自伝的創愛記〈43〉 初めてのレオタード

Vol.43
弁論大会で金賞を取ったボクは、
1週間後、クラス対抗のリレーに
出場することになった。練習で
校庭を走っていたボクは、ピンちゃんの思いもしない姿を目にした。
放送中に鼻をすすって、ピンちゃんに笑われてしまったボクの弁論だったが、本大会では鼻をすすることもなく、無事に「金賞」を取ることができた。前の学校でも金賞を取っていたので、ボクにとっては小躍りして喜ぶほどのことではなかったが、ひとつだけうれしいことがあった。
休み時間に、ピンちゃんがボクの席までやって来て、「おめでとう」と言ってくれたことだ。ボクの肩をポンと叩いたピンちゃんは、「本選では鼻すすらんかった?」とボクの顔をのぞき込んだ。「やらないよ、あんなこと」と答えると、ピンちゃんは「よかった」と、またクスリと笑った。
ボクの鼻すすりを心配してくれていたのか――と思うと、少しうれしい気もした。

文化の11月は、スポーツの11月でもある。1週間後には、W中の体育祭が開かれる。しかし、たぶん、そこではボクの出番はない。
そう思っていたのだが、クラスの中では、男子の間でおかしな話が交わされていた。体育祭の目玉であるクラス対抗リレーのメンバーをどうするか――についての相談らしかった。その結果、ボクにもたらされたのは、自分でも驚く話だった。
「のォ、重松クン、今度のリレーやけどのォ、3走で出てくれんかのォ?」
全部で5人でバトンをつなぐレースだ。1走、2走はグラウンド半周、3~5走は1周する。その3走を自分が走る? ジョーダンだろ――と思った。
自慢じゃないけど、足にはまったく自信がない。前の学校で一度だけ、リレーに出たことはあったが、あのときは、貧血を起こして養護室に担ぎ込まれてしまった。それく来、短距離は苦手……と思っている。そんなボクがどれくらい走れるかなど、見たこともないくせに、クラスのリーダー的な男子たちは、ボクに「リレーに出ろ」と言う。
「オレ、足、遅いよ」
「かまわん、かまわん。バトンだけつないでくれたらええのんじゃ」
もしかして、こいつら、ボクに走らせて恥をかかせ、笑いものにしようとしてるんじゃないか?――とも思ったが、それならそれでもいい。思い切り笑われてやろうじゃないかと、出場をOKした。
それでも、あまりみっともない走りはできない。失敗を期待する連中の鼻を明かすためにも、ちょっと練習しておくか――と、ボクは、放課後、短パンに穿き替えて、運動場をランニングすることにした。
グラウンドは野球部が守備練習に使っているので、ボクはその練習が終わるまで、校庭の外周を走ることにした。

グラウンドを杉の木が取り囲んでいる。その杉の木と塀の間を縫うように走る小径に沿って校庭を周回する。1週すると、400メートル近くは走れる。4~5周すれは、そこそこトレーニングにはなるだろう。そのうち野球部の練習が終わったら、トラックを全力疾走しよう。そう思って、校庭を2周ほどしたときだった。
「あれ……?」と声がしたので振り返ると、ピンちゃんだった。
「リレーの練習、しよるん?」
「ウン。ああ……みんなに迷惑かけられんしね」
「私も、練習なんよ」
そう言って、手にしたトレパンとタオルを肩の高さまで上げて見せる。その姿を見て、ボクは、あっ……と息を呑んだ。
彼女は、全身を黒い体操着で包んでいた。あれ、何と言うんだろう? 肩から腿の付け根までをピッタリとした生地で包んだ体操着。TVで見た女子の体操選手とかが着るレ……なんとかってやつだ。
それを生身の女性が身に着けているのを、ボクは、そのとき生まれて初めて見た。
あれの練習をするの――というふうに、ピンちゃんが指さして見せる方向に、足の付いた1台の真っすぐな木の台があった。確か、「平均台」とか言うんだった。それが、杉の木と体育倉庫の間に置いてある。
エッ、いまからあれをやるの?――と驚いているボクを後目に、ピンちゃんはスタスタと平均台のほうに歩いていった。
その後ろ姿を見ながら、ボクは、ドキッ……となった。
スラリと伸びた彼女の脚の腿の付け根まで切れ込んだ体操着。その切れ込みの縁から、彼女の尻の肉がプニュッとはみ出していた。彼女が一歩を踏み出す毎に、そのはみ出した肉は、彼女の臀部に肉色の影を作り出す。
いつも、ショートヘアをピョンピョンと躍らせて歩く活発な女の子、そのピンちゃんが体操着のヒップの縁からのぞかせる力のないはみだし肉の影。彼女が唯一のぞかせた、彼女の弱さの小さな徴し。ボクは、その「小さな弱さ」に想いを募らせた。
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