20世紀オヤジ、21世紀少女の「ありがとう」に泣く
小さな愛の「いい話」〈3〉

駐輪場で出会った、21世紀少女からの「ありがとう」に、
思わずウルリ…の20世紀オヤジでありました。
【リンク・キーワード】 エロ コミュニケーション 恋愛小説 オーガズム 不倫
私が住んでいる街の駅前には、ロータリーを囲むように、市が管理する駐輪場が設置されている。
100円の有料駐輪場だが、駐輪機が設けられているわけではないので、利用者は、小さなスキ間を見つけては、そこにムリヤリに自分の自転車を突っ込んでいく。停めるのも大変だが、引っ張り出すのも骨が折れる。
私も、駅前のスーパーなどに買い物があるときは、その駐輪場を利用するのだが、天気のいい日などは、「満車」の立て札が掲げられ、監視員に首を振られてしまうこともある。
昨日のことだった。
夕方になって、コーヒーの豆が切れていたことに気づいて、駅前まで愛車を走らせた。愛用10年、すでに走行距離1万5000キロを優に越えているに違いないわがママチャリは、ギシギシとギアを軋ませながら、快適な走りを見せてくれた。
いい天気だったこともあって、駐輪場には、ギッシリと自転車が並んでいた。
すでに駐輪場の営業時間は終了していたので、スペースさえあれば、翌朝までは駐輪することができる。何とか1台分のスペースを見つけて、愛車をもぐり込ませたときのことだった。
「キャッ!」
と、小さな悲鳴が聞こえ、次の瞬間、その悲鳴の方向から、ガチャガチャと音の津波が押し寄せてきた。
ギッシリ並んだ自転車が、ドミノ倒しのように崩れてきて、停めたばかりの私のチャリも押し倒し、その津波は、列の端にまで達してしまった。
全部で50台近くはあると思われるその区画の自転車が、ほぼ全滅だった。
こりゃ、大変だ――と、声のしたほうを見やると、高校生と思われる女の子が、ボー然と、なぎ倒された自転車の山を眺めていた。
100円の有料駐輪場だが、駐輪機が設けられているわけではないので、利用者は、小さなスキ間を見つけては、そこにムリヤリに自分の自転車を突っ込んでいく。停めるのも大変だが、引っ張り出すのも骨が折れる。
私も、駅前のスーパーなどに買い物があるときは、その駐輪場を利用するのだが、天気のいい日などは、「満車」の立て札が掲げられ、監視員に首を振られてしまうこともある。
昨日のことだった。
夕方になって、コーヒーの豆が切れていたことに気づいて、駅前まで愛車を走らせた。愛用10年、すでに走行距離1万5000キロを優に越えているに違いないわがママチャリは、ギシギシとギアを軋ませながら、快適な走りを見せてくれた。
いい天気だったこともあって、駐輪場には、ギッシリと自転車が並んでいた。
すでに駐輪場の営業時間は終了していたので、スペースさえあれば、翌朝までは駐輪することができる。何とか1台分のスペースを見つけて、愛車をもぐり込ませたときのことだった。
「キャッ!」
と、小さな悲鳴が聞こえ、次の瞬間、その悲鳴の方向から、ガチャガチャと音の津波が押し寄せてきた。
ギッシリ並んだ自転車が、ドミノ倒しのように崩れてきて、停めたばかりの私のチャリも押し倒し、その津波は、列の端にまで達してしまった。
全部で50台近くはあると思われるその区画の自転車が、ほぼ全滅だった。
こりゃ、大変だ――と、声のしたほうを見やると、高校生と思われる女の子が、ボー然と、なぎ倒された自転車の山を眺めていた。
グレーのブレザーにチェックのスカート、首にはチャコールグレーのマフラー。セミロングに切りそろえたストレートな髪が、マフラーの上で踊っていた。
その髪をポリポリとかいた女の子は、腰に両手を当て、頬をプッとふくらませて、「やれやれ」という顔をしている。
オイオイ、まさか、そのままにして立ち去ろうってんじゃないだろうな――と思っていると、女の子は、「さて、やるか」とばかりにブレザーの袖をまくり上げ、倒れた自転車を1台、1台、起こしにかかった。
OK! そうこなくちゃ。
義を見てせざるは、勇無きなり。
「義」が「かわいい女の子」であれば、なおさらなり!
私は、崩れた自転車の先頭に回り、彼女が起こす自転車の次の1台を起こした。
「あ、すいません」
「こうして、1台おきに交替で起こしていくと早いから。私の自転車も、あそこで起こしくれェ~って叫んでるし……」
「す、すいません……」
ペコリと下げた頭から、パラリと髪が頬にかかった。
50台の自転車を起こすのに、たいして時間はかからなかった。
「よし。これでOKだね。じゃ……」
「ありがとうございました」
頭を下げる彼女に、軽く手を振って、私は「ドトール」に向かって歩き始めた。
女の子は、駐輪場から引き出した自分のチャリの前カゴにカバンを置き、マフラーを首に巻きなおして、チャリのロックを開錠している。
気をつけて帰れよ。
口の中でつぶやいて、歩道をしばらく歩いていると、後ろからチリンとベルの鳴る音がした。
振り返ると、さっきの女の子だった。
「さっきは、ありがとうございました」
元気な声が、背中のほうから降りかかってきた。
女の子は、短いスカートの裾をひるがえしてペダルを漕ぎながら、私を追い抜きざま、また、ペコリと頭を下げた。
なんだか、気持ちがいい。
その気持ちのよさは、何の計算も、外連味もない、彼女のまっすぐな「ありがとう」から来るものだった。それに、これはまぁ、どうでもいいことだけど、「ありがとう」を言う顔の、かわいいこと。
ここ何年か、ファミレスかファーストフードでしか聞いたことのない「ありがとう」を、思いもかけず聞くことになって、なんだか得したような気持ちになった。
彼女は、私を追い抜くと、サドルから腰を浮かして、勢いよく立ち漕ぎを始めた。
道は、そこから少し上り勾配になる。
その道の彼方では、すでに沈んだ西陽の残光が、空を赤橙色に染めている。
懸命に腰を振ってペダルを漕ぐ彼女の姿が、その赤橙色の中にシルエットとなって浮かび上がった。
風は向かい風。
シルエットとなった彼女のマフラーが風になびき、スカートの裾がフワリと風に舞った。
一瞬、白いパンツが見えたような気がしたが、そんなことはどうでもいい。ほんとはどうでもよくないが、どうでもいい。
お~い、いいウンコしろよ。
たまにでいいから、勉強しろよ。
チャラい男にだまされるなよ~。
そして、
いい「ありがとう」をありがとう……。
あ、どうでもいいけど、
ちょっと、スカート短すぎるゾ~。
暮れかかる街に消えていくその姿を見送りながら、ジンワリと心が温まり、なんだか目が潤んできた。
日本には、まだ、いい若者がいる――。
ちょっぴり救われた気持ちで、その姿を見送っていると、一瞬、彼女の姿が自転車ごと宙に浮いたような気がした。
※本日は、閑話休題。たまたま街で気持ちのいい「ありがとう」に出会ったので、 ちょっぴり、感傷交じりにご報告させていただきました。 みなさん、やっぱり、「ありがとう」って、いい言葉ですね。
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その髪をポリポリとかいた女の子は、腰に両手を当て、頬をプッとふくらませて、「やれやれ」という顔をしている。
オイオイ、まさか、そのままにして立ち去ろうってんじゃないだろうな――と思っていると、女の子は、「さて、やるか」とばかりにブレザーの袖をまくり上げ、倒れた自転車を1台、1台、起こしにかかった。
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義を見てせざるは、勇無きなり。
「義」が「かわいい女の子」であれば、なおさらなり!
私は、崩れた自転車の先頭に回り、彼女が起こす自転車の次の1台を起こした。
「あ、すいません」
「こうして、1台おきに交替で起こしていくと早いから。私の自転車も、あそこで起こしくれェ~って叫んでるし……」
「す、すいません……」
ペコリと下げた頭から、パラリと髪が頬にかかった。

