怪物=ビンラディンを生んで殺した、西欧の「ご都合」
不純愛トーク 第181夜
人の生き方や愛し方に大きく影響する「価値観」。前回に引き続き、今回は、キリスト教的価値観とイスラム教的価値観を比較する予定でしたが、報道で飛び込んできたビンラディン殺害のニュース。急遽、イスラム原理主義の話に寄り道することにします――。
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AKI ビンラディン、殺されちゃいましたね。これで、テロはなくなっちゃうのかなぁ……。
哲雄 なわけ、ないでしょ。もしかしたら、もっと激しくなるかもしれない。
AKI エッ!? そうなの?
哲雄 そりゃ、そうでしょ。イスラム原理主義を掲げる連中にしてみれば、自分たちの指導者のひとりを殺されたわけだから、当然、報復しようとするんじゃないですか? アメリカという国は、どうも、そこらへんがわかってない。
AKI そこらへん……って?
哲雄 つまり、世界を動かしているのは、思想だ――ということがです。イラク戦争のときもそうなんだけど、彼らの単純な頭脳は、この世の中には、悪事を働く悪党がいて、そいつらがそそのかして、あちこちで悪さをしてるんだから、そいつさえやっつけちゃえば、悪事は収まるだろう――ってね、どうも、そんなふうに単純に考えているフシがある。
AKI まるで、水戸黄門みたいですね。
哲雄 そう。勧善懲悪の世界。西欧的な善悪二元論の価値観では、悪と正義しかないんだよね。その「悪」だって、元々は、自分たちが育てたようなもんでしょ。
AKI そ、そうなんですか?
哲雄 ええ、ビンラディンを育てたのも、サダム・フセインを育てたのも、アメリカです。
ビンラディンの場合は、元々は、アフガニスタン紛争てのがあって、そのとき争ってたのは、当時のソ連寄りの政権とそれに対抗する反政府勢力だったんだけど、ソ連と対抗していたアメリカは、ソ連寄りの政権を打ち倒すために、ビンラディンたちに肩入れして、ソ連と闘わせたんだよね。
AKI じゃ、元々は味方だったんじゃないですか!?
哲雄 そうですよ。で、そのとき、アメリカがビンラディン一派に武器を与えるなどして援助したために、アルカイダは大きな戦力を獲得するにいたった。ところがね、大きくなったビンラディンたちを怒らせるようなことを、アメリカがやっちゃった。
AKI 女……ですか?
哲雄 何をバカな……。湾岸戦争ですよ。クエートに侵攻したイラクを、多国籍軍が排除しようとして起こした戦争です。そのとき、アメリカは、イスラム原理主義を標榜しているビンラディンたちが、聖地と崇めるアラビア半島の土地に基地を建設するなどして、そこを土足で踏みにじるようなことをやってしまった。これに、原理主義者・ビンラディンたちが怒った。
AKI 原理主義者って、すぐ怒るんですね?
哲雄 ハイ、すぐ怒ります。キリスト教原理主義も、イスラム原理主義も、ヒンドゥー原理主義も、すぐ怒ります。なぜなら、原理主義者たちは、自分たちが「神聖不可侵」と感じている「精神的聖地」のようなものを頑として守ろうとしますから、そこを侵されると、すぐに怒ります。で、ビンラディンは怒っちゃった。ところが、アメリカという国は、そういう精神性を、あまりリスペクトしない。特に、自分たちのキリスト教文化以外の精神文化に対して、敬意を払おうとしない。当時のブッシュ政権には、特にそういう傾向が強かった。「あいつらは悪だ」「オレたちは正義だ」みたいなことを、すぐに言い出す。
AKI ね、サダム・フセインもそうだったの?
哲雄 サダム・フセインは、バリバリの世俗主義者でしたから、思想的には、ビンラディンたちとは、対極に位置する人物でした。
AKI 世俗主義……って?
哲雄 宗教的価値観などには重きを置かず、むしろ、世俗的利益を重視して行動する精神的態度のことを言います。むしろ、西欧的合理主義に近い考えの持ち主でした。しかし、このフセインも、アメリカなどのご都合で、怪物として育てられてしまった。
AKI 何のために……ですか?
哲雄 当時のイランに対抗するためです。イランはその頃、「イラン革命」の直後でした。「イラン革命」っていうのは、ホメイニなどに指導されたイスラム原理主義者たちを中心とする反政府勢力が、イギリスなどに支持されたパフラヴィー朝による王政に抵抗して起こした革命なんだけど、この「イスラム革命」の波が、周辺のイスラム諸国にも及ぶのではないか、ということを、当時の西欧世界、特にアメリカは懸念しました。
AKI エッ!? 広がっちゃうとまずかったんですか?
