留学難民・グエンの日々〈1〉 一本の電話から

留学難民・グエンの日々
第1章
電話の向こうの日本語がたどたどしかった。
「ワタシ、グエンと言いますが……」
バイトに応募してきたのだろう。
名前からすると、ベトナム国籍。それが、
オレとグエンの出会いだった――。
「ワタシ、××××言いますが……」
少し、日本語がたどたどしい。変な電話、受けちまったゾ――と思った。
「ああ……ワタシ、面接ウケるだったけど、熱出て行けなかった。まだ……面接ダイジョーブですか?」
どうやら、スタッフ募集の張り紙に応募してきたらしい。しかしなぁ……だ。熱が出たから、面接に行けなかった?
その時点で「この面接は失敗」と悟るべきと思うのだが、この女は、たぶんわかってない。しかし、オレにはそれを「ダメ」と断じる権利はない。
「面接のことは店長でないとわからないので、日曜日の5時以降に電話してください。電話があったことは伝えておきますから、もう一度、お名前を」
「あー、ワタシは、グエン・×・××です」
フルネームは聞き取れなかったが、「グエン」という姓(たぶん姓だ)だけは聞き取れた。
名前から察すると、ベトナム人だろう。
最近、街にはベトナム人の姿が増えた。外国人のための日本語学校がいくつかできたこともあって、朝の通学タイムや夕方の下校タイムには、駅前などは、聞き慣れない言葉が飛び交う「ここは異国か」と思う空間になる。
かつて街にあふれていた外国語は、フィリピン人が口にするタガログ語が中心だったが、このところ、目に見えてベトナム語が増えたような気がする。コンビニのレジに立つ店員にも、「グエン」という名が、やたら目立つようになった。
「グエン」という名を聞いたり、目にしたりすると、ベトナム人だとわかる。ベトナム人と聞くと、「名前はグエンか?」と思う。なにしろ、ベトナム人の苗字の38.4%が「グエン」だと言うんだから、街で「グエン」と呼ぶと、3人か4人が振り向く。
《グエンさんという人から電話がありました。熱が出て、面接に行けなかったけれど、まだ面接できるか――ということでした。日曜日にもう一度、電話してくれと伝えておきましたので、よろしくお願いします》
店長当てにメモを残して、そういう電話がかかってきたことなど、オレはいつの間にか忘れていた。
少し、日本語がたどたどしい。変な電話、受けちまったゾ――と思った。
「ああ……ワタシ、面接ウケるだったけど、熱出て行けなかった。まだ……面接ダイジョーブですか?」
どうやら、スタッフ募集の張り紙に応募してきたらしい。しかしなぁ……だ。熱が出たから、面接に行けなかった?
その時点で「この面接は失敗」と悟るべきと思うのだが、この女は、たぶんわかってない。しかし、オレにはそれを「ダメ」と断じる権利はない。
「面接のことは店長でないとわからないので、日曜日の5時以降に電話してください。電話があったことは伝えておきますから、もう一度、お名前を」
「あー、ワタシは、グエン・×・××です」
フルネームは聞き取れなかったが、「グエン」という姓(たぶん姓だ)だけは聞き取れた。
名前から察すると、ベトナム人だろう。
最近、街にはベトナム人の姿が増えた。外国人のための日本語学校がいくつかできたこともあって、朝の通学タイムや夕方の下校タイムには、駅前などは、聞き慣れない言葉が飛び交う「ここは異国か」と思う空間になる。
かつて街にあふれていた外国語は、フィリピン人が口にするタガログ語が中心だったが、このところ、目に見えてベトナム語が増えたような気がする。コンビニのレジに立つ店員にも、「グエン」という名が、やたら目立つようになった。
「グエン」という名を聞いたり、目にしたりすると、ベトナム人だとわかる。ベトナム人と聞くと、「名前はグエンか?」と思う。なにしろ、ベトナム人の苗字の38.4%が「グエン」だと言うんだから、街で「グエン」と呼ぶと、3人か4人が振り向く。
《グエンさんという人から電話がありました。熱が出て、面接に行けなかったけれど、まだ面接できるか――ということでした。日曜日にもう一度、電話してくれと伝えておきましたので、よろしくお願いします》
店長当てにメモを残して、そういう電話がかかってきたことなど、オレはいつの間にか忘れていた。

その店は、アパートから歩いて1分のところにあって、食料品や雑貨などを「100円均一」で売っている。俗称「100円L」と呼ばれる安売り系のコンビニだ。
別に、コンビニでバイトしようと思って探したわけじゃない。それまでは、スカイツリーのフードコートに入っている店で、洗い場&レジ&料理出しのバイトをしていた。時給1000円で他のバイト先よりは、70円ほど高かった。しかし、4時間分の時給を稼ぐのに、片道1時間の通勤をしなくちゃならない。
4時間の時給を稼ぐために6時間かけるのか? オレって時間をロスしてるよなぁ。そう思い始めたときに、目の前の「100円L」がスタッフを募集していることを知った。時給は安くても、これなら悪くないか。
そう思って始めたバイトが、すでに3年目に入っていた。
毎週、金・土・日の5時から10時までの夕勤。2人でコンビを組んでレジに立つ。コンビを組む相手は、日によって違う。日本人の若い学生アルバイトの場合もあれば、外国人のアルバイトのこともあり、オレより年上の高齢女性のこともあった。

そんなある日、いつものように出勤してバックヤードに入ると、店長が若い女性と話をしていた。制服に着替えようとするオレを、「あ、重松さん」と呼び止めた。
「この人、こないだ電話を取ってくれたグエンさん。土日の夕勤で入ってもらうことにしたから、いろいろ、面倒見てやってください。研修はすんでますけど、また慣れてないんで、レジとかも、横で見てやってください」
その横で「よろしくお願いします」と頭を下げる小柄な女の子。年の頃は、20代の半ばぐらいだろうか。ニコッと笑った顔が、少しはにかんだようでかわいく見えた。
アジアの笑顔だ――と思った。
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