第119夜☆快楽は罪?~みゆきの「原罪意識」vsユーミンの「せつな主義」
第119夜
中島みゆきが歌う「聖母的愛」に泣かされるか? ユーミンが歌う「天使的愛」に元気づけられるか? 今回は、二人が歌う愛のかたちの違いは、実は、「原罪意識」か「自分らしさ」かという価値観の違いから来ているのだ――という話を展開します。教えてください。快楽に身を委ねることは、罪なのですか?
【今回のキーワード】 中島みゆき ユーミン 聖母 天使
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哲雄 前々回から続けている「中島みゆきvsユーミン」シリーズだけど、どうです? ふたりの歌を聴き比べてみると、ふたりが歌い上げている「愛」のかたちの違いがわかるでしょ?
AKI みゆきが「聖母的」で、ユーミンが「天使的」という前回の話、ナットクです。それで、私も気づきました。私の愛は、「天使的」なんだなぁ……って。
哲雄 100分2万4000円の天使で~す!
AKI それは、お仕事でしょ! 私にだってプライベートはあります。
哲雄 プライベートでは、たちまち「氷の魔女」に変身してしまうAKI嬢でした。
AKI それは、特定の人物に対してだけです。
哲雄 と言いながら私の顔を見ないでいただきたいものです。それで、前回の続き。「聖母的」「天使的」という愛のかたちの背景には、みゆきの場合には「原罪意識」が、ユーミンの場合には「アイデンティティを貫くという意識」があるのではないか――と申し上げたわけですが……。
AKI それが、よくわからないんですよね。
哲雄 よーがす、ご説明しましょう。人はだれでも、好きな男の腕に抱かれたり、好きな女を抱きしめたりしているその瞬間にさえ、「これは、ほんとの愛なんだろうか?」と問いかけると思うんだけど。
AKI ただ、エッチしたかっただけじゃないの? とかでしょ。
哲雄 ま、AKIクンの場合は、そうなっちゃうか?
AKI いや、私が……じゃなくて、相手が……ですよ。
哲雄 それは、単に疑い深いだけ。問題は自分です。まず、この歌詞を見てもらいましょうか。これ、『I Love You,答えてくれ』という曲の中に出てくる歌詞なんだけど、みゆきが「愛」をどのようなものと考えているかが、よくわかるんだよね。
何か返してもらうため 君に愛を贈るけじゃない
あとで返してもらうため 君に時を贈るわけじゃない
(中略)
愛さずにいられない馬鹿もいる
受け取ったと答えてほしいだけさ
――中島みゆき『I Love You,答えてくれ』より
AKI 報酬を期待しない「愛」……ですか?
哲雄 だね。ただ「与えるだけ」の愛だね。そういう「無償の愛」こそ「愛」である――と、たぶん、みゆきは考えていて、そういう「愛」の命ずることなら、「迷うことなく従う」と言ってるんだよね。次の歌詞、読んでみて。
AKI 「寂しささえ意味がある」って?
哲雄 たぶん、その愛が報われなくて、寂しさに襲われたとしても、その寂しさは、愛の命ずるところに従った結果なのだから、無意味というわけではない、と言ってるんじゃないかな。
AKI じゃ、「王冠は日暮れには転がる」っていうのは?
哲雄 たぶん、「王冠」は現世的な利益とか栄誉とかを表してるんだろうね。出世することとか、みんなに認められることとか、恋愛で言うと「ウエディングドレスを着ること」とか……。でも、そんな「王冠」の価値なんて相対的なものだから、朝、手にできても、夕方には転げ落ちてしまうかもしれない。そんな価値に見向きもされなくても、「愛すること」そのものに意味がある――と、みゆきは言いたかったんじゃないか。
AKI でも、そこからどうして「原罪意識」が生まれるの? 「原罪」って、人間が生まれながらに持っている「罪」のことでしょう?
哲雄 「無償の愛」を「愛のあるべき姿」と考えるみゆきは、「化粧なんてどうでもいい」と思っていたりするんだけどね……。
AKI あ、それ知ってる。『化粧』って曲でしょ? 「今夜死んでもいいから きれいになりたい」とか言うんですよね。
哲雄 「死んでもいいからきれいになりたい」と思うのは、男の心を奪いたいからだよね。それは、情念が言わせる言葉。「無償の愛」という観念的な理想からすると、そういう想いは、よこしまなわけです。しかし、「女」としてのみゆきは、この情念から自由になれない。たとえ、罪深いことだとわかっててもね。
AKI 私は罪深い女と思いながらも、その罪におぼれざるを得ない自分がいる――ってことですね。みゆきの歌には、なんか、そういう葛藤が表れてる気がします。そうか、それが「原罪意識」?
