キャット・ファイター〈13〉 銀色の翼に乗って

もの想い 妄夢草紙 
 第8話  キャットファイター  13 

      R18 
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。


アメリカ南部の酒場のリングで、
黒人レスラーにいたぶられる姿を
見せて、金を稼いでいる麗奈。
もう、見てられない。良助は、
彼女を日本に連れ帰ることにした。


この話は連載13回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
  前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 「ビックリするようなもの、お見せしますよ」。歌舞伎町のショーパブの支配人・平山に言われて、顔を出したその店は、客席の真ん中に、プールのような泥レスのリングが設えられた変わった造りだった。リング・アナの紹介でリングに登場したその女性を見て、内村良助は「ハッ……」と息を呑んだ。彼女は、かつて、アイドル出身の女子プロとして、一世を風靡したこともある岬麗奈だった。やがて始まった泥レス。麗奈はたちまち石黒に組み伏せられ、ウエアをはぎ取られた。リングウエアを脱がされると、試合は負け。敗者の泥を洗い流す権利は、オークションにかけられる。バケツ一杯の水で、麗奈は、白い肌を露わにされた。平山は「これ、記事になりませんかね」と言う。しかし、それを記事にしたのでは、店も、掲載した『スポタイ』も、当局にニラまれてしまう。良助は、「麗奈の転落人生を描くインタビュー記事にしよう」と提案した。「結婚しようと思ったことはなかったの?」という良助の質問に、麗奈は力なく首を振った。「いたにはいたけど」と言うその男は、麗奈を「接待ドール」として利用する男だった。しかし、麗奈が女子プロを引退すると、麗奈に商品価値がないと判断した男は、彼女を捨てた。麗奈は、興行系のプロダクションに移って、「泥レス」の世界に身を投じた。その「泥レス」は、やがて「オイル・レス」に変わった。さらに客寄せを狙う支配人・平井は、客をリングに上げて、彼女たちと格闘させる「チャレンジ・マッチ」なる企画を打ち出した。しかし、そのショーは当局にわいせつ罪で摘発され、店は営業停止となり、麗奈も検挙されたが、不起訴処分となった。その麗奈から電話がかかってきた。「アメリカに渡ってキャット・ファイト」のショーに出ると言う。「止めろよ」と止める良助に麗奈は言うのだった。「それが言えるのは、私と結婚してくれる男だけだよ」と。心配する良助に麗奈は「抱いて」と言う。その肌を良助は抱いた。数日後、麗奈はアメリカ行きの飛行機に乗った。麗奈だけではなかった。翻訳の仕事をしている妻もアメリカ移住を決意し、良助との離婚を決意した。ひとりになって飲んだくれていた良助に平山がささやいた。「麗奈ちゃん、ひどい仕事をしてるみたいですよ」。投げて寄越したポルノ雑誌に載っていたのは、水着を剥ぎ取られた麗奈が黒人レスラーに犯されようとしている写真だった。良助はアメリカ行きを決意した。探し当てたのは、南部にある「エキサイト・ショー」が売りの酒場だった――


 見てられない。
 良助の手は、ブルブルと震えていた。
 もう、麗奈をここへ置いておくわけにはいかない。
 メイン・エベントが終わると、良助は、フロア・マネジャーを呼んだ。
 「楽しませてもらったよ。ジャパンのプレスだけど、この店のこと、新聞に紹介してもいいかい?」
 「ジャパンの新聞にかい? おまえさん、正気かい?」
 「ああ、正気だ。ジャパンにも好き者のおっさんたちがいる。喜んで見に来るやつらがいると思うんだけど……」
 まったく、日本人ってやつは――と、マネジャーがあきれたような顔をした。
 「それで、頼みがあるんだが……」
 「なんだい?」
 「ちょっとだけ、ミス・麗奈にインタビューさせてくれないかな? できれば、写真も1、2枚」
 「そいつは、どうだかな? おまえさんも知ってるように、本人の肖像権てものがあるしな。この国じゃ、ちょっとばかしうるさいんだよ、そこらへんは」
 「じゃ、頼むよ。ちらと訊いてみてくれよ。オレのネーム・カードを渡しとくからさ」
 渋るマネジャーの懐に、100ドル札一枚をねじ込むと、マネジャーは渋々という感じで打診をOKした。
 ネーム・カードに、良助はひと言だけ、日本語でメッセージを書き込んだ。
 《キミを迎えに来た》
 15分ほど待たされて、マネジャーが戻ってきた。
 「OK。裏口で待っていてくれとさ。きょうのショーは、もう終わりだから」
 「サンキュー」
 マネジャーと握手して、良助は店を出た。
 良助の心臓は早鐘を打っていた。

          

