第132夜☆「タイプな男」の名前は、なぜすぐに覚えられるのか?
第132夜
人はなぜ、「よいこと」の記憶よりも、「わるいこと」の記憶のほうが強く残るのか? なぜ、「好きな人」の名前は、すぐに覚えられるのか? 今回は、恋愛にも大きく関わる「記憶」の性質について、解説。相手に自分を印象づけたければ、記憶を「エピソード化」する必要があることを説きます――。
【今回のキーワード】 作業記憶 長期記憶 海馬
【リンク・キーワード】 エロ コミュニケーション オーガズム 恋愛小説 不倫
AKI 哲ジイ、前回の話ですけど、「よいこと」よりも、「わるいこと」のほうが、記憶に残りやすい、とおっしゃいましたよね。その「わるいこと」の記憶って、どういう記憶のことを言うんですか?
哲雄 いちばん残りやすい「わるい記憶」は何かと言うと、「恐怖」と結びついた記憶だろうね。そのことを説明する前に、人間の記憶って、実は、いろんな種類があるので、まず、その分類をしておきましょうか。ハイ、この図。

AKI ワーッ、こんなにあるんですか? これによると、いちばん短い記憶は、「作業記憶」?
哲雄 そうだね。これはほとんど、その作業が終了するとともに、瞬間的に消えてしまいます。ちょっと実験してみようか? 「11+15」に「2」をかけたらいくつ?
AKI エーッと、「11+15」は、「26」だから、それに「2」をかけると……「52」じゃないですか?
哲雄 正解。じゃ、訊くけど、最初に足した数字は何と何だった?
AKI エッ!? エーッ……!? そんなの覚えてませんよォ。
哲雄 でしょ? 「作業記憶」というのは、ある作業のために、そのときだけ覚えておけばいい記憶なので、いまの例だと、「計算」という作業がすんだとたんに、頭の中から消し去られてしまいます。
AKI じゃ、覚えてなくても当然なんですね?
哲雄 ハイ。それを覚えてないから、おバカというわけじゃありません。電話番号なんかもそうだね。「折り返しお電話しますので、電話番号をちょうだいできますか?」とやって、8ケタくらいなら覚えられると、メモを取らなかったとしよう。
AKI 私も、一瞬の間だったら、覚えてられますよ。
哲雄 ちょっと余談になるけど、この8ケタという数字はね、人間の脳が一度に覚えられる数字の限界を、少しばかり超えてるんだよね。だから、8ケタを一瞬の間でも記憶していられるというAKIクンのIQは、なかなかあなどれない。
AKI でしょ、でしょ。
哲雄 じゃ、これから、ボクの電話番号を言いますから、それを覚えて、すぐ電話をかけてみてくれる? いい? ××××の××××。覚えた?
AKI ハイ。じゃ、かけますよ。
哲雄 あ、かけるときには、前に「184」を付けてね。そうしないと、キミの携帯番号が通知されちゃうから。別にいいんだけどさ、通知してくれても……。
AKI イヤですよォ。じゃ、「184」を付けてかけますね。エーッと、あれ!?
哲雄 どうしました?
AKI んもゥ……哲ジイ。余計なこと言うから、番号、わからなくなったじゃないですかぁ。
哲雄 でしょ? 実は、それが「作業記憶」の弱点。
AKI どういうこと?
哲雄 「作業記憶」は、妨害にメッチャ弱いんです。作業の途中で他の作業を要求されると、いっぺんで吹き飛んでしまいます。他の記憶は、脳の中の「海馬」と呼ばれる場所が関与するんだけど、この「作業記憶」だけは、頭頂葉にある「音韻ループ」とよばれる場所が関わってて、この部位で扱われる記憶が「長期記憶」に変わることは、あり得ない――とされてるんだよね。
AKI じゃ、この記憶は無視していいのね。少なくとも、色恋にはあまり関係がない?
哲雄 関係するとすれば、人の名前を覚えるときぐらいだけど、ま、無視していいでしょう。
AKI じゃ、無視! 問題は、「短期記憶」と「長期記憶」が、どこでどう分けられるか、ということなんですね。
哲雄 ウン。「短期記憶」っていうのは、もってもせいぜい数時間程度の記憶なんだけど、これにある条件が加わると、「長期記憶」に変わる場合がある。そのふるい分けをしているのは、大脳のいちばん底のほう、「辺縁系」とよばれる部分にある「海馬」というモジュールなんだよね。下の図で、一見、ペニスの亀頭みたいに見える「扁桃体」ってのがあるでしょ? 「扁桃体」を「亀頭」に見たときのサオにあたる部分が、「海馬」。この図、前にも見せたことがあるよね。
AKI なんか、見覚えある。「海馬」っていうのは、記憶に関係する部位ですよね。このシリーズでも、何度か登場してきましたけど、その「海馬」が、「よし、この記憶は、ずっと覚えておこう」とか「ま、これは忘れてもいいか」ってことを決めてるわけですか?
