父と娘の幻夢〈12〉 赤い靴、履いた

もの想い 妄夢草紙 
 第9話  父と娘の幻夢  12 

      R18 
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。


実は、美遊に頼まれたことがある。
私を呼び止めた中川という男が
口にしたのはDNA鑑定だった。
その結果は美遊に退学を決意させ、
姿を消す決意させるものだった。


この話は連載12回目です。この話を最初から読みたい方は、⇒こちらから、前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 「きょうのお通し、私が作ったんですよ」。お盆を抱えてニッコリほほ笑む顔を「かわいい」と思った。名前を佐藤美遊。私がランチを食べに通う居酒屋「鉄太郎」のアルバイト店員だった。その顔を見たくて、昼飯は「鉄太郎」と決めた私。ある日、食事しながら、ジャズのナイト・クルージングのチラシを見ていると、彼女がそれに興味を示してきた。「ジャズが好き」と言う彼女を私は、横浜でのクルージングに誘った。「きょうは若いお嬢さんとご一緒で?」と冷やかすベースの前原に、「へへ、隠し子です」とふざける美遊。しかし、彼女が発した「隠し子」という言葉は、私の中で、具体的なイメージとともにふくらみ始めた。かつて、私が会社を辞めるときに、一度だけ愛し合ったことのある桂山美佐子。美遊の顔には、その面影が宿っていた。横浜からの帰り、美遊は「これからも会ってくれますか? お父さんのように」と言う。私と美遊は、それからも度々、逢瀬を重ねた。娘のように甘える美遊が「やってみたかったことがある」と言う。それは、「父親の背中を流してあげること」。私は、その願いを叶えてあげることにした。しかし、それは「危ない遊び」につながった。「キミの部屋が見たい」と彼女のアパートを訪ねた私は、そこに飾られた写真に目が釘付けになった。母と娘らしきツーショット。母親と思われる女は、桂山美佐子だった。「どうして母の名前を知っているの?」と問い詰めてくる美憂に、私は、かつて美佐子に寄せていた思慕を打ち明けた。美憂は、私の目をまっすぐに見つめて訊いた。「母とセックスしたの?」。私はコクリとうなずいた。その2日後、美遊は、「鉄太郎」でのバイトを辞め、大学を退学し、アパートを引き払って、私の前から忽然と姿を消した。行方を求めて訪ねた大学の「ジャズ研」の部室で、ひとりの男が、私を呼び止めた――


 「杉村さん……って言いました? ちょっといいですか?」
 男は、ドアの外へ出てくると、部室のドアを閉め、私の先に立って廊下を歩き始めた。
 なんだろう、この男……?
 私に、「美遊がいなくなったのは、おまえのせいだ」とでも難癖をつけるつもりか……?
 不安に思いながら男の後についていくと、男はエレベーターに乗り、そのまま1階まで下りて、ビルを出て行く。
 通りをわたって、男は、さっき私が後にしたばかりのキャンパスの中庭へと入っていき、イチョウの木陰に据えられたベンチに、「ここでいいですか?」と言って腰を下ろした。
 「あ、ボクは、中川って言います。美遊とは、飲み友だちつーか、ま、いちお先輩なんで、いろいろ相談とかにも乗ってました。『鉄太郎』のバイト、紹介したのも、ボクなんすよ。あ、杉村さん、なんか、飲みますか?」
 「そ、そうですね」
 私は、ポケットから500円硬貨を取り出し、「じゃ、これで」と男の手に渡して、「私は缶コーヒーを」と頼んだ。
 私と中川と名乗った男は、それぞれの缶飲料を口にしながら、しばらく、中庭の光景を見つめていた。
 「杉村さんのことは、美遊から聞いてました」
 「怖いな……」
 「ジャズ・クルーズで、ロイヤル・ウイングに乗ったのよ……なんて、うれしそうに言ってました」
 「うれしそうに……? それだけですか?」
 「いろいろ言ってましたよ。探していた人に会ったような気がする……とか」
 「探していた人……ですか?」
 「ご存じでしょ? 彼女が父親を探していたこと」
 「ええ。私は、その役目を期待されているのだと感じていました」
 「実は、ボク、美遊クンから頼まれたことがあるんです」
 そこで男は口をつぐんだ。
 言おうかどうしようか、迷っているようだった。
 その沈黙が永遠に続きそうだ――と感じられたとき、男の口が静かに開いた。