 汚い路地だった。
 そこらじゅうに紙くずだの、吐き捨てたツバだのが散らばり、気をつけて歩かないと、噛み捨てたガムの跡を靴底で踏みつけてしまう。
 人っ子ひとり通らない通りだが、時折、店のスタッフらしい男たちが扉を開けて出てきて、何かを下水溝にぶちまけると、また中へ戻っていく。そのたびに、手持ち無沙汰に立っているだけの良助を、いぶかしげにねめつけた。
 「ヘイ、ユー。そんなところで何してるんだ?」
 「人を待ってるのさ。ちょいとワケありでね」
 男は、両手を広げ、「あきれたぜ」という顔をして戻っていく。
 そうして、1時間ほどが過ぎた。
 レンガ造りの建物に取り付けられた赤錆だらけの鉄製の扉が、ギーと音を立てて開いた。
顔だけを出した女が、周囲を窺うように、右へ、左へと首を回している。
 「ヒュッ」と口笛を鳴らすと、麗奈はやっと良助に気がついた。
 扉を開けて出てきた麗奈は、リング・コスチュームからは想像もつかない、小汚い格好をしていた。
 ボロボロの、ところどころに穴の開いたジーンズに、よれよれのTシャツ。頭にはベレー帽を被り、大きなサングラスで顔を隠していた。よく見ないと、女だとわからない。しかし、ベレー帽の下から伸びた長い黒髪は、間違いなく麗奈のものだった。
 良助を認めて、ピョコと頭を下げた麗奈は、物も言わないままに、良助の腕を引っ張って、表通りのほうへ歩き出した。
 「あんなところ、いつまでもいると危ないから」
 麗奈が入っていったのは、表通りに面して明々と明かりを灯しているカフェだった。
 「おなか空いた。何か、食べてもいい?」
 「ああ、ボクも少し、ハラが減ってたところだから」
 麗奈のおすすめで、チキンバーガーを2つとコーヒーを注文した。
 でっぷり太ったウエートレスが、体をユサユサと揺すりながらキッチンのほうに立ち去ると、「フーッ」とひと息ついて、麗奈がサングラスを外した。
 麗奈の顔は、少し太ったように見えた。頬やあごの肉付きはよくなったが、目の下は少し窪んで見える。太ったのは、アメリカという国の高脂肪な食生活のせいだろうが、目の下の窪みは、その生活がすさんでいることを物語っている。
 「こんなところまで、取材に来るなんて、物好きだね、内村さんも」
 サングラスをテーブルの上に置いた麗奈が、良助の顔をのぞき込みながら、目の縁に力のない笑みを浮かべた。

          

 「メモしといたけど、見なかった?」
 「私を迎えに来た――って?」
 「そう書いたつもりだけど……」
 「だから、私は、帰らないって。日本での最後の夜に言ったでしょ? もし、私にこの仕事を辞めろって言える人がいたら、それは……」
 「なったんだよ」
 「エッ……?」
 「なったんだよ、キミに辞めろって言える男に」
 「だって、内村さん、奥さんと子どもが……」
 「別れた」
 「エーッ!?」
 「あちらさんは、いま、ニューヨーク。こっちで、翻訳の仕事をするんだってさ」
 「じゃ……」
 「だから、キミを迎えに来た」
 麗奈は、テーブルの上のサングラスを手に取ると、それを再び顔にかけた。
 その手が少し震えていた。
 しばらく、言葉が返って来なかった。
 その目にどんな色が浮かんでいるかも、濃いサングラスの色に隠れてわからなかった。
 それは、でっかいチキンバーガーがドンとテーブルの上に置かれるまでの、ほんの短い時間のことだった。
 麗奈があわててかけたサングラスの縁から、ひと筋、水が流れ落ちた。
 きっと、その水は、しょっぱいはずだ。

 翌日、麗奈は、プロダクションとの契約を解約した。
 契約期間中の解約なので、違約金を支払わされたが、それくらいの蓄えは麗奈にもあった。
 その数日後、日本を出たときと同じスーツケースひとつの軽装で、麗奈は待ち合わせの空港にやって来た。
 TWAの銀色の翼が、良助と麗奈を日本に運んだ。

       

 翌年、良助と麗奈の間に、子どもが生まれた。
 麗奈によく似た、目の大きな女の子だった。
 良助は、『スポタイ』を辞めて、いまは小さな出版社で、月刊誌の編集の仕事に就いている。
 別れた妻は、ニューヨークで向こうの編集者と再婚して、ニューヨーク郊外の戸建住宅で、そこそこいい生活をしているようだ――と、風の便りが教えてくれた。
 麗奈との間に生まれた子どもは、小学校に上がる年齢になった。
 どこかの劇団が、うちの劇団にどうか――と打診してきたこともあったが、良助も、麗奈も、その誘いを断った。
 自分たちの子どもにだけは、「虚」の世界を歩ませたくない。
 ふたりとも、心に固く決めていたからだ。

第8話『キャット・ファイター』これにて《完》です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。



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