父と娘の幻夢〈5〉 父と娘の時間

第9話 父と娘の幻夢 5
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
演奏が終わり、船から下りると、
私たちは腕を絡めて港を歩いた。
駅に着くまでの束の間の「父と娘」
の時間。美遊は、その時間が
これからも続くことを望んだ——。

ここまでのあらすじ 「きょうのお通し、私が作ったんですよ」。お盆を抱えてニッコリほほ笑む顔を「かわいい」と思った。名前を佐藤美遊。私がランチを食べに通う居酒屋「鉄太郎」のアルバイト店員だった。その顔を見たくて、昼飯は「鉄太郎」と決めた私。ある日、食事しながら、ジャズのナイト・クルージングのチラシを見ていると、彼女がそれに興味を示してきた。「ジャズが好き」と言う彼女を私は、横浜でのクルージングに誘った。「きょうは若いお嬢さんとご一緒で?」と冷やかすベースの前原に、「へへ、隠し子です」とふざける美遊。しかし、彼女が発した「隠し子」という言葉は、私の中で、具体的なイメージとともにふくらみ始めた。かつて、私が会社を辞めるときに、一度だけ愛し合ったことのある桂山美佐子。美遊の顔には、その面影が宿っていた――
最後の演奏が終わり、「ロイヤル・ウイング」が大桟橋に戻ると、私と美遊は前原たちと別れて、横浜の街をぶらついた。
旧い建物の並ぶ海岸通りを歩いて、みなとみらいの明かりを見ながら桜木町へ出よう――という話になった。
7月とはいえ、海から吹き付けてくる夜の風が、少し冷たく感じられた。
「ちょっと、冷えてきましたね」
言いながら、美遊は腕を私の腕に絡めてきた。
そっとつかまるという感じではなく、まるでぶら下がるように両手で私の腕をつかんで、そこに体をすり寄せてきた。
「私ね、こうしてぶら下がって歩ける腕がある子たちが、うらやましかったんですよ。みんなにはそうやって甘えられる腕があるのに、どうして私にはないの……って、ずっとずっと、思ってた」
「じゃ、駅に着くまでの間だけだよ。なってあげる、キミの欲しかった腕に」
「ホント? うれしいッ!」
無邪気にすり寄せてくる美遊の体のひそやかな弾力が、私の腕の中で高鳴っていた。
その高鳴りは、私に、美遊が年頃の女であることを伝えてくる。
私の中の男は、そのまま、美遊の体を抱きしめたい――と、強く願う。
しかし、私は、その思いを封印した。
女としての美遊を抱き寄せるよりも、娘として無邪気に戯れる美遊の腕が示す意思に寄り添っていたい。
その気持ちのほうが優ったからだ。
「あれは?」
「蚕糸会館。昔は、あそこで、海外へ輸出する生糸を検査してたんだよ」
「赤い靴の女の子も、この港から海の向こうへ行っちゃったんだね?」
「ウン。養子にもらわれてね」
「私も、赤い靴、履いちゃおうかな……」
「赤い靴履いて、どこへ行くの?」
「杉村さんのところ……だったりして」
クスリ……と笑って見上げる顔の中で、無邪気な目がクルクルと動いた。
その目は、答えを待つ子どものように、私の反応を探していた。
やがて、その目が静止した。
動かなくなった瞳の中に、運河の向こうで回る観覧車の明かりが映っていた。
その明かりがゆらゆらと揺れ、瞳の表面を覆い始めた水の中に溶けていく。
濡れた瞳に映る明かりを、もっと見たい――。
上向きに見つめる美遊の顔を両手で支えると、瞳には、静かにまぶたのカーテンが下ろされた。
私は、ゆっくり、そこへ顔を近づけた。
旧い建物の並ぶ海岸通りを歩いて、みなとみらいの明かりを見ながら桜木町へ出よう――という話になった。
7月とはいえ、海から吹き付けてくる夜の風が、少し冷たく感じられた。
「ちょっと、冷えてきましたね」
言いながら、美遊は腕を私の腕に絡めてきた。
そっとつかまるという感じではなく、まるでぶら下がるように両手で私の腕をつかんで、そこに体をすり寄せてきた。
「私ね、こうしてぶら下がって歩ける腕がある子たちが、うらやましかったんですよ。みんなにはそうやって甘えられる腕があるのに、どうして私にはないの……って、ずっとずっと、思ってた」
「じゃ、駅に着くまでの間だけだよ。なってあげる、キミの欲しかった腕に」
「ホント? うれしいッ!」
無邪気にすり寄せてくる美遊の体のひそやかな弾力が、私の腕の中で高鳴っていた。
その高鳴りは、私に、美遊が年頃の女であることを伝えてくる。
私の中の男は、そのまま、美遊の体を抱きしめたい――と、強く願う。
しかし、私は、その思いを封印した。
女としての美遊を抱き寄せるよりも、娘として無邪気に戯れる美遊の腕が示す意思に寄り添っていたい。
その気持ちのほうが優ったからだ。
「あれは?」
「蚕糸会館。昔は、あそこで、海外へ輸出する生糸を検査してたんだよ」
「赤い靴の女の子も、この港から海の向こうへ行っちゃったんだね?」
「ウン。養子にもらわれてね」
「私も、赤い靴、履いちゃおうかな……」
「赤い靴履いて、どこへ行くの?」
「杉村さんのところ……だったりして」
クスリ……と笑って見上げる顔の中で、無邪気な目がクルクルと動いた。
その目は、答えを待つ子どものように、私の反応を探していた。
やがて、その目が静止した。
動かなくなった瞳の中に、運河の向こうで回る観覧車の明かりが映っていた。
その明かりがゆらゆらと揺れ、瞳の表面を覆い始めた水の中に溶けていく。
濡れた瞳に映る明かりを、もっと見たい――。
上向きに見つめる美遊の顔を両手で支えると、瞳には、静かにまぶたのカーテンが下ろされた。
私は、ゆっくり、そこへ顔を近づけた。

