自伝的創愛記〈33〉 白衣の胸に抱かれて

Vol.33
夏休み前の陸上競技会。生徒代表
のあいさつを任され、炎天下の
運動場で貧血を起こしたボクを
救ったのは、チャボの胸だった。
2年の1学期の終わりに、担任の教師に声をかけられた。
「重松クン、立候補してみんか?」という話だった。
夏休みに入る前の6月末に、生徒会長の選挙が行われる。「A組の鮎川も出るらしい。キミも負けずにがんばれ」という檄だった。
鮎川は、学年でいつもボクと成績首位を争い合うライバル関係にあった。親は街で歯科医院を開業し、学校でもPTAの会長を務める名士だった。名士の息子ゆえだろうか、鮎川には、どこか、胸をグイと張って歩くようなところがあった。エリート然とした態度が「高慢」と見られることもあって、勉強ができたわりには、生徒間の人気は、あまり高くなかった。
結局、投票結果は、大差でボクが会長に選ばれることになった。
会長の任務が始まると、ボクの学校生活は、何かと忙しくなった。自分で工夫して、作り出す任務もあったが、学校から求められる任務もあった。何か学校行事が催される度に、生徒代表として「開会のあいさつ」を求められる。それは、学校から「生徒会長、キミがやれ」と求められる任務だった。

あと10日ほどで夏休みになるという7月初めの暑い日、全校生徒が参加する陸上競技会が開かれた。新生徒会長となったばかりのボクは、そこでも、朝礼台に呼び出されて、全員でやる準備体操の号令をかけさせられ、開会宣言を発する役目を仰せつかった。
まったく体育系でなかったボクにとって、それは、気の進む役目ではなかった。しかし、それだけではなかった。午後になって行われたクラス対抗リレーで、ボクは第3走を任されることになっていた。
クラスの体育委員から「重松クン、3走ってくれん?」と声をかけられたときには、「エーッ」と声を挙げて「ムリ、ムリ」と手を振ったのだが、「生徒会長が走らんでどうするとや」と責められて、渋々、出走を決意したのだった。
問題は、その距離だ。第1~第2走は、グラウンドを半周だが、第3~第5走は1周する。半周なら100メートル走だが、1周となると、200メートルを走る。マラソンには自信があったが、短距離は苦手だ。200メートルを全力疾走というのは、経験のないチャレンジだった。
第1~第2走で、E組は後ろから2番目を走っていた。これをせめて3位、できれば2位に押し上げておかないと、格好がつかない。アンカーの柴田に3位以内でバトンが渡れば、柴田の走力なら、きっと1位になってくれるはずだ。
バトンを受けると、「よし!」と気合が入った。3位までは、ほんの2、3メートル差。いきなり、足をフル回転させた。200メートルという距離を考えると、ペース配分を工夫しないといけないところだったが、そういう計算はほとんど頭の中になかった。
バックストレートで、前を走る3位の走者と肩を並べるところまで追い上げることができた。100メートルを全力で走った足は、すでに限界近くに達していたが、ここをひと踏ん張りすれば、その前を走る2位の走者にも迫れるかもしれない。グイと3位走者の前に出ると、3コーナーの手前では、前を走る2位の背中が手を伸ばせば届く距離にまで近づいた。
しかし、近づくボクの気配に気づいた2位の男は、そこからスパートをかけた。近づいた背中が、グングン離れていく。そこから先は、ほとんど意識がなかった。何とか、次の4走にバトンを渡すと、ボクは、トラックの脇にへたり込んだ。
「重松クン、立候補してみんか?」という話だった。
夏休みに入る前の6月末に、生徒会長の選挙が行われる。「A組の鮎川も出るらしい。キミも負けずにがんばれ」という檄だった。
鮎川は、学年でいつもボクと成績首位を争い合うライバル関係にあった。親は街で歯科医院を開業し、学校でもPTAの会長を務める名士だった。名士の息子ゆえだろうか、鮎川には、どこか、胸をグイと張って歩くようなところがあった。エリート然とした態度が「高慢」と見られることもあって、勉強ができたわりには、生徒間の人気は、あまり高くなかった。
結局、投票結果は、大差でボクが会長に選ばれることになった。
会長の任務が始まると、ボクの学校生活は、何かと忙しくなった。自分で工夫して、作り出す任務もあったが、学校から求められる任務もあった。何か学校行事が催される度に、生徒代表として「開会のあいさつ」を求められる。それは、学校から「生徒会長、キミがやれ」と求められる任務だった。

