自伝的創愛記〈18〉 添い寝の教室

第18章
ビンタで教室を支配する青田は、
よく、教室に泊まる先生だった。
その先生の寝床に潜り込んで、
添い寝する女の子がいた――。
ケイコに代わって先生の秘書席に座ることを命じられたミッチーは、名前を林田美智子といった。
アップリケのついた茶色や赤のスカートからスラリとした脚を伸ばして、スッスッと歩く姿は、どこかすがすがしく、歩く度に肩の上でリズミカルに揺れるおかっぱの髪は、気高さを感じさせて、ボクたち男子の中には、その姿にあこがれに似た感情を抱く者も多かった。
しかし、ミッチーは、そんな男の子のあこがれに愛想で応じるようなタイプの女の子ではなかった。クラスの男子にとっては、好意は抱いても、気軽には声をかけられない。そんな、近くて遠い存在でもあった。
名前を呼べば、「なーに?」と腰を振り振りやって来るケイコとは、そこらへんがちょっと違った。
ケイコが先生の首の「抱きつきっ子」になるのは、ボクたちにも想像がついたが、林田美智子までもがその列に加わったことは、意外だった。しかも、青田教師は、どちらかと言うと、ミッチーの「抱きつき」を他のどの子の「抱きつき」よりも、喜んでいるように見えた。
林田美智子が青田先生の秘書役としてかわいがられることになって、ボクには、ひとつだけいいこともあった。
級長として何かと教室の雑用などを言いつけられるボクは、同じように仕事を言いつけられるミッチーと、放課後を一緒に過ごすことが増えた。
教室の後ろの壁一面に、生徒たちが描いた絵を貼り出す作業、授業に使う図やクラスの行事スケジュール、注意事項などを模造紙に書いて貼り出す作業。そういう作業を力を合わせてこなす時間は、ボクにとって、少しドキドキする時間でもあった。
しかし、その時間は、長くは続かなかった。
アップリケのついた茶色や赤のスカートからスラリとした脚を伸ばして、スッスッと歩く姿は、どこかすがすがしく、歩く度に肩の上でリズミカルに揺れるおかっぱの髪は、気高さを感じさせて、ボクたち男子の中には、その姿にあこがれに似た感情を抱く者も多かった。
しかし、ミッチーは、そんな男の子のあこがれに愛想で応じるようなタイプの女の子ではなかった。クラスの男子にとっては、好意は抱いても、気軽には声をかけられない。そんな、近くて遠い存在でもあった。
名前を呼べば、「なーに?」と腰を振り振りやって来るケイコとは、そこらへんがちょっと違った。
ケイコが先生の首の「抱きつきっ子」になるのは、ボクたちにも想像がついたが、林田美智子までもがその列に加わったことは、意外だった。しかも、青田教師は、どちらかと言うと、ミッチーの「抱きつき」を他のどの子の「抱きつき」よりも、喜んでいるように見えた。
林田美智子が青田先生の秘書役としてかわいがられることになって、ボクには、ひとつだけいいこともあった。
級長として何かと教室の雑用などを言いつけられるボクは、同じように仕事を言いつけられるミッチーと、放課後を一緒に過ごすことが増えた。
教室の後ろの壁一面に、生徒たちが描いた絵を貼り出す作業、授業に使う図やクラスの行事スケジュール、注意事項などを模造紙に書いて貼り出す作業。そういう作業を力を合わせてこなす時間は、ボクにとって、少しドキドキする時間でもあった。
しかし、その時間は、長くは続かなかった。

小学校6年の2学期。
小学校で過ごす時間は、あまり多くは残っていない。6カ月後には、ボクたちは、詰襟やセーラー服などの制服に身を包んで、おとなへの階段を一段、上っていくことになる。クラスの中には、受験に追われている者もいた。
青田先生は、クラスの成績優秀者を私立中学に進学させようとしていた。男の子は、市内有数と言われていた受験校に、女の子は、お嬢さん校として知られたミッション系の学校への進学を勧め、男子2名、女子4名がその進路を選んだ。林田美智子もミッションへの進学を決めていた。
ボクも先生からは学芸大学付属中学への進学を勧められていたが、後から聞いたことでは、「うちの子は、普通の中学に進ませます」と母親が教師に答えたらしく、「重松、おまえは、受験せんでもよか」と、後に教師から宣告された。
普通に市立中学への進学を選んだボクは、クラスの男の子たちからは、「中学校でも一緒やな」と、おおむね歓迎されたようだった。
10月になると、学芸会の準備が始まり、ボクたちのクラスからは、5年春の予餞会でもやった『ベニスの商人』を上演することになった。「またやると?」という声もあったが、キャストに重大な変化があった。
春には、ケイコが演じたヒロイン・ポーシャの役を、今度は、ミッチーが演じることになった。ケイコには、もう、それに抗議する力は残っていないように見えた。

11月の学芸会が終わると、ボクたちは、卒業文集の制作にとりかかった。
クラスの生徒たちから集めた作文をガリ版(鉄製のヤスリ上の板)と鉄筆で原紙(パラフィンでできた凹版印刷用の紙)に切り、それを謄写版印刷機(シルクスクリーンを貼った印刷機)にかけて、インクをまぶしたローラーでローリングして、半紙に印刷していく。
この鉄筆で筆耕していく作業に手間がかかるので、文集制作係は、日曜日も教室に出てガリ版と向き合うことになった。
ボクたちが学校に出て作業をする日には、先生も、たいていは教室に出てきて、ボクたちに作業を指示した。
教師・青田は、よく教室に泊まる先生だった。宿直の日はもちろんだが、テストの採点をする日とか、生徒たちの作文を添削する日とか、授業参観などの行事の前の日とかには、よく教室に泊まった。学校には宿直室もあったが、先生はその宿直室は使わず、教室の机を並べ、その上に布団を敷いて寝ることがよくあった。
女の子たちの中には、その布団の中に潜り込んで「添い寝」しようとする子もいた。林田美智子も、そのひとりだった。
「おい、カギかかっとるゾ!」
その日曜日、ガリ版切りのために教室に入ろうとした男子のひとりが、教室の引き戸をガチャガチャと言わせながら叫んだ。
「先生、寝とるっちゃないや?」
「ちょっと見てみるけん、肩車して」
健二が、ボクの肩にまたがって、廊下の天窓から中をのぞいて、「ワッ!」と声を挙げた。
「どうした?」
「先生が寝とぉ。おなごと寝とぉ」
健二の声を聞いて、卓が教室の戸をドンドンと叩いた。
「センセイ、センセェー。ガリ版切りに来ましたぁ~!」
卓の大声に、中から「オーッ」と声がした。
「いま開けちゃるけん、待っとれ」
中でゴソゴソと音がして、何人かが床に飛び降りる音がした。
ひとりは、高木由美。そしてもうひとりは、林田美智子だった。
「あいつら、先生の布団にまで潜りこんどるんか?」
健二がいまいましそうに言う。
日曜日、先生の布団から這い出した女の子。そのひとりが、教室に出て来なくなった理由を、ボクたちは、まだ、想像すらしていなかった。
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