哲雄 私は、そういうふうに解釈してます。そんな葛藤を抱えながら、みゆきは言うわけですよ、その弱さも、強さも、みんな愛しい――と。みゆき論の最後は、この歌詞で締めくくりましょう。
AKI みんな儚くて、みんな愛しい……かぁ。ねェ、ユーミンには、こういう葛藤は出てこないのかなぁ……。
哲雄 ユーミンにも、もちろん、「こんなの、愛じゃない」って思うことはあるんだと思うよ。でもね、ユーミンの場合、どこかに提示された「愛の原型」みたいなものがあって、いつもそれと比較して、「アウト」「セーフ」とやってるわけじゃない。判断の基準は、「自分らしいかどうか」にあると思うんだ。ユーミンにとって、「自分に正直である」ものこそが「True」で、「正直でない」と感じたものは「False」になる。『結婚式をブッ飛ばせ』って曲があるんだけどね、その歌詞にこんなのが出てくる。
異変はここで起こったの 誓いの言葉が言えない
My God! だってそうじゃない うそはつけない
What you gonna say
Oh yes! いくら好きでも一生なんて愛せない
――松任谷由実『結婚式をブッ飛ばせ』より
AKI ウワーッ、スカッとする。なんか、映画にもそういう場面、ありましたよね。
哲雄 『卒業』でしょ? あれは、花嫁を略奪に行くんだから、ちょっと違うけど、でも、旧い価値観をブチ壊して自分を貫こうとするところは、似てるかもしれないね。
AKI でもね、哲ジイ。「正直」って、そのときどきで変わりませんか? あるときは「True」だったものが、あるときは「False」になるかもしれないでしょ?
哲雄 そうだよ。「正直」を貫くことには「リスク」が伴うんだ。でも、みゆきは、それでもいいじゃん――って言ってるような気がするな。ある意味で「せつな的」なんだけど、そのせつなせつなで正直であるためには、ある意味で覚悟が必要だよね。すべての危うさを、みゆきは、「色は匂へど 散りぬるを」「浅き夢見し 酔ひもせず」と達観しつつ、こう叫んでいます。
ひとはみんな長い旅の途中
琥珀色の時を求め
Slowly, Slowly, baby 楽しませて
氷が溶けるほど
Kill me softly. Baby 感じさせて
意味深なWORDで
――松任谷由実『Dangerous tonight』より
AKI 「琥珀色の時」かぁ。欲しいかも、私も。「明日どうなるの?」とか思ってたら、そういう時は失ってしまうかもしれませんね。
哲雄 「原罪意識」を抱えつつ「情念」に身をこがす「聖母の愛」か、「せつな」のはかなさを知りつつ、「自分らしさ」を正直に貫こうとする「天使の愛」か? ここまで、3回にわたって、「みゆき的愛」と「ユーミン的愛」を検証してきたわけですが、やっぱり、AKIクンの愛は「ユーミン的」なんですね?
AKI やっぱり、哲ジイが求める愛は「みゆき的愛」。よかった……。
哲雄 何が「よかった」なんです?
AKI それは、口が裂けたら、言えません。
哲雄 裂けてないから、言って!
AKI ではまた、次回。
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哲雄 よーがす、ご説明しましょう。人はだれでも、好きな男の腕に抱かれたり、好きな女を抱きしめたりしているその瞬間にさえ、「これは、ほんとの愛なんだろうか?」と問いかけると思うんだけど。
AKI ただ、エッチしたかっただけじゃないの? とかでしょ。
哲雄 ま、AKIクンの場合は、そうなっちゃうか?
AKI いや、私が……じゃなくて、相手が……ですよ。
哲雄 それは、単に疑い深いだけ。問題は自分です。まず、この歌詞を見てもらいましょうか。これ、『I Love You,答えてくれ』という曲の中に出てくる歌詞なんだけど、みゆきが「愛」をどのようなものと考えているかが、よくわかるんだよね。

あとで返してもらうため 君に時を贈るわけじゃない
(中略)
愛さずにいられない馬鹿もいる
受け取ったと答えてほしいだけさ
――中島みゆき『I Love You,答えてくれ』より
AKI 報酬を期待しない「愛」……ですか?
哲雄 だね。ただ「与えるだけ」の愛だね。そういう「無償の愛」こそ「愛」である――と、たぶん、みゆきは考えていて、そういう「愛」の命ずることなら、「迷うことなく従う」と言ってるんだよね。次の歌詞、読んでみて。
AKI 「寂しささえ意味がある」って?
哲雄 たぶん、その愛が報われなくて、寂しさに襲われたとしても、その寂しさは、愛の命ずるところに従った結果なのだから、無意味というわけではない、と言ってるんじゃないかな。
AKI じゃ、「王冠は日暮れには転がる」っていうのは?
