自伝的創愛記〈21〉 恋風船、破裂した

老犬自伝的エッセイ 「創愛記」
 第21章  


「お前たち、何しに来たとや?」
美智子を見舞ったボクたちを、
脅して来たのは3組の八田という
暴れん坊な少年だった――。

 病気になった女の子を自宅に見舞う。
 当時の小学校高学年の男子にとって、それは、かなり勇気を求められる行動だった。
 きっかけは、「卒業文集が出来上がったけん、届けてくれや」という教師の言葉ではあったにしても、「じゃ、ふたりで行こう」と田口を誘ったのは、間違いなくボクの意思だった。
 最初、田口は渋っていた。それを、「おまえ、副級長やないか。一緒に行ってくれや」と腕を引っ張ったのは、ボクだった。
 「おまえ、ミッチーば好いとぉと?」
 「バカ言うな」と、そのとき、ボクは田口を小突いたが、市営住宅の屋上でフラフープを回して見せる林田美智子の姿を見ているうちに、ボクの胸の中では、田口の言った「好いとォ」が、どんどん膨らんでいった。
 それは、ボクが初めて初めて意識する「ホレる気持ち」だったかもしれない。
 しかし、正月の市営住宅の屋上で膨らんでいくかに見えた「恋風船」は、突然、背後からかけられた声で、「パン」と音を立てて破裂した。

            

 「二組のもんが、何しに来たとや」
 振り返ると、三組の八田が、屋上への通用口からボクたちのほうへ歩み寄ってくるところだった。
 八田は、三組の暴れん坊だった。体は小さいくせにケンカっ早く、二組の男子ともしょっちゅうモメ事を起こしていた。そのたびに、ボクや田口は仲裁に入らなくてはならなかった。
 そうか、八田は確か、市営団地に住んでいたんだと、ボクは思い出した。
 「何しに来たかて、訊きよぉとよ」
 「何しに……て、見舞いに来たっちゃないか」
 「だれに頼まれてや?」
 変なことを言う――と、ボクは思った。
 「だれにも頼まれん。オレたち、ふたりで相談して来たったい」
 「ウソつけ。スパイしに来たんやろ?」
 「スパイちゃ、何や?」
 「スパイはスパイたい。二組のもんは信用できん。帰れ」
 八田は、いまにもつかみかかりそうな勢いで詰め寄ってきた。
 「止めり、八田クン!」
 美智子が回していた輪を首から抜いて、叫んだ。
 ポーシャがシャイロックをとがめたときのような、ハリのある声だった。
 「おまえ、二組のもんとは会いとぉないて言いよったやないか!」
 「いいと。この人たちはいいと」
 「そやけど、こいつら……」
 「よかて言いよるでしょ。ちょっと話がしたかけん、私が来てもろたと」
 わけがわからず、ボクも田口も、ふたりのやりとりを眺めていた。
 「止めり」と言われた八田は、もう一度、ボクと田口の顔をナメ回すように睨みつけながら、押し殺した声で言った。
 「用がすんだら、とっとと帰れよ。きょうは見逃しちゃるけど、二度と来るなや」
 捨てゼリフのように言い残すと、肩を揺すりながら通用口に消えていく。その姿を、ボクと田口は、呆気にとられて見送った。

            

 「ごめんね。あの子、ここのボスのような気でおるけん」
 美智子は、ほんとに申し訳ない、という顔をした。
 八田は、もしかして美智子に気があるんじゃないかと思ったが、そのことは口にしなかった。それよりも、ボクは八田が口にした「スパイ」という言葉が気にかかっていた。
 「何かあったと、二組のだれかと? もしかして、だれかにいじめられたん?」
 ボクの頭に、一瞬、ケイコやユミの顔が浮かんだ。
 しかし、美智子は力なく首を振った。
 「だれもいじめてなんかおらんよ。だれのせいでもないと」
 それっきり、美智子が口をつぐんでしまったので、ボクはそれ以上、尋ねるのを止めた。
 「重松クンも、これ、やってみる?」
 不意に美智子がフラフープをボクに渡した。その目が、イタズラっぽく笑っている。からかうつもりなんだ――とわかったけど、そのからかいに応じてあげることしか、そのときのボクにはできることがなかった。
 なんとか輪を回そうと、腰をくねらせてみた。しかし、何度やっても、輪は、ボクの腰の周りを二、三度、回っただけで、だらしなく足元に落ちてしまう。
 それを見て、美智子がクスリと笑った。そうして美智子が笑ってくれたことが、ボクには、ちょっとだけうれしかった。
 「よし、オレも」と、田口も挑戦したが、ボクより運動神経が発達しているはずの田口も、何度やっても失敗した。
 「ダメやねぇ、ふたりとも」
 そんなふたりを見て、勝ち誇ったような顔をしている美智子が、ほんの少し、昔の美智子に戻ったように見えて、ボクと田口は、うなずき合った。

            

 それは、卒業の準備が始まった季節の、ほんのつかの間の「心なごむ時間」だった。
 雲ひとつなく晴れ上がった空も、空でさえずるスズメたちも、束の間のボクたちの平和な時間を祝福してくれているように見えた。
 「そしたら、ボクたち帰るけど、林田さん、元気になったら、学級に戻ってくるよね」
 「………」
 ずいぶん長く感じられる沈黙のあとで、美智子の首が、タテにコクリと動いた。
 美智子は、帰るボクたちを、階段の下まで送ってくれた。
 「じゃ……」
 手を振って帰ろうとすると、美智子がスッと手を差し伸べた。
 「きょうは来てくれてありがとう……」
 差し出された手を握り返しながら、ボクは、いつ言おうかと胸にしまっておいた言葉を口にした。
 「林田さんのおらん教室は寂しいけん、早う戻ってきて」
 美智子の目に、一瞬だけ、光が宿ったような気がした。



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