第17夜☆年下の愛人は、妻の求めを拒めない
哲雄 世界には、実に美しい浮気の文化がある。
AKI 美しいんですか? 浮気って……。
哲雄 『愛はなぜ終わるのか』(→参照する)を書いたヘレン・E・フィッシャーって人が、いろいろ例を挙げてるんだけど、たとえば、一部のイヌイットには、伝統的に、客をもてなすために妻を提供する、という習慣がある。
AKI それ、浮気じゃなくて、虐待みたいな気がする。
哲雄 もちろん、これは、妻、客、夫など、関係者全員の同意の上で行われ、妻はその義務を果たすことを、貴重な行為だと考えているんだそうだ。
AKI ヘーッ。信じられない。
哲雄 ときどき思うんだよね。大事な客をもてなすために妻の体を提供し、妻も嬉々としてその仕事に従事する、というこのおおらかさのほうが、ほんとうは人間として貴重なことで、それを信じられないと思うわれわれの感性のほうが貧しいのではないか……とね。
AKI 貧しいんですかね?
哲雄 少なくとも、日本とかだと、亭主が怒るよね。たとえば、家に親しい友人が遊びに来た。その友人を、妻が何かと世話を焼く。料理をとりわけ、酒を注ぎ、ま、本心かどうかは別として、うっとりした目で、「いいわねェ、○○さんの奥さん、やさしいダンナさまに守られて」ぐらいの世辞は言うよね。
AKI 私だって、それくらいは言うよ。たぶん……。
哲雄 ところがダンナは、客が帰ったあとになって、「なんだ、おまえ、さっきは」なんてプンプンしだす。中には、「おまえ、ほんとはああいう男のほうがよかったんじゃないの?」と、イヤ味たらしく言い出すヤツもいるかもしれない。
AKI イヤですねェ、そういうの。
哲雄 でしょ? やっぱり、どこか貧しい。
AKI 愛人についてはどうなの?
哲雄 それもおおらかなんだよね。先のヘレン女史が挙げてる例で、ナイジェリアのコフィア族の話があるんだけど、それによると、彼らは「正当な愛人」を持つ権利を、夫にも妻にも認めてて、「正当な愛人」は、相手の家で夫や妻と一緒に暮らすことができるんだって。
AKI 妻妾(さいしょう)同居ってことですか? なんか、大奥みたい。
哲雄 大奥は、序列の世界だし、愛人は男にだけ許されてるわけだから、むしろハーレムに近い世界だよね。コフィア族の場合は、妻がその愛人を家に連れてきて、夫と同居させることもできるわけだから、まるっきり違う。夫だって同じことができる……ってなると、家の中はどうなっちゃうんだろ?
AKI 夫と妻と、夫の愛人と妻の愛人と、それがみんな一緒に暮らすの? ワァー、混線しちゃいそう。でも、もしそこが一夫多妻の世界だったら、どうなるの?
哲雄 ウン、一夫多妻の場合は、夫にはもう何人もの妻がいるわけだから、その上、愛人まで…なんて体力は、おそらくないよね。私だったら、とてもムリ。逆に、妻のほうはというと、体力あり余ってるよね。
AKI 妻の人数にもよるでしょうけど……。
哲雄 ケニアにチャムス族という一夫多妻制をとっている民族がいるんだけど、その婚外SEXについての面白いレポートがある。河合香吏さんという人類学者が書いてる(「チャムスの民俗生殖理論と性」、『性の人類学』世界思想社刊に所収)んだけどね、ここの既婚女性たちは、なかば公然と「ランガタ」という愛人とつき合うんだ。
AKI 公然ってことは、亭主も公認ってこと?
哲雄 いや、亭主だけは、それを知ると激怒する。刀やヤリを振り回すこともあるけど、それをまわり中が取り静めるんだよね。つまり、こういうことだよ。妻が愛人を持つことは、社会的習慣として公然と黙認され、周囲もそれに協力する。亭主だけは怒り狂うけど、その怒りも織り込みずみってわけ。
AKI 知らぬは亭主ばかりなり?
哲雄 さとられないようにすることも、暗黙のルールになってるんじゃないかな。でね、妻たちのランガタの作り方が面白い。
AKI エッ、ランガタは「作る」ものなんですか?
