自伝的創愛記〈47〉 同性愛の発見

Vol.47
15歳で始めた下宿生活。ボクは
近くの公園でジョギングを
始めた。しかし、その朝の日課
は、知らないオヤジの手で――。
15歳から18歳までの3年間を「A学園」で過ごすことになったボクは、3畳ひと間の下宿で高校生活をスタートさせた。
その下宿を探したのは、父親が勤務する保険会社の松山営業所に勤める社員の奥さんだった。朝食と夕食の賄い付きで、月に1万1千円。残り9千円で文房具や本を買い、昼飯代を払い、風呂に入り、チリ紙や洗剤などの生活用品を購入しなければならない。生活は、けっこう厳しいものだった。
下宿は、道後温泉まで歩いて10分ほどのところにある2階家で、1階には大家夫婦と大学生の娘・息子が住み、2階の4部屋をボクを含めた高校生3人と大学生1人に下宿させていた。
3畳ひと間という部屋は、やや狭かったが、何とか机を置いて布団を敷き延べることはできる。窮屈なのは、朝と夜、下宿人4人がそろって食卓を囲む食事だった。何しろ、食べ盛りの年齢だ。腹いっぱいになるまで食べたいのに、ごはんをお代わりするのは、ちょっと気が引けた。
2杯目までは、他の下宿人も「お代わり」と茶碗を差し出すので、ボクも「お代わり」とお願いすることができた。しかし、3杯目になると、そっ……と出すしかなかった。
「あら、きょうは食べるのね……」
大家夫人がメガネの縁を持ち上げるようにして、ボクの顔を覗き込んだ。その瞬間、ボクは3杯目をお代わりするのは止めよう――と決意した。

下宿生活を始めたボクが、まず、始めたこと。それは「体、鍛えなくちゃ」だった。貧弱な下宿生活を続けながら3年間の受験勉強を貫徹するためには、丈夫な体をキープしなくちゃならない。
ボクは、朝起きると、腹筋運動をし、それから腕立て伏せを計50回。そのあと、下宿から歩いて5分の道後公園まで散歩して、公園内をジョギングした。動物園が併設された園内を1周すると、2キロ弱は走れる。朝飯前のいい運動になる――と、ボクはそれも日課にしようと思ったのだが、その公園には、魔物が潜んでいた。
「ボク、高校生かい?」
ジョギングを終えて展望台で顔から噴き出す汗を拭いていると、そこで煙草を吸っていた40~50代と思われるオヤジが声をかけてきた。
「ハイ」と答えると、「学校どこぞ?」と訊く。
なんだ、このおっさん――と思ったが、隠すことでもないので、「A学園」と答えると、男は「ホゥ」と声を挙げて、ボクの全身を頭のてっぺんからつま先まで、ナメ回すように見て言うのだった。
「A学園やったら、頭ええんやなぁ。勉強ばっかしとんのやろ?」
「そんなことないっすよ」と否定すると、男はニヤッと笑って、またボクの体を見回した。
「そやろな。ええ体しとるもんなぁ……」
そう言って、男はボクの肩に手を伸ばし、その手でボクの腕の筋肉をモミモミするように触ってくる。
なんじゃ、このおっさん、気持ちわるいなぁ。
そう思い始めたボクを、さらなる気持ちわるさが襲った。
その下宿を探したのは、父親が勤務する保険会社の松山営業所に勤める社員の奥さんだった。朝食と夕食の賄い付きで、月に1万1千円。残り9千円で文房具や本を買い、昼飯代を払い、風呂に入り、チリ紙や洗剤などの生活用品を購入しなければならない。生活は、けっこう厳しいものだった。
下宿は、道後温泉まで歩いて10分ほどのところにある2階家で、1階には大家夫婦と大学生の娘・息子が住み、2階の4部屋をボクを含めた高校生3人と大学生1人に下宿させていた。
3畳ひと間という部屋は、やや狭かったが、何とか机を置いて布団を敷き延べることはできる。窮屈なのは、朝と夜、下宿人4人がそろって食卓を囲む食事だった。何しろ、食べ盛りの年齢だ。腹いっぱいになるまで食べたいのに、ごはんをお代わりするのは、ちょっと気が引けた。
2杯目までは、他の下宿人も「お代わり」と茶碗を差し出すので、ボクも「お代わり」とお願いすることができた。しかし、3杯目になると、そっ……と出すしかなかった。
「あら、きょうは食べるのね……」
大家夫人がメガネの縁を持ち上げるようにして、ボクの顔を覗き込んだ。その瞬間、ボクは3杯目をお代わりするのは止めよう――と決意した。

