父と娘の幻夢〈13〉 レター・フロム・USA

もの想い 妄夢草紙 
 第9話  父と娘の幻夢  13 

      R18 
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。


美遊の行方が知れないまま、
3つの秋が過ぎ、4つ目の秋が
やって来た。そんなある日、一通の
封書が届いた。差出人は「Myu」。
美遊からだった—―。


この話は連載13回目です。この話を最初から読みたい方は、⇒こちらから、前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 「きょうのお通し、私が作ったんですよ」。お盆を抱えてニッコリほほ笑む顔を「かわいい」と思った。名前を佐藤美遊。私がランチを食べに通う居酒屋「鉄太郎」のアルバイト店員だった。その顔を見たくて、昼飯は「鉄太郎」と決めた私。ある日、食事しながら、ジャズのナイト・クルージングのチラシを見ていると、彼女がそれに興味を示してきた。「ジャズが好き」と言う彼女を私は、横浜でのクルージングに誘った。「きょうは若いお嬢さんとご一緒で?」と冷やかすベースの前原に、「へへ、隠し子です」とふざける美遊。しかし、彼女が発した「隠し子」という言葉は、私の中で、具体的なイメージとともにふくらみ始めた。かつて、私が会社を辞めるときに、一度だけ愛し合ったことのある桂山美佐子。美遊の顔には、その面影が宿っていた。横浜からの帰り、美遊は「これからも会ってくれますか? お父さんのように」と言う。私と美遊は、それからも度々、逢瀬を重ねた。娘のように甘える美遊が「やってみたかったことがある」と言う。それは、「父親の背中を流してあげること」。私は、その願いを叶えてあげることにした。しかし、それは「危ない遊び」につながった。「キミの部屋が見たい」と彼女のアパートを訪ねた私は、そこに飾られた写真に目が釘付けになった。母と娘らしきツーショット。母親と思われる女は、桂山美佐子だった。「どうして母の名前を知っているの?」と問い詰めてくる美憂に、私は、かつて美佐子に寄せていた思慕を打ち明けた。美憂は、私の目をまっすぐに見つめて訊いた。「母とセックスしたの?」。私はコクリとうなずいた。その2日後、美遊は、「鉄太郎」でのバイトを辞め、大学を退学し、アパートを引き払って、私の前から忽然と姿を消した。行方を求めて訪ねた大学の「ジャズ研」の部室で、ひとりの男が、私を呼び止めた。中川と名乗るその男が口にしたのは、美遊からの頼まれごとのことだった。その頼まれ事とは「DNA鑑定」。その結果は、彼女に退学を決意させ、姿を消すことを決意させるようなものだった――



 あれは、知らなければよかった事実なのかもしれない――と、いまでも思うことがある。
 美遊にとっては、どうだったのか?
 もし、どちらもそのことを知らないでいたら、私たちは、「父と娘」のような恋人同士として、いまでも仲よく手をつないで、この街のあちこちを、飲んだり、食べたり、買い物をしたり、ときにはライブハウスに顔を出したりしてブラつき、どこかの街角で身を寄せ合うようにして熱い唇を重ね合っていただろうか?
 もし、知らないでいたら……。

 もし、私たちに罪があるとしたら、それは、それを知らないでいたことか?
 それとも、知ってしまったことか?
 違う、と私は思った。
 知ってしまったことによって、「知らないでいたこと」が罪になってしまったのだ。
 美遊にとっても、それは同じだろう。
 わずか数ヶ月の間、私と美遊が交し合った甘美な言葉も、一緒に過ごした美しく濃密な時間も、その事実を知ったがゆえに、唾棄すべき言葉となり、消し去ってしまいたい時間となった。

 もし、そんなことが何もなかったら……と、私は別の可能性について考えてもみる。
 私たちは、「父と娘」としておたがいを発見し、驚き、戸惑いながらも、やがては、ごくありふれた「親子」の情愛を交わすようになっていったのだろうか?
 「娘」を「女」として意識することもなく、「父」を「男」として意識することもないままに……。
 しかし、その仮定には、答えを見つけることができない。
 愛しいと思い、知らず知らず惹かれ合っていったそのプロセスを「0」に戻して、仮定のストーリーを組み立てることなど、私にはできなかった。

 美遊の行方については、私には、調べる手立てがなかった。
 中川と名乗った男の話によれば、美遊はもう、日本にいないことになる。
 アパートの家具を「全部、処分して」と言い残して部屋を出た――ということは、どこかに転居する意思もなかった、ということだ。
 どこに行った、美遊?
 その問いは、風に問うしかない。
 そして、風は、何も答えなかった――。

       

 それから3度の秋が行き、3度の春が来て、4度目の秋がきた。
 私の人生にも、そろそろ晩秋の風が吹き始めた……と感じ始めた、そんな季節だった。
 ポストに見慣れない郵便物が届いていた。
 私たちの間でも、通常の私信のやり取りは、メールが当たり前という時代になりつつあった。ポストに封書入りの私信が届くということ自体が、珍しいことだった。
 封筒は、薄茶色のエアメール便だった。
 あて先は、「Mr.Hideo Sugimura」となっている。
 差出人の名前を見て、「ハッ」となった。

