緩い急行、遥かな愛〈27〉 いちばん幸せだった6日間


追憶   連載小説 
 緩やかな急行、遥かな愛
  1966~75
 「急行霧島」が運んだ
 「愛」と「時代」
  第27章 

昼間は横浜の街をブラつき、
日が暮れると電気コンロで作った
貧しい食卓を囲み、銭湯で汗を流して
ひとつ布団で体を重ねる。
そうして過ごす何日間かは、
いちばん幸せと感じる時間だった。


157 この話は連載28回目です。この話を最初から読みたい方は、こちらから、
前回から読みたい方は、こちらからどうぞ。
 ここまでのあらすじ  横浜の大学から福岡へ帰省する私は、京都の女子大から鹿児島へ帰省する上園雅子と、「急行・霧島」で同席することになった。やがて迎える政治的激動の時代への序章。列車の中で私たちは、季節労働者に違いない赤鉢巻の男と同席するが、男が岡山で下車すると、私たちの距離は、少し縮まった山陽路の暗い闇を走る間、私たちは睡魔に襲われ、夢路の中で手をつなぎ合った。聖書を片手にしながら、大学の合唱団に所属する私と昌子。しかし、ふたりのキャンパスにも、静かに政治の風が吹き始めていた。ベトナムでは米軍の北爆が激しさを増し、各地で反戦運動が起こっていた。そんな中、私が所属する合唱団は演奏旅行をやることになり、その最終日、京都で昌子たちの合唱団とジョイントすることになった。「どうせだったら、京都で一泊すれば」と言い出したのは、昌子だった。昌子が手配した宿は、K大の学生寮だった。案内した高城は、昌子をオルグしようとしている高城という男だった。寮に着くと、高城は、「こんなの見たことあるか?」と、一冊の小冊子と酒を持って部屋にやって来た。「火炎瓶は投げるか、投げないか」をめぐって、私と高城は論争し、そのうち、私は酔いつぶれた。翌朝、迎えに来た昌子は、ふたりの酒を責め、翌日の京都見物を「哲学の道」の散策に切り替えた。「愛に思想は必要か?」と問う昌子と私は、鴨川の川辺で暮れなずむ京都の街を眺めながら、唇を重ね合った。 その秋、学生デモ隊がヘルメットを被り、角材を手に機動隊とぶつかり合う事件が起こり、京大生がひとり、命を落とした。一気に「政治化」するキャンパス。そんな中、キリスト教系学生の全国大会が開かれ、リベラル派と保守派がぶつかり合った。結局、大会は何も決められないまま終わったが、クリスマスイブに、関東では集会とデモが、関西ではクリスマスキャンドルの座り込みが計画された。私と昌子は、それぞれの行動の中でおたがいの名前を祈り合った。その年の暮れ、カウントダウンのチャリティのために「霧島」に乗れないという昌子を、私は教会に尋ねた。カウントダウンのキスの相手は、昌子だった。激動の1968年の朝が明けた。教会の集会室で眠る私の布団に潜り込んできた昌子と私は、初めて、体を重ね合った。時代は、変わりつつあった。日本でも、世界でも、若者たちが行動を起こし、私たちに「おまえはどうする?」と問いかけていた。その答えを見つけられないまま、私と昌子は、走る「霧島」の中で、たがいの体を求め合った。春になると、東大と日大がストに突入し、学園紛争の季節が始まった。そんなとき、昌子が上京してきた。昌子たちが応援している神村信平たちのフォーク・ライブを開くためだという。宿は、私の部屋だった。ドブ臭い運河の匂いが漂う四畳半で体を重ね合った私と昌子。昌子は、バリケード封鎖の始まった「東大」へ行ってみたいと言い出した。党派の旗が立ち並び、支援の学生たちが詰めかけたキャンパスで、私と昌子はK大の高城やT大の野本と出会った。その翌日、横浜の街を案内した私に、昌子は「いくら残ってる?」と私の財布を気にかけ、「自炊しよう」と言い出した。段ボールを食卓代わりにした貧しい食事。しかし、そひれはふたりにとって至福の時間だった――



 「あ、秋吉さん……」

 翌日、階段下のトイレへ行こうと下りていくと、大家がドアの陰から顔を出した。

 「秋吉さんの部屋のお客さんだけどさぁ……このまま、一緒に暮らすわけじゃないでしょうね?」

 それは困るんだけど……という顔で言うので、頭をかきながら答えた。

 「いや、あと2、3日で、ボクも彼女も帰省しますから。その後は、彼女は京都のほうに戻りますんで……」
 「そう? ならいいんだけどね……いちお、うちは、複数入居はお断りなんでね。それに、うちには、年頃の息子もいることだし……」

 年頃の……?
 ああ、あの大学生の息子のことか――。しかし、それが、昌子を泊めていることとどんな関係があるのか、ボクにはよくわからなかった。

 「あんまり刺激しないでくれっていうことかなぁ。私たち、そんな大きな声、出してないよね?」

 その話をすると、昌子は、面白がって舌を出した。
 夜になると、「少し、刺激してあげようか」と、わざと「あーん」なんていう声を出すので、私はあわてて、彼女の口をふさいだ。