哲雄 そうです。そのときにね、「海馬」は、「前頭葉」の力を借りて、脳のほかの場所に保存されてる情報とすり合わせを行うわけです。「これ、捨ててもいい?」みたいなことを関係する各部署に訊きにいく――と思ってくれればいい。さて、そのとき、脳が最優先するのは、どんな情報だと思う?
AKI 試験に出るかどうか……じゃないですよね?
哲雄 「これ、試験に出るゾ。重要だぞ」っていうのも、ま、ひとつの判断材料にはなるだろうけど、最優先じゃない。
AKI ヒント、プリーズ!
哲雄 それは、同じ「辺縁系」にある「扁桃体」が記憶している情報です。
AKI 「扁桃体」って、人間の「好き嫌い」に関する情報を扱う場所じゃありませんでしたっけ?
哲雄 オーッ、よく覚えてましたね。「扁桃体」が記憶しているもっとも強い情報は、「恐怖」。この情報は、覚えておかないと、自分の身に危険が及ぶので、人間だけでなく、動物はすべて、この「扁桃体」情報を最優先に判断します。
AKI この人、私を殴ったとか、殺そうとした……とかいう記憶は、拭おうとしても拭いきれないわけですね。
哲雄 たぶん、一生、消えることがないでしょう。心的外傷後ストレス障害(PTSD)なんかにも、この「扁桃体」が関わっていると言われてるんだ。
AKI 哲ジイが、「わるいこと」の記憶のほうが強い、と言ったのは、そのことだったんですね?
哲雄 あと、「あの人、生理的に受け付けられない」なんていう情報も、ここに蓄えられてる。そういう情報と結びついた「わるい記憶」は、相当、強烈だから、ちょっとやそっとでは消えることがないんだよね。でもね、その逆もある。
AKI 逆? つまり、「好き」情報と結びついた記憶ってことですか?
哲雄 「扁桃体」には、「恐怖」や「嫌悪」と同時に、「好き」の情報も蓄えられるからね。「恐怖」情報ほど強烈じゃないけど、「好き」情報も「記憶の強化」にひと役買うわけです。たとえば、キミが、独身男性20人が集まるという合コンに招かれて、ひとりひとりから名前を名乗られたとしましょう。
AKI 20人? そんなにいっぺんに名乗られても覚えられませんよォ。
哲雄 でしょ? 人の名前って、それだけだと、単なる「音韻情報」だから、一度、聞いただけでは、なかなか覚えられない。
AKI 哲ジイみたいに、覚えてた人の名前まで忘れるってこともありますからね。
哲雄 それは、別の問題です。でもね、そのときに、ひとりだけ、ものすごくタイプの男がいて、その男が、「ボク、小川です。メダカの学校がある小川です」と名乗ったとしましょう。
AKI あ、それ、覚えてしまうかも。名前は忘れても「メダカの学校がある」は覚えてるから、すぐに思い出す。
哲雄 つまり、こういうことです。キミの脳の中では、その小川某の記憶は、キミが「あ、この人、タイプ」と思うことによって「扁桃体」情報と結びつき、しかも、彼が「メダカの学校がある小川です」と名乗ることによって、強烈に「エピソード化」されたわけです。
AKI エピソード化?
哲雄 最初の図を見てくれる? 「長期記憶」は、大きく分けると「手続き記憶」と「陳述記憶」に分けられてるよね。「手続き記憶」っていうのは、「りんごの皮のむき方」とか「自転車の乗り方」のように、体に染み付いて、無意識のうちに取り出される記憶のことを言うので、恋愛にはあまり関係がない。エッチのときには、多少、関わるかもしれないけどね。
AKI オッパイをなでられると、脚を開く……とか、そういうことですね。
哲雄 ま、それは、確かめてみないとわかりませんが、大事なのは「陳述記憶」のほう。これには、「意味記憶」と「エピソード記憶」というのがあるんだけど、「意味記憶」は、「徳川幕府を開いたのは徳川家康」のように、知識として蓄えられた記憶で、ときどき引っ張り出してやらないと、忘れてしまうこともある。いちばん、強烈で、あとあとまで残るのは、「エピソード記憶」のほうなんだ。
AKI これって、「物語の記憶」ってことですか?