運河には、鉄製の橋がかかっていた。
その橋を渡ると、そこはもう、桜木町の駅だ。
父と娘の時間はそこで終わる。
私と美遊が足を止めたのは、その橋の手前だった。
「父娘の時間」と「ふつうの男女の時間」が交差する場所で、私たちは顔を重ね合った。
私の顔の皮膚の温度を感じると、美遊はかすかに開いた唇を上向きに突き出した。
何かを言うために開かれた唇ではなかった。
胸の奥に溜めていた小さな息を吐き出すため。
そして、おそらくは、その息を受け止め、吸い取ってくれる何かを探し出し、絡め合うため。
私は、そのリクエストに応えた。
私の唇が彼女の口から吐き出される息を感じる距離まで近づくと、彼女の唇は、磁石に吸い寄せられるように自分から距離を縮め、「ハァ」と小さく息をもらして、私の唇を受け入れた。
ゼラチンのように吸い付いてくる、やわらかく、力のない唇。
その感触が、遠い昔の記憶を揺り起こした。
あの人も、確か……こんな唇をしていたんじゃなかったか……。
足を止めて抱き合い、唇を重ね合う私たちの横を、何台ものクルマが通り過ぎていった。
運河の向こうでは、巨大な観覧車が、ゆっくりと、時計回りに回っていた。
その動きが、時間は巻き戻せないのだよ――と、教えているようだった。

私たちの長いキスを終わらせたのは、通り過ぎるクルマが鳴らしたクラクションだった。
「オラ、オヤジ~! テメェ、こんなとこで若い女、こましてんじゃねェゾ! 不倫かぁ、援交かぁ! オラ~!」
美遊は、パッと体を離し、走り去るクルマを睨みつけながら、「たくゥ……」とつぶやいた。
「あいつらのおかげで、せっかくの時間が台無し」
「不倫か、援交……か。周りからは、そんなふうにしか見えないのかもしれないね」
「ヘン! 父と娘ですよォ~だ」
「父と娘は、キスなんかしないでしょ」
「キケンな親子ですね、私たち」
「でも、もう駅だし……」
「残念……」
言いながら、今度は、手を私の手に絡めてくる。
私と美遊は、手をつなぎ合ったまま駅までの道を歩き、「今度は、東急で帰りませんか?」という美遊の提案で、東横線の急行に乗った。
「あの……」
電車のシートに身を沈めると、美遊が恐る恐るというふうに口を開いた。
「わがままを言ってもいいですか?」
「いいよ」
「もう少し、私のお父さんでいてくれますか?」
「じゃ、渋谷に着くまで」
「そうじゃなくて……」
窓の外を次々に流れていく街の明かりを見ていた美遊が、その目を私に向けて言った。
「これからも、こうして、お父さんのように、私と会ってくれますか?」
「キス付きで?」
ウン……というふうに、美遊の首がタテに動いた。
たぶん、キスだけでは終わらないだろう――と思いながら、私は美遊の手に自分の手を重ねた。
「その代わり、お願いがあるんだけど……」
「何ですか?」
「遠慮せずに甘えてほしい」
「自信、あります」
言いながら、美遊はゆっくり、頭を私の肩にもたせてきた。
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