父と娘の幻夢〈11〉 悲しき失踪

第9話 父と娘の幻夢 11
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
自分の母親とセックスした男。
それを知った途端、美遊は姿を
消した。その行方を探そうと、
彼女のキャンパスを訪ねた私は
ジャズ研の部室で——。

ここまでのあらすじ 「きょうのお通し、私が作ったんですよ」。お盆を抱えてニッコリほほ笑む顔を「かわいい」と思った。名前を佐藤美遊。私がランチを食べに通う居酒屋「鉄太郎」のアルバイト店員だった。その顔を見たくて、昼飯は「鉄太郎」と決めた私。ある日、食事しながら、ジャズのナイト・クルージングのチラシを見ていると、彼女がそれに興味を示してきた。「ジャズが好き」と言う彼女を私は、横浜でのクルージングに誘った。「きょうは若いお嬢さんとご一緒で?」と冷やかすベースの前原に、「へへ、隠し子です」とふざける美遊。しかし、彼女が発した「隠し子」という言葉は、私の中で、具体的なイメージとともにふくらみ始めた。かつて、私が会社を辞めるときに、一度だけ愛し合ったことのある桂山美佐子。美遊の顔には、その面影が宿っていた。横浜からの帰り、美遊は「これからも会ってくれますか? お父さんのように」と言う。私と美遊は、それからも度々、逢瀬を重ねた。娘のように甘える美遊が「やってみたかったことがある」と言う。それは、「父親の背中を流してあげること」。私は、その願いを叶えてあげることにした。しかし、それは「危ない遊び」につながった。「キミの部屋が見たい」と彼女のアパートを訪ねた私は、そこに飾られた写真に目が釘付けになった。母と娘らしきツーショット。母親と思われる女は、桂山美佐子だった。「どうして母の名前を知っているの?」と問い詰めてくる美憂に、私は、かつて美佐子に寄せていた思慕を打ち明けた。美憂は、私の目をまっすぐに見つめて訊いた。「母とセックスしたの?」。私はコクリとうなずいた――
母親とセックスした男と寝てしまった――という事実を、美遊はその胸の内で、どう受け止めたのか?
そして、私は、どう自分の気持ちに決着をつければいいのか?
そのことを考えると、「鉄太郎」に向かおうとする足が、少し重くなった。
考える時間がほしい。
2日、3日……そして4日。私は、「鉄太郎」でのランチを控えた。
かつて一度だけ、肌を合わせた女、佳山美佐子。
いま、目の前に現れたその女の娘だという女。
もし、美佐子が生きているのなら、どうしても、その胸に問わなくてはならないことがある。いますぐにでも、彼女の元に飛んでいくだろう。
しかし、その人はもう、この世にいない。
その問いは、永久に答えを封印されたままなのか?
いや、ひとつだけ方法がある。
その方法をとるためには、美遊の協力が必要になる。そして、どんな結果になろうとも、その結果を引き受ける覚悟が、私にも、そして美遊にも必要になる。
その覚悟を決めるのに、時間が必要だった。
その間は、美遊と連絡をとることも控えようと思った。