哲雄 物語として記憶される記憶、ってことだね。恐ろしい体験、楽しかった体験、悲しい出来事……そういうことはすべて、「エピソード記憶」として「長期保存」されます。
AKI ホウホウ。合コンで出会った小川某は、「エピソード記憶」になった、ということですか?
哲雄 実は、この「エピソード化」ということが、人にあなたを印象づける上でも、人をあなたの記憶の中に留める上でも、とても大事なことなんだよね。
AKI それ、知りたいですゥ。
哲雄 では、次回、その話をじっくりと。
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哲雄 でしょ? 「作業記憶」というのは、ある作業のために、そのときだけ覚えておけばいい記憶なので、いまの例だと、「計算」という作業がすんだとたんに、頭の中から消し去られてしまいます。
AKI じゃ、覚えてなくても当然なんですね?
哲雄 ハイ。それを覚えてないから、おバカというわけじゃありません。電話番号なんかもそうだね。「折り返しお電話しますので、電話番号をちょうだいできますか?」とやって、8ケタくらいなら覚えられると、メモを取らなかったとしよう。
AKI 私も、一瞬の間だったら、覚えてられますよ。
哲雄 ちょっと余談になるけど、この8ケタという数字はね、人間の脳が一度に覚えられる数字の限界を、少しばかり超えてるんだよね。だから、8ケタを一瞬の間でも記憶していられるというAKIクンのIQは、なかなかあなどれない。
AKI でしょ、でしょ。
哲雄 じゃ、これから、ボクの電話番号を言いますから、それを覚えて、すぐ電話をかけてみてくれる? いい? ××××の××××。覚えた?
AKI ハイ。じゃ、かけますよ。
哲雄 あ、かけるときには、前に「184」を付けてね。そうしないと、キミの携帯番号が通知されちゃうから。別にいいんだけどさ、通知してくれても……。
AKI イヤですよォ。じゃ、「184」を付けてかけますね。エーッと、あれ!?
哲雄 どうしました?
AKI んもゥ……哲ジイ。余計なこと言うから、番号、わからなくなったじゃないですかぁ。
哲雄 でしょ? 実は、それが「作業記憶」の弱点。
AKI どういうこと?
哲雄 「作業記憶」は、妨害にメッチャ弱いんです。作業の途中で他の作業を要求されると、いっぺんで吹き飛んでしまいます。他の記憶は、脳の中の「海馬」と呼ばれる場所が関与するんだけど、この「作業記憶」だけは、頭頂葉にある「音韻ループ」とよばれる場所が関わってて、この部位で扱われる記憶が「長期記憶」に変わることは、あり得ない――とされてるんだよね。
AKI じゃ、この記憶は無視していいのね。少なくとも、色恋にはあまり関係がない?
哲雄 関係するとすれば、人の名前を覚えるときぐらいだけど、ま、無視していいでしょう。
AKI じゃ、無視! 問題は、「短期記憶」と「長期記憶」が、どこでどう分けられるか、ということなんですね。
哲雄 ウン。「短期記憶」っていうのは、もってもせいぜい数時間程度の記憶なんだけど、これにある条件が加わると、「長期記憶」に変わる場合がある。そのふるい分けをしているのは、大脳のいちばん底のほう、「辺縁系」とよばれる部分にある「海馬」というモジュールなんだよね。下の図で、一見、ペニスの亀頭みたいに見える「扁桃体」ってのがあるでしょ? 「扁桃体」を「亀頭」に見たときのサオにあたる部分が、「海馬」。この図、前にも見せたことがあるよね。

AKI なんか、見覚えある。「海馬」っていうのは、記憶に関係する部位ですよね。このシリーズでも、何度か登場してきましたけど、その「海馬」が、「よし、この記憶は、ずっと覚えておこう」とか「ま、これは忘れてもいいか」ってことを決めてるわけですか?
哲雄 そうです。そのときにね、「海馬」は、「前頭葉」の力を借りて、脳のほかの場所に保存されてる情報とすり合わせを行うわけです。「これ、捨ててもいい?」みたいなことを関係する各部署に訊きにいく――と思ってくれればいい。さて、そのとき、脳が最優先するのは、どんな情報だと思う?
