自伝的創愛記〈17〉 先生の覇権と女王の交代

第17章
ビンタで教室を支配する教師が、
よくやったのが「席替え」だった。
席を替われと命じられた女子の
ひとりが「イヤーッ」と泣き始めた――。
「みんな、席替えやるゾ!」
その朝、教壇に立った青田先生が、いきなり言い出した。
手に持った白いペーパーを頭の上に翳して、ヒラヒラさせながら、教室の全員の顔を見回す。
青田という教師には、そうやってボクたちの不安を煽っては、ボクたちが見せる反応を愉しむようなところがある。クラスの男子のうち、少なくとも5~6人は、教師のそういう性質を見抜いて、陰で「また、先生、思いつきやっとおで」と冷笑したりしていたのだが、女子には、それを本気で受け取って、笑ったり、怒ったり、泣いたりする子が多かった。
席替え表と思われる半紙を手にした青田先生は、鼻歌交じりで黒板に向かい、チョークで横6×縦8の升目を黒板に書き出して、ひとりひとりの名前を読み上げては、「おまえは〇列の〇番」と発表していく。
その度に、生徒たちは、「エーッ」とか「オーッ」という反応を見せる。先生は、そんな反応を面白がっている――と、ボクたちの目には映った。
「先生、ああやって、オレたちばいじめとっちゃないか」
男子生徒の間では、そうささやく声もあった。
そんなときだった。
その朝、教壇に立った青田先生が、いきなり言い出した。
手に持った白いペーパーを頭の上に翳して、ヒラヒラさせながら、教室の全員の顔を見回す。
青田という教師には、そうやってボクたちの不安を煽っては、ボクたちが見せる反応を愉しむようなところがある。クラスの男子のうち、少なくとも5~6人は、教師のそういう性質を見抜いて、陰で「また、先生、思いつきやっとおで」と冷笑したりしていたのだが、女子には、それを本気で受け取って、笑ったり、怒ったり、泣いたりする子が多かった。
席替え表と思われる半紙を手にした青田先生は、鼻歌交じりで黒板に向かい、チョークで横6×縦8の升目を黒板に書き出して、ひとりひとりの名前を読み上げては、「おまえは〇列の〇番」と発表していく。
その度に、生徒たちは、「エーッ」とか「オーッ」という反応を見せる。先生は、そんな反応を面白がっている――と、ボクたちの目には映った。
「先生、ああやって、オレたちばいじめとっちゃないか」
男子生徒の間では、そうささやく声もあった。
そんなときだった。

「ケイコ、おまえは5列の1番」
先生がその名前を読み上げて、黒板の座席表に「ケイコ」の字を書き込んだそのときだった。
「イヤーッ!」
教室の後ろから、悲鳴のような、泣き叫ぶような声が挙がって、ボクたち男子は、何事か――と、声のする方向を振り返った。
ケイコは、それまで、教室の後ろにしつらえられた先生のデスクの脇に、みんなとは離れて置かれた机に座って、先生に言いつけられる雑務などをこなしていた。言ってみれば、先生の秘書のような役割をこなしていたのだが、指示された「5列の1番」というのは、教壇の真ん前の席。その席替えが実施されると、ケイコは「先生の秘書」という役目を失うことになる。
「ケイコ、首ばい」と、隣に座っていた健二が、首をすくめてクスッと笑った。
肩まである髪を2つ結びのおさげにして、いつも、ピンクのゴムバンドでまとめているまん丸な顔の女の子。男子の中には、そんな彼女を「かわいい」と思う者もいたが、ケイコの関心は、ボクたち同じクラスの男子には、ほとんど向けられていなかった。
ケイコは、腰を振って歩く。同じ年の子には、「あいつ、シナ作っとォ」と見られ、それを嫌うのもいた。
先生の首っ玉に抱きつく回数も、ケイコはだれよりも多かった。抱きつき方も、頬を頬にくっつけるような抱きつき方で、それを見ていたボクたち男子は、「ケイコのやつ、先生にホレとっちゃん」と、冷ややかな目を向けていた。
青田先生は、そういうケイコを自分のデスクの脇に座らせて、あれやこれやと、用事を言いつけていた。その用事を嬉々としてこなすケイコ。「先生も、ケイコをかわいいと思っとるっちゃないや」が、ボクたち男子の見方だった。
そのケイコが席替えを命じられた。それは、「先生の心変わり」を意味していたし、それ故の「女王の交代」をも意味していた。

ボクたちを驚かせたのは、「交代」を命じられたケイコが挙げた「イヤーッ!」という悲鳴と、その後に見せた狂乱とも見える態度だった。
「ケイコ、おまえの席はこっちだ。荷物をまとめて移動しろ」
先生が、教壇の前の席を指差しながら、厳しい声で言うと、ケイコはまたも「イヤーッ!」と叫んで、両手で机の両端をつかみ、「イヤ、イヤ、イヤーッ」と首を振る。
「そんなにイヤか?」
「イヤーッ!」
「先生の言うことが聞けんのやったら、転校せぇや。転校手続きの書類、書いてやるけん、親のハンコ、もろうて来い!」
エッ……と、ボクたちは顔を見合わせた。
先生、そんなことまで言うんか――という「エッ」だった。
先生が勝手に生徒に転校を命じるなんてことができるはずがない。それくらいのことは、クラスの成績上位の男子にはわかっていた。
先生もメチャクチャ言いよる。あれは、暴君ばい――と、ボクたちは思ったが、女の子たち、特に先生にまとわりつく「抱きつきっ子」たちは、そんなことを考えもしていないように見えた。ただ、暴君が見せる感情の起伏に一喜一憂するばかり。そんな女の子たちを、ボクたちはどこかで「バカやのう」という目で見ていた。
「転校させるゾ」と恫喝されたケイコは、涙を拭き拭き荷物をまとめると、指定された5列の1番に移った。
代わりに、先生の「秘書席」に座ったのは、ミッチーだった。
しかし、それが不幸の始まりとなることを、そのとき、ボクたちはだれも想像していなかった。
筆者初の官能小説、電子書店から発売しました!
盆になると、男たちがクジで「かか」を交換し合う。
明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
筆者初の官能作品、どうぞお愉しみください。
2020年9月発売 定価:200円 発行/虹BOOKS
⇒Kindle でお読みになる方は、ここをクリック。
⇒BOOK☆WALKER からお読みになる方は、ここをクリック。
既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。






明治半ばまで、一部の地域で実際に行われていた
「盆かか」と呼ばれる風習。本作品は、その風習を
題材に描いた官能フィクションです。
与一の新婚の妻・妙も、今年は、クジの対象になる。
クジを引き当てたのは、村いちばんの乱暴者・権太。
三日間を終えて帰って来た妙は、その夜から、
様子が変わった。その変化に戸惑う与一は、
ある日、その秘密を知った??。
筆者初の官能作品、どうぞお愉しみください。
2020年9月発売 定価:200円 発行/虹BOOKS
⇒Kindle でお読みになる方は、ここをクリック。
⇒BOOK☆WALKER からお読みになる方は、ここをクリック。
既刊本もどうぞよろしく 写真をクリックしてください。

管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。



→このテーマの記事一覧に戻る →トップメニューに戻る
- 関連記事
-
- 自伝的創愛記〈18〉 添い寝の教室 (2020/11/24)
- 自伝的創愛記〈17〉 先生の覇権と女王の交代 (2020/10/29)
- 自伝的創愛記〈16〉 先生のお気に入り (2020/09/05)