自伝的創愛記〈49〉 アンドロメダを探して

Vol.49
ボクは正夫に恋をしていた。
農家の納屋を改造して造られた
正夫の部屋。ボクは、そこで
密かな愉しみに目覚めた――。
だれにでも、そんな時期がある。
男子高校である「A学園」に入学した最初の1年間が、ボクにとっては、その時期だったのかもしれない。
中学3年で、女の子にホレるという気分を知ったボクだったが、半年後、今度は、その女の子がひとりもいない世界に放り込まれた。
そこで、ボクは恋をした。相手は女の子ではなかった。男子に……だ。
目のクリッとした、何かしゃべるたびに頬をほんのり赤らめる男子。
クラスメートになって、最初に声をかけてきたヤツ。ボクの下宿に遊びに来た第1号の友だち。駐輪場で待ち合わせて、一緒に自転車を走らせるだけで、幸福感を味わえた心ときめく少年。
そう。ボクは、草野正夫に恋をしていた。
断じて言っておくが、それは、周りに女子がいないから、その代償に……という類の恋ではなかった。
たとえ周りに女子がいたとしても、ボクは、その乳房に顔を埋めるより、彼と頬を寄せ合うことを選んだだろう。

「家にも遊びに来いや」
正夫に誘われて重信川を越え、農道にチャリを走らせたのは、天空に夏の夜の大三角形が浮かび上がる頃だった。
正夫の家は、農家だった。
母屋とは中庭を挟んだ外れに、納屋があったが、正夫はその納屋を改造して勉強部屋にし、そこで寝起きしていた。
南向きに開いた小窓の前に机がひとつ置いてあり、あとは、3面をベニヤの壁に囲まれた部屋に、リンゴ箱を並べて造ったベッド。部屋の中央に、ちょっと古い石油ストーブが置いてある。
質素でシンプルなその部屋で、正夫は本を読んだり、星を見たりして過ごしているという。
「エッ、星見るんか?」
「オウ」と言って正夫が取り出したのは、30センチほどの金属製の筒だった。
「これのォ、倍率36倍なんよ。アンドロメダも見えるで」
「エッ、あの渦も見えるんか?」
「教科書に載っとるようなクッキリした渦までは見えんけど、なんか渦巻いとるなぁというとこまでは見えるで」
「オッ、それ、見に行こうや」
星を見るんだったら、街灯の明かりのないところがいい——―というので、ボクたちは、望遠鏡を手に裏のあぜ道へ出て、青々と稲の育つ田んぼの中を歩いた。
男子高校である「A学園」に入学した最初の1年間が、ボクにとっては、その時期だったのかもしれない。
中学3年で、女の子にホレるという気分を知ったボクだったが、半年後、今度は、その女の子がひとりもいない世界に放り込まれた。
そこで、ボクは恋をした。相手は女の子ではなかった。男子に……だ。
目のクリッとした、何かしゃべるたびに頬をほんのり赤らめる男子。
クラスメートになって、最初に声をかけてきたヤツ。ボクの下宿に遊びに来た第1号の友だち。駐輪場で待ち合わせて、一緒に自転車を走らせるだけで、幸福感を味わえた心ときめく少年。
そう。ボクは、草野正夫に恋をしていた。
断じて言っておくが、それは、周りに女子がいないから、その代償に……という類の恋ではなかった。
たとえ周りに女子がいたとしても、ボクは、その乳房に顔を埋めるより、彼と頬を寄せ合うことを選んだだろう。

「家にも遊びに来いや」
正夫に誘われて重信川を越え、農道にチャリを走らせたのは、天空に夏の夜の大三角形が浮かび上がる頃だった。
正夫の家は、農家だった。
母屋とは中庭を挟んだ外れに、納屋があったが、正夫はその納屋を改造して勉強部屋にし、そこで寝起きしていた。
南向きに開いた小窓の前に机がひとつ置いてあり、あとは、3面をベニヤの壁に囲まれた部屋に、リンゴ箱を並べて造ったベッド。部屋の中央に、ちょっと古い石油ストーブが置いてある。
質素でシンプルなその部屋で、正夫は本を読んだり、星を見たりして過ごしているという。
「エッ、星見るんか?」
「オウ」と言って正夫が取り出したのは、30センチほどの金属製の筒だった。
「これのォ、倍率36倍なんよ。アンドロメダも見えるで」
「エッ、あの渦も見えるんか?」
「教科書に載っとるようなクッキリした渦までは見えんけど、なんか渦巻いとるなぁというとこまでは見えるで」
「オッ、それ、見に行こうや」
星を見るんだったら、街灯の明かりのないところがいい——―というので、ボクたちは、望遠鏡を手に裏のあぜ道へ出て、青々と稲の育つ田んぼの中を歩いた。