50台の自転車を起こすのに、たいして時間はかからなかった。
「よし。これでOKだね。じゃ……」
「ありがとうございました」
頭を下げる彼女に、軽く手を振って、私は「ドトール」に向かって歩き始めた。
女の子は、駐輪場から引き出した自分のチャリの前カゴにカバンを置き、マフラーを首に巻きなおして、チャリのロックを開錠している。
気をつけて帰れよ。
口の中でつぶやいて、歩道をしばらく歩いていると、後ろからチリンとベルの鳴る音がした。
振り返ると、さっきの女の子だった。
「さっきは、ありがとうございました」
元気な声が、背中のほうから降りかかってきた。
女の子は、短いスカートの裾をひるがえしてペダルを漕ぎながら、私を追い抜きざま、また、ペコリと頭を下げた。
なんだか、気持ちがいい。
その気持ちのよさは、何の計算も、外連味もない、彼女のまっすぐな「ありがとう」から来るものだった。それに、これはまぁ、どうでもいいことだけど、「ありがとう」を言う顔の、かわいいこと。
ここ何年か、ファミレスかファーストフードでしか聞いたことのない「ありがとう」を、思いもかけず聞くことになって、なんだか得したような気持ちになった。
彼女は、私を追い抜くと、サドルから腰を浮かして、勢いよく立ち漕ぎを始めた。
道は、そこから少し上り勾配になる。
その道の彼方では、すでに沈んだ西陽の残光が、空を赤橙色に染めている。
懸命に腰を振ってペダルを漕ぐ彼女の姿が、その赤橙色の中にシルエットとなって浮かび上がった。
風は向かい風。
シルエットとなった彼女のマフラーが風になびき、スカートの裾がフワリと風に舞った。
一瞬、白いパンツが見えたような気がしたが、そんなことはどうでもいい。ほんとはどうでもよくないが、どうでもいい。
お~い、いいウンコしろよ。
たまにでいいから、勉強しろよ。
チャラい男にだまされるなよ~。
そして、
いい「ありがとう」をありがとう……。
あ、どうでもいいけど、
ちょっと、スカート短すぎるゾ~。
暮れかかる街に消えていくその姿を見送りながら、ジンワリと心が温まり、なんだか目が潤んできた。
日本には、まだ、いい若者がいる――。
ちょっぴり救われた気持ちで、その姿を見送っていると、一瞬、彼女の姿が自転車ごと宙に浮いたような気がした。
※本日は、閑話休題。たまたま街で気持ちのいい「ありがとう」に出会ったので、 ちょっぴり、感傷交じりにご報告させていただきました。 みなさん、やっぱり、「ありがとう」って、いい言葉ですね。

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