美遊の部屋を訪ねてから、10日が経過して、私は久しぶりに「鉄太郎」に顔を出した。
すぐに美遊の姿を探した。
しかし、いなかった。
私の手元にドンとお茶とおしぼりを出したのは、色の浅黒い、日本語もたどたどしい女だった。
「ミユちゃん? 辞めちゃったのよ」
私がキョロキョロと店内を見回しているのを見て、女将が声をかけてきた。
「エッ!? いつ?」
「先週の金曜日、突然なのよォ。いい子だと思ったのに、最近の若い子にも困ったものよねェ」
美遊は、「最近の若い子」でくくれるような女の子じゃない。
先週の金曜日というと、私が美遊の部屋を訪ねた2日後だ。
彼女の母親と私のことが原因になっているとしか考えられない。
「何か言ってた?」
「何か……って?」
「辞める理由を、何か言ってなかった?」
「大学のゼミの研修で、突然、海外に行かなくちゃならなくなったとか言ってたけど、どうなんだかねェ」
「そ、そう……?」
「ミユちゃんに気があったんでしょ? もしかして、何かあったの、あの子と……?」
「まさかぁ……。そうか、海外かぁ……」
私は、突然、横浜で美遊がもらした言葉を思い出した。
蚕糸会館の前で「赤い靴」の話をしたときのことだ。
「私も行ってしまおっかなぁ。赤い靴、履いて。もしかしたら、私のお父さん、海の向こうにいるのかもしれないし……なんてね。ときどき、そんなこと思うの」
「海の向こうに」は、ひょっとしたら、「そうであってほしい」という彼女の願望ではなかったのか……。
そういう話にしておきたかったのではないか。
しかし、そうではない可能性に気づいたから、彼女は――。
私は、食べかけたランチを残したまま、店を飛び出した。
そして、私は、どう自分の気持ちに決着をつければいいのか?
そのことを考えると、「鉄太郎」に向かおうとする足が、少し重くなった。
考える時間がほしい。
2日、3日……そして4日。私は、「鉄太郎」でのランチを控えた。
かつて一度だけ、肌を合わせた女、佳山美佐子。
いま、目の前に現れたその女の娘だという女。
もし、美佐子が生きているのなら、どうしても、その胸に問わなくてはならないことがある。いますぐにでも、彼女の元に飛んでいくだろう。
しかし、その人はもう、この世にいない。
その問いは、永久に答えを封印されたままなのか?
いや、ひとつだけ方法がある。
その方法をとるためには、美遊の協力が必要になる。そして、どんな結果になろうとも、その結果を引き受ける覚悟が、私にも、そして美遊にも必要になる。
その覚悟を決めるのに、時間が必要だった。
その間は、美遊と連絡をとることも控えようと思った。

美遊の部屋を訪ねてから、10日が経過して、私は久しぶりに「鉄太郎」に顔を出した。
すぐに美遊の姿を探した。
しかし、いなかった。
私の手元にドンとお茶とおしぼりを出したのは、色の浅黒い、日本語もたどたどしい女だった。
「ミユちゃん? 辞めちゃったのよ」
私がキョロキョロと店内を見回しているのを見て、女将が声をかけてきた。
「エッ!? いつ?」
「先週の金曜日、突然なのよォ。いい子だと思ったのに、最近の若い子にも困ったものよねェ」
美遊は、「最近の若い子」でくくれるような女の子じゃない。
先週の金曜日というと、私が美遊の部屋を訪ねた2日後だ。
彼女の母親と私のことが原因になっているとしか考えられない。
「何か言ってた?」
「何か……って?」
「辞める理由を、何か言ってなかった?」
「大学のゼミの研修で、突然、海外に行かなくちゃならなくなったとか言ってたけど、どうなんだかねェ」
「そ、そう……?」
「ミユちゃんに気があったんでしょ? もしかして、何かあったの、あの子と……?」
「まさかぁ……。そうか、海外かぁ……」
私は、突然、横浜で美遊がもらした言葉を思い出した。
蚕糸会館の前で「赤い靴」の話をしたときのことだ。
「私も行ってしまおっかなぁ。赤い靴、履いて。もしかしたら、私のお父さん、海の向こうにいるのかもしれないし……なんてね。ときどき、そんなこと思うの」
「海の向こうに」は、ひょっとしたら、「そうであってほしい」という彼女の願望ではなかったのか……。
そういう話にしておきたかったのではないか。
しかし、そうではない可能性に気づいたから、彼女は――。
私は、食べかけたランチを残したまま、店を飛び出した。

まず、美遊の携帯を鳴らしてみた。
すでに解約されていた。
タクシーを拾って、都電の走る街へ走った。
一度行っただけの彼女の部屋だが、私の目と足は、道順を覚えていた。
見覚えのあるアパートに着いて、彼女の部屋のドアをノックした。
返事がない。
その理由がすぐにわかった。
ドアの新聞受けがテープで封印されていた。
表の郵便受けも、テープで封印され、ネームプレートが取り外されていた。
アパートの階段の外に、「入居者募集中」のプレートがついていた。
そこに書かれた電話番号を回してみた。
「105号室に入居していた佐藤美遊の知りあいの者ですが……」
「あ、退室された佐藤さんですね?」
「あの……彼女は、いつ、部屋を明け渡したんでしょうか?」
「エーと、3日前でしたかねェ。まだ、契約が残っていたんですが、突然、出ると言われましてねェ」
「その……どこへ移るとか、お聞きになってないでしょうか?」
「どこへ移るも何も、家具は全部残していくから、処分してくれと言われましてね。ま、処分費用はいただいてるんで、こちらとしては文句はないんですが……」
「ありがとうございました」と電話を切って、私は彼女が在籍しているはずの大学へ向かった。
学生課の窓口に行って、佐藤美遊の学籍を尋ねた。
「親戚の者だが」と名乗り、「アパートを引き払っているので心配になって」と言うと、職員が「ちょっと待ってください」と書類を調べてくれた。
「ああ……」と声を挙げた職員が、「佐藤さんは、退学届け出してますねェ」と残念そうに告げた。
日付を尋ねると、やはり、3日前だった。

