頼りになるのは金だけ――差別が生んだユダヤ的価値観
不純愛トーク 第180夜
前々回からお届けしている「愛と価値観」の話。今回は、「頼りになるのは金だけ」というユダヤ的価値観が、どんな歴史的背景から生まれたか――について、ちょっとウンチクを傾けてみます。「金から金を生み出す」なんていう発想は、恋愛とは対極に位置する考え方だと、知っていただくために――。
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哲雄 AKIクン、ちゃんと悔い改めてきましたか?
AKI エッ!? エッ!? な、何を……です?
哲雄 前回、お話したでしょう? 人は、何かをしたから罪びとになるのではなく、心の中にもともと罪を抱えているんだ――イエスはそう主張することによって、ユダヤの律法主義と対立し、そのためにはりつけにされてしまった……と。
AKI でも、その罪は赦されちゃってるんでしょ? イエス様が十字架にかかって、全部、引っかぶってくれたんでしょ、私たちの罪を? じゃ、いいじゃん。別に悔い改めたりしなくても。
哲雄 ダメだ、こりゃ。
AKI ダメなの?
哲雄 ダメです。イエスはこう言いました。「私が来たのは罪びとを招くためである」。いいですか? ここで言う「罪びと」というのは、「私は罪深い人間です」と自覚して、そこから救われることを望んでいる人のことを言います。自分が来たのは、そういう人の罪を赦して救うためである――と言ったわけです。逆に、「オレは罪なんか犯してない。正しいことしかしてない」と胸を張る人間や、「いいじゃん、罪ぐらい犯したって」と開き直る人間が救われるのは、「ラクダが針の穴を通るよりむずかしい」とイエスは言いました。おお、神よ。この罪深き女を赦したまえ。
AKI いいもん。私、仏教徒だから。
哲雄 仏教は、もっと厳しいですよ。
AKI エーッ、そうなのぉ?
哲雄 でもね、仏教にはいろんな教派があって、そうだね、「救い」ということに関していちばんゆるいのは、浄土真宗かな。親鸞が言ったのは、「善人でさえ往生するんだから、悪人が往生できないわけがない」。
AKI エッ!? それ、逆なんじゃないの?
哲雄 そう思うでしょ? でも、親鸞が言った「善人」というのは、「自分は善人である」と思っている人間のことで、「悪人」と言ったのは、「自分は悪人である」と思っている人間のこと。似てるでしょ? 親鸞の言う「悪人」とイエスの言う「罪びと」。どちらも、「自分は罪深い人間だ」と認めている人間のほうが「救い」に近い――と言ってるわけですよ。
AKI 認めます、認めます。わたくしAKIは、人を見ればエッチなことばかり考えている罪深い女です。こないだなんて、電車でおシリを触られただけで感じちゃったりなんかしました。
哲雄 なんか、軽いなぁ。でもね、そういう軽い人でも、イエスの思想であれば、救いに近づくことができる。少なくとも、613項目もの律法が守れているかどうかで「おまえはOK」「おまえはダメ」と分別されるユダヤ教よりは、はるかに罪も認めやすいし、救いにも近づきやすい。しかも、イエスは、ユダヤ人であろうが、ローマ人であろうが、だれしもその罪を認めて悔い改めれば救われる――と説いた。その普遍性があったので、キリスト教は、すごい勢いで他民族の世界にまで広がっていきました。世界宗教と呼ばれる宗教には、この「普遍性」が必要なんだよね。
AKI 世界宗教って、いま、いくつあるんですか?
哲雄 キリスト教と仏教とイスラム教。この3つだけです。人数から言うと、仏教徒よりもヒンドゥ教のほうが多いんだけど、ヒンドゥ教は、インド独特の社会的制度、カーストと結びついているので、「世界宗教」とは呼ばれないんだ。
AKI ユダヤ教も「世界宗教」にはなれなかったんですね?
哲雄 そりゃそうでしょ。ユダヤ教は、あくまでユダヤ民族を「選ばれた民族」としてその救いを求める宗教だから、他民族に受け入れられるわけがない。しかも、イエスを十字架にかけちゃったわけだからね。以後、キリスト教的価値観とユダヤ教的価値観は、ぶつかり続けることになります。
AKI エッ!? ユダヤ人がヨーロッパで嫌われたのは、イエスを処刑しちゃったからではないんですか?
哲雄 劇画レベルで言うと、そういうことになるかもしれないけど、根はもっと深い。大きいのは、「選民意識=自分たちは選ばれた民族である、という意識」でしょうね。それがゆえに、ユダヤ民族は、周囲のいろんな民族とぶつかり続けました。
AKI 第二次世界大戦のときには、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大虐殺が起こりましたよね?
哲雄 ハイ。でも、ユダヤ人の虐殺は、何もそのときに始まったわけではない。十字軍の昔から、延々と行われてきました。
AKI エッ!? 十字軍って、イスラム教徒から聖地エルサレムを奪回するために送られたんでしょ?
哲雄 最初はそうだったかもしれないけど、この遠征は何度も繰り返されるうちに、その性質が変わっていきました。次第に、略奪者の集団みたいになっていったんですね。
AKI それで、ユダヤ人も略奪の対象になっちゃったんですか?
