自伝的創愛記〈48〉 美しすぎる初友

Vol.48
男子校生活を始めて、最初に
仲よくなったのは、草野正夫。
目のクリッとしたかわいい少年。
ボクは彼に恋をした――。
いろんな中学から試験に通って集まってきた編入クラス。ボクらは、まったくおたがいを知らない同士の集まりだった。
「おまえ、どこから来たんゾ?」「おまえはどこじゃ?」――そんな会話を交わして、少しずつ、ボクたちはおたがいを知るようになっていった。
クラス50人のうち20人強は、地元・松山の中学を出た地元っ子だったが、残り30人弱は、県内のいろんな地域から集まって来ていた。中には、県外出身という男も何人かいた。地元っ子以外は、運がよければ寮に入るが、寮は、ほとんどが中学から入学した連中で占められていたので、大半は、下宿生活だった。
クラスの中の友人関係は、最初は、その居住スタイル別に作られていった。自宅通学組は自宅組同士で、下宿組は下宿組同士で、なんとなく仲間になっていくのだが、そのうち、自宅組は下宿組の暮らし方に興味を持ち、場合によっては親の監視から自由になれる場所として、下宿生の下宿を利用するようになったりもした。
下宿組の中にも、自宅組の自宅が醸し出す家庭の空気に懐かしさを覚えて、その空気に浸ろうとする者もいた。
自宅組のあいつがオレに近づいてきたのも、最初は、「下宿」というライフスタイルに興味を抱いたからかもしれなかった。
最初に声をかけてきたのは、彼のほうだった。
駐輪場に停めた自転車を引き出そうとしていると、「チリリン」とベルを鳴らす音がした。
「帰るんか? どっちゾ?」
確か、草野なんとかという名前だった。
「オゥ、オレは岩崎町や。おまえ、どっちゾ?」
「ワシは、枝松。岩崎町からやと、重信川を渡って、ちょっと行ったとこや」
「公園前までは一緒やな」と、オレたちは、自転車を並べて、松山の街を走った。
草野正夫は、目のクリッとした、かわいいタイプの男の子だった。「美少年」と言えば言えなくもないタイプで、クラスの中には、何とか仲よくなりたい――と接触を試みる連中もいた。
その草野が、自分からベルを鳴らしてきた。それから、ふたりで一緒に自転車で下校することは、ボクのちょっとした愉しみになった。

小学・中学と、一貫して共学の世界で人格を磨いてきたボクにとって、「男子校」という世界は、異質な世界だった。何かが欠如している世界、しかし、何かが過剰にあふれてもいる世界。知性が理屈という羽をつけて飛び交う教室は、ドライな空気に支配されていたが、満たされない感性が憂鬱や感傷の重石をまとって足元に漂うウエットな空気もまた、教室のあちこちに沈殿していた。
その両方をフワリと包み込むやわらかい羽衣が、ボクらには不足していた。
そんな中で、ボクたちは友だちを見つけ、仲よくなっていく。ボクにとって、最初に仲よくなった友だち第1号が、草野正夫だった。
「おまえ、どこから来たんゾ?」「おまえはどこじゃ?」――そんな会話を交わして、少しずつ、ボクたちはおたがいを知るようになっていった。
クラス50人のうち20人強は、地元・松山の中学を出た地元っ子だったが、残り30人弱は、県内のいろんな地域から集まって来ていた。中には、県外出身という男も何人かいた。地元っ子以外は、運がよければ寮に入るが、寮は、ほとんどが中学から入学した連中で占められていたので、大半は、下宿生活だった。
クラスの中の友人関係は、最初は、その居住スタイル別に作られていった。自宅通学組は自宅組同士で、下宿組は下宿組同士で、なんとなく仲間になっていくのだが、そのうち、自宅組は下宿組の暮らし方に興味を持ち、場合によっては親の監視から自由になれる場所として、下宿生の下宿を利用するようになったりもした。
下宿組の中にも、自宅組の自宅が醸し出す家庭の空気に懐かしさを覚えて、その空気に浸ろうとする者もいた。
自宅組のあいつがオレに近づいてきたのも、最初は、「下宿」というライフスタイルに興味を抱いたからかもしれなかった。
最初に声をかけてきたのは、彼のほうだった。
駐輪場に停めた自転車を引き出そうとしていると、「チリリン」とベルを鳴らす音がした。
「帰るんか? どっちゾ?」
確か、草野なんとかという名前だった。
「オゥ、オレは岩崎町や。おまえ、どっちゾ?」
「ワシは、枝松。岩崎町からやと、重信川を渡って、ちょっと行ったとこや」
「公園前までは一緒やな」と、オレたちは、自転車を並べて、松山の街を走った。
草野正夫は、目のクリッとした、かわいいタイプの男の子だった。「美少年」と言えば言えなくもないタイプで、クラスの中には、何とか仲よくなりたい――と接触を試みる連中もいた。
その草野が、自分からベルを鳴らしてきた。それから、ふたりで一緒に自転車で下校することは、ボクのちょっとした愉しみになった。

小学・中学と、一貫して共学の世界で人格を磨いてきたボクにとって、「男子校」という世界は、異質な世界だった。何かが欠如している世界、しかし、何かが過剰にあふれてもいる世界。知性が理屈という羽をつけて飛び交う教室は、ドライな空気に支配されていたが、満たされない感性が憂鬱や感傷の重石をまとって足元に漂うウエットな空気もまた、教室のあちこちに沈殿していた。
その両方をフワリと包み込むやわらかい羽衣が、ボクらには不足していた。
そんな中で、ボクたちは友だちを見つけ、仲よくなっていく。ボクにとって、最初に仲よくなった友だち第1号が、草野正夫だった。

ボクと正夫は、授業が終わると、駐輪場で落ち合って、自転車を走らせた。別に約束したわけではないが、先に支度のできたほうが駐輪場まで下りて、相手が下りてくるのを待つ。それがボクたちのルーティンのようになるのに、時間はかからなかった。入学から1カ月かそこらだったと思う。
ボクたちは、公園前まで、路面電車の走る国道を走り、岩崎町のボクの下宿の前まで来ると、「じゃ、また明日」と手を振って別れる。正夫は、そこからまっすぐ南へ走って重信川を渡り、田んぼの中を走る道を通って、自宅まで帰ると言う。
ときには、寄り道をすることもあった。「石手寺まで行ってみようか」と、道後温泉駅から山に向かう道に入って坂道を上ったこともある。「もっと上まで行ってみようか」と、さらに上流の「奥道後」までツーリングしたこともある。汗をかくと、「風呂浴びるか?」と、道後の本湯に飛び込んだりもした。
正夫はシュッとした体をしていた。身長はボクより少し低かったが、脚はスラッと伸びていた。その脚が自転車を漕ぐ姿は、ボクの目には「カッコいい」と映った。
そのうち、ボクは気づいた。自分はまるで、恋人を見るような目であいつを見ているなぁ――と。駐輪場で正夫を待っている間も、まるで恋しい人を待っているような気分だった。
その正夫が、他のだれかと一緒に帰ったりすると、ボクの中には、「何だよ、あんなやつと」というモヤモヤした気分が生まれた。
エッ、これってヤキモチか?――そう思ったとき、ボクは自分が正夫に恋しているかもしれないことに気づいた。
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