自伝的創愛記〈20〉 彼女の腰で回る希望

老犬自伝的エッセイ 「創愛記」
 第20章  


クラスに出て来ない美智子を
ボクと田口は見舞いに行った。
玄関から出て来た美智子は
ボクたちを屋上に誘った――。


 林田美智子は、校区の外れの市営団地に住んでいた。
 4号棟の1階4号室。
 ボクと田口は、学級名簿を頼りに美智子の家を探し当てた。
 「オッ、表札に林田ってあるばい。オッ、美智子の名前も載っちょる」
 田口がうれしそうに声を挙げた。
 表札の横に、白いプレートがはめ込まれ、中央に黒いボタンがついていた。押すとブザーが鳴るらしい。ボクと田口は、目と目を合わせて、「おまえが押せ」「いや、おまえが押せ」と、小さな逡巡を押し付け合った。
 ボクも、田口も、それまで、美智子と親しく声を交わし合ったことなどなかった。
 林田美智子は、どちらにとっても「憧れの存在」だったが、「憧れ」であるがゆえに、「仲よし」にはなれない存在。遠巻きに眺めているしかない存在だった。
 ブザーを押すことによって、ボクたちは、その「遠巻き」の立ち位置から、一歩、踏み出すことになるのかもしれない。
 その惧れがボクの指をためらわせたのだが、「おまえ、級長やろ。押せよ」と田口に肩を押されてブザーを押した。
 「ハイ、どちらさま?」
 おとなの、落ち着いた女性の声がした。
 「6年2組の重松と田口です。お見舞いにうかがいました」
 「あら」と声がして、ドアがガチャリと開けられた。
 背の高い、きれいなお母さんだった。
 ロシアかどこかの貴婦人のような彫りの深い顔立ち。その深い顔立ちの中で、ボクたちを不思議そうに見つめる大きな目の輝き。
 ボクは確信した。林田美智子の、あのかわいさは、この母親の血を受け継いだのに違いない。
 「美智子ォ。おると?」
 お母さんが奥の部屋に声をかけると、中から「おるよォ」と声がした。
 その声が明るく元気そうなことに、ボクも田口も顔を見合わせて、安堵の視線を交わし合った。
 「お友だちが、お見舞いゆうて来とらっしゃるちゃ。どげする?」
 「だれ?」と小さな声がした。
 「重松さんと田口さん。××××やろ?」
 「ふたり、×××したとやろか?」
 「それは、××××」
 声を低めて話をしているので、美智子と母親が何を話しているのかは、よく聞き取れなかった。
 しばらくして、奥の部屋の襖が開く音がして、美智子が玄関に出てきた。

            

 美智子は、少し頬がこけたように見えた。
 しかし、痩せたというのでもない。
 元々深かった顔の彫りが、一層深くなり、そのせいか、美智子がちょっとおとなになったような気がした。
 「思ったより元気そうやな」
 田口の言葉に、美智子は「そォ?」というふうに首を傾げ、それから、ボクの顔、田口の顔を交互に見上げた。
 しかし、母親の後ろからボクたちを見上げる美智子の目には、先生のビンタにも毅然と胸を張ったときのような強い光はなかった。巣から顔を出して外界を眺めるひな鳥のような、どこかおどおどとした好奇心を漂わせる視線を感じて、ボクは少し、ドキッとした。
 「風邪、もういいと?」
 ボクが尋ねると、美智子は怪訝そうな顔をした。
 「風邪? 先生がそう言うたん?」
 「ボクが訊いたら、そう言いよった」
 「そうね……」
 美智子は、視線を床に落として口をつぐみ、力なく肩を揺らした。
 「あ、そうや。これ、渡しといてくれ――て、先生に言われた。卒業文集できたんやて」
 「フーン」とボクが渡した文集を受け取ると、美智子はそれを下駄箱の上にポイと置いた。すぐにでも目を通したいというほどには、興味を持たなかったようだ。「それよりも」という目でボクを見て、美智子が訊いたのは、別のことだった。
 「それで、行って来いて言うたん、先生が?」
 「あ、それは……」と、田口が答えそうになるのを、ボクは目で制した。
 「いや、ボクらが見舞いに行ってもいいか――て訊いたら、先生が、それやったら、文集が刷り上がっとるけん、持っていってくれて」
 「そうね……」とつぶやいた美智子が、口の中で「なら、よか」と言ったように、ボクには感じられた。
 何が「よか」なのか、そのときのボクには、さっぱり、見当がつかなかったが、「よか」と口にした美智子は、少し表情を緩めて言うのだった。
 「ネ、屋上に行かん?」
 「いいやろ?」と母親の顔を見てつっかけに足を通すと、美智子は、玄関に置いてあった大きな丸い輪を手にした。
 「なんね、それ?」
 「フラフープたい。知らんと?」
 「初めて見た」
 「教えちゃるけん」
 「寒いけん、これ着て行きんしゃい」と、母親が投げてよこしたカーディガンに腕を通しながら、美智子は団地の階段を駆けるように上がっていった。
 その足取りは、とても病人のようには見えなかった。

            

 いい天気だった。
 一月とは思えない暖かな陽差しが、団地の屋上に照りつけ、給水タンクの上に停まった雀が、のんきに鳴き声を挙げていた。
 美智子は、陽射しに向かって、「ウーン」と胸を反らし、持ってきたフラフープに体を通した。道子が腰を回転させると、その輪は、道子の腰の周りで回転を始めた。
 クルクルと回る輪の中心で美智子の腰がくねる様子を、ボクたちは感心しながら眺めていた。
 「うまいなぁ……」
 感嘆の声を挙げる田口の横で、ボクは、不思議な感覚に捕らわれていた。
 輪の中心にある道子の腰が、ボクたちの及び知らない別次元のもののように見えた。
 そして、美智子の腰の周りを回っているものは、ボクには、全力で回転する「希望」のコマのように見えた。 
 道子のスカートをなびかせる海からの風も、そのスカートの花柄を照らし出す陽光も、給水タンクの上でさえずる雀も、すべてがそこにある何かを祝福しているように思えて、ボクは、口をポカンと開けたまま、道子の姿を眺めていた。



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