
AKI ウーン、エジプトも違うし、イラクも違いますよね。どこだろ?
哲雄 じゃ、正解。サウジ・アラビアです。現在のサウジ・アラビアは王政をとっていて、元首は、代々、初代の国王、イブン・サウドの末裔たちが継承しています。イブン・サウド自身は、宗教指導者じゃありませんから、この王権そのものは世俗権力なんですが、実は、この初代イブン・サウドが精神的支柱としたのが、後のイスラム原理主義の源流になったと言われている、ムハンマド・ブン・アブドゥル・ワッハーブという人物でした。
AKI ウワッ、覚えにくい名前。
哲雄 で、このワッハーブさんは何を主張したかというと、「預言者の時代の純粋なイスラムに回帰せよ!」だったわけです。ワッハーブは、西洋的立憲主義によって近代化を図ろうとするイスラム社会内部の動きにも、中東やアフリカを植民地化しようとする西欧列強の動きにも、激しい敵意を抱きました。サウジ・アラビアは、いまでも、このワッハーブの考え方を受け継いでますから、イスラム的戒律にも、きわめて厳しいです。お酒も、絶対に飲めません!
AKI あ、それは聞いたことがあります。私は、絶対に住めないなぁ……。
哲雄 でしょうね。その後、このワッハーブの思想を受け継いでエジプトに登場したのが、「ムスリム同胞団」です。前回、お話しましたが、その頃のエジプトは、「社会主義的民族主義」を唱えるナセル大統領の指導下にありました。ところがね、この同胞団のメンバーがそのナセルの暗殺を企てたりしたために、徹底的に弾圧されてしまうわけです。それに怒ったのが、サイイド・クトゥブという人物でした。このクトゥブこそ、「イスラム原理主義の父」と呼ばれる人物なんだよね。
AKI なんか……おいしそうな名前ですけど……。
哲雄 クノールでも、クリープでもありません。実は、このクトゥブこそ、「ジハード=聖戦」という言葉を初めて唱えた人物なんですよ。そしてね、このクトゥブは、それまでの指導者たちがまったく口にしなかった重要なことを言いました。
AKI 「殺せ!」とかですか?
哲雄 「殺せ」は、何もクトゥブに始まったことじゃない。問題は、闘う対象です。クトゥブは言ったんだよね。私たちの敵は、西洋近代文明だけじゃない。イスラムの世俗民主主義の中にも、われわれの敵がいる――とね。
AKI 民主党の中からも、菅下ろしの声が上がるようなもんですね?
哲雄 もっとひどいものです。このクトゥブの思想を受け継いで結成されたのが、「ジハード団」という組織なんだけど、そのリーダーとなったムハンマド・マラジュは、クトゥブの思想をさらに攻撃的に発展させて、こう言いました。「外的との闘いを始める前に、まず、イスラム内部の敵を倒せ」。そして、やっちゃったんです。ナセルの急死後に政権を引き継いだサダト大統領を、この「ジハード団」が暗殺してしまいます。
AKI それ、いつ頃のことですか?
哲雄 1981年。キミが生まれる直前だね。1997年には、やはりクトゥブの影響を受けた「イスラム集団」という組織が、今度は、遺跡で知られるルクソールで、外国人観光客を襲撃する、という事件を起こしました。
AKI あ、その事件は覚えてます。その頃からですか? テロが頻繁に起こるようになったのは?
哲雄 そうだね。ところが、英米を中心とする西側諸国は、そんなテロ集団にもかかわらず、この連中を支援しちゃったんだよね。というのも、ちょうどその頃、ソ連がアフガニスタンに侵攻したから。「ジハード団」や「イスラム集団」の若者の多くは、義勇兵としてこのアフガニスタン戦線に参加したんだよね。ソ連と対立していた西側陣営にしてみれば、「敵の敵は味方」という発想で、この集団に武器を援助するなんてことをやっちまった。危険な集団だとわかってたくせにね。
AKI その中に、ビンラディンも含まれてた……という話でしたよね。
哲雄 ハイ。ま、そんなわけで、後のイスラムのテロ組織は、欧米によって育てられた、と言ってもいいと思うんだ。ところで、この「テロ」ということを、価値観の問題として申し上げるならば、「考えの違うやつは殺しちゃってもいい」という思想、もっと言うなら、「自分たちが正しい、理想的と考える世界を阻害する要因は、武力をもってでも排除すべきだ」というのが、テロリズムの発想で、別に、それはイスラム世界に限った話じゃない。
AKI そ、そうなんですか?
哲雄 アメリカでは、ジョン・F・ケネディも、マルチン・ルーサー・キングも、ロバート・ケネディも、テロの凶弾に倒されました。日本でも、明治維新のきっかけになったのは、テロでしたよね。
AKI あ、そうか。桜田門外の変ですね。じゃ、あれですか? 哲ジイとしては、テロも、あながちわるいものじゃない……と?
哲雄 自分たちの信念のために、身体を張って行動する人間を、「いい」か「わるい」かで断じてしまう考え方には、私は賛成しかねます。もし、「どんな理由があろうと人の命を奪うことはよくないことだ」という考えから「テロはわるい」というのであれば、「戦争もよくない」と言わねばならないし、「死刑もよろしくない」と言わなくちゃいけない。しかし、「自分が正義と感じることのためだったら、人の命を奪うこともいたし方のないことだ」と考えるのであれば、論じなくちゃいけないのは、「テロがいいかわるいか」じゃなくて、「その目的は正しいかどうか」「あなたの正義はほんとに正しいかどうか」ってことだと思う。
AKI で、哲ジイはどっちなんです?
哲雄 私は、あなたもご存じのように、「汝の敵を愛せよ」という教えを受けて育った人間ですよ。それに、家は代々、殺生を戒める仏教徒でもあります。当然、前者でしょう。
AKI てことは、テロもよくないけど、戦争もよくない、死刑もよろしくない――と思うわけですね? テロも、戦争も同列……?
哲雄 同列……というより、戦争のほうが、たちがわるい。特に、いまの戦争はね。
AKI エーッ、どうしてェ?
哲雄 テロは、相手の命を奪う代わりに、自分の生命も危険にさらす。場合によっちゃ、自分の命を犠牲にして、相手と刺し違える――という覚悟を求められるよね。でも、いまの戦争ってさ、特に圧倒的に優勢にある側の戦闘行為てのはさ、ほとんどTVゲームみたいな感覚で、安全な場所からモニターを見ながらボタンを押すだけだったりする。そんな感覚で、人を殺しちゃっていいのか――とね、私は思うわけですよ。
AKI でもね、哲ジイ。テロは、無関係の市民まで犠牲にしちゃう場合があるじゃないですか?
哲雄 それは、戦争だって同じでしょ。アフガニスタンだって、イラクだって、いったいどれだけの非戦闘要員が犠牲になったことか……。それにね、AKIクン、私は、基本的に「無関係の市民」という言葉が好きじゃないんです。というより、この世に「無関係の市民」なんてものは存在しない、いや、存在しちゃいけない、と思ってるんですよ。
AKI エッ、そ、そうなんですか?
哲雄 ウン。「無関係の市民」とは、いったい何か? この話、長くなるので、また、次回ということにしましょうか?

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