哲雄 ウン、それも積極的にね。チャムスの世界は、10~13歳ごとに区切られた年齢組によって、階層が仕切られてるんだけど、ランガタは、夫の年齢組より下に限られる。チャムスの女の場合、夫は自分より1階層以上上のことが多いから、夫の年齢組より1つ下だと、ちょうど自分と同じ年齢組になるよね。
AKI やっぱり、若い男がいいんですね。もっと下ということはないの?
哲雄 あるよ。たとえば、第4夫人とか第5夫人とかになると、夫の年齢組が自分より2つ上とか3つ上とかいうこともあるわけで、そうなると、ランガタとして選ぶ相手が夫の年齢組より5つ下、なんてこともあり得る。
AKI ヘェ、いいなぁ、それ。
哲雄 ワッチューセッド?
AKI いいから、いいから。
哲雄 それでね、チャムスの女たちは、「ランガタはできるだけ若いうちに作れ」と言うらしいんだ。
AKI どうしてだろ?
哲雄 できるだけ長くつき合いたいからじゃないの? 言っとくけど、このランガタっていうのは、スポット、つまりワンナイトの関係じゃないし、ランガタを複数持ったり、次々と取っ替えたりすることも、よくないこととされている。それに、相手が既婚ってこともまずない。そうすると、ランガタにできる相手は限られてくるよね。
AKI まだ若くて、未婚の男?
哲雄 でも、割礼(成人の儀式)は終えてないといけない。割礼前の男と割礼後の女のSEXはタブーになってるからね、チャムスの世界では。
AKI たぶん、どこでもそうでしょうけどね。
哲雄 だから、女たちは、目当ての男の子が割礼を迎えるのを、手ぐすねひいて待ち構える。ビーズ細工を作りながらね。
AKI 何ですか? そのビーズ細工って?
哲雄 贈り物ですよ、求愛の。でね、ここが面白いんだけど、贈られた男は、それを断ることができない。タブーではないけど、マナー違反とされる。
AKI エーッ!? どんなにタイプじゃない女でも?
哲雄 ウン。どんなにタイプじゃなくても、どんなにブサイクでも。
AKI かわいそーッ。
哲雄 夫と妻の関係では、妻は夫から求められると拒むことができない。しかし、このランガタとの関係では、
ランガタは既婚女性からの求めを拒むことができない。
しかし、女はランガタから求められても拒むことができるし、ランガタには関係を強要することができない。夫と妻、妻とランガタの関係では、立場がまったく逆転するんだよね。
AKI つまり、うまくバランスがとれてるってことですね。
哲雄 ネ、面白いでしょ? キミも一度、ランガタの気分に……。
AKI なりませんッ、絶対に!
AKI 貧しいんですかね?
哲雄 少なくとも、日本とかだと、亭主が怒るよね。たとえば、家に親しい友人が遊びに来た。その友人を、妻が何かと世話を焼く。料理をとりわけ、酒を注ぎ、ま、本心かどうかは別として、うっとりした目で、「いいわねェ、○○さんの奥さん、やさしいダンナさまに守られて」ぐらいの世辞は言うよね。
AKI 私だって、それくらいは言うよ。たぶん……。
哲雄 ところがダンナは、客が帰ったあとになって、「なんだ、おまえ、さっきは」なんてプンプンしだす。中には、「おまえ、ほんとはああいう男のほうがよかったんじゃないの?」と、イヤ味たらしく言い出すヤツもいるかもしれない。
AKI イヤですねェ、そういうの。
哲雄 でしょ? やっぱり、どこか貧しい。
AKI 愛人についてはどうなの?
哲雄 それもおおらかなんだよね。先のヘレン女史が挙げてる例で、ナイジェリアのコフィア族の話があるんだけど、それによると、彼らは「正当な愛人」を持つ権利を、夫にも妻にも認めてて、「正当な愛人」は、相手の家で夫や妻と一緒に暮らすことができるんだって。
AKI 妻妾(さいしょう)同居ってことですか? なんか、大奥みたい。
哲雄 大奥は、序列の世界だし、愛人は男にだけ許されてるわけだから、むしろハーレムに近い世界だよね。コフィア族の場合は、妻がその愛人を家に連れてきて、夫と同居させることもできるわけだから、まるっきり違う。夫だって同じことができる……ってなると、家の中はどうなっちゃうんだろ?