哲雄 たぶん、「王冠」は現世的な利益とか栄誉とかを表してるんだろうね。出世することとか、みんなに認められることとか、恋愛で言うと「ウエディングドレスを着ること」とか……。でも、そんな「王冠」の価値なんて相対的なものだから、朝、手にできても、夕方には転げ落ちてしまうかもしれない。そんな価値に見向きもされなくても、「愛すること」そのものに意味がある――と、みゆきは言いたかったんじゃないか。
AKI でも、そこからどうして「原罪意識」が生まれるの? 「原罪」って、人間が生まれながらに持っている「罪」のことでしょう?
哲雄 「無償の愛」を「愛のあるべき姿」と考えるみゆきは、「化粧なんてどうでもいい」と思っていたりするんだけどね……。
AKI あ、それ知ってる。『化粧』って曲でしょ? 「今夜死んでもいいから きれいになりたい」とか言うんですよね。
哲雄 「死んでもいいからきれいになりたい」と思うのは、男の心を奪いたいからだよね。それは、情念が言わせる言葉。「無償の愛」という観念的な理想からすると、そういう想いは、よこしまなわけです。しかし、「女」としてのみゆきは、この情念から自由になれない。たとえ、罪深いことだとわかっててもね。
AKI 私は罪深い女と思いながらも、その罪におぼれざるを得ない自分がいる――ってことですね。みゆきの歌には、なんか、そういう葛藤が表れてる気がします。そうか、それが「原罪意識」?
哲雄 私は、そういうふうに解釈してます。そんな葛藤を抱えながら、みゆきは言うわけですよ、その弱さも、強さも、みんな愛しい――と。みゆき論の最後は、この歌詞で締めくくりましょう。
AKI みんな儚くて、みんな愛しい……かぁ。ねェ、ユーミンには、こういう葛藤は出てこないのかなぁ……。
哲雄 ユーミンにも、もちろん、「こんなの、愛じゃない」って思うことはあるんだと思うよ。でもね、ユーミンの場合、どこかに提示された「愛の原型」みたいなものがあって、いつもそれと比較して、「アウト」「セーフ」とやってるわけじゃない。判断の基準は、「自分らしいかどうか」にあると思うんだ。ユーミンにとって、「自分に正直である」ものこそが「True」で、「正直でない」と感じたものは「False」になる。『結婚式をブッ飛ばせ』って曲があるんだけどね、その歌詞にこんなのが出てくる。

My God! だってそうじゃない うそはつけない
What you gonna say
Oh yes! いくら好きでも一生なんて愛せない
――松任谷由実『結婚式をブッ飛ばせ』より
AKI ウワーッ、スカッとする。なんか、映画にもそういう場面、ありましたよね。
哲雄 『卒業』でしょ? あれは、花嫁を略奪に行くんだから、ちょっと違うけど、でも、旧い価値観をブチ壊して自分を貫こうとするところは、似てるかもしれないね。
AKI でもね、哲ジイ。「正直」って、そのときどきで変わりませんか? あるときは「True」だったものが、あるときは「False」になるかもしれないでしょ?
哲雄 そうだよ。「正直」を貫くことには「リスク」が伴うんだ。でも、みゆきは、それでもいいじゃん――って言ってるような気がするな。ある意味で「せつな的」なんだけど、そのせつなせつなで正直であるためには、ある意味で覚悟が必要だよね。すべての危うさを、みゆきは、「色は匂へど 散りぬるを」「浅き夢見し 酔ひもせず」と達観しつつ、こう叫んでいます。

琥珀色の時を求め
Slowly, Slowly, baby 楽しませて
氷が溶けるほど
Kill me softly. Baby 感じさせて
意味深なWORDで
――松任谷由実『Dangerous tonight』より
AKI 「琥珀色の時」かぁ。欲しいかも、私も。「明日どうなるの?」とか思ってたら、そういう時は失ってしまうかもしれませんね。
哲雄 「原罪意識」を抱えつつ「情念」に身をこがす「聖母の愛」か、「せつな」のはかなさを知りつつ、「自分らしさ」を正直に貫こうとする「天使の愛」か? ここまで、3回にわたって、「みゆき的愛」と「ユーミン的愛」を検証してきたわけですが、やっぱり、AKIクンの愛は「ユーミン的」なんですね?
AKI やっぱり、哲ジイが求める愛は「みゆき的愛」。よかった……。
哲雄 何が「よかった」なんです?
AKI それは、口が裂けたら、言えません。
哲雄 裂けてないから、言って!
AKI ではまた、次回。

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