第14夜☆嬰児殺しの奥深い森から
AKI それにしても、驚きました。一夫一妻制をとっている社会が、そんなに少ないなんてねェ。
哲雄 婚姻には、実に、いろんなスタイルがあるということです。われわれは、サミットに集まるような国やその文化ばかりを見てるけど、そうではない文化のほうが、この地上には、はるかに多い、ということなんだよね。
AKI 未開の文化、ということですか?
哲雄 それを「未開」と言うのは、いかがなものか? われわれはすぐ、西欧的な尺度でそういう文化を一刀両断にしてしまうけど、それって、西欧型先進社会の思いあがりじゃないか、って思うことが、よくあるんだよね。
AKI たとえば?
哲雄 アフリカとか南米の奥地の少数民族の中には、いまだに嬰児殺しの習慣が残っているところがある。
AKI エッ、赤ちゃんを殺しちゃうんですか?
哲雄 産み落とした直後にね。
AKI ひど~い!
哲雄 すぐ、そう言うでしょ。ワァ、かわいそう……なんて声をあげるし。
AKI だって、かわいそうじゃないですかぁ。
哲雄 でも、彼らにとっては、それが生きていくための定めかもしれないじゃないか。そういう習慣を持っている種族というのは、たいていジャングルやブッシュに住んで、狩猟と採集に頼った生活をしてる。食糧には限りがあるから、自分たちがテリトリーとする領域がどれだけの人間を受け入れられるかを知っているし、その厳しい環境の中で生きていくには、どんな肉体的条件を備えていなければならないかも知っている。
AKI だから、殺しちゃうんですか?
哲雄 それを決めるのは、女たちなんだ。臨月に達し、陣痛の始まった女が藪の中に消えると、女たちだけが集まって付き添い、話し合い、最終的には母親となる女の判断で、その子を生かすかどうかを決める。殺された嬰児は、「神さまに返した」とか「天使になった」というふうに語られたりする。もちろん、悲しみをもって……だけどね。
AKI なんか、恐ろしい話。
哲雄 文明人にはね。でも、それは、人間も自然界の一部ということを知っている彼らが、厳しい環境の中で生きていくために身につけた知恵だと思うんだよね。ところが、先進文明国の人間たちは……。
AKI そんなことしちゃいけない……と?
哲雄 自分たちもかつてはそうだったにもかかわらず、文明の結果だけを持ち込んで、ホラ、医薬品を持ってきましたよ、足りないのなら、食糧だってあげるから……なんてやっちゃう。
AKI 自分たちの基準を押し付けてるわけね?
哲雄 押し付けた結果、どうなるかというと、それまで周囲の自然とうまくバランスをとっていた彼らの生活スタイルは破壊されてしまう。人口は爆発して、もう、ブッシュの中では暮らしていけなくなる。
AKI どうなるんですか?
哲雄 都会に出てスラム街を形成するしかなくなる。せいぜいうまくいって、マックのチーズバーガーを食べる都市労働者になるか……。それって、彼らにとって幸せなことなんだろうか?
AKI ちょっと、複雑かも……。
哲雄 でしょ? 文明っていうものにはさ、それを発展させてきた長い長い時間がある。一歩進むたびに、それにふさわしい社会の仕組みを整え、ものの考え方を変化させ、規律を作り……ってことを、気が遠くなるほど長い時間をかけてやってきた。そうやって育ててきた文明を、その血のにじむようなプロセスを省略して、いきなり非文明社会に持ち込もうとしたら、それは、単に彼らの生活を破壊することにしかならないんだよね。
AKI よくわかりました。
哲雄 いま、地球上で起こっていることは、先進文明国での少子化、途上国での人口爆発、そして全地球規模で進行する食糧不足と資源の枯渇、それを解消するための環境破壊……問題はみんなリンクしてるんだよね。
AKI でも、いまさら人類は、狩猟と採集の世界には戻れないでしょ?
哲雄 もちろん。だからこそ、学ばなきゃいけないと思うんだよね。自然と折り合いをつけて生きる人間の知恵ってものを、もう一度。
AKI ま、まさか……嬰児殺しまで?
哲雄 とんでもない。ボクたちは、そんなことをしないでも生きていける知恵を身につけたんだから、それは貴重な知恵として大事にしなきゃいけない。でも、世界中の海からマグロを獲り尽くしてしまうような食生活を続けてていいのかとか、いまのまま、石油を使い続ける生活でいいのかとか、このまま、一夫一妻制度でいいのかとか……そういう問題は、もう一度、考えてみるべきじゃないんですかねェ、AKIクン。
AKI オウ、やっと結婚問題に戻ってきた。
哲雄 そうそう、その結婚問題で言うと、
世界で圧倒的に多いのは、一夫多妻の世界。
そして、こと出生率に関してだけ言えば、一夫多妻のほうがかなり高い。
AKI てことはですよ、人口爆発を生んでいるのは「一夫多妻」の世界で、少子化を招いているのは「一夫一妻」の世界だってことになりませんか?
哲雄 乱暴に言うと、そういうことになりますかねぇ。
AKI だから、日本も一夫多妻にすべきだと言うわけ?
哲雄 ぜんぜん。そんなことしたら、私にはお鉢が回って来なくなる。
AKI しなくても、もう回ってこないと思いますけど……。
哲雄 ずいぶん冷たい人間なんだね、AKIちゃんって。
AKI ただ、現実を冷静に受け止めていただきたいと思っているだけです。
哲雄 ま、そういう人ですよ、キミは。で、言いたかったことは、結婚制度にはもう少し多様性を認めてはどうか……というのが、前回までの話だったわけですよ。
AKI そうそう。ずいぶん話がそれちゃいましたけど、一夫多妻のグレート・ダディ構想とか、一妻多夫のグレート・マザー構想だとか、プロ・ママ制度だとか、話だけはいろいろ伺いましたけど。
哲雄 それに関しては、昔、大胆なアイデアを披露した人がいましたね。「人生2回結婚説」っていうんだけど……。
AKI へ、な、何ですか、それ?