           

 「ボクの専門は、法医学なんですよ」
 「あなた、医学部だったんですか?」
 「いや、ここには医学部はありません。しかし、医学にも応用可能な理学的研究はやっていて、私の専門は、その中でもDNAなんです」
 「DNA」という言葉を耳にしたとたん、私の心臓は早鐘を打ち始めた。
 その言葉には、開いて見てはいけない秘密が隠されているような気がした。
 しかし、開いたのだ、美遊はそれを――。
 「美遊がボクに頼んできたのは、親子鑑定でした」
 「だれとだれの……?」
 「検体のひとつは、美遊の口腔内粘膜でした。もうひとつは、毛髪でしたが、それがだれのものであるかは、本人の了解がない限り、明かせないんです。しかし、ひとつだけ言えることは、彼女が毛髪を手に入れることのできる人物、ということです」
 そうだ――と思いだした。
 美遊の部屋でベッドをギシギシ言わせながら体を重ね合ったとき、美遊は私の頭に回した手で、髪の毛を激しくつかんで果てたのだった。
 たぶん、私の毛髪の何本かは、彼女の手で毛根ごとむしり取られたに違いない。
 「それで……?」と私は尋ねた。
 「その結果は……?」
 「それについても、ボクの口からは言えません。依頼者本人にしか明かしてはいけない。それが、ボクたちの倫理ですから。しかし……」
 「しかし……? しかし、何なんですか?」
 私は思わず、男の腕をつかんでいた。つかんだ腕を激しく揺すった。
 男は、まいったなぁ……というふうに眉をしかめ、それから力なく、首を二度、三度と振った。
 「その結果は、彼女に大学を辞めることを決意させ、杉村さんでしたっけ、あなたの前から姿を消すことを決意せざるを得ないようなものだった――ということです」
 「オーッ」と、私は思わず声を挙げた。
 フラリ……とベンチを立ち上がった私を、「杉村さん」と男が呼び止めた。しかし、その声は、私の耳に届かない。近くに立っているイチョウの木のゴツゴツとした幹に、額をガンとぶつけた。
 何ということだ。何という皮肉で過酷な運命だ。
 その可能性に、最初に思い至っていれば、きっと、私たちは……。
 それを思うと、無念で仕方がなかった。
 あの「ロイヤル・ウイング」の上で、美遊に尋ねようとした質問を、「もしかしてキミのお母さんは、佳山美佐子というんじゃない?」というあの質問を、あのときしていれば……。
 後悔が、次から次に湧いてきた。
 その後悔を、私はイチョウの幹にぶつけた。
 ゴツン、ゴツン、ゴツン……とぶつけた。額から、生温かいものが流れ出て、私の頬を伝った。
 「杉村さん、止めてくださいよ」
 男が立ち上がって、私の体を羽交い絞めにした。

            

 男は、私をベンチに座らせると、「血、出てますよ」とポケット・ティッシュを差し出した。
 血は、後から後から噴いて出て、渡されたティッシュを次々に朱に染めていく。
 近くを通る学生たちが、「どうしたんだ?」というふうに、ベンチの私たちをのぞき込んでいく。「医務室に連れていったほうがいいんじゃないか」と声をかけてくる学生もいたが、中川は「いや、大丈夫」と、彼らの心配を追い払った。
 通りがかった女子学生が、「これ、使って」と差し出したバンド・エイドを開いた傷口に貼って、やっと、流血は治まった。
 私は、頭から血を流して学園のベンチに腰かけているヘンなおじさんだった。
 その場の風景にはどう見てもなじまない、奇妙な中年男。学生たちの目にはそう映っているに違いない。
 「あの子は……」と、やっと私は口を開いた。
 「美遊は、どこに行ってしまったんでしょう? あなた……何も聞いていませんか?」
 男は、力なく首を振った。
 「ボクらも、何も聞いてないんです。ただ……」と、男は視線をビルの向こうの東の空へ向けた。
 「もう、日本にはいないような気がします」
 「外国へ行くようなこと、言ってましたか?」
 「ハッキリとは言いませんでした。でも、だれも知らないところへ行きたい……と。人生をもう一度、0から始めたい……と。そんなことを言ってました」
 「赤い靴……」
 「エッ……?」
 「赤い靴、履いたんです、あの子……」
 男がポカンとした顔で、私を見つめていた。
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