哲雄 いろんな意味でまずかったんだね。まず、イスラム原理主義は、イスラムの純粋性を守るために、西欧的なものを自分たちの文化の中から排除しようとします。マクドナルド? とんでもない――って話だけど、ま、そんなのは小さな話で、いちばん排除されて困るのは、西欧の資本なんだよね。なにしろ、イスラム世界ってのは、かなりな程度、石油資源の世界でもあるわけだから、多くの西欧世界が、そこに決して少なくない利権を持っている。それを排除されたりしたらたまらない。特に、当時のブッシュ政権を構成していたメンバーってのは、アメリカのメジャー石油資本がバックとなったシンクタンクの出身者たちだったからね。
AKI それで、イラン革命の輸出、まかりならぬ――ってなったわけですか?
哲雄 そのとおり。そこで目をつけたのが、イランの隣国・イラクで世俗政権を打ち立てていたフセイン。よし、このフセインに力をつけさせて、イランに対抗させよう――と、英米を中心とする西欧諸国は考えた。その結果、「怪物フセイン」ができ上がってしまった。ところが、この怪物が太りすぎてしまった。
AKI エッ!? 糖尿病……とか?
哲雄 じゃなくて、力をつけすぎて、欲をかき始めた。国内では、非民主的な強権政治を進めるし、隣国・クエートの石油利権にまで手を伸ばそうとし始めた。
AKI わかった。ハブを退治しようとしてマングースを繁殖させたら、今度は、マングースが増えすぎて家畜を襲うようになった。しゃあない。マングースも駆除するか――と、そういう話になったわけですね。勝手なもんですわねェ。
哲雄 うまいこと言うねェ。しかし、まぁ、おっしゃるとおり、勝手なもんです。近代のイスラム世界っていうのは、そんなふうに、西欧列強のご都合に振り回され続けてきました。その結果、生まれたのが、反西欧色の強い「イスラム原理主義」というわけです。本来、原理主義運動そのものは、もっと純粋に宗教的なもののはずなのですが、そういう経緯もあって、イスラム原理主義=反西欧、という構図が出来上がっちゃった。つまり、根っこが深いわけですよ。
AKI だから、ビンラディンひとりを殺したところで、解決する問題ではない――ということなんですね。
哲雄 そういうことです。
AKI 元は、同じ神様を信じる者同士なのにね。
哲雄 そう。きょうは、ほんとうは、その話をする予定だったのに、キミがビンラディンの話なんかするから……。
AKI すみません。横道に逸れちゃいましたね。それで、哲ジイ、イスラム教とキリスト教の関係って、元々は、どうだったんですか?
哲雄 イスラム教が成立したのは、キリスト教の成立よりずっと後なんだよね。ムハンマドが天使ガブリエルの啓示によって、預言者として目覚め、布教活動を開始するのは、西暦610年。日本で言うと、大化の改新の約35年ほど前の話です。
AKI 天使ガブリエルって、キリスト教にも出てきますよね。
哲雄 ハイ、出てきます。話したでしょ? イスラム教もキリスト教もユダヤ教も、おなじ神様を信じる宗教なんだって。登場する天使たちも、預言者も、共通なんですよ。
AKI エッ!? 預言者も共通なの? モーセとか……?
哲雄 ハイ。イスラム教の聖典である『コーラン』には、モーセもイエスも登場します。
AKI ちょ、ちょっと待ってくださいよォ。エーッ、イエスまで出てきちゃうんですか、『コーラン』には?
哲雄 ただし、預言者のひとりとしてですよ。「神の子」としてじゃなくて。そして、イスラム教は、預言者であるイエスを「神の子」に祭り上げてしまったのは、「偶像崇拝」にもつながる大罪である――と、キリスト教を批判するわけです。
AKI ムハンマドは、神様にはならなかったわけですね?
哲雄 イスラム教では、ムハンマドは「最後の預言者」という位置づけです。そして、ムハンマドの死後、神は二度と、この世に預言者を遣わすことがなかった。イスラムの世界では、そういうことになっています。
AKI じゃ、キリスト教とイスラム教の違いは、イエスを「神の子」とするかどうか、というその一点にかかっているわけですか?
哲雄 もちろん、それ以外にもありますよ。いちばんの違いは、日々のお勤めがあるかどうか――じゃないですか?
AKI 日々のお勤め……ですか。私、もしかしたら、苦手かもしれない。
哲雄 でしょうね。ハッキリ言って、AKIクンは、イスラム教にはまったく向いていないと思います。イスラム教では、この日々の実践を、とても重視しますから。
AKI その日々の実践って、何ですか?
哲雄 ようがす。そこから先は、次回、お話しましょう。

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