留学難民・グエンの日々〈4〉 相乗りの相手

留学難民・グエンの日々
第4章
学費と生活費で毎月10万はかかるだろう。
その費用を捻出するために、グエンは、
3つのバイトを掛け持ちしていた。しかし、
そのムリがたたってか、彼女は度々、
遅刻・欠勤を繰り返した。そして――。

前回から読みたい方は、こちらからどうぞ。
ここまでのあらすじ ちょっとたどたどしい日本語の電話で、店のアルバイト店員に応募してきたグエンは、大学に通っていた。学費と生活費を稼ぎ出すために、3つのアルバイトを兼業する彼女は、度々、遅刻する。その度に彼女は、オレに「お礼」を渡すのだった――
オレは知らなかったが、もし、彼女が言う場所に大学があるとしたら、おそらく私立大学だ。「私立」となると、学費もそう安くはない。半期で、30万とか40万、下手すると、50万~60万払わなくてはならないかもしれない。
半期36万とすると、月に6万ずつは、学費のために貯蓄しなくてはならない。「Lストア」でのバイトを週3でこなしたとしても、月に稼げるバイト料は、せいぜい、5万円台だ。それじゃ、学費の足しにはならないだろう。
「それで、学費とか払えるの?」
返って来た返事を聞いて、オレは驚いた。
グエンは、他にも、2つのバイトを掛け持ちしていると言う。「Lストア」からだと、自転車で15分の距離にある製パン工場での夜勤。夜10時から朝5時までの勤務で、こちらも週3回、勤務している。そして、チャンポンや皿うどんが名物のファミレス店でのウエートレス。
それで何とか、生活費と学費をまかなうことができる。「でも……」とグエンは言うのだった。
「このこと、店には言わないで。他の人にわるいから……」
何を「わるい」と言っているのか、オレにはさっぱりわからなかった。
それよりも、オレが気にしたのは、そんな働き方して、こいつの体、ダイジョーブなのか――だった。

思ったとおり、グエンは度々、体調を壊した。
「シ・ゲ・マ・ツさん? ワ・タ・シ、グエンですけど……」
そういう電話がかかってくると、オレは「またか……」と身構えた。
たいていは、「熱が出てしまった」とか「おなかを壊した」という電話で、それで「30分遅れる」とか「きょうは出られない」という電話だったりした。その度にオレは店に走って、昼勤のスタッフに残業を頼んだり、店長に連絡をとって、どこかの店舗スタッフから応援を頼まなくてはならなかった。
そんな電話が、月に1回はかかってくる。その度に、グエンは、「きょうはありがとう」と、レジ袋入りのドリンクと菓子パンをよこす。「そういう気遣いしなくていいから」と、何度言っても、止めようとしない。「メイワクかけてるだから、お礼する。当たり前でしょ」と言うのだ。
さすが仏教国。そういうところは、なまじな日本人よりよほど無義理堅い。
半期36万とすると、月に6万ずつは、学費のために貯蓄しなくてはならない。「Lストア」でのバイトを週3でこなしたとしても、月に稼げるバイト料は、せいぜい、5万円台だ。それじゃ、学費の足しにはならないだろう。
「それで、学費とか払えるの?」
返って来た返事を聞いて、オレは驚いた。
グエンは、他にも、2つのバイトを掛け持ちしていると言う。「Lストア」からだと、自転車で15分の距離にある製パン工場での夜勤。夜10時から朝5時までの勤務で、こちらも週3回、勤務している。そして、チャンポンや皿うどんが名物のファミレス店でのウエートレス。
それで何とか、生活費と学費をまかなうことができる。「でも……」とグエンは言うのだった。
「このこと、店には言わないで。他の人にわるいから……」
何を「わるい」と言っているのか、オレにはさっぱりわからなかった。
それよりも、オレが気にしたのは、そんな働き方して、こいつの体、ダイジョーブなのか――だった。

思ったとおり、グエンは度々、体調を壊した。
「シ・ゲ・マ・ツさん? ワ・タ・シ、グエンですけど……」
そういう電話がかかってくると、オレは「またか……」と身構えた。
たいていは、「熱が出てしまった」とか「おなかを壊した」という電話で、それで「30分遅れる」とか「きょうは出られない」という電話だったりした。その度にオレは店に走って、昼勤のスタッフに残業を頼んだり、店長に連絡をとって、どこかの店舗スタッフから応援を頼まなくてはならなかった。
そんな電話が、月に1回はかかってくる。その度に、グエンは、「きょうはありがとう」と、レジ袋入りのドリンクと菓子パンをよこす。「そういう気遣いしなくていいから」と、何度言っても、止めようとしない。「メイワクかけてるだから、お礼する。当たり前でしょ」と言うのだ。
さすが仏教国。そういうところは、なまじな日本人よりよほど無義理堅い。

彼女の郷里は、ベトナム北部のハノイ近郊の田舎町だ。
そこに、両親と祖父母、兄と姉、弟が住んでいる。兄と弟は両親が営む農場を手伝い、姉はハノイに出て、日本企業が営む工場で縫製の作業員として働いていると言う。グエンに留学を勧めたのは、その姉だった。
「ベトナムで技術を身に着けて働いても、結局は、職工としてしか扱われない。給料も安いし。日本に留学して日本の大学を卒業すれば、日本の会社に就職できる。給料もたくさんもらえて、そうすれば、お父さんやお母さんたちにも送金できるでしょ」
すでに20代半ばに差しかかっていたグエンだったが、姉の言葉に動かされて、留学を決意した。しかし、その費用を親に出してもらうわけにはいかない。
大学に入学するためには、その前提となる日本語の習得のために、最低1年間は、日本語学校などに通う必要がある。その費用が入学金も含めて、安いところでも60~70万円。日本で生活するためには、アパートも必要だが、その初期費用に20~30万はかかるだろう。
結局、グエンは、総額100万円近い金を奨学資金として借りて、日本にやって来た。いずれ就職したら、その金は、返済しなくてはならない。
少しでも生活費を低く抑えるために、グエンが選んだのは、ドミトリー・スタイルのアパートだった。「ドミトリー」とは、1つの部屋を何人かで使う「共同間借り」スタイルのことで、グエンは部屋を分割している相手のことを「同居人」と呼んでいた。
「同居人」と言うからには、相手は女性だろうと思っていたのだが、どうも、違うようだった。
10時で夜勤と交代して帰ろうとすると、グエンが店の前で何かを待っていた。そこへやって来たのは、自転車にまたがってやって来たベトナム人と思われる若い男。男と二言、三言、言葉を交わすと、グエンは男が漕ぎ出す自転車の後部荷台に飛び乗って、男の腰に手を回した。
「あ、オイ。二人乗りは……」
声を出そうとしたが、相乗りの自転車は、夜の街へと消えていった。
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