満月の夜の神社の姫子〈1〉 大きな楠の木の陰で

第10話 満月の夜の神社の姫子 1
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
満月になると、その女が現れる。
男たちに「姫子」と呼ばれるその女は
港が見える丘の上の神社の楠の陰に
隠れていて、男がやって来ると、
男を手招きするというのだ――。
その女は、神社の裏の森の中に姿を現す。
大きな楠の、人が3人くらい手をつないでやっと取り囲めるほどの太い幹の陰に、身を隠すようにして、スカートの裾を風になびかせている――という。
町の男たちは、「姫子」と呼んでいた。
ほんとの名前は、だれも知らない。
一日中、魚網に染みついた魚の臭いや、イカやアジを干す臭いが漂う、海辺の町。
姫子がこの町のどこかで生まれたらしい――ということだけは、わかっている。姫子を産み落とした母親と父親は、元々、この町の人間ではなかったらしく、姫子が生まれると、姫子を施設に預けたまま、町から姿を消して、いまはどこにいるのか、だれも知らない。
姫子は、中学までを町の施設に預けられて育ったが、その後、引き取り手が現れて、町を離れた。引き取られていったのは、関西方面の都会だ――ということ以外、町の人間たちは何も知らなかった。
その姫子が、フラリ……と、町に姿を現すようになった。
舞い戻ってきた――というわけではない。
ただ、フラリ……と姿を現す。それも、満月の夜になると――。

町の男たちの間では、おかしなウワサがささやかれていた。
満月の夜、あの楠のところへ行くと、女が樹の陰から手招きする。
自分の「姫」を拝ませて、やらせてくれる。そこから、だれ言うとなく、その女を「姫子」と呼ぶようになった――というのだった。
「な、見に行こうか?」
言い出したのは、亀吉だった。
「何を?」
「姫子……」
「エーッ!?」
純平は、ちょっと腰が引けた。
好奇心はうずいたが、ちょっと薄気味がわるい。「姫子」という女も、おとなたちの話を聞く限りでは、なんだか、森に棲む妖怪のようにも思える。男たちの中には、「姫子は男を食うんだゾ」と、ジョーダン交じりに純平たちを脅す者もいた。
「よそうよ。気味がわるい」
尻込みする純平の背中を、亀吉は、パシリと叩いて言った。
「姫子って、ものすごい美人だ――ってさ。たこ焼き屋のおっさんが言ってた。こっそり、のぞきに行こうや」
ホラ、行こう――と手を引くので、純平は仕方なく腰を上げた。
大きな楠の、人が3人くらい手をつないでやっと取り囲めるほどの太い幹の陰に、身を隠すようにして、スカートの裾を風になびかせている――という。
町の男たちは、「姫子」と呼んでいた。
ほんとの名前は、だれも知らない。
一日中、魚網に染みついた魚の臭いや、イカやアジを干す臭いが漂う、海辺の町。
姫子がこの町のどこかで生まれたらしい――ということだけは、わかっている。姫子を産み落とした母親と父親は、元々、この町の人間ではなかったらしく、姫子が生まれると、姫子を施設に預けたまま、町から姿を消して、いまはどこにいるのか、だれも知らない。
姫子は、中学までを町の施設に預けられて育ったが、その後、引き取り手が現れて、町を離れた。引き取られていったのは、関西方面の都会だ――ということ以外、町の人間たちは何も知らなかった。
その姫子が、フラリ……と、町に姿を現すようになった。
舞い戻ってきた――というわけではない。
ただ、フラリ……と姿を現す。それも、満月の夜になると――。

町の男たちの間では、おかしなウワサがささやかれていた。
満月の夜、あの楠のところへ行くと、女が樹の陰から手招きする。
自分の「姫」を拝ませて、やらせてくれる。そこから、だれ言うとなく、その女を「姫子」と呼ぶようになった――というのだった。
「な、見に行こうか?」
言い出したのは、亀吉だった。
「何を?」
「姫子……」
「エーッ!?」
純平は、ちょっと腰が引けた。
好奇心はうずいたが、ちょっと薄気味がわるい。「姫子」という女も、おとなたちの話を聞く限りでは、なんだか、森に棲む妖怪のようにも思える。男たちの中には、「姫子は男を食うんだゾ」と、ジョーダン交じりに純平たちを脅す者もいた。
「よそうよ。気味がわるい」
尻込みする純平の背中を、亀吉は、パシリと叩いて言った。
「姫子って、ものすごい美人だ――ってさ。たこ焼き屋のおっさんが言ってた。こっそり、のぞきに行こうや」
ホラ、行こう――と手を引くので、純平は仕方なく腰を上げた。