手がかりを失った。
美遊は消えたのだ――と、私は思った。
その連絡を私にしなかったというのは、消えた理由も、その行く先も、私には知られたくなかった、ということしか考えられない。
そして、美遊にそこまでの決意を迫ったもの。それは、私と彼女の母親との過去の出来事に原因がある、としか考えられなかった。
フラフラとなりながら学生課を後にした私は、当てもなく、キャンパスの中を歩いた。
不意と、どこからか美遊が現れて、「杉村さん、何してるんですか、こんなところで?」と、声をかけてきそうな気がした。
しかし、そんなことはあるはずもない。
私の愚かな幻想を打ち砕くように、掛け声をかけながらそばを駆け抜けていくジャージ姿の学生の集団がいる。
中庭の隅では、空に向かって何かを叫んでいる複数の男女の姿がある。
芝生に腰を下ろして、ギターをかき鳴らしている学生がいる。
そのとき、ふと、私の頭にひらめいたことがあった。

「フーン、ジャズ・クルーズ? 私も、大学ではジャズ研に入ってるんですよ」
私が、「鉄太郎」でジャズ・クルーズのチラシを見ているときに、美遊がもらした言葉を思い出した。
サークルにだったら、もしかしたら、もっと個人的な事情を知っている人間がいるかもしれない。
私は、近くを通る学生に、サークル部室が入っている建物を尋ねた。
その建物は、大学の本館とは通りを隔てた場所に建てられた、古ぼけたビルだった。
出入りする学生のひとりを捕まえて、「ジャズ研」の部室を尋ねると、3階の7号室だと教えられた。
「ジャズ研」とボール紙にフェルトペンで大書した看板が貼り付けてあるだけのオンボロなドア。そのドアをノックすると、中から「ファーイ」と間延びした返事があった。
部室の中では、3人の男子学生と1人の女子学生が、タバコをふかしながら大音量でCDを聴いていた。
ドアを開けた私の姿を見て、全員が「何だ、こいつ?」という顔をした。
「どちらさま?」
中のひとり、あごひげを生やした、4人の中ではいちばん図体のでかい男が、のっそりとドアに歩み寄ってきた。
「もしかしたら、こちらに佐藤美遊さんが所属していたんじゃないか、と思ってお訪ねしたんですが……」
「おタク、だれ?」
男は、不審そうな顔で、私の全身をつま先から頭のてっぺんまで眺め回した。
無理もない。
彼らとは無縁に見える中年男が、突然、サークル部室に女子学生を訪ねてきたのだ。怪しまないほうが不思議だ。
「私は杉村と申します。佐藤美遊の親戚のものですが、実は……」
「いないんすよ、もう」
全部、言い切らないうちに、男のぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「そうですか? いや、学生課でも退学届けが出ていると聞いてビックリしまして。こちらだったら、どなたか、事情をご存じの方がいらっしゃるんじゃないか思って、伺ったんですが……」
「いや、事情つってもなぁ……オレたちも、突然、辞めるって言われただけなんで……なぁ、みんな」
部室にいた他のメンバーも、ただ、ポカンとしているだけだった。
やはり、ダメか……。
「そうですか。私も、何がなんだかワケがわからないので、こちらだったら……と思ったんですが。突然、失礼しました」
ていねいにお礼を言って、ドアを閉めようとしたときだった。
奥で、私の話には興味なさそうにCDに聴き入っていた男が、「ちょっと待って」と声を挙げた。
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「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
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