自伝的創愛記〈19〉 プレゼントがトラウマになった日

第19章
クリスマスのシーズンになった。
班で劇を発表し、プレゼントを
交換し合う。しかし、ボクの
プレゼントは彼女に笑われた。
12月になると、ボクたちの毎日は忙しくなった。
冬休み前には、クラスでクリスマス会が行われる。クラスを4つの班に分けて、それぞれの班で劇を発表し合い、フォークダンスを踊って、プレゼントの交換会を行う。
ひとつだけ、ボクには苦手なものがあった。
家族の間でプレゼントをもらったり、あげたりという習慣のなかった家に育ったボクには、人に何か気の利いたものをプレゼントする――というセンスがなかった。家の中を探しても、プレゼントにできそうな小物は見当たらない。
「何かなかね?」と母親に尋ねてもみたが、「うちには何もなかけんねェ」と顔を曇らせるばかりだ。
どうしたものか――と困り果てていると、「そうたい」と言って、母親が冷蔵庫の扉を開けた。
「きのう、お父さんが買うてきたケーキが、ひとつ、残っとるばい。あれ、持っていきんしゃい」
エーッ、ケーキ……と思った。そんな生ものをプレゼントにしたりしたら、もらった人間はどう思うだろう?
しかし、ボクの不安をよそに、母親は、「ちょうどいい箱があったばい」と、天袋にしまってあった小箱を取り出し、それにケーキを入れて、「リボンもあるばい。これ、かけといちゃろうか?」と、何やら、自分の発見に満足げな様子だ。
それを「要らん」と断る勇気は、ボクにはなかった。

翌日、ボクは母親が用意したプレゼントを手に、クラスのクリスマス会に出かけた。班ごとの劇が終わり、みんなで輪になって『オクラホマ・ミキサー』を踊ると、その輪のまま、みんなが手にしたクリスマス・プレゼントを左回りに手渡ししていくプレゼント交換になった。
『ジングル・ベル』の曲に合わせて、人から人へと手渡しされていくプレゼント。曲が終わったところで、「ストップ」となり、そのとき手にしたプレゼントが、自分のものになる。
ボクは、気が気じゃなかった。みんなが用意したプレゼントは、曲に合わせて、上へ下へと揺すられる。中には、「何が入っているんだろう?」と、箱を揺すってみる者もいる。
あんなことしちゃ、ケーキはグチャグチャになってしまうだろうなぁ――と心配していると、曲が終わって「ストップ」の声がかかった。
ボクのケーキは、だれの手に渡ったんだろう?
キョロキョロと探していると、輪の片隅から「好か~ん!」という声がした。声の主は、林田美智子だった。
冬休み前には、クラスでクリスマス会が行われる。クラスを4つの班に分けて、それぞれの班で劇を発表し合い、フォークダンスを踊って、プレゼントの交換会を行う。
ひとつだけ、ボクには苦手なものがあった。
家族の間でプレゼントをもらったり、あげたりという習慣のなかった家に育ったボクには、人に何か気の利いたものをプレゼントする――というセンスがなかった。家の中を探しても、プレゼントにできそうな小物は見当たらない。
「何かなかね?」と母親に尋ねてもみたが、「うちには何もなかけんねェ」と顔を曇らせるばかりだ。
どうしたものか――と困り果てていると、「そうたい」と言って、母親が冷蔵庫の扉を開けた。
「きのう、お父さんが買うてきたケーキが、ひとつ、残っとるばい。あれ、持っていきんしゃい」
エーッ、ケーキ……と思った。そんな生ものをプレゼントにしたりしたら、もらった人間はどう思うだろう?
しかし、ボクの不安をよそに、母親は、「ちょうどいい箱があったばい」と、天袋にしまってあった小箱を取り出し、それにケーキを入れて、「リボンもあるばい。これ、かけといちゃろうか?」と、何やら、自分の発見に満足げな様子だ。
それを「要らん」と断る勇気は、ボクにはなかった。

