留学難民・グエンの日々〈7〉 そこへコロナが来た!

留学難民・グエンの日々
第7章
「フォーの約束」を果たせないでいる
うちに、コロナがやって来た。
ストアには「マスク警察」のようなお局たち。
グエンの身の上にも深刻な打撃が――。

前回から読みたい方は、こちらからどうぞ。
ここまでのあらすじ ちょっとたどたどしい日本語の電話で、店のアルバイト店員に応募してきたグエンは、大学に通っていた。学費と生活費を稼ぎ出すために、3つのアルバイトを掛け持ちする彼女は、度々、遅刻する。その度に彼女は、オレに「お礼」を渡すのだった。彼女の出身は、ベトナム北部、ハノイ近郊の街。祖母の背中には、戦争中の北爆で焼かれたケロイドの跡があると言う。しかし、彼女たち若い世代は、その時代を知らない。グエンは、オレの背後をすり抜ける度に、胸の突起で背中をくすぐって、ニッと笑った。そして言うのだった。「今度、フォーを作って持っていってあげるよ」――
日本に寄港したクルーズ船から、感染者が出た。
そのニュースが流れたのは、3月の始め頃だった。TVのワイドショーは、その感染者の足跡を追い、濃厚接触者が何人いた、その中からPCRの陽性が何人出た――という報道を繰り返し始めた。知事や医学専門者が、朝・昼・晩とTVに出ては、「マスクを着けろ」「手を洗え」と、壊れたテープレコーダーのように、メッセージを繰り返す。
そんなメッセージを毎日のように聞いていると、世の中には、カン違いするバカが現れる。「Lストア」にも、「超」の付くバカがいた。店にやって来る客に「マスク着用」を求めるのは、あくまで「お願い」のはずだが、そのカン違いバカたちは、とんでもないことをやった。
まず、店の入り口に、オオカミのぬいぐるみを置いて、そこに「マスクなしの人、入店お断り!」という張り紙を貼り出し、実際に「マスクなし」のままレジで精算しようとした客を、追い返すことまでやった。「マスクないんだったら、そこのマツキヨで買ってきてください」とやって、客を怒らせたこともある。
そのバカたちは、店に永年籍を置く、ベテランの年配女性たちだ。世間流に言うと、「お局店員」と言ってもいいだろう。
ニュースでは、コロナ騒動の副作用として、各地に「マスク警察」然とした人たちが登場して、「非マスク着用」の市民に暴力を振るう――などの事例が報じられていたが、ストアのお局たちの行動も、それに近いものがあった。
自分の頭で考え、物事を判断することのできない人間たちは、いつの時代にも、飛びつきやすい旗に飛びついて、その旗を高々と振りたがる。
コロナは、そういうバカたちに「降る旗」を与えた。ストアのお局たちにも――。
そのニュースが流れたのは、3月の始め頃だった。TVのワイドショーは、その感染者の足跡を追い、濃厚接触者が何人いた、その中からPCRの陽性が何人出た――という報道を繰り返し始めた。知事や医学専門者が、朝・昼・晩とTVに出ては、「マスクを着けろ」「手を洗え」と、壊れたテープレコーダーのように、メッセージを繰り返す。
そんなメッセージを毎日のように聞いていると、世の中には、カン違いするバカが現れる。「Lストア」にも、「超」の付くバカがいた。店にやって来る客に「マスク着用」を求めるのは、あくまで「お願い」のはずだが、そのカン違いバカたちは、とんでもないことをやった。
まず、店の入り口に、オオカミのぬいぐるみを置いて、そこに「マスクなしの人、入店お断り!」という張り紙を貼り出し、実際に「マスクなし」のままレジで精算しようとした客を、追い返すことまでやった。「マスクないんだったら、そこのマツキヨで買ってきてください」とやって、客を怒らせたこともある。
そのバカたちは、店に永年籍を置く、ベテランの年配女性たちだ。世間流に言うと、「お局店員」と言ってもいいだろう。
ニュースでは、コロナ騒動の副作用として、各地に「マスク警察」然とした人たちが登場して、「非マスク着用」の市民に暴力を振るう――などの事例が報じられていたが、ストアのお局たちの行動も、それに近いものがあった。
自分の頭で考え、物事を判断することのできない人間たちは、いつの時代にも、飛びつきやすい旗に飛びついて、その旗を高々と振りたがる。
コロナは、そういうバカたちに「降る旗」を与えた。ストアのお局たちにも――。

旗振りお局たちは、同じ旗を振ることをオレたちにも求めてきた。
「私ら、マスク着けてない人には、厳しく言ってるんだから、重松さんたちも言ってよ。そうでないと、私たちが言ったこと、ムダになるでしょうよ。こういうことは、みんなで言わないと、効き目ないんだから」
「それ、本社の指令?」
「マスク着用のお願い――って、文書が回って来てたの、見たでしょ?」
「お願い――でしょ? 『お願い』と『命令』は違うんじゃないの?」
「国も都も言ってるじゃない。マスク着けろって」
「着けろ――とは言ってないと思うよ。着けてください――とお願いしてるだけ。そういう法律もできてないし、条例も出てない。それを『着けろ』と強制すると、問題になると思いますよ」
「まったく……」と言いながら、お局たちは、以後、オレに対しては、マスクの件を口にすることはなくなった。
しかし、グエンに対しては、そうはいかなかった。
「あなたの国じゃわからないけど、日本は、みんなで決めたルールはきっちり守る国だからね。マスク着けて来て――って、ちゃんと言わなきゃダメだよ」
「みんなで決めた」も、それが「ルール」というのもウソ。「きっちり守る国」も、もちろんウソだが、留学生であるグエンには、それに反論する力はなかった。
「ワタシ、言えないよ」と弱音を吐くグエンに、オレは「いいよ、ムリに言わなくて」と言って、諭した。
「あのおばちゃんたちは、警察のフリをしたがってるだけだから、気にしなくていいよ。もし、マスクしてない人がいたら、やさしく言ってあげればいいと思うよ」
実際、オレはマスク非着用の客がレジにやって来ると、こう声をかけていた。
「今度、いらっしゃるときは、マスク着けて来てくださいね。いちいち面倒……と感じるかもしれませんけど」
グエンがそれを見て、「やさしいんだね、シゲマツさん……」と感想をもらした。

お局たちのマスク作戦は、本社からやって来たSV(スーパーバイザー)に見とがめられた。
「本社は、マスク着用を来店の条件にはしてないから」と、入り口に配置したぬいぐるみと「マスクなしの人、入店お断り」の張り紙の撤去を求めた。
お局たちの過剰とも見える「マスク警察化」は、本社指令でとん挫せざるを得なくなった。それはそれでいいことではあった。
しかし、半年もあれば鎮まるだろうと思ったコロナ禍は、1年経っても治まるどころか、ますますひどくなるばかりだった。その影響は、グエンたち留学生の上に、もっとも深刻な打撃をもたらした。グエンの身にも、それは起こった……。
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