父と娘の幻夢〈3〉 夜光虫の夜

第9話 父と娘の幻夢 3
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
ジャズの演奏を聴きながら、横浜港
を一周するナイト・クルージング。
「今日は若いお嬢さんとご一緒?」
と冷やかすベースの前原に、美遊は
「隠し子です」と名乗った——。

ここまでのあらすじ 「きょうのお通し、私が作ったんですよ」。お盆を抱えてニッコリほほ笑む顔を「かわいい」と思った。名前を佐藤美遊。私がランチを食べに通う居酒屋「鉄太郎」のアルバイト店員だった。その顔を見たくて、昼飯は「鉄太郎」と決めた私。ある日、食事しながら、ジャズのナイト・クルージングのチラシを見ていると、彼女がそれに興味を示してきた。「ジャズが好き」と言う彼女を私は、横浜でのナイト・クルージングに誘った――
東京駅の京浜東北線下りホーム最後尾で午後4時に。
まるで密会の約束でも交わすように、私たちは7月最後の日曜日の横浜行きを約束した。
少し遅れた美遊がホームへの階段を駆けて上ってくる姿を、私は、まるで田舎から出てきた父親のような気分で見ていた。
「ごめんなさい、待ちました?」
「ウン。1000年ぐらい……」
「ということは……」と、美遊は手のひらに文字を書くしぐさを見せた。
「14分半の遅刻!」
「どうしてそうなる?」
「一刻は24時間の100分の1だから、0.24時間でしょ? 正確には、14分24秒。でも、うれしい!」
「何が?」
「そんな気持ちで待っていてくれて……」
頭のいい子だ――と思った。
私が口にした「1000年」から、一瞬で「一刻千秋」を思い浮かべ、そこから「14分半」という時間を割り出す、その即妙さに、驚愕した。
「うれしい」と顔を崩した美遊の白いTシャツの中で、その胸のときめきが少しはずんでいるように見えた。

「ロイヤル・ウイング」の出航は、午後6時半だ。
5時前に関内駅に着いた私たちには、少し時間があった。
「横浜に来るの、はじめて」と目をキョロキョロさせる美遊を、私は中華街に連れていき、肉饅頭を頬張りながら山下公園をブラブラと歩いて、大桟橋へと向かった。
「オッ、きょうはまた、若いお嬢さん連れで」
乗船待合室まで行くと、ベースの前原一平が、「このこの」という顔で近づいてきた。
その横から、ボーカルの池沢ゆかりが、「こんばんは」と声をかけてくる。
「娘です」と紹介すると、ふたりとも「エッ!?」という顔をした。
「ヘーッ、子どもいたんだぁ」と、真顔で驚くゆかりに向かって、美遊は深々と頭を下げて言った。
「隠し子です」
ふたりは、「ハハァ」と意味ありげに顔を見合わせた。
船には、全部で3つのバンドが乗り込み、それぞれの演奏スタイルで、計3回のステージをこなす。
乗船した客は、立食形式の食事をとり、船内を自由に移動しながら、3種類の演奏スタイルを愉しむ――というのが、例年のジャズ・クルーズの趣向だった。
その夜のバンドは、ひとつが、前原一平をリーダーとしたトリオ+ボーカル。ひとつは、若者たちが中心の3管+キーボード+パーカッションという編成。もうひとつは、ビッグ・バンドだった。
私と美遊は、ひと通り、全部のステージを聴いて歩いたが、結局は、トリオ+ボーカルがいちばん落ち着くというので、前原氏たちが演奏するアッパーデッキのレストラン・ルームに腰を落ち着けた。
演奏の合間には、デッキに出て、夜の海風に当たった。
「ロイヤル・ウイング」は、大桟橋を出航すると、ベイ・ブリッジの下をくぐり、本牧沖から羽田沖を回って、再び山下埠頭に戻る、というコースをとる。所要時間3時間のクルージングだ。
デッキに出ると、陸の明かりが、まるで蛍の光のように暗い海面に浮かんで見える。その中を頻繁に、ライトを明々と点けたジャンボやDC10が飛び立って行き、舞い降りてくる。
美遊は、うっとりとそれらの光景を眺め、セミロングの髪を潮風になびかせながら、「気持ちいい……」と胸を反らした。
まるで密会の約束でも交わすように、私たちは7月最後の日曜日の横浜行きを約束した。
少し遅れた美遊がホームへの階段を駆けて上ってくる姿を、私は、まるで田舎から出てきた父親のような気分で見ていた。
「ごめんなさい、待ちました?」
「ウン。1000年ぐらい……」
「ということは……」と、美遊は手のひらに文字を書くしぐさを見せた。
「14分半の遅刻!」
「どうしてそうなる?」
「一刻は24時間の100分の1だから、0.24時間でしょ? 正確には、14分24秒。でも、うれしい!」
「何が?」
「そんな気持ちで待っていてくれて……」
頭のいい子だ――と思った。
私が口にした「1000年」から、一瞬で「一刻千秋」を思い浮かべ、そこから「14分半」という時間を割り出す、その即妙さに、驚愕した。
「うれしい」と顔を崩した美遊の白いTシャツの中で、その胸のときめきが少しはずんでいるように見えた。