哲雄 その前に大事なことをひとつ。ユダヤという国家は、ローマとの戦いに敗れて消滅してしまいます。そして、西暦132~135年にかけて、ユダヤ人は祖国を追われてヨーロッパの各地に離散していきます。いまで言うと難民化したわけですね。ところが、離散先のヨーロッパの各地は、このユダヤ難民に土地所有を認めず、農業に従事することも認めなかった。彼らは、何をやって生きていけばいいか?
AKI 商業……しかないですよね?
哲雄 というか、金貸しですね。仕方なく、多くのユダヤ人が、キリスト教徒が嫌って手を染めようとしなかった「金貸し業」に従事するようになり、その結果、ユダヤ人たちに富が集中するようになりました。ロスチャイルドなど、名だたる金融資本は、そのほとんどが、ユダヤ資本。いまでも、世界の金融市場を牛耳ってるのは、ユダヤ資本だと思うんですが、これがまた、キリスト教徒たちの憎悪を生み出すことになりました。
AKI 十字軍は、ユダヤ人も攻撃したんですか?
哲雄 十字軍てのは、1096年の第1回遠征から1270年の第7回まで、全部で7回繰り返され、1291年に終結します。日本で言うと、平安末期から鎌倉時代にかけての時代なんですが、第3回以降は、本来の目的であるエルサレムの奪回には成功せず、その代わり、遠征の道々で略奪や虐殺を繰り返すようになります。そのターゲットになったのが、まず、ユダヤ人。同じキリスト教国であった東ローマ帝国までも、侵略の対象となりました。
AKI 正義の十字軍……どころか、略奪者の群れだったわけですね。
哲雄 2000年には、当時のローマ法王、ヨハネ・パウロ2世が、この十字軍遠征は過ちであったと世界中に悔い改めるメッセージを送るんですが、それでもどこかのおバカな大統領が、イラクに侵攻した多国籍軍を「現代の十字軍」などと表現して、失笑を買いました。話が逸れてしまいましたが、ユダヤ人への迫害は、その後も続いて、1881年には、当時のロシアで「ポグロム」と呼ばれる大虐殺が行われ、そして、1942年には、ナチス・ドイツによる「ホロコースト」で、600万人ものユダヤ人が虐殺されてしまいました。第二次世界大戦で亡くなった日本人が、軍民合わせて300万人ですから、どれくらいすごい規模の虐殺だったか……。
AKI それほど、ヨーロッパ社会でのユダヤ人憎悪がすごかった――ということでもあるんですね。
哲雄 キミは、シェークスピアの『ベニスの商人』という戯曲を知ってますか?
AKI ハイ。ユダヤ人金貸しのシャイロックが登場して、憎まれ役を演じるんですよね。
哲雄 私も、小学生の頃、学芸会の劇でシャイロック役をやらされました。
AKI ヘ~ンだ! 私は、ポーシャ姫の役でしたよ~ん。
哲雄 ホラ。その「ヘ~ンだ!」の中に、キミのユダヤ的なものに対する憎悪の念がにじみ出ております。
AKI べ、べつに……そんな深い意味は……。でも、そこで憎悪された「ユダヤ的なもの」って何だったんですか?
哲雄 ひと言で言うと、「拝金主義」でしょうか。祖国を失って以降のユダヤ人は、前にも言ったように、土地を持つことも、農業を営むことも許されませんでした。で、仕方なく、「金貸し」を生業とするようになった。頼りになるものは、金しかない――という世界です。これが、ユダヤ的価値観の中で、重要な位置を占めるようになった。近世からの植民地主義、近代以降の産業革命の中では、この価値観に先導された金融資本が、産業界を、金融という力を武器に牛耳っていくようになります。
AKI でも、その価値観、私、あんまり好きじゃないかも……。
哲雄 実を言うと、私もそうです。金が金を生む――という価値観は、いまでも、市場原理主義や強欲資本主義などを牽引する原理になっているのですが、その根底に、このユダヤ的価値観が流れていることは、否定できないと思います。
AKI じゃ、哲ジイも好きじゃないんだ、ユダヤ的なものが……?
哲雄 その「拝金主義」的な部分に関してはね。しかしね、忘れないでください。そうした価値観を作り上げざるを得なくしたのは、離散したユダヤ人を差別し続けてきたヨーロッパの社会だった――ということを。中世以降のヨーロッパで、ユダヤ人がどんな偏見と差別の中に置かれていたかは、『ベニスの商人』の中でも明らかでしょ。それにね、もうひとつ忘れないでいただきたいのは、そんな中で「立て、万国の労働者!」と、労働者の解放を謳いあげたマルクスもユダヤ人だったし、人間の無意識の世界に光を当てたフロイトもユダヤ人だったし、ジャズという音楽のジャンルを築き上げたガーシュウイン兄弟も、「相対性理論」を打ち出して、結果的に原爆の父となったアインシュタインも、みんな、ユダヤ人だった。
AKI つまり、ユダヤ人は、創造性や先見性にすぐれた民族でもあったわけですね。
哲雄 「無」から「有」を作り出す――ということに関しては、天才的だったんでしょうね。そういう意味では、尊敬すべき人たちでもあるわけです。
AKI ね、哲ジイ。ユダヤ教的価値観はキリスト教ともぶつかったけど、イスラム的価値観ともぶつかりましたよね?
哲雄 イスラムは、キリスト教世界ともぶつかりました。そこらへんの話は、次回、お届けすることにしましょう。

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