自伝的創愛記〈40〉 学力テストを足切りする教室

Vol.40
その中学校では、おかしなことが
行われていた。学力テスト受験の
人数を絞るのだ。その理由を
知ったとき、ボクは――。
2学期が始まって、ボクは「新入生」としてクラスに紹介された。
「九州の中学では1番で生徒会長だったらしいけんのォ、長尾、おまえも油断せられんぞ」
村上と名乗る担任教師は、そう言って「長尾」と呼んだ生徒の席に顔を向け、ニヤッと笑って見せた。どうやら「長尾」と言われた男が、クラスではいちばん勉強ができるらしい。
それにしても、何だ、この先生――と、ボクは思った。転校生を紹介するのに、わざわざ、敵意をあおるような言い方することないだろうに……。
そんな紹介から始まったボクの転校生活は、一部の生徒たちの「敵意」を受けて始まることになった。
「W中学」では、他にも、いくつか驚かされることがあった。
ひとつは、クラスを構成する苗字の少なさだった。どのクラスにも、同じ姓を名乗る生徒が10人から15人はいた。いちばん多いのが、村上・高橋・加藤の3つの姓で、どのクラスにも3人から4人はいた。次いで、越智・真鍋・合田が、各2人か3人。
それらの苗字を持つ生徒は、姓だけを呼んだのでは、だれを呼んだのかわからなくなるので、教師も生徒同士も、相手を「名前」のほうで呼ぶケースが多かった。
もうひとつは、「学力テスト」だった。文部省が全国の小・中校を対象に実施する「全国学力テスト」。前の学校では、日教組に属する先生たちが、「学テ反対」のプラカードを掲げて校門に立ったりしていた。「学力テストは教育現場に過剰な競争をもたらす」というのが「反対」の理由だったが、「W中学」では、そんな様子は見られなかった。
見られないどころじゃない。学力テストが近づくと、先生たちは、テストに参加する生徒を指名し始めたのだ。
エッ、指名……? ボクは耳を疑った。学力テストって、義務教育期間中の子どもたちの学習到達度を測定するために、やってるはず。全員参加でないと意味がないじゃないか。
先生たちが指名するのは、クラス45人のうち、37~38人程度。指名されないのは、ふだんからテストの点がわるい下位の7~8人だった。
なんでそんなことをするのか、担任教師・村上の言葉を聞いて、何となく理解できた。

「去年はのォ、愛媛県は平均点で全国2位だったんよ。W中は、県内の市立中では3位、東予地区では2位やった。平均で2点上げたら東予1位になれるんじゃ。期待しとるけん、ガンバってくれや」
教師からそんな激励を受けるのは、初めてだった。そもそも、学力テストの平均点を他校と比較し、「県内何位」を競う――なんていう発想が、それまで受けた学校教育の中にはなかった。
何だかせこいなぁ――と思っているうちに、気がついた。そうか、テストを受ける人間を指名したのは、平均点を上げるためだったんじゃないか。大事なのは、指名してテストを受けさせる人間のほうじゃなくて、受けさせない人間のほうなんだ。きっと、これは足切りだ。
そこまでして、学校の成績を上げたいんだ――と気づいたとき、ボクの中では、「W中」での学校生活を楽しもうという気持ちが、スーッと引いていった。
「九州の中学では1番で生徒会長だったらしいけんのォ、長尾、おまえも油断せられんぞ」
村上と名乗る担任教師は、そう言って「長尾」と呼んだ生徒の席に顔を向け、ニヤッと笑って見せた。どうやら「長尾」と言われた男が、クラスではいちばん勉強ができるらしい。
それにしても、何だ、この先生――と、ボクは思った。転校生を紹介するのに、わざわざ、敵意をあおるような言い方することないだろうに……。
そんな紹介から始まったボクの転校生活は、一部の生徒たちの「敵意」を受けて始まることになった。
「W中学」では、他にも、いくつか驚かされることがあった。
ひとつは、クラスを構成する苗字の少なさだった。どのクラスにも、同じ姓を名乗る生徒が10人から15人はいた。いちばん多いのが、村上・高橋・加藤の3つの姓で、どのクラスにも3人から4人はいた。次いで、越智・真鍋・合田が、各2人か3人。
それらの苗字を持つ生徒は、姓だけを呼んだのでは、だれを呼んだのかわからなくなるので、教師も生徒同士も、相手を「名前」のほうで呼ぶケースが多かった。
もうひとつは、「学力テスト」だった。文部省が全国の小・中校を対象に実施する「全国学力テスト」。前の学校では、日教組に属する先生たちが、「学テ反対」のプラカードを掲げて校門に立ったりしていた。「学力テストは教育現場に過剰な競争をもたらす」というのが「反対」の理由だったが、「W中学」では、そんな様子は見られなかった。
見られないどころじゃない。学力テストが近づくと、先生たちは、テストに参加する生徒を指名し始めたのだ。
エッ、指名……? ボクは耳を疑った。学力テストって、義務教育期間中の子どもたちの学習到達度を測定するために、やってるはず。全員参加でないと意味がないじゃないか。
先生たちが指名するのは、クラス45人のうち、37~38人程度。指名されないのは、ふだんからテストの点がわるい下位の7~8人だった。
なんでそんなことをするのか、担任教師・村上の言葉を聞いて、何となく理解できた。

「去年はのォ、愛媛県は平均点で全国2位だったんよ。W中は、県内の市立中では3位、東予地区では2位やった。平均で2点上げたら東予1位になれるんじゃ。期待しとるけん、ガンバってくれや」
教師からそんな激励を受けるのは、初めてだった。そもそも、学力テストの平均点を他校と比較し、「県内何位」を競う――なんていう発想が、それまで受けた学校教育の中にはなかった。
何だかせこいなぁ――と思っているうちに、気がついた。そうか、テストを受ける人間を指名したのは、平均点を上げるためだったんじゃないか。大事なのは、指名してテストを受けさせる人間のほうじゃなくて、受けさせない人間のほうなんだ。きっと、これは足切りだ。
そこまでして、学校の成績を上げたいんだ――と気づいたとき、ボクの中では、「W中」での学校生活を楽しもうという気持ちが、スーッと引いていった。

あまりなじめそうもないクラスだったが、教室にひとりだけ、目を惹く女の子がいた。短くカットした毛先が肩の上でピョンピョンと跳ねる活発そうな女の子。
みんなに「ピンちゃん」と呼ばれるその子が、体操部に属する唯一の女子で、しかもピアノが上手い女の子である――と聞いたときから、ボクの中で小さな憧れが芽を吹いた。
彼女は、学年でも人気のある女の子だった。ひそかに彼女の周りに目を光らせる、取り巻きのような男子たちもいるようだったが、それは、親衛隊のような顕著な存在ではない。それだけに陰湿とも言えた。
転校生のボクが彼女と親しく口をきいて、そういう連中にニラまれるのも面倒くさいので、ボクは自分からは声をかけないでいた。そういうバランス感覚は、小学校時代から続くボクの処世術のひとつでもあった。
しかし、そんなつまらない処世の知恵は、彼女の前では意味をもたなかった。
「重松クン、歌うまいんだってね」
いきなり、そういって声をかけてきたのは、彼女のほうだった。
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盆になると、男たちがクジで「かか」を交換し合う。
明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
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