          クローバー

 昼間は、彼女を連れて横浜の街をぶらつき、夜になると、「きょうは、あれ作ってみようか」と、電熱コンロひとつで作った貧しい食事を、「うまい」「おいしい」とパクつき、銭湯で汗を流して、ひとつ布団で体を寄せ合って寝た。
 布団に入ると、昌子は、左足を私の脚に巻きつけ、両手を胸の前に合わせて丸くなる。私の胸にすっぽり収まるように丸まった昌子の体は、まるで森の小動物のようで、私は小さくなったその存在がたまらなく愛しくなり、両腕で抱き寄せる。
 私が抱き寄せると、胸の前で合わされた昌子の手は、恐る恐る、しかし大胆に、私の首筋に伸びてきて、私の顔を引き寄せる。
 熱い息を吐きながら、上向きに近づいてくる昌子の唇を捕らえると、昌子は、ネズミのような前歯の間からチョロリと舌を差し出して、私の舌を迎え入れ、「ハフ、ハフン…」と息をもらしながら、絡み付いてくる。
 甘い香りのする昌子の息を、私は胸の奥まで吸い込み、舌の奥から湧き出てくる唾液に自分の唾液を混ぜて、それを呑み込む。
 飽きることなくおたがいの口を吸い合っていると、絡みつく昌子の脚が深くなり、深くなった交差の奥から、昌子の腰が熱い希求を伝えてくる。
 「ねェ、ねェ……」というふうにすり寄せられてくる昌子の腰。
 その中央で、可憐に輝き、小さくヒクつき、涙をあふれさせている愛しい器官。
 その場所を確かめて、劣情に脈打つ愚かな器官をそっとあてがい、愛しさの丈を込めてそれを昌子の体の中へ、温かい粘膜の奥へ、静かに、少しずつ送り込む。

 昌子によって初めて知ることになった、皮膚と粘膜のこすれ合う感覚。
 ただ硬いだけの私の筋肉の膨張が、やわらかなクッションにくるまれ、やさしく圧迫されていく感覚。
 そして、そのときに昌子の口からもらされる「あっ……」という小さな叫びと、その後に「ンフーッ……」と続く、甘い息がもらされる音。
 何度かの接合を経て、すっかりなじんでしまったそれらのすべてが、私にとっては、この地上の何よりも貴重なものに思えた。
 ふたりの器官がすっかりつながってしまったことを確認すると、私は、機関車のピストンのリズムで、腰をゆっくりと彼女の中に送り込む。
 私が突き進むたびに、彼女の体は、布団の上部にずり上がっていく。
 布団をはみ出してずり上がる彼女の頭は、最後には、狭い四畳半の壁に行き当たり、もはや逃れようがなくなって、歓喜の階段を上りつめる。

 「ア・キ・く・ん……ス・キ……」

 言いながら、彼女の両手は私の尻に食い込む。
 食い込ませた両手で私の腰を引き寄せるようにしながら、昌子は、全身をブルッブルッと震わせ、そして、ゆっくり溶けていく――。

 繰り返すたびに、私たちはおたがいの体への理解を深めた。
 肌は肌になじみ、あれはそれにフィットし、上っていく快感はおたがいのマックスを知り、放射は収縮の、収縮は放射のタイミングを知って、たがいの「いちばんいい時間」を合わせられるようになっていった。
 私たちは、そうして、ふたりがもはや離れがたい存在であることを確認した――。

          クローバー

 結局、私と昌子は、横浜で6日間を一緒に過ごして、「霧島」に乗った。
 わずか6日間ではあったものの、私と昌子にとっては、それは「プチ同棲」のようなものだった。
 もし、おたがいの事情が許すなら、私たちはそのまま、同棲生活へと突入したことだろう。
 しかし、京都と横浜という距離は、夏休みが明けると、私たちの日々を否応なく引き離してしまう。
 「あ~あ」と、「霧島」の車窓から遠ざかる横浜の街並みを見ながら、昌子がため息をついた。

 「私に、もう少し、勇気があったらなぁ……」
 「キミは、十分に勇気があるよ」
 「そういう勇気じゃなくて……」

 言いながら、窓の外のゴミゴミとした横浜の街並みに向かって手を振り、「さよなら、ヨコハマ」と、小さくつぶやいた。

 「親の期待を裏切る勇気、学校を中退する勇気、周りじゅうから非難されてもかまわない、と思う勇気……」
 「ボクにもないかもしれないなぁ、そういう勇気は」
 「もし、勇気があったらどうする?」
 「京都に移住して、キミと一緒に暮らす」
 「ダメ。私が横浜に移住する。そして、私は、あなたがしようとすることの、いちばんの理解者になり、協力者になる。男の人には、そういう存在でいてほしいの」

 そう言って、昌子は私の手に自分の手を重ねた。
 昌子が、「ついていきたい」と思う男でいること。
 はるかな九州に向かって驀進する急行「霧島」の車中で、私は小さな決意を固めた。
激動の秋を迎える前の夏休み。
 私たちの、いちばん幸せな時間が、時速100キロで過ぎ去っていった……。
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