自伝的創愛記〈25〉 友を見捨てた15秒

Vol.25
中学に上がり、小学校の友人たちとは離れ離れになった。大介だけはたまに会っていたが、その友人をボクは見捨ててしまった――。
4月になると、ボクは頭を丸め、詰襟の学生服に腕を通した。
ボクが通う中学は、日本では珍しい円形校舎が特徴の中学で、円の中央を貫く螺旋階段を中心に、1Fが1年、2Fが2年、3Fが3年。それぞれのフロアは5角形の教室に区切られて、各学年がA~Eの5クラスに編成されていた。
その中学校へは、同じ学区内の2つの小学校から、生徒が集まって来ていた。2校は本校と分校の関係にあって、ボクたちの学校は分校の立場だったので、人数は、5対3の比率で本校出身者のほうが多かった。各クラスの編成もその比率で構成されていたので、分校出身のボクには、すぐには親しい友だちができなかった。
その間、よく会っていたのが、私立の受験校に進学した手嶋大介だった。
大介とボクは、小学校時代の青田学級では、クラスで1、2番を争うライバル関係にあった。学業の成績だけではない。たとえば、演劇のキャスティングでも、大介に与えられるのは、だいたい、二枚目の主役。ボクはと言うと、その敵役であったり、主人公を補佐する長老や師匠という役どころであることが多かった。
どうして、いつもこうなんだ――と、悔しい思いを抱えながらも、ボクたちは、小学校での1年半を、「仲のいい友だち」のように過ごした。
中学に通うようになっても、大介はたまにボクの家を訪ねて来たりした。
その日も、家にやって来た大介を、門を開けて中に迎え入れようとしたその時だった――。
ボクが通う中学は、日本では珍しい円形校舎が特徴の中学で、円の中央を貫く螺旋階段を中心に、1Fが1年、2Fが2年、3Fが3年。それぞれのフロアは5角形の教室に区切られて、各学年がA~Eの5クラスに編成されていた。
その中学校へは、同じ学区内の2つの小学校から、生徒が集まって来ていた。2校は本校と分校の関係にあって、ボクたちの学校は分校の立場だったので、人数は、5対3の比率で本校出身者のほうが多かった。各クラスの編成もその比率で構成されていたので、分校出身のボクには、すぐには親しい友だちができなかった。
その間、よく会っていたのが、私立の受験校に進学した手嶋大介だった。
大介とボクは、小学校時代の青田学級では、クラスで1、2番を争うライバル関係にあった。学業の成績だけではない。たとえば、演劇のキャスティングでも、大介に与えられるのは、だいたい、二枚目の主役。ボクはと言うと、その敵役であったり、主人公を補佐する長老や師匠という役どころであることが多かった。
どうして、いつもこうなんだ――と、悔しい思いを抱えながらも、ボクたちは、小学校での1年半を、「仲のいい友だち」のように過ごした。
中学に通うようになっても、大介はたまにボクの家を訪ねて来たりした。
その日も、家にやって来た大介を、門を開けて中に迎え入れようとしたその時だった――。

「オイ、おまえ、ちょっと、顔貸してくれや」
たぶん、同じ中学の、1学年かそこら上の男だ。
何か文句でもあるんだろうか?
ボクが「何ですか?」と出て行こうとすると、男は「おまえやない」と首を振った。
「そっちの背の高いほうや。ちょっと来いや」
大介に何の用がある? もしかして、大介の家の近所のやつか? 訳がわからないので、一緒について行こうとしたのだが、男に「おまえはよか」と止められて、足が止まった。
一瞬、迷った。時間にして10秒とか15秒という時間だったと思う。
「うちに来た客に何の用があるとや?」
そうだ、そう訊けばよかったんだ――と、冷静になると思いついたが、瞬間的には頭に浮かばなかった。
大介は男の後に従って、路地の奥に歩いていく。
大した用でなければ、すぐに戻ってくるだろうと、ボクは家の中で待つことにした。
10分経った。そして、20分が経った。
遅い。不意に不安がボクの胸を襲った。
もしかして、大介は、M学院の学帽を被ってなかったか?
ボクは、いやな予感がして、玄関から飛び出した。
男が大介を連れて行った路地の奥に向かって走ったが、どこにもふたりの姿が見当たらない。脇道の一本、一本をのぞき、もしや……と空き地ものぞいて回ったが、やはり、どこにも姿はなかった。
結局、その日、大介は戻って来なかった。

その中学校の学区内には、不良グループが多かった。
給食費を納める日には、登校する生徒を不良たちが待ち受けて、給食費を巻き上げる、ということも、しょっちゅう起こっていた。学区内に他校の制服を着た生徒が紛れ込むと、因縁をつけては暴力をふるったり、金品をカツアゲしたりもしていた。
大介に声をかけてきたヤツは、そんな不良には見えなかったが、大介たちの通うM学院は、私立の受験校で、その制服も、上着の袖崎に2本の白い線が入るなど、少し目立つ服だったので、目をつけられやすい存在ではあった。
そのことが頭にあったら、あのとき、「おまえは来るな」と言われても、ついて行くべきではなかったか。
大介は大丈夫だっただろうか?
一度、家を訪ねてみたが、「大介は会いたくないて言い寄るけん」と、母親に面会を断られてしまった。
やっぱり、あのとき、大介の身には、何らかの屈辱が加えられたのに違いない。何が起こったのかは、いまとなっては知る由もない。
しかし、大介の中では、ボクは、「友だちを見捨てた男」として記憶されているに違いない。
以後、ボクと大介が会うことは、二度となかった。
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クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
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