AKI 夫と妻と、夫の愛人と妻の愛人と、それがみんな一緒に暮らすの? ワァー、混線しちゃいそう。でも、もしそこが一夫多妻の世界だったら、どうなるの?
哲雄 ウン、一夫多妻の場合は、夫にはもう何人もの妻がいるわけだから、その上、愛人まで…なんて体力は、おそらくないよね。私だったら、とてもムリ。逆に、妻のほうはというと、体力あり余ってるよね。
AKI 妻の人数にもよるでしょうけど……。
哲雄 ケニアにチャムス族という一夫多妻制をとっている民族がいるんだけど、その婚外SEXについての面白いレポートがある。河合香吏さんという人類学者が書いてる(「チャムスの民俗生殖理論と性」、『性の人類学』世界思想社刊に所収)んだけどね、ここの既婚女性たちは、なかば公然と「ランガタ」という愛人とつき合うんだ。
AKI 公然ってことは、亭主も公認ってこと?
哲雄 いや、亭主だけは、それを知ると激怒する。刀やヤリを振り回すこともあるけど、それをまわり中が取り静めるんだよね。つまり、こういうことだよ。妻が愛人を持つことは、社会的習慣として公然と黙認され、周囲もそれに協力する。亭主だけは怒り狂うけど、その怒りも織り込みずみってわけ。
AKI 知らぬは亭主ばかりなり?
哲雄 さとられないようにすることも、暗黙のルールになってるんじゃないかな。でね、妻たちのランガタの作り方が面白い。
AKI エッ、ランガタは「作る」ものなんですか?
哲雄 ウン、それも積極的にね。チャムスの世界は、10~13歳ごとに区切られた年齢組によって、階層が仕切られてるんだけど、ランガタは、夫の年齢組より下に限られる。チャムスの女の場合、夫は自分より1階層以上上のことが多いから、夫の年齢組より1つ下だと、ちょうど自分と同じ年齢組になるよね。
AKI やっぱり、若い男がいいんですね。もっと下ということはないの?
哲雄 あるよ。たとえば、第4夫人とか第5夫人とかになると、夫の年齢組が自分より2つ上とか3つ上とかいうこともあるわけで、そうなると、ランガタとして選ぶ相手が夫の年齢組より5つ下、なんてこともあり得る。
AKI ヘェ、いいなぁ、それ。
哲雄 ワッチューセッド?
AKI いいから、いいから。
哲雄 それでね、チャムスの女たちは、「ランガタはできるだけ若いうちに作れ」と言うらしいんだ。
AKI どうしてだろ?
哲雄 できるだけ長くつき合いたいからじゃないの? 言っとくけど、このランガタっていうのは、スポット、つまりワンナイトの関係じゃないし、ランガタを複数持ったり、次々と取っ替えたりすることも、よくないこととされている。それに、相手が既婚ってこともまずない。そうすると、ランガタにできる相手は限られてくるよね。
AKI まだ若くて、未婚の男?
哲雄 でも、割礼(成人の儀式)は終えてないといけない。割礼前の男と割礼後の女のSEXはタブーになってるからね、チャムスの世界では。
AKI たぶん、どこでもそうでしょうけどね。
哲雄 だから、女たちは、目当ての男の子が割礼を迎えるのを、手ぐすねひいて待ち構える。ビーズ細工を作りながらね。
AKI 何ですか? そのビーズ細工って?
哲雄 贈り物ですよ、求愛の。でね、ここが面白いんだけど、贈られた男は、それを断ることができない。タブーではないけど、マナー違反とされる。
AKI エーッ!? どんなにタイプじゃない女でも?
哲雄 ウン。どんなにタイプじゃなくても、どんなにブサイクでも。
AKI かわいそーッ。
哲雄 夫と妻の関係では、妻は夫から求められると拒むことができない。しかし、このランガタとの関係では、
ランガタは既婚女性からの求めを拒むことができない。
しかし、女はランガタから求められても拒むことができるし、ランガタには関係を強要することができない。夫と妻、妻とランガタの関係では、立場がまったく逆転するんだよね。
AKI つまり、うまくバランスがとれてるってことですね。
哲雄 ネ、面白いでしょ? キミも一度、ランガタの気分に……。
AKI なりませんッ、絶対に!
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