それは、ちょっと心ときめく「小さな冒険」だった。
足元を懐中電灯で照らしながら歩くあぜ道は、舗装などしてないから、うっかりしていると、凸凹に足を取られてしまう。その度に、ボクと正夫は、相手の腕を取り、肩を支え合った。
正夫は、完璧な闇を求めて、あぜ道を右に折れ、左に折れして、「オッ、あそこがいい」と、農道脇の地蔵堂を指差した。
何のために祭られた地蔵なのかはわからなかったが、祠の中に祭られているということは、お参りする者がいたということだろう。
祠の背後には、木々の繁るちょっとした森がある。そこには街灯もない。田圃の誘蛾灯の明かりも届かない。その手前に、切り株が2つ。
まるで、ボクと正夫のために用意されたような、切り株のスツール付きの闇。ふたりはそのスツールに腰を下ろして、夜空にアンドロメダを探した。
中学時代には星座早見盤を片手に星空を眺めていたので、アンドロメダ星雲がアンドロメダ座にあることはわかっていたが、そのアンドロメダ座がちょっとわかりにくい星座だ。
「カシオペアの左下、ペルセウスの右下……」
先に望遠鏡を手にした正夫が、「オッ、見えた」と声を挙げた。
「ヨシ、望遠鏡、動かさんでおくけん、ここにワシの背中から座れや」
切り株のスツールに、正夫の背中に重なるように腰を下ろす。
「それじゃ、手が届かんやろ。もっとくっつけや」
ボクは自分の胸と腹を正夫の背中に密着させた。正夫の体温が、汗に濡れたシャツを通して伝わってくる。
「いま、照準合うとるけん、後ろからそっと手ェ伸ばして、望遠鏡を持てや」
正夫の両肩から手を伸ばして、正夫の手に重なるように望遠鏡の筒を握ると、正夫は「動かすなよ」と言いながら、顔だけをずらした。
ボクは、その頬の脇から自分の顔を伸ばして目を望遠鏡のレンズに当てた。
見えた!
肉眼では、ボヤけた2等星ぐらいにしか見えなかったその星が、36倍の望遠鏡のレンズを通すと、渦を巻く星雲であることがハッキリと分かる。
「オーッ」と歓声を挙げると、「な、すごいやろ」と正夫が頬を寄せてきた。
望遠鏡を握る手に力を込める。正夫の肩は、ボクに後ろから抱きすくめられたような形になった。頬と頬が触れ合っていた。
ボクの胸には、正夫の心臓の「ドクドク」という動きが伝わってきた。ボクの腹の下では、分身が、少し、頭をもたげている。
この時間がいつまでも続けばいいのに――と、ボクは思った。
⇒続きを読む
筆者の最新・心理エッセイ! キンドルから発売しました!
あなたは、人の目には「どんなタイプの人間」に
見えているのでしょうか?
実は、知らないのは、あなただけ。
「人の目」は、あなたを、
あなたが期待したようには見てくれません。
それは、あなたが「隠したい自分」を
隠しているから――というのが、
本書を執筆した動機です。
「隠したい自分」の「隠し方」で判断する
12通りの「自分の見え方」。本書でぜひ、
発見してください。
2022年8月発売 定価:1500円 発行/虹BOOKS
⇒Kindle でお読みになる方は、ここをクリック。
既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。







見えているのでしょうか?
実は、知らないのは、あなただけ。
「人の目」は、あなたを、
あなたが期待したようには見てくれません。
それは、あなたが「隠したい自分」を
隠しているから――というのが、
本書を執筆した動機です。
「隠したい自分」の「隠し方」で判断する
12通りの「自分の見え方」。本書でぜひ、
発見してください。
2022年8月発売 定価:1500円 発行/虹BOOKS
⇒Kindle でお読みになる方は、ここをクリック。
既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。

管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。



→このテーマの記事一覧に戻る →トップメニューに戻る
- 関連記事
-
- 自伝的創愛記〈50〉 クラス替えの季節 (2022/09/01)
- 自伝的創愛記〈49〉 アンドロメダを探して (2022/08/20)
- 自伝的創愛記〈48〉 美しすぎる初友 (2022/08/06)
テーマ : 恋愛小説~愛の挫折と苦悩
ジャンル : アダルト