 「Myu  Barlington

 ファミリー・ネームには見覚えがなかった。
 しかし、「Myu」は、「ミユ」と読めた。美遊からだ――と、一瞬でわかった。
 部屋に入るとすぐに、封を開けた。
 中からパラリと数枚の写真がこぼれ落ちた。
 どこかの森林のように見えた。その森林の、何かの木の幹に寄りかかって肩を寄せ合う男女のポートレート。背の高い、栗色の髪の男は、頬からあごにかけて見事なヒゲをたくわえている。
 ふたりはそれぞれの手にブリキのマグカップを持ち、そのカップをカチンと合わせるようなポーズをとって、カメラに向かってほほえみかけている。
 男の腕は、抱き寄せるように女の肩に回され、女はその肩にもたれかかるように頬を寄せている。
 男が着込んだ厚手のチェックのシャツは、ひじのあたりまで捲り上げられ、その上から羽織ったベストには、何かワッペンのようなものが付いている。女もおそろいのシャツにベストという姿で、その胸にも、同じ形のワッペンが付いている。
 忘れようにも忘れられない顔だった。
 女の顔を特徴づけているワシ形の鼻と、その上で大きく輝く2つの目。
 少したくましくなったように見えるが、間違いない。美遊だった。
 生きていた――。
 まず、そう思った。
 その笑顔が知らせてようとしているメッセージに、胸が熱くなった。
 「私は、ホラ、こんなに元気で、いまは幸せだよ」
 カメラに向かってほほえみかけている美遊が、私にそう語りかけているように見えた。
 私は、大きく息を吸い、その息をゆっくり吐き出してから、4つに折り畳まれた便箋を開いた。

あれから、何回、陽が沈み、昇ったか――もう、わからなくなりました。
たぶん、1000回以上……かな。
もう、陽なんか昇らなければいいのに……と思ったこともありました。
でも、安心してください。
いまは、昇ってくる陽が、愛しくてたまりません。陽が暖めてくれる空気を吸えることがありがたい――と、心から感じられるようになりました。
杉村さん、いえ、お父さん、元気でお過ごしですか?
元気であることを信じて、そして、この便りがお手元に届くことを信じて、手紙をしたためています。

いっぱい、謝らなくてはいけないことがあります。
まず、何も言わずにあなたの元を去ったことです。
でも、わかってください。あのまま、あなたと会っていたら、私は自分を壊すしかありませんでした。自分を壊すことで、あなたも壊してしまうことになるだろうと思いました。
何も言えなかった。何も言わないまま、ああするしかなかったのです。

もうひとつは、あなたに無断で、私たちの封印された過去を掘り起こしてしまったことです。
その結果、知ってはいけない秘密を知ってしまいました。とても、科学的に……。
もう、おそらくお気づきだろうと思います。
あなたは、私が長い間、捜し求めていたその人でした。
「お父さ~ん」と叫んで、その胸に飛び込みたい――と願っていたその人でした。

神様は、なんてイジワルなんでしょう。
どうして、私たちがあんなふうになる前に、その事実を私たちに教えてくれなかったのでしょう?
どうして、その前に、私にあなたを愛させてしまったのでしょう?
私たちが取り返しのつかない罪を犯してしまうその前に、なぜ……?
私は、その罪の恐れ多いことにおののき、しばらくは人に会うことさえイヤと感じるような、そんな生活を送っていました。

でも、お父さん、私は気づきました。
いえ、気づかせてもらったのです、トミーに。
トミーというのは、同封した写真に写っている人で、いまでは私の夫になっている人です。ええ、結婚したんですよ、私。
ね、健全でしょ、お父さん。
苦しんで、苦しんで、彼にすべてを打ち明けたとき、トミーが言ってくれたんです。
「心が汚されていなければ、どんな罪も救われるよ」って。
「キミのお父さんの心にも、キミ自身の心にも、愛しかなかったんだろ? そんな心を罰する神様なんて、どこにもいないよ」って。
いい人でしょ、トミー。
初めて会った頃の杉村さんみたいに、大きくて寛容な心を持った人。だから、選んだんです、彼を。

私のおなかには、いま、小さな命が宿っています。
トミーと私の子どもです。
トミーは言ってくれてます。
「いつか、この子を、おじいちゃんに会わせてあげなくちゃね」って。
私も、そう思ってます。
丈夫な赤ちゃんが生まれて、ひとりで歩けるくらいになったら、その子を連れて、日本に行こう――と、トミーは言ってくれてます。
それまで、元気でいてくださいね。
私、今度は、ほんとに、心から言いたいんだから。
「お父さん」って。

あなたの娘・美遊より

 何度も何度も読み返して、それからそっと手紙を元通りに折り畳み、ていねいに封筒に戻して、デスクの引き出しにしまった。
 テーブルの上のふたりの写真を一枚選び出して、フォトフレームに入れ、ラックの上段に立てかけた。
 私に向かってほほえみかけているようなふたりの姿が、私の中の何かを洗い流してくれるような気がした。
 あれ……と、思った。
 写真の中の、美遊の胸元。そこで輝いている小さな光。それは、かつて美佐子の胸元で輝いていた、小さな十字のペンダントだった。

 第9話『父と娘の幻夢』これにて《完》です。
  最後までお読みくださり、ありがとうございました。



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