下宿生活を始めたボクが、まず、始めたこと。それは「体、鍛えなくちゃ」だった。貧弱な下宿生活を続けながら3年間の受験勉強を貫徹するためには、丈夫な体をキープしなくちゃならない。
ボクは、朝起きると、腹筋運動をし、それから腕立て伏せを計50回。そのあと、下宿から歩いて5分の道後公園まで散歩して、公園内をジョギングした。動物園が併設された園内を1周すると、2キロ弱は走れる。朝飯前のいい運動になる――と、ボクはそれも日課にしようと思ったのだが、その公園には、魔物が潜んでいた。
「ボク、高校生かい?」
ジョギングを終えて展望台で顔から噴き出す汗を拭いていると、そこで煙草を吸っていた40~50代と思われるオヤジが声をかけてきた。
「ハイ」と答えると、「学校どこぞ?」と訊く。
なんだ、このおっさん――と思ったが、隠すことでもないので、「A学園」と答えると、男は「ホゥ」と声を挙げて、ボクの全身を頭のてっぺんからつま先まで、ナメ回すように見て言うのだった。
「A学園やったら、頭ええんやなぁ。勉強ばっかしとんのやろ?」
「そんなことないっすよ」と否定すると、男はニヤッと笑って、またボクの体を見回した。
「そやろな。ええ体しとるもんなぁ……」
そう言って、男はボクの肩に手を伸ばし、その手でボクの腕の筋肉をモミモミするように触ってくる。
なんじゃ、このおっさん、気持ちわるいなぁ。
そう思い始めたボクを、さらなる気持ちわるさが襲った。
「もう、毛生えたかい?」
言うなり、男はボクの股間に手を伸ばしてきて、そこにぶら下がっているものをムギュッとつかんできた。
腰を引いてその手から逃れようととすると、今度は腕をつかんだ手がボクの上体を引き寄せ、そこにニュッと男の顔が近づいてきた。あっ……と思ったときには、男のヌメッとした唇が、ボクの唇に重なっていた。
何するんだよ!
ボクは両手で男の胸を突き飛ばした。男の体はふっ飛んで、腰を展望台のフェンスに打ち付け、「ウッ」とうめいてその場に崩れ落ちた。
ボクは後も見ずに、展望台の階段を駆け下り、公園入口の水飲み場まで走ると、水道の栓をひねって、何度も何度も唇を洗った。
男がその後、どうなったか――などは知りもしないし、知ろうとも思わなかった。

それは、15歳のボクにとって、理解のつかない出来事だった。
分別のあるはずの、それゆえに無警戒でいた「いい歳のおっさん」が、自分の子どもほどの年齢の少年を抱き寄せ、股間に手を伸ばし、キスを求めてきた。これは、どういうことか?
部屋に戻ると、金田一京助の国語辞典を引っ張り出した。何かわからないことがあるときに、いつも、ボクは辞書のページを繰った。自分がしているいけない行為が「自慰」という行為であることを発見したのも、辞書を通してだった。
この日は、「同性」という言葉を探し、そこから「同性愛」という言葉を発見した。
ああ、これか――と思うと同時に、気持ちわるさが込み上げた。
あんなおっさんがたむろしてるんじゃ、公園のジョギングには行けないな。せっかく立てていたボクの「体を鍛えよう」計画は、その一部がいきなり挫折することになった。
ボクの高校生活は、そんな挫折から始まった。
⇒続きを読む
言うなり、男はボクの股間に手を伸ばしてきて、そこにぶら下がっているものをムギュッとつかんできた。
腰を引いてその手から逃れようととすると、今度は腕をつかんだ手がボクの上体を引き寄せ、そこにニュッと男の顔が近づいてきた。あっ……と思ったときには、男のヌメッとした唇が、ボクの唇に重なっていた。
何するんだよ!
ボクは両手で男の胸を突き飛ばした。男の体はふっ飛んで、腰を展望台のフェンスに打ち付け、「ウッ」とうめいてその場に崩れ落ちた。
ボクは後も見ずに、展望台の階段を駆け下り、公園入口の水飲み場まで走ると、水道の栓をひねって、何度も何度も唇を洗った。
男がその後、どうなったか――などは知りもしないし、知ろうとも思わなかった。

それは、15歳のボクにとって、理解のつかない出来事だった。
分別のあるはずの、それゆえに無警戒でいた「いい歳のおっさん」が、自分の子どもほどの年齢の少年を抱き寄せ、股間に手を伸ばし、キスを求めてきた。これは、どういうことか?
部屋に戻ると、金田一京助の国語辞典を引っ張り出した。何かわからないことがあるときに、いつも、ボクは辞書のページを繰った。自分がしているいけない行為が「自慰」という行為であることを発見したのも、辞書を通してだった。
この日は、「同性」という言葉を探し、そこから「同性愛」という言葉を発見した。
ああ、これか――と思うと同時に、気持ちわるさが込み上げた。
あんなおっさんがたむろしてるんじゃ、公園のジョギングには行けないな。せっかく立てていたボクの「体を鍛えよう」計画は、その一部がいきなり挫折することになった。
ボクの高校生活は、そんな挫折から始まった。
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盆になると、男たちがクジで「かか」を交換し合う。
明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
筆者初の官能作品、どうぞお愉しみください。
2020年9月発売 定価:200円 発行/虹BOOKS
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既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。






明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
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管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。



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