自伝的創愛記〈56〉 教会に通う不純な動機

Vol.56
ボクの部屋は、いつの間にか、
友人たちのたまり場になった。
理由のひとつが矢野公子だった。
そして、公子はボクを――。
「オーイ、重松おるか~」
自転車を飛ばしては下宿を訪ねて来る友人が増えた。週に1、2度は遊びに来る者、10日に1回ぐらい、フラッとやって来る者、1カ月に1回、突然やって来る者……。本人たちには「たまに」という気分の訪問だろうが、それをすべて迎え入れていると、ボクは毎日のように、だれかの訪問を受けていることになる。
もっとも頻繁にやって来るようになったのは、高校編入クラスから共にǍ組に上がった松浦憲治だった。宇和島出身の松浦には、同じ町出身で松山の工業高校に通う竹田という友人がいた。夏休みを過ぎた頃から、松浦は、その竹田を連れて遊びに来ることが多くなった。
松浦と竹田が2人でやって来ても、3人には共通の話題がない。仕方ないので、カードゲームでもやるか――となり、そんなときには、矢野公子に声をかけることもあった。
もしかしたら、彼らはそれを期待して「花咲荘」にやって来るのかもしれなかったが、それを「不純」となじる資格は、ボクにはなかった。その頃のボクは、「公子が喜ぶなら」とか「彼女が望むなら」と、自分の行動を決めるところがあった。ボクも十分に「不純」だったからだ。

ボクは、高2の秋頃から教会に通うようになった。学校がカトリック系のミッションスクールで、高1から哲学・倫理の授業があったりしたが、だからと言って、カトリックの教会に通おうという気になりはしなかった。
草野の影響を受けて新約聖書を読破し、その説くところ、「神と愛」についての考えを「思想」として受け入れてはいたが、それゆえに教会に行ってみようという気が起こったわけでもなかった。
ボクにその気を起こさせたのは、矢野公子だった。
「ねェ、重松クン、教会行ったことある?」
体育祭、文化祭が終わって、学園が濃い秋の空気に包まれていく頃、「花咲荘」の共同流し場で洗い物を洗っていたボクに、いきなり、公子が訊いてきた。
「行ったことない」と答えると、「実はネ……」と公子が言い出したのだ。
彼女が通っている教会で、今度、「青年を対象とした修養会」がある。「よかったら来ないか」と言うのだが、その「よかったら……」は、宗教的熱心さが言わせる勧誘という感じではなく、「助けて」という哀願に近かった。
その理由は、すぐにわかった。
自転車を飛ばしては下宿を訪ねて来る友人が増えた。週に1、2度は遊びに来る者、10日に1回ぐらい、フラッとやって来る者、1カ月に1回、突然やって来る者……。本人たちには「たまに」という気分の訪問だろうが、それをすべて迎え入れていると、ボクは毎日のように、だれかの訪問を受けていることになる。
もっとも頻繁にやって来るようになったのは、高校編入クラスから共にǍ組に上がった松浦憲治だった。宇和島出身の松浦には、同じ町出身で松山の工業高校に通う竹田という友人がいた。夏休みを過ぎた頃から、松浦は、その竹田を連れて遊びに来ることが多くなった。
松浦と竹田が2人でやって来ても、3人には共通の話題がない。仕方ないので、カードゲームでもやるか――となり、そんなときには、矢野公子に声をかけることもあった。
もしかしたら、彼らはそれを期待して「花咲荘」にやって来るのかもしれなかったが、それを「不純」となじる資格は、ボクにはなかった。その頃のボクは、「公子が喜ぶなら」とか「彼女が望むなら」と、自分の行動を決めるところがあった。ボクも十分に「不純」だったからだ。

ボクは、高2の秋頃から教会に通うようになった。学校がカトリック系のミッションスクールで、高1から哲学・倫理の授業があったりしたが、だからと言って、カトリックの教会に通おうという気になりはしなかった。
草野の影響を受けて新約聖書を読破し、その説くところ、「神と愛」についての考えを「思想」として受け入れてはいたが、それゆえに教会に行ってみようという気が起こったわけでもなかった。
ボクにその気を起こさせたのは、矢野公子だった。
「ねェ、重松クン、教会行ったことある?」
体育祭、文化祭が終わって、学園が濃い秋の空気に包まれていく頃、「花咲荘」の共同流し場で洗い物を洗っていたボクに、いきなり、公子が訊いてきた。
「行ったことない」と答えると、「実はネ……」と公子が言い出したのだ。
彼女が通っている教会で、今度、「青年を対象とした修養会」がある。「よかったら来ないか」と言うのだが、その「よかったら……」は、宗教的熱心さが言わせる勧誘という感じではなく、「助けて」という哀願に近かった。
その理由は、すぐにわかった。

「あなたの学校の3年生に、稲田さんておるやろ?」
「イ・ナ・ダ……? イヤ、ボクは知らん」
「何や、知らんの?」
ちょっと残念そうな顔をするので、「そのイナダがどうしたん?」とボクは彼女の顔をのぞき込んだ。
「私、言い寄られよるんよ」
「エッ!?」
「今度、教会に私に会いに来るとか言いよるんよ。聖書とか興味もないくせに」
男子校であるうちの学校には、確かに、そういうやつもいるかもしれない。校則では男女交際も禁じられており、映画も学校で許可されたもの以外は見ることを禁じられている、厳格なカトリックの受験校だが、にも拘わらず……というべきか、それ故に却って……というべきか、学園の敷いた「受験生活」というレールからはみ出して、無頼の道や与太の道に足を踏み入れる者も出てくる。
イナダも、そんなはみ出し者のひとりかもしれない。
「怖いけん、重松クン、一緒に教会に来て私のそばにおってくれんやろか?」
オヒョッ……と思った。万一、その男が無頼の徒であった場合、腕に自信のないボクには少し荷が重い仕事だ。
それを言うと、公子は首を振って言った。
「ボディガードしてくれゆうんやないよ。私とつきおうとるような顔しておってくれるだけでええんやわ」
それって、恋愛をフェイクしろ――ってこと?
そんな不純な動機で教会に行っていいのか――と思ったが、ボクは矢野公子の依頼に「ああ、いいよ」と答えていた。
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