AKI 試験に出るかどうか……じゃないですよね?
哲雄 「これ、試験に出るゾ。重要だぞ」っていうのも、ま、ひとつの判断材料にはなるだろうけど、最優先じゃない。
AKI ヒント、プリーズ!
哲雄 それは、同じ「辺縁系」にある「扁桃体」が記憶している情報です。
AKI 「扁桃体」って、人間の「好き嫌い」に関する情報を扱う場所じゃありませんでしたっけ?
哲雄 オーッ、よく覚えてましたね。「扁桃体」が記憶しているもっとも強い情報は、「恐怖」。この情報は、覚えておかないと、自分の身に危険が及ぶので、人間だけでなく、動物はすべて、この「扁桃体」情報を最優先に判断します。
AKI この人、私を殴ったとか、殺そうとした……とかいう記憶は、拭おうとしても拭いきれないわけですね。
哲雄 たぶん、一生、消えることがないでしょう。心的外傷後ストレス障害(PTSD)なんかにも、この「扁桃体」が関わっていると言われてるんだ。
AKI 哲ジイが、「わるいこと」の記憶のほうが強い、と言ったのは、そのことだったんですね?
哲雄 あと、「あの人、生理的に受け付けられない」なんていう情報も、ここに蓄えられてる。そういう情報と結びついた「わるい記憶」は、相当、強烈だから、ちょっとやそっとでは消えることがないんだよね。でもね、その逆もある。
AKI 逆? つまり、「好き」情報と結びついた記憶ってことですか?
哲雄 「扁桃体」には、「恐怖」や「嫌悪」と同時に、「好き」の情報も蓄えられるからね。「恐怖」情報ほど強烈じゃないけど、「好き」情報も「記憶の強化」にひと役買うわけです。たとえば、キミが、独身男性20人が集まるという合コンに招かれて、ひとりひとりから名前を名乗られたとしましょう。
AKI 20人? そんなにいっぺんに名乗られても覚えられませんよォ。
哲雄 でしょ? 人の名前って、それだけだと、単なる「音韻情報」だから、一度、聞いただけでは、なかなか覚えられない。
AKI 哲ジイみたいに、覚えてた人の名前まで忘れるってこともありますからね。
哲雄 それは、別の問題です。でもね、そのときに、ひとりだけ、ものすごくタイプの男がいて、その男が、「ボク、小川です。メダカの学校がある小川です」と名乗ったとしましょう。
AKI あ、それ、覚えてしまうかも。名前は忘れても「メダカの学校がある」は覚えてるから、すぐに思い出す。
哲雄 つまり、こういうことです。キミの脳の中では、その小川某の記憶は、キミが「あ、この人、タイプ」と思うことによって「扁桃体」情報と結びつき、しかも、彼が「メダカの学校がある小川です」と名乗ることによって、強烈に「エピソード化」されたわけです。
AKI エピソード化?
哲雄 最初の図を見てくれる? 「長期記憶」は、大きく分けると「手続き記憶」と「陳述記憶」に分けられてるよね。「手続き記憶」っていうのは、「りんごの皮のむき方」とか「自転車の乗り方」のように、体に染み付いて、無意識のうちに取り出される記憶のことを言うので、恋愛にはあまり関係がない。エッチのときには、多少、関わるかもしれないけどね。
AKI オッパイをなでられると、脚を開く……とか、そういうことですね。
哲雄 ま、それは、確かめてみないとわかりませんが、大事なのは「陳述記憶」のほう。これには、「意味記憶」と「エピソード記憶」というのがあるんだけど、「意味記憶」は、「徳川幕府を開いたのは徳川家康」のように、知識として蓄えられた記憶で、ときどき引っ張り出してやらないと、忘れてしまうこともある。いちばん、強烈で、あとあとまで残るのは、「エピソード記憶」のほうなんだ。
AKI これって、「物語の記憶」ってことですか?
哲雄 物語として記憶される記憶、ってことだね。恐ろしい体験、楽しかった体験、悲しい出来事……そういうことはすべて、「エピソード記憶」として「長期保存」されます。
AKI ホウホウ。合コンで出会った小川某は、「エピソード記憶」になった、ということですか?
哲雄 実は、この「エピソード化」ということが、人にあなたを印象づける上でも、人をあなたの記憶の中に留める上でも、とても大事なことなんだよね。
AKI それ、知りたいですゥ。
哲雄 では、次回、その話をじっくりと。

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