自伝的創愛記〈45〉 さよなら、男女共学

Vol.45
受験シーズンが始まった。
「西高、受けるんやろ?」
と訊いてきたピンちゃんに、
ボクは即答できなかった――。
体育祭・文化祭が終わると、ボクら中3の学園生活は、一気に受験シーズンへと突き進む。
「おまえ、どこへ進むんゾ?」
「やっぱり、西高受けるんか?」
クラスの中で交わされるのも、そんな会話が多くなった。
「西校」というのは市内にある県立の普通高校で、大学受験を目指す市内の中学校の生徒は、ほとんどが西高進学を目指していた。もちろん、ボクも、ふつうだったら、そんなコースを進むことになっただろうと思う。しかし――。
「重松クンも、西高受けるんやろ?」
ピンちゃんにもそんな声をかけられたが、ボクは、「もちろん」と即座には答えられなかった。
西高の制服に身を包んで、高校の3年間をピンちゃんたちと過ごす。それは、きっと楽しいに違いない。しかし、ボクには、たぶん、そうはならないだろう――という予感があった。
「そうはならない」という予感をもたらすのは、父親の転勤の可能性だった。

「西高に行っても、おまえ、途中で転校せんといかんごとなる」
ある夜、父親がそんなことを言い出した。
「転校? よかよ」
「よかよ――じゃないたい。おまえがよくても、向こうが受け入れてくれん」
手続きさえすれば転校できる中学校までと違って、高校の転校は、そんなに簡単じゃないということを、ボクは、改めて思い知った。編入試験を受けて合格すれば――と、思っていたのだが、そんなに簡単な話ではないと父親は言うのだった。
たぶん、ボクが高校に通っているうちに、自分は転勤になる。父親はそのことを確信しているらしかった。というより、定年を迎えるときには、郷里の福岡に戻してほしい――というのが、父親の希望だった。その定年まで、あと3年。たぶん、ボクが高2になるぐらいのタイミングで、一家は福岡に転勤になるんだろうな――と、予想できた。
転勤を宿命づけられた金融系サラリーマンの家庭にとって、それは、避けて通ることのできない宿命と言えた。
オレは、絶対、サラリーマンにはなるまい。ボクの中には、中3の1年間の経験で、そういう人生観が定着したのかもしれなかった。
「おまえ、どこへ進むんゾ?」
「やっぱり、西高受けるんか?」
クラスの中で交わされるのも、そんな会話が多くなった。
「西校」というのは市内にある県立の普通高校で、大学受験を目指す市内の中学校の生徒は、ほとんどが西高進学を目指していた。もちろん、ボクも、ふつうだったら、そんなコースを進むことになっただろうと思う。しかし――。
「重松クンも、西高受けるんやろ?」
ピンちゃんにもそんな声をかけられたが、ボクは、「もちろん」と即座には答えられなかった。
西高の制服に身を包んで、高校の3年間をピンちゃんたちと過ごす。それは、きっと楽しいに違いない。しかし、ボクには、たぶん、そうはならないだろう――という予感があった。
「そうはならない」という予感をもたらすのは、父親の転勤の可能性だった。

「西高に行っても、おまえ、途中で転校せんといかんごとなる」
ある夜、父親がそんなことを言い出した。
「転校? よかよ」
「よかよ――じゃないたい。おまえがよくても、向こうが受け入れてくれん」
手続きさえすれば転校できる中学校までと違って、高校の転校は、そんなに簡単じゃないということを、ボクは、改めて思い知った。編入試験を受けて合格すれば――と、思っていたのだが、そんなに簡単な話ではないと父親は言うのだった。
たぶん、ボクが高校に通っているうちに、自分は転勤になる。父親はそのことを確信しているらしかった。というより、定年を迎えるときには、郷里の福岡に戻してほしい――というのが、父親の希望だった。その定年まで、あと3年。たぶん、ボクが高2になるぐらいのタイミングで、一家は福岡に転勤になるんだろうな――と、予想できた。
転勤を宿命づけられた金融系サラリーマンの家庭にとって、それは、避けて通ることのできない宿命と言えた。
オレは、絶対、サラリーマンにはなるまい。ボクの中には、中3の1年間の経験で、そういう人生観が定着したのかもしれなかった。

「おまえ、卒業したら、松山に行けや」
父親が、突然、言い出したのは、12月になってからだった。
松山に「A学園」という受験で有名な私立高があるから、そこに行け――と言うのだ。「A学園」は中高一貫の受験校だが、1月に高校からの編入試験もあるから、それを受けろ。「A学園」なら、家が引っ越しても学校を変わらなくてすむから――と言うのだった。
しかし、松山市にある「A学園」に新居浜から通うわけにはいかない。
「そこ、寮とかあると?」
「ああ、あるらしかばって、入れるかどうかはわからん」
「そしたらどうすると?」
「どっか下宿するたい。松山の出張所の人間に言うて、探させとくけん、おまえは心配せんでんよか」
いや、そういう問題じゃないんだけど――と思ったが、それは言わないでおいた。

親には言わなかったが、「A学園」に進みたくない理由が、もうひとつあった。
それは「A学園」が男子校で「共学」ではない、ということだった。せっかくピンちゃんとも親しく話ができるようになったのに、これからの3年間を、ボクは、男ばかりの世界で生きなくてはならない。何だか味気ないなぁ――と、15歳になったボクは思った。
ボクが「A学園」を受験することは、ピンちゃんにも知られた。ほんとは自分の口で言いたかったのだが、しかし、ボクがそれを口にする前に、それはクラスの全員が知るところになった。
バラしたのは、担任の村上先生だった。
「みんな、この冬休みのうちに、最後の追い込みやで。おっ、重松は愛光やったの。正月が開けたら、すぐ試験やけん、もう、ゆっくり休んでられんで」
それで、クラスの全員にボクの「A学園」受験が知られてしまった。
ピンちゃんはどう思っただろう? ボクは、真っ先にそれが気になった。
「西高、受けるんやろ?」と訊かれて即答できなかったボクを、「何や、そういうことやったんか」と、裏切られたような思いで見ているだろうか?
しかし、ピンちゃんがかけてくれた言葉は、まるで違っていた。
「重松クン、愛光に行ってしまうんやね。なんか、寂しゅうなるわぁ」
エッ……と思った。思いもしない言葉を受けて、咄嗟に返した言葉は、「ボクも……」だった。今度は、ピンちゃんが「エッ?」という顔をした。
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明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
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題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
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