あと10日ほどで夏休みになるという7月初めの暑い日、全校生徒が参加する陸上競技会が開かれた。新生徒会長となったばかりのボクは、そこでも、朝礼台に呼び出されて、全員でやる準備体操の号令をかけさせられ、開会宣言を発する役目を仰せつかった。
まったく体育系でなかったボクにとって、それは、気の進む役目ではなかった。しかし、それだけではなかった。午後になって行われたクラス対抗リレーで、ボクは第3走を任されることになっていた。
クラスの体育委員から「重松クン、3走ってくれん?」と声をかけられたときには、「エーッ」と声を挙げて「ムリ、ムリ」と手を振ったのだが、「生徒会長が走らんでどうするとや」と責められて、渋々、出走を決意したのだった。
問題は、その距離だ。第1~第2走は、グラウンドを半周だが、第3~第5走は1周する。半周なら100メートル走だが、1周となると、200メートルを走る。マラソンには自信があったが、短距離は苦手だ。200メートルを全力疾走というのは、経験のないチャレンジだった。
第1~第2走で、E組は後ろから2番目を走っていた。これをせめて3位、できれば2位に押し上げておかないと、格好がつかない。アンカーの柴田に3位以内でバトンが渡れば、柴田の走力なら、きっと1位になってくれるはずだ。
バトンを受けると、「よし!」と気合が入った。3位までは、ほんの2、3メートル差。いきなり、足をフル回転させた。200メートルという距離を考えると、ペース配分を工夫しないといけないところだったが、そういう計算はほとんど頭の中になかった。
バックストレートで、前を走る3位の走者と肩を並べるところまで追い上げることができた。100メートルを全力で走った足は、すでに限界近くに達していたが、ここをひと踏ん張りすれば、その前を走る2位の走者にも迫れるかもしれない。グイと3位走者の前に出ると、3コーナーの手前では、前を走る2位の背中が手を伸ばせば届く距離にまで近づいた。
しかし、近づくボクの気配に気づいた2位の男は、そこからスパートをかけた。近づいた背中が、グングン離れていく。そこから先は、ほとんど意識がなかった。何とか、次の4走にバトンを渡すと、ボクは、トラックの脇にへたり込んだ。

リレーが終わると、閉会式のために運動場に整列した。
ボクには、まだ、生徒代表として閉会を宣言する役目が残っていた。校長の挨拶が終わり、教務主任の講評が終わると、朝礼台に上がって、閉会を宣言する。頭の上では真夏の太陽がギラギラと燃えて、頭を容赦なく焼き付けている。ボクは、列の中央先頭に立って、校長たちのあいさつが終わるのを待っていた。
あいさつ、長いなぁ……。そう思って直立不動を続けているうちに、得体の知れない気持ちわるさが腹の底のほうから込み上がってくる。同時に、体がフラフラと揺らぎ始めた。
前方に整列していた教師たちの中から、ひとりだけ動き出した影があった。
白い影だった。その白い影が駆け寄って来たと思うと、フラつくボクの体を支えた。左の腕でボクの左肩を抱きかかえ、右の手で右腕をつかんで、「こっちへ」というふうに、ボクの体を列から連れ出した。
白い影と思ったのは白衣で、その白衣を着ているのがチャボだとわかった瞬間、体から一気に力が抜けていった。
グタッと力の抜けた体を、ボクは導かれるままに先生の腕に預けた。
「リレーで200メートル走ったっちゃろ? ムリして走るけん、貧血起こしたとよ」
言いながら、先生はボクの体を抱き寄せたまま、養護室へ向かう。ボクの体は、先生のフワリとした柔らかさに包まれていた。
先生にグイと引き寄せられたボクの右腕は、その柔らかさのクッションの中に沈んでいた。 それが、チャボの胸のふくらみである――とわかったとき、ボクの体じゅうの血が下腹に集まってくる気がして、ボクは余計に頭がクラッとなった。
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「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
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