自伝的創愛記〈51〉 漂流の時代の始まり

Vol.51
何かあると引っ越す――という
「漂流生活」を、ボクは高校時代から
始めた。そのきっかけになったのは、
正夫が発したひと言だった――。
数えてみたことがある。
自分は、この一生で、いったい何回、引っ越しを繰り返してきただろう?
5本の指を3回折って2回伸ばし、そして3本伸ばしたところで、フゥ……と息をついた。
70年で28回……。3年に1回は引っ越していたことになる。さすが、転勤族の子よ――と、ボクは自分の一所不住の人生を振り返っては嘆いている。
高校に上がって始めたひとり暮らしは、一所不住の最盛期だった。3年間で4つの下宿を渡り歩いた。その最初のきっかけを作ったのは、正夫のひと言だった。
「おまえの下宿、行きにくいわ」
そうだよな――と、ボクは思った。朝と夕の食事の時間を決められ、出入りに大家の許可を求められるのでは、気楽にブラッと遊びに来るわけにはいかないだろう。
春休みを早めに切り上げたボクは、自転車を街に走らせた。
自分は、この一生で、いったい何回、引っ越しを繰り返してきただろう?
5本の指を3回折って2回伸ばし、そして3本伸ばしたところで、フゥ……と息をついた。
70年で28回……。3年に1回は引っ越していたことになる。さすが、転勤族の子よ――と、ボクは自分の一所不住の人生を振り返っては嘆いている。
高校に上がって始めたひとり暮らしは、一所不住の最盛期だった。3年間で4つの下宿を渡り歩いた。その最初のきっかけを作ったのは、正夫のひと言だった。
「おまえの下宿、行きにくいわ」
そうだよな――と、ボクは思った。朝と夕の食事の時間を決められ、出入りに大家の許可を求められるのでは、気楽にブラッと遊びに来るわけにはいかないだろう。
春休みを早めに切り上げたボクは、自転車を街に走らせた。

引っ越しに不動産屋を訪ねるなんてことは、高2になったばかりのボクにはできなか った。そもそも不動産屋に渡す手数料を用意することもできなかったし、礼金や敷金を用意することもできない。
自転車を走らせて、下宿または間貸しさせそうな家を探しては、「こちら、お部屋を貸していらっしゃるでしょうか?」と、飛び込みで声をかけて回った。
「貸し間あり」と張り紙をしている家もあるが、そういうところは、たいてい家賃が少し高いし、住人も社会人が多かったりする。高校生がひとりで入居するには、少しぜいたくに思えた。
2階に同じような大きさの窓が複数並び、それぞれの窓に洗濯物が干してあったりすると、「あ、ここは学生下宿やってるな」と判断して、「ごめんください」と玄関のベルを鳴らした。
「ボク、愛光学園の2年生で、下宿を探しているんですが、こちらお部屋は貸してらっしゃるでしょうか?」
そういうときには、ズルく学校の名前を利用した。受験校として「全国ブランド」となっていた「愛光」の名前は、社会的信用を得る場面ではかなり効く――ということを学習していたからだ。
「部屋だったら、いま、ひとつ空いてますけど」という返事が返ってくると、ボクはそこで、もうひとつ肝心な質問をした。
「いま、入っていらっしゃる方たちは、やはり、大学生とか高校生とかですか?」
「ええ、愛大生がひとりいて、あとはみなさん高校生ですよ。東高の生徒さんが2人に、あとはミッションの生徒さんが2人いましたかね」
土地で「ミッション」と言うと、当時、市内には一校だけだったミッション系の女子高校「東雲学園」を指した。ヨシ!と拳を固めて、ボクはその引っ越しを即決した。

引っ越しは、簡単だった。
翌日、学校へ行くと、用務室からリヤカーを1台借りて、それに布団袋と机と本棚を積み、近くの商店から使用済みの段ボール箱を2~3箱譲ってもらって、衣類と本と文房具を詰め込んだ。
それもリヤカーに積んで、そのリヤカーを自転車の荷台とロープで繋ぎ、車道を走った。
後ろから追い抜いていくタクシーやトラックに接触しないように、されないように――と、慎重にペダルを漕ぎ、ハンドルを握って、岩崎町から此花町までの荷物の運搬は、約30分ほどですんだ。
その下宿は、賄いもしていたが、間貸しだけでもOKだった。賄いで時間を縛られたくなかったボクは、賄いは要らないと言って、朝メシと版メシは、近所の定食屋で取ることにした。
そうしてボクの新しいひとり暮らしが始まった。
すべてが決まってから、ボクは、引っ越したことを親に知らせた。
「何で勝手に引っ越した」と、父親にはこっぴどく叱られたが、別に、引っ越しで余計な費用をかけたわけではない。適当に理屈を言ってごまかした。
親の都合による引っ越しではない。自分で決めて自分で実行する最初の引っ越し。
以後、何度となく繰り返すことになる漂流の、それが始まりだった。
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