自伝的創愛記〈24〉 女王の帰還

Vol.24
校舎を白一色に染めた大雪が
すっかり溶ける頃、教室に
林田美智子が戻って来た。
その姿に教室は言葉を失った。
卒業まで、3週間と迫っていた。
ボクと田口が見舞いに行ったとき、「教室に戻ってくるやろ?」に「ウン」とうなずいた林田美智子は、まだ学校に戻って来てなかった。
「林田、戻って来んっちゃろか?」
「もう、小学校終わってしまうしなぁ」
「欠席したまま、卒業すると?」
「そしたら、もう会えんやないか……」
卒業したら、美智子は、ミッション系の女学院に進学する。ふつうに市立中学に進むボクや田口とは、もう会う機会がなくなる。
口には出さなかったが、ボクも、田口も、そのことを無念に感じていた。せっかく勇気を奮って見舞いに行き、美智子から「教室に戻る」という約束を引き出したのに、その席は、主のいないまま、ガランと空いている。
結局、自分たちのとった行動には意味がなかったのだ。
寒々と主の不在を告げる教室の最後方の椅子と机が、ボクたちにそのことを思い知らせているような気がした。
2日後、北部九州に雪が降った。それまで経験したこともない大雪で、学校に通うボクたちの足はひざ下までが降り積もった雪に埋まった。
山の裾野を切り開いて建てられたボクたちの学校は、開校以来、経験がないという大雪に覆われて、校舎も、背後の山も、運動場も、白一色に染まった。
卒業を卒業を前に、ボクがその学校に転校してきて目にしたことも、学んだことも、そして、そこで起こったことも、すべてを消し去ってしまうように、その雪は、終日、降り続いた。
ボクと田口が見舞いに行ったとき、「教室に戻ってくるやろ?」に「ウン」とうなずいた林田美智子は、まだ学校に戻って来てなかった。
「林田、戻って来んっちゃろか?」
「もう、小学校終わってしまうしなぁ」
「欠席したまま、卒業すると?」
「そしたら、もう会えんやないか……」
卒業したら、美智子は、ミッション系の女学院に進学する。ふつうに市立中学に進むボクや田口とは、もう会う機会がなくなる。
口には出さなかったが、ボクも、田口も、そのことを無念に感じていた。せっかく勇気を奮って見舞いに行き、美智子から「教室に戻る」という約束を引き出したのに、その席は、主のいないまま、ガランと空いている。
結局、自分たちのとった行動には意味がなかったのだ。
寒々と主の不在を告げる教室の最後方の椅子と机が、ボクたちにそのことを思い知らせているような気がした。
2日後、北部九州に雪が降った。それまで経験したこともない大雪で、学校に通うボクたちの足はひざ下までが降り積もった雪に埋まった。
山の裾野を切り開いて建てられたボクたちの学校は、開校以来、経験がないという大雪に覆われて、校舎も、背後の山も、運動場も、白一色に染まった。
卒業を卒業を前に、ボクがその学校に転校してきて目にしたことも、学んだことも、そして、そこで起こったことも、すべてを消し去ってしまうように、その雪は、終日、降り続いた。

校舎も、ボクたちも凍えさせた雪が、春の陽光にすっかり溶出してしまう頃、教室が不意にざわついた。
「オイ、林田が出て来たゾ!」
まるで、戦線の偵察に出ていた斥候のような調子で情報を教室にもたらしたのは、クラス一番のお調子者・平田だった。
「エッ、ほんとかよ?」
「林田が……」
「帰って来た……?」
教室中にざわめきが広がっていった。
ほどなく、教室の戸が開いた。
ツカツカと教室に入って来た林田美智子は、ひと言も発することなく、教室の後方に置かれたままだった座席に荷物を置いて、ノートや教科書や筆箱をひとつずつ、机の物入れに入れていく。
ボクたちは、その様子を見ていた。しかし、だれも声をかけることができなかった。
黙々と机に教材や文具を収納していく林田美智子の姿が、「氷の女王」のように冷たく感じられたからだが、それだけじゃなかった。

女って変わるんだ――ということを、あのときほど強く感じたことはなかった。
たぶん、クラスのほとんどがそう感じたに違いない。それが、だれも彼女に声をかけられなかったほんとうの理由だった。
ボブに切り揃えられ、いつも彼女の顔の周りをスウィングしていた、活発で明るかったショートヘアには、チリチリにパーマがかけられていた。「カーリーヘア」と言うんだということを、ボクはそのとき、初めて知った。その「カーリーヘア」は、小ぶりだった美智子の頭を、以前の2倍以上に膨張して見せている。
いつも、彼女のスラリとした脚を包んでいたスカートは、パンタロンに履き替えられていた。黒の毛足の長い生地はモコモコで、そのせいか、ほっそりしていた脚が少し太ったようにも見えた。
上は、厚手のセーターの上から黒と白の市松模様のジャケット。
病欠の前には妖精のようだった林田美智子が、全身から魔女のオーラを発しているように見えた。森の奥から現れた魔女のようなオーラ。その妖気に圧倒されて、教室の女子も、男子も、だれも口を利けなかった。
教室に戻って来たら、「お帰り」と明るく声をかけようと思っていたボクも、そして田口も、声を発することができなかった。
彼女に、どんな心境の変化があったのか?
ボクがそれを知ることになるのは、中学校に進んでからだった。
もし知っていたら、もっと迎えようがあったのに――と思うのだが、そのときのボクたちには、その知恵はなかった。
筆者初の官能小説! 電子書店から発売中です!
盆になると、男たちがクジで「かか」を交換し合う。
明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
筆者初の官能作品、どうぞお愉しみください。
2020年9月発売 定価:200円 発行/虹BOOKS
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既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。






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