緩い急行、遥かな愛〈序〉 旅の格差と重さ

緩い急行、遥かな愛
1966~1975
「急行霧島」が運んだ
「愛」と「時代」 プロローグ
「急行霧島」は、東京-博多間を
21時間30分かけて結んでいた。
横浜から福岡まで帰る私と
京都から鹿児島まで帰る彼女は、
その車内で偶然に同席となり、
時代への思いを交換し合った――。
21時間30分かけて結んでいた。
横浜から福岡まで帰る私と
京都から鹿児島まで帰る彼女は、
その車内で偶然に同席となり、
時代への思いを交換し合った――。
午前11時、東京駅発。
博多着、翌日午前8時30分。
東京発→西鹿児島行き急行「霧島」は、当時、東京-博多間を21時間30分で結んでいた。
すでに東海道新幹線は東京-新大阪間が開通していたが、新幹線→在来線の乗り継ぎだと運賃が高くついてしまう。裕福な家庭の子弟になると、九州―東京の往来に飛行機を使い始めたりもしていたが、貧乏学生だった私は、郷里への帰省には、だいたい、この「霧島」を使っていた。
「急行」なら、500円の急行券1枚を購入するだけで、後は運賃だけで郷里にたどり着ける。運賃+急行券で、およそ2800円程度の旅だった。
帰省に飛行機を使うのIはブルジョワジー、特急や新幹線を使うのはプチ・ブルジョワジー、急行や各駅停車を使うのは、プロレタリアート。旅の姿は、所属する階級によって、見事に分かれていた。地方のしがないサラリーマンの子弟であった私は、プロレタリアートの指定席である急行列車の二等普通座席に腰を下ろすのが「分相応」と、自分で自分に言い聞かせていた。
まだ、「ブルトレ」などという言葉が存在しなかった時代である。
車体の色も、ブルーではなく、あずき色だったと記憶している。
その2等普通車の硬いボックス席に、21時間以上も座り続けるというのは、肉体的にはあまり楽ではない。尻が痛くなり、最後には腿からでん部にかけての筋肉がつりそうになることもある。楽ではないが、それが「旅」というものの「重さ」だ――と、まだ若かった私の魂は思い、その重さに耐えるのも青春だろうと、どこかで自分を説得してもいた。
博多着、翌日午前8時30分。
東京発→西鹿児島行き急行「霧島」は、当時、東京-博多間を21時間30分で結んでいた。
すでに東海道新幹線は東京-新大阪間が開通していたが、新幹線→在来線の乗り継ぎだと運賃が高くついてしまう。裕福な家庭の子弟になると、九州―東京の往来に飛行機を使い始めたりもしていたが、貧乏学生だった私は、郷里への帰省には、だいたい、この「霧島」を使っていた。
「急行」なら、500円の急行券1枚を購入するだけで、後は運賃だけで郷里にたどり着ける。運賃+急行券で、およそ2800円程度の旅だった。
帰省に飛行機を使うのIはブルジョワジー、特急や新幹線を使うのはプチ・ブルジョワジー、急行や各駅停車を使うのは、プロレタリアート。旅の姿は、所属する階級によって、見事に分かれていた。地方のしがないサラリーマンの子弟であった私は、プロレタリアートの指定席である急行列車の二等普通座席に腰を下ろすのが「分相応」と、自分で自分に言い聞かせていた。
まだ、「ブルトレ」などという言葉が存在しなかった時代である。
車体の色も、ブルーではなく、あずき色だったと記憶している。
その2等普通車の硬いボックス席に、21時間以上も座り続けるというのは、肉体的にはあまり楽ではない。尻が痛くなり、最後には腿からでん部にかけての筋肉がつりそうになることもある。楽ではないが、それが「旅」というものの「重さ」だ――と、まだ若かった私の魂は思い、その重さに耐えるのも青春だろうと、どこかで自分を説得してもいた。

私の通う大学は横浜にあった。
南区の小高い丘の上に建てられた、かつては白亜だったというどっしりした本館と、研究棟、平屋の大教室とプレハブの校舎から成るシンプルなキャンパスに、私が所属する経済学部・経営学部と教育学部が同居し、そこから駅2つ離れた場所に工学部があった。
いわゆるたこ足大学だったが、私が入学したときには、4つの学部を統合して移転しようという計画が持ち上がり、統合移転に反対する学生自治会と大学当局の間で学園紛争が始まっていた。
その頃の国立大学は、旧7帝大を中心にする「1期校」と、旧高等商業や高等工業、高等師範などを中心にした「2期校」に分かれていた。入試時期も異なるので、国立大学を目指す受験生は、「1期校」を「第1志望」に選び、その滑り止めに「2期校」を選んだ。その逆もないわけではなかったが、私が入学することになった横浜のその大学は、東京の第1志望校の入試に失敗して、滑り止めで入学して来る者が、7~8割を占める「2期校の雄」として知られていた。
しかし、「雄」ではあっても、そのビジュアルは暗かった。集まってくる学生たちの顔も、あまり「華やか」に輝いてはいなかった。
私が19歳からの4年間を過ごすことになった横浜でのキャンパス・ライフは、その「挫折感」から始まる4年間でもあった。
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「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
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クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
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ある日、その秘密を知った??。
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