翌日、ボクは母親が用意したプレゼントを手に、クラスのクリスマス会に出かけた。班ごとの劇が終わり、みんなで輪になって『オクラホマ・ミキサー』を踊ると、その輪のまま、みんなが手にしたクリスマス・プレゼントを左回りに手渡ししていくプレゼント交換になった。
『ジングル・ベル』の曲に合わせて、人から人へと手渡しされていくプレゼント。曲が終わったところで、「ストップ」となり、そのとき手にしたプレゼントが、自分のものになる。
ボクは、気が気じゃなかった。みんなが用意したプレゼントは、曲に合わせて、上へ下へと揺すられる。中には、「何が入っているんだろう?」と、箱を揺すってみる者もいる。
あんなことしちゃ、ケーキはグチャグチャになってしまうだろうなぁ――と心配していると、曲が終わって「ストップ」の声がかかった。
ボクのケーキは、だれの手に渡ったんだろう?
キョロキョロと探していると、輪の片隅から「好か~ん!」という声がした。声の主は、林田美智子だった。
「ケーキ、グチャグチャになっとぉ」
「ケーキとか入れとったと? 何、考えとっちゃろうね、この子?」
周りの女の子も、ボクの小箱をのぞき込んで、口々に「センスわるい」だの「バッカじゃないの?」だのと笑い合っている。
顔から火が出るほど恥ずかしくなって、ボクは、それが自分が出したプレゼントであることを口にできなくなった。
その日以来、ボクにとって、プレゼントは「苦手科目」のひとつになった。それは、いまにいたるまで、続いている。

ボクのプレゼントを「好か~ん」と笑ったミッチーは、正月が過ぎ、冬休みが終わっても、学校に出て来なかった。
新学期が始まって1週間経っても、ミッチーの席は、空席のままだった。
級長であるボクのところには、級友たちからも「林田、どうしたとやろ?」という声が集まってくる。そういう声をまとめて教師に届けるのも、ボクの役目だった。
「林田クン、病気にでもなったとですか?」
尋ねると、教師からは、素っ気ない返事が返ってきた。
「風邪でも引いたっちゃないとか?」
先生、冷たすぎるんじゃないか――と、ボクは思った。
ホントに何もしなくていいのかと思っていると、「オウ、そうや」と、先生は思いついたように言った。
「おまえ、これを林田の家に持って行って、ついでに様子を見て来てくれや」
ポンと投げてよこしたのは、刷り上がったばかりの卒業文集だった。
「副級長も一緒に連れて行っていいですか?」
「好きにしろ」
ボクは副級長の田口を誘って、林田美智子の住む市営住宅を訪ねることにした。(続く)
「ケーキとか入れとったと? 何、考えとっちゃろうね、この子?」
周りの女の子も、ボクの小箱をのぞき込んで、口々に「センスわるい」だの「バッカじゃないの?」だのと笑い合っている。
顔から火が出るほど恥ずかしくなって、ボクは、それが自分が出したプレゼントであることを口にできなくなった。
その日以来、ボクにとって、プレゼントは「苦手科目」のひとつになった。それは、いまにいたるまで、続いている。

ボクのプレゼントを「好か~ん」と笑ったミッチーは、正月が過ぎ、冬休みが終わっても、学校に出て来なかった。
新学期が始まって1週間経っても、ミッチーの席は、空席のままだった。
級長であるボクのところには、級友たちからも「林田、どうしたとやろ?」という声が集まってくる。そういう声をまとめて教師に届けるのも、ボクの役目だった。
「林田クン、病気にでもなったとですか?」
尋ねると、教師からは、素っ気ない返事が返ってきた。
「風邪でも引いたっちゃないとか?」
先生、冷たすぎるんじゃないか――と、ボクは思った。
ホントに何もしなくていいのかと思っていると、「オウ、そうや」と、先生は思いついたように言った。
「おまえ、これを林田の家に持って行って、ついでに様子を見て来てくれや」
ポンと投げてよこしたのは、刷り上がったばかりの卒業文集だった。
「副級長も一緒に連れて行っていいですか?」
「好きにしろ」
ボクは副級長の田口を誘って、林田美智子の住む市営住宅を訪ねることにした。(続く)
筆者の初官能小説! 電子書店から発売中です!
盆になると、男たちがクジで「かか」を交換し合う。
明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
筆者初の官能作品、どうぞお愉しみください。
2020年9月発売 定価:200円 発行/虹BOOKS
⇒Kindle でお読みになる方は、ここをクリック。
⇒BOOK☆WALKER からお読みになる方は、ここをクリック。
既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。






明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
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クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
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ある日、その秘密を知った??。
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