哲雄 それに関しては、またこの次。
哲雄 産み落とした直後にね。
AKI ひど~い!
哲雄 すぐ、そう言うでしょ。ワァ、かわいそう……なんて声をあげるし。
AKI だって、かわいそうじゃないですかぁ。
哲雄 でも、彼らにとっては、それが生きていくための定めかもしれないじゃないか。そういう習慣を持っている種族というのは、たいていジャングルやブッシュに住んで、狩猟と採集に頼った生活をしてる。食糧には限りがあるから、自分たちがテリトリーとする領域がどれだけの人間を受け入れられるかを知っているし、その厳しい環境の中で生きていくには、どんな肉体的条件を備えていなければならないかも知っている。
AKI だから、殺しちゃうんですか?
哲雄 それを決めるのは、女たちなんだ。臨月に達し、陣痛の始まった女が藪の中に消えると、女たちだけが集まって付き添い、話し合い、最終的には母親となる女の判断で、その子を生かすかどうかを決める。殺された嬰児は、「神さまに返した」とか「天使になった」というふうに語られたりする。もちろん、悲しみをもって……だけどね。
AKI なんか、恐ろしい話。
哲雄 文明人にはね。でも、それは、人間も自然界の一部ということを知っている彼らが、厳しい環境の中で生きていくために身につけた知恵だと思うんだよね。ところが、先進文明国の人間たちは……。
AKI そんなことしちゃいけない……と?
哲雄 自分たちもかつてはそうだったにもかかわらず、文明の結果だけを持ち込んで、ホラ、医薬品を持ってきましたよ、足りないのなら、食糧だってあげるから……なんてやっちゃう。
AKI 自分たちの基準を押し付けてるわけね?
哲雄 押し付けた結果、どうなるかというと、それまで周囲の自然とうまくバランスをとっていた彼らの生活スタイルは破壊されてしまう。人口は爆発して、もう、ブッシュの中では暮らしていけなくなる。
AKI どうなるんですか?
哲雄 都会に出てスラム街を形成するしかなくなる。せいぜいうまくいって、マックのチーズバーガーを食べる都市労働者になるか……。それって、彼らにとって幸せなことなんだろうか?
AKI ちょっと、複雑かも……。
哲雄 でしょ? 文明っていうものにはさ、それを発展させてきた長い長い時間がある。一歩進むたびに、それにふさわしい社会の仕組みを整え、ものの考え方を変化させ、規律を作り……ってことを、気が遠くなるほど長い時間をかけてやってきた。そうやって育ててきた文明を、その血のにじむようなプロセスを省略して、いきなり非文明社会に持ち込もうとしたら、それは、単に彼らの生活を破壊することにしかならないんだよね。
AKI よくわかりました。
哲雄 いま、地球上で起こっていることは、先進文明国での少子化、途上国での人口爆発、そして全地球規模で進行する食糧不足と資源の枯渇、それを解消するための環境破壊……問題はみんなリンクしてるんだよね。
AKI でも、いまさら人類は、狩猟と採集の世界には戻れないでしょ?
哲雄 もちろん。だからこそ、学ばなきゃいけないと思うんだよね。自然と折り合いをつけて生きる人間の知恵ってものを、もう一度。
AKI ま、まさか……嬰児殺しまで?
哲雄 とんでもない。ボクたちは、そんなことをしないでも生きていける知恵を身につけたんだから、それは貴重な知恵として大事にしなきゃいけない。でも、世界中の海からマグロを獲り尽くしてしまうような食生活を続けてていいのかとか、いまのまま、石油を使い続ける生活でいいのかとか、このまま、一夫一妻制度でいいのかとか……そういう問題は、もう一度、考えてみるべきじゃないんですかねェ、AKIクン。
AKI オウ、やっと結婚問題に戻ってきた。
哲雄 そうそう、その結婚問題で言うと、
世界で圧倒的に多いのは、一夫多妻の世界。
そして、こと出生率に関してだけ言えば、一夫多妻のほうがかなり高い。
AKI てことはですよ、人口爆発を生んでいるのは「一夫多妻」の世界で、少子化を招いているのは「一夫一妻」の世界だってことになりませんか?
哲雄 乱暴に言うと、そういうことになりますかねぇ。
AKI だから、日本も一夫多妻にすべきだと言うわけ?
哲雄 ぜんぜん。そんなことしたら、私にはお鉢が回って来なくなる。
AKI しなくても、もう回ってこないと思いますけど……。
哲雄 ずいぶん冷たい人間なんだね、AKIちゃんって。
AKI ただ、現実を冷静に受け止めていただきたいと思っているだけです。
哲雄 ま、そういう人ですよ、キミは。で、言いたかったことは、結婚制度にはもう少し多様性を認めてはどうか……というのが、前回までの話だったわけですよ。
AKI そうそう。ずいぶん話がそれちゃいましたけど、一夫多妻のグレート・ダディ構想とか、一妻多夫のグレート・マザー構想だとか、プロ・ママ制度だとか、話だけはいろいろ伺いましたけど。
哲雄 それに関しては、昔、大胆なアイデアを披露した人がいましたね。「人生2回結婚説」っていうんだけど……。
AKI へ、な、何ですか、それ?
哲雄 それに関しては、またこの次。
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