第10夜☆浮気をしない理由
AKI 目の前の小さな存在を愛していれば、それがこの宇宙を、そこに存在するすべてのものを愛していることになるような、そんな愛し方をしなさい。哲ジイが言いたかったことは、そういうことかな?
哲雄 そ、その通り。トホホ……。
AKI どうちたの?
哲雄 キミが言うと、どうしてこうもわかりやすくなるのか?
AKI 哲ジイが言うと、どうしてこうもむずかしくなるのか?
哲雄 ところが、この世の中には、愛すれば愛するほど、その宇宙が見えなくなってしまう愛し方をする人たちが、少なからずいる。
AKI たとえば?
哲雄 「よその子なんてどうでもいいの。お母さんは、おまえさえちゃんと勉強して、いい学校に行ってくれたら……」なんて言うお母さん。
AKI いる、いる。何かと言うと、「うちの子が」とか「うちの子に限って」とか言うお母さん。
哲雄 場合によっちゃ、「うちの子=ナンバーワン」と思い続けたいがために、「よその子」を攻撃したりもする。「あんな子たちと遊んじゃダメ」なんて言ったりもする。
AKI 私もその昔、「あんな子」呼ばわりされたことがある。
哲雄 こういう愛し方は、ただ、所有欲の表れにすぎない。つまりはただのエゴイズム。夫婦や恋人の間でもあるよね、そういうパターンの愛し方。
AKI そこが知りたいの。
哲雄 たとえば、「私と仕事とどっちが大事?」と訊く女房。「○子と私とどっちが好き?」と詰め寄る彼女……。
AKI 「オレ以外の男に相談したりするんじゃねぇ」と怒り出す男。「オレが稼いでるのに、なんでおまえが働く必要があるんだ?」なんて言い出す亭主。
哲雄 究極のエゴイズムは、「ずっと私だけを愛してネ」っていう女と、「オレは一生、おまえしか愛さない」という男。一部には、これを「純愛」と呼んだりしてるけど、どこが純愛なものか。
AKI テンション、上がってきましたねェ。
哲雄 これほど、利己的な愛はない。「この小さな愛を通して」という感覚がゼロ。「普遍的な愛」への通路を閉ざしてしまっちゃ、ただのちっぽけなエゴイズムではないか!
AKI ハイ、ハイ。もう、それくらいにしておきましょうか。でさ、そもそもなんでこんな話をしてたかと言うと、確か、第4夜に、哲ジイが……。
哲雄 ああ、確か……「たぶん、私は浮気はしないであろう」というようなことをね。口を滑らせてしまった。
AKI エッ、あれは、口を滑らせたんですか?
哲雄 つい、本心を……なんてね。そうそう。オスは、遺伝子学的に見ても、動物学的に見ても、精子をバラ撒く本能を備えている。だから、オスの浮気行動は、生物学的本能でもある。しかし……と言ったわけだよね。にもかかわらず、私は、浮気しないように努めるであろう……と。
AKI で、それはなぜかを説明するために、「愛の発明」という話になったわけです。
哲雄 それですよ、答えは。
AKI ハイ?
哲雄 人間は「愛」という概念を発明し、それを純化させていくことで、ついには「神の愛」という純粋理念を創り上げた。言ってみれば、「愛のお手本」みたいなもんだね。今度は、それを現実の世界にフィード・バックしようと試みる。
AKI フィード・バック? また、話がむずかしくなってきましたよ。
哲雄 ウン、フィード・バックっていうのは、こういうこと。たとえば、キミが料理をするうちに、煮物や炒め物にちょっとお酒を加えると、味が深くなる――ということを発見したとしよう。するとキミは、ほんとにそうなのか確かめようとして、他の料理にもお酒を加えてみたりするよね。ま、しないかもしれないけど……。
AKI しますよ、それくらい。
哲雄 この、確かめようとして、他の例にもあてはめてみることを「フィード・バック」というんだ。「愛」についても、私たちは同じことをしてる。自分が知った「神の愛」、別に「仏の慈悲」でも「宇宙愛」でもいいわけだけど、そういう「愛の理想形」を、自分たちの関係にもあてはめて考えてみるわけだ。これって、ほんとの愛と言えるんだろうか……ってね。
AKI すると、浮気はいけない……と、そう反省したわけですね、哲ジイは?
哲雄 ウウン、ちょっと違う。ほんとの愛は、自分のことのように相手のことを思いやることだ――ということを知ってるからね、この愚かな愛の放浪者は。すると、こう考える。もし、自分が浮気をしたら、相手は悲しむに違いない。愛する人を悲しませることは、よろしくない。だったら、悲しませることは止そう。そこで、踏みとどまるわけです。
AKI ずいぶん、手順が多いんですね。たかが、浮気を思いとどまるために。
哲雄 手順が多いことを、文学的には「葛藤(かっとう)」と言う。
AKI フーン。でも、葛藤したんだ、このシワシワの頭で……。何度くらい?
哲雄 ウルサイ。
AKI それでも、そういう葛藤は止まないのね。
哲雄 ハイ、それは男が男である限り、女が女である限り。特に、一夫一婦制のもとではね。
AKI エ? 一夫一婦制がよろしくないわけですか?
