「ふつうの子」でいるために

老犬自伝的エッセイ 「創愛記」
     Vol.23  


「ふつうの子でよかけんね」
何かある度に、母親はその言葉を
ボクの耳に吹き込んだ。派手好き
の父親とは、そこが違った――。

 「ああ、そうたい。お母さん、断っといたけんね」
 学校から帰ったボクに、母親がボソッとつぶやいたのは、ボクたちが中学校演劇コンクールに特別出演してから1週間ほど経った頃だった。
 「あんたの好きな黒棒買っといたけん」という程度の軽い口調だったので、うっかり聞き逃しそうになったが、「断っといた」という言葉が、ちょっとだけ胸に引っかかった。
 「断った――て、何を?」
 「ああ、なんかね、NHKの放送劇団かなんかの人が来て、お宅のお子さんを放送劇団にとかなんとか言うてきたとばって、うちの子はふつうの子に育てますけん――て、断っといた。あんた、好きやないやろ、そげなと?」
 「そうね……」と、ボクは、興味なさそうに返事を返した。
 興味なそうなフリをしたのは、勝手に断った母親の行動を責めているように感じさせないためだった。
 本心は、ちょっと違った。
 なんで、簡単に断ってしまうんだろう? ひと言、相談してくれてもよかったじゃないか――だった。

            

 「ふつうの子」は、小さい頃から何度となく、母親がボクの耳に吹き込んできたお決まりのコンセプトだった。
 「別にムリして1番をとらんでもよかけんね」
 「有名なんかにならんでん、よかっちやけんね」
 「お母さんは、あんたがふつうの子に育ってくれれば、それでよかとよ」
 ことあるごとに、ボクは、母親から、「ふつうでいること」の価値を説かれてきた。何かと言うと、「1番をとれたら、自転車を買ってやる」というふうに報償をちらつかせる父親とは、子どもに示す価値観が、まるで違っているように見えた。  
 子ども心には、父親の示す価値観は、利用する価値はあるように思えたが、尊敬する価値はほとんど感じられなかった。
 母親は父親の「無教養」を嫌っている――と、子どものボクは、薄々感じていた。
 父親は、旧制の高等小学校(現・小学校高学年から中学2年程度)卒業。
 旧制女子中学校(現・高等学校)卒業の母親は、学歴の上では、父親より上だった。
 「お母さんがあんたの年頃に読まされとったのは、こげな本やったとよ」と、まだ子どものボクに旧仮名遣いの教科書や少年文学本を与えて、ボクがその文字使いや読み方に頭をひねって苦心する様を見ては、うれしそうな顔をしていたのを覚えている。
 父親からは、そういう刺激を受けた記憶がない。

            

 父親は、道楽好きな男だった。
 夏は、あちこちの渓流に出かけて行っては鮎釣りに興じ、冬は、海岸に出かけたり船に乗ったりして、タイやイカやメバル釣りに興じるという釣り道楽が、そのひとつ。その釣りのための道具だけで、庭に建てた倉庫がいっぱいになるほどだから、道楽のレベルは超えていたのかもしれない。
 「あんたが生まれたときにも、父さんは、釣りに出かけとったとよ」
 そんな父親の道楽三昧を、母親がうらめしそうに語るのを、ボクは何度か、耳にした記憶がある。
 釣りに出かけている間に生まれたボクは、父親に望まれて生まれたわけではないんじゃないか。父親から叱られたり、ゲンコツを食らわされたりする度に、そんなふうに思ったことを、いまでも覚えている。
 父親のもうひとつの道楽は、歌舞音曲だった。尺八を吹き鳴らし、筑前琵琶を掻き鳴らし、三味線を爪弾き、最後には小唄まで歌って、それを吹き込んだレコードまで作った。そのレコードを、新年会か何かで家に集まってきた客たちに再生して聴かせたりする。
 自分の父親は恥ずかしい――と思ったことを、いまでもボクは記憶している。
 しかし、ボクは父親から、その「恥ずかしい」と感じた部分を受け継いでしまったのかもしれない。
 学校に上がって、教師に最初にホメられたのは、本を朗読する声だったし、小学校高学年になって、教師・青田によって目をつけられたのも、演劇の才能……というより、セリフを口にするときの「声のよさ」だった。
 父親の道楽をマネしようとも、習おうとも、思ったことはなかったが、「声帯」の性質だけは、間違いなく父親譲りだった。
 しかし、母親は、そんな父親の道楽好きを嫌っていた。釣りはともかく、歌舞音曲狂いは、特に。
 ボクにかけられてきた放送劇団への勧誘を、「うちの子はふつうに育てますから」と、にべもなく断った――というのも、その背後には、もしかしたら、父親の道楽への嫌悪が存在したのかもしれなかった。
 そんなわけで、ボクの「ふつうじゃない子」になるかもしれない道のひとつは、遮断されたのだった。
 ボクにも、おそらくその気はなかったので、それはそれでよかったのだが――。



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