「ロイヤル・ウイング」の出航は、午後6時半だ。
5時前に関内駅に着いた私たちには、少し時間があった。
「横浜に来るの、はじめて」と目をキョロキョロさせる美遊を、私は中華街に連れていき、肉饅頭を頬張りながら山下公園をブラブラと歩いて、大桟橋へと向かった。
「オッ、きょうはまた、若いお嬢さん連れで」
乗船待合室まで行くと、ベースの前原一平が、「このこの」という顔で近づいてきた。
その横から、ボーカルの池沢ゆかりが、「こんばんは」と声をかけてくる。
「娘です」と紹介すると、ふたりとも「エッ!?」という顔をした。
「ヘーッ、子どもいたんだぁ」と、真顔で驚くゆかりに向かって、美遊は深々と頭を下げて言った。
「隠し子です」
ふたりは、「ハハァ」と意味ありげに顔を見合わせた。
船には、全部で3つのバンドが乗り込み、それぞれの演奏スタイルで、計3回のステージをこなす。
乗船した客は、立食形式の食事をとり、船内を自由に移動しながら、3種類の演奏スタイルを愉しむ――というのが、例年のジャズ・クルーズの趣向だった。
その夜のバンドは、ひとつが、前原一平をリーダーとしたトリオ+ボーカル。ひとつは、若者たちが中心の3管+キーボード+パーカッションという編成。もうひとつは、ビッグ・バンドだった。
私と美遊は、ひと通り、全部のステージを聴いて歩いたが、結局は、トリオ+ボーカルがいちばん落ち着くというので、前原氏たちが演奏するアッパーデッキのレストラン・ルームに腰を落ち着けた。
演奏の合間には、デッキに出て、夜の海風に当たった。
「ロイヤル・ウイング」は、大桟橋を出航すると、ベイ・ブリッジの下をくぐり、本牧沖から羽田沖を回って、再び山下埠頭に戻る、というコースをとる。所要時間3時間のクルージングだ。
デッキに出ると、陸の明かりが、まるで蛍の光のように暗い海面に浮かんで見える。その中を頻繁に、ライトを明々と点けたジャンボやDC10が飛び立って行き、舞い降りてくる。
美遊は、うっとりとそれらの光景を眺め、セミロングの髪を潮風になびかせながら、「気持ちいい……」と胸を反らした。

「前から、言おうと思ってたんだけど……」
「何……?」
「キミには、初めて会ったという気がしない」
「私も、そう思ってたの。なんか……不思議。初めて、お店で顔を見たときに、どこか懐かしい人……って思っちゃった。もしかして、前世とかで会ってたのかなぁ」
「あり得ない。ボクの前世は虫だから……」
「エーッ!? 虫なのォ?」
「ジョーダン、ジョーダン。信じてないんだ、前世なんてものは」
「ひょっとして、私のお父さんだったりして……」
「エッ!? あ、そ、そうだね」
美遊の口から「お父さん」という言葉が飛び出したとたん、私は動揺した。
その言葉は、美遊の前では口にしてはいけない言葉だと思っていたからだ。
「どうしたの?」
「い、いや、思いがけないことを言われたもんだから、ちょっとあせっちゃって……」
「隠し子だって、言ったでしょ、さっき」
「あ、そうだったね。隠し子だもんね、ハハ……」
「夜光虫が光ってる……」
船が立てる白波の先端が、青白く光って見えるのを、美遊はぼんやりと眺めながら、ボソリとつぶやいた。
「女将さんから聞いたでしょ?」
「何を?」
「私に、お父さんがいないこと……」
「ウン。余計なことをしゃべるよね、あの女将さん」
「いいの。私ね、ほんとは、知らないんだ、お父さんのこと」
「知らない……? 何も聞かされてないの?」
「お母さん、何も話してくれなかった。だから、お父さんがどこのどういう人なのか、私、何も知らないのよね」
「ね、キミのお母さんって……」
私が言いかけたとき、後ろからポンと肩を叩かれた。
ベースの前原一平だった。

「いいですねェ。親子水入らずでしんみりと……」
もしかして、前原氏は、ほんとにふたりを親子と思っているのかもしれない。
「いや、あれは……」と口を開きかけたところで、美遊が声を出した。
「いつも父がお世話になっております」
「あ、いや、こちらこそ。杉さん、そろそろ、次のステージ、始まりますんで……」
おせっかいなベーシストは、吸いかけたタバコをデッキの吸殻入れにねじ込むと、キャビンへのドアを開けた。
「親子水入らず」
前原一平がジョーダン交じりに発した言葉が、私の頭の中を浮遊していた。
そのときだった。
不意に、私の脳裏に、ある人物の姿がハッキリした輪郭とともに浮かび上がった。
初めて顔を見たときに、「だれかに似ている」と思った美遊の顔。それが、だれに似ているかが、そのとき、ハッキリとわかった。
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「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
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クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
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