哲雄 いや、よろしくないとは言ってないけど、相当、ムリがきてるよね。ヘタしたら、この制度は、今世紀中になくなってしまうかもしれない。
AKI ウソ!? 一夫一婦制がなくなる?
哲雄 制度としてはね。その話は、またこの次に。
哲雄 「よその子なんてどうでもいいの。お母さんは、おまえさえちゃんと勉強して、いい学校に行ってくれたら……」なんて言うお母さん。
AKI いる、いる。何かと言うと、「うちの子が」とか「うちの子に限って」とか言うお母さん。
哲雄 場合によっちゃ、「うちの子=ナンバーワン」と思い続けたいがために、「よその子」を攻撃したりもする。「あんな子たちと遊んじゃダメ」なんて言ったりもする。
AKI 私もその昔、「あんな子」呼ばわりされたことがある。
哲雄 こういう愛し方は、ただ、所有欲の表れにすぎない。つまりはただのエゴイズム。夫婦や恋人の間でもあるよね、そういうパターンの愛し方。
AKI そこが知りたいの。
哲雄 たとえば、「私と仕事とどっちが大事?」と訊く女房。「○子と私とどっちが好き?」と詰め寄る彼女……。
AKI 「オレ以外の男に相談したりするんじゃねぇ」と怒り出す男。「オレが稼いでるのに、なんでおまえが働く必要があるんだ?」なんて言い出す亭主。
哲雄 究極のエゴイズムは、「ずっと私だけを愛してネ」っていう女と、「オレは一生、おまえしか愛さない」という男。一部には、これを「純愛」と呼んだりしてるけど、どこが純愛なものか。
AKI テンション、上がってきましたねェ。
哲雄 これほど、利己的な愛はない。「この小さな愛を通して」という感覚がゼロ。「普遍的な愛」への通路を閉ざしてしまっちゃ、ただのちっぽけなエゴイズムではないか!
AKI ハイ、ハイ。もう、それくらいにしておきましょうか。でさ、そもそもなんでこんな話をしてたかと言うと、確か、第4夜に、哲ジイが……。
哲雄 ああ、確か……「たぶん、私は浮気はしないであろう」というようなことをね。口を滑らせてしまった。
AKI エッ、あれは、口を滑らせたんですか?
哲雄 つい、本心を……なんてね。そうそう。オスは、遺伝子学的に見ても、動物学的に見ても、精子をバラ撒く本能を備えている。だから、オスの浮気行動は、生物学的本能でもある。しかし……と言ったわけだよね。にもかかわらず、私は、浮気しないように努めるであろう……と。
AKI で、それはなぜかを説明するために、「愛の発明」という話になったわけです。
哲雄 それですよ、答えは。
AKI ハイ?
哲雄 人間は「愛」という概念を発明し、それを純化させていくことで、ついには「神の愛」という純粋理念を創り上げた。言ってみれば、「愛のお手本」みたいなもんだね。今度は、それを現実の世界にフィード・バックしようと試みる。
AKI フィード・バック? また、話がむずかしくなってきましたよ。
哲雄 ウン、フィード・バックっていうのは、こういうこと。たとえば、キミが料理をするうちに、煮物や炒め物にちょっとお酒を加えると、味が深くなる――ということを発見したとしよう。するとキミは、ほんとにそうなのか確かめようとして、他の料理にもお酒を加えてみたりするよね。ま、しないかもしれないけど……。
AKI しますよ、それくらい。
哲雄 この、確かめようとして、他の例にもあてはめてみることを「フィード・バック」というんだ。「愛」についても、私たちは同じことをしてる。自分が知った「神の愛」、別に「仏の慈悲」でも「宇宙愛」でもいいわけだけど、そういう「愛の理想形」を、自分たちの関係にもあてはめて考えてみるわけだ。これって、ほんとの愛と言えるんだろうか……ってね。
AKI すると、浮気はいけない……と、そう反省したわけですね、哲ジイは?
哲雄 ウウン、ちょっと違う。ほんとの愛は、自分のことのように相手のことを思いやることだ――ということを知ってるからね、この愚かな愛の放浪者は。すると、こう考える。もし、自分が浮気をしたら、相手は悲しむに違いない。愛する人を悲しませることは、よろしくない。だったら、悲しませることは止そう。そこで、踏みとどまるわけです。
AKI ずいぶん、手順が多いんですね。たかが、浮気を思いとどまるために。
哲雄 手順が多いことを、文学的には「葛藤(かっとう)」と言う。
AKI フーン。でも、葛藤したんだ、このシワシワの頭で……。何度くらい?
哲雄 ウルサイ。
AKI それでも、そういう葛藤は止まないのね。
哲雄 ハイ、それは男が男である限り、女が女である限り。特に、一夫一婦制のもとではね。
AKI エ? 一夫一婦制がよろしくないわけですか?
哲雄 いや、よろしくないとは言ってないけど、相当、ムリがきてるよね。ヘタしたら、この制度は、今世紀中になくなってしまうかもしれない。
AKI ウソ!? 一夫一婦制がなくなる?
哲雄 制度としてはね。その話は、またこの次に。
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