大潮の夜だった。
空には、満月が煌々と輝き、金色の光を振り撒いていた。不気味に静まり返った海面は、降り注ぐ金色の光を浴びて、さざ波がラメのような煌めきを見せていた。
波打ち際の岩場からは、金の光に誘い出されるように、カニたちがゾロゾロと這い出してきていた。
小さな入り江に面した船着き場では、明日の漁に備える小さな漁船たちが、ロープで岸壁につながれて、つかの間の眠りを眠っていた。
船着き場の脇に漁協の市場がある。裏手は小高い丘になっていて、その斜面を縫うように、石段がついている。
神社はその石段を登り切った丘の上、港を見下ろす位置に建てられている。
小さな鳥居と社だけの、何のために存在しているのかわからない神社。石段がきついこともあって、ふだんは訪れる者もなく、常駐している神主もいない。
「見に行こう」と言われた純平がしぶったのも、「こんな夜中にあの石段を上るのか」と思うと、気が重くなったからでもあった。
息を切らして、石段を登りきると、純平たちの住む町が眼下に一望できた。
見るたびに、「小さな町だなぁ」と思う。こんな小さな町で、産声を挙げ、とうとう高校生にまでなっちまった。
卒業したら、ここでおとなたちの仲間に迎え入れられて、何かしらの生業に就くことになるのだろうか?
そんなのイヤだ――と思う気持ちもある。
しかし、慣れ親しんだこの町で生涯を過ごしたい――という気持ちもある。
まだ、何も決められない。
しかし、あと2年も経てば、それを決めなくちゃいけなくなる。
そんなことを考えながら、ぼんやり月下の町の明かりを眺めていると、亀吉に背中をポンと叩かれた。
「おい、行くぞ」
さっさと社の裏手に向かって歩き始めた亀吉が、人差し指を口に当てて、「音を立てるな」と目配せした。

社の裏には、ちょっと開けた広場があって、周りを桜の木が取り囲んでいる。花が咲くと、おとなたちはそこに酒や食べ物を持ち込んで、花見の宴を開く。
その奥は、こんもりとした森になっている。森の奥へは、人ひとりがやっと通れる程度の小路が作ってある。
けもの道のようなその道を進んでいくと、その先に少し開けた場所があって、そこに楠の老木が立っている。
「姫子」は、その楠の太い幹の陰に身を隠しているという。
楠が見えるところまでくると、亀吉は小路を逸れて、藪の中に入っていった。純平は、その後に従った。
音を立てないように、藪の中を進み、楠が見渡せるところまで来ると、亀吉が「しゃがめ」と合図を送った。
亀吉と純平は、灌木の陰に身を隠すように腰を下し、楠の幹に目を凝らした。
楠の大木は、降り注ぐ月光の中に、不気味に、しかし凛々しく聳え立って、海を渡ってくる風に、枝をしならせ、葉を揺らしていた。
聞こえてくる音は、風に吹かれた葉が奏でるザワザワという音だけ。
人の気配もしなかった。
「だれもいないじゃないか」
亀吉の腕を突いて言うと、亀吉は一段と低く身を屈めて、声を潜めた。
「いや、きっとだれか来る。こんな満月の夜には、きっと来る」
亀吉の確信に満ちた声が、純平には、数学の公式を教える教師の声のように感じられた。
そのまま、10分、20分……と、時間が過ぎた。
「もう、帰ろうぜ」と、純平が言いかけたときだった。
サーッと、海からやや強い風が吹き付けてきた。
「オイ……」と、亀吉が純平の腕を揺すった。
亀吉の指差す先には、楠の幹があった。
その幹の陰から、チラ……と白いものが見えた――ような気がした。
「オイ」と言いながら、体がブルッと震えた。
「見たか?」
「見えた……」
そこへまた、一陣の風が吹いた。
今度は、ハッキリ見えた。
ハンカチかスカーフか……いや、と思った。
あれはスカートの裾だ。
そのときだった。
社のほうから、だれかが歩いてくる音がした。
亀吉がパッと体を伏せ、それに合わせて純平も体を伏せた。
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