自伝的創愛記〈16〉 先生のお気に入り

第16章
そのクラスでは、女の子たちは、
何かと先生の首に抱きついた。
先生にはそうやって女の子たちを
引き寄せてしまう何かがあった。
小学校時代の最後を過ごしたその学校のそのクラスに転入してきて、ボクがもっとも驚いたのは、女の子たちが、先生に抱きつく――という光景だった。
小学校は、それが3校目だったが、それまでの学校で、女の子が先生に抱きつくなんていう光景は、見たことがなかった。少なくとも、「若い男の先生」になどというのは、想像もできないことだった。
しかし、そのクラスでは、女の子たちは、競い合うように先生の首っ玉に抱きついた。休み時間になると、教室の後ろに据えられた先生の机の周りに何人かの女の子たちが集まって、だれかが「先生~ぃ」と首っ玉にすがりつけば、だれかはその腕にまとわりつく――という感じで、その様子は、まるでボスざるに群がるメスざるの群れのように見えた。
「このクラスの女子はおかしい」と、ボクたち男子は感じていたが、しかし、何が彼女たちをそうさせるかについては、ボクらは、ほんとうのところはわかっていなかった。
ただ、ひとつだけ学んだことがあった。
女の子は、力を持って自分を支配しようとしてくる人間に、心を奪われてしまう生きものなんだ。
それを知って、自分も力をつけようと思った男の子もいた。
力に対抗する術を身に着けようと、知恵を磨こうとする男の子もいた。
どちらもできない男の子は、先生にすり寄ることによって、そのおこぼれにあずかろうとした。
ボクはそのどれでもなかったような気がする。
クラスの中でボクが取った行動は、「ウケねらい」だった。
周りから「重松クン、面白い」と言われる行動をとることによって、ボクは「勉強はできるけど三枚目」という地位を確保していった。
おかげでボクは、人気者という立場を得ることはでき、級長選挙や生徒会長選挙などでは、高得票で選ばれたし、学芸会では、いつも目立つ役を与えられはした。
しかし、それで女の子たちが寄ってくるかと言うと、そうはならなかった。
クラスには、好きな女の子も何人かいたが、彼女たちはほぼ全員、先生の「抱きつきっ子」だった。

青田先生には、きっと女の子を引き付けてしまう何かがあるに違いない――と、ボクたち男子はニラんでいたが、それが何であるかについては、見当がついていなかった。
まだ20代前半の若い教師。体形はシュッとしていて、脚も長い。広い額の下では、鋭い眼光を放つ瞳が、ときに険しくボクたちを睨みつけ、ときに柔和にボクらを見回す。
鋭い眼光でボクらにビンタをふるって震え上がらせたかと思うと、「よし、フォークダンスしよう」と、突然、言い出し、机を寄せて教室に広場を造り出し、ポータブル電蓄で『オクラホマ・ミキサー』をかける。
アメとムチ……。女の子たちが先生にまとわりつくのは、そのせいじゃないか――とも思ったが、確信はなかった。
小学校は、それが3校目だったが、それまでの学校で、女の子が先生に抱きつくなんていう光景は、見たことがなかった。少なくとも、「若い男の先生」になどというのは、想像もできないことだった。
しかし、そのクラスでは、女の子たちは、競い合うように先生の首っ玉に抱きついた。休み時間になると、教室の後ろに据えられた先生の机の周りに何人かの女の子たちが集まって、だれかが「先生~ぃ」と首っ玉にすがりつけば、だれかはその腕にまとわりつく――という感じで、その様子は、まるでボスざるに群がるメスざるの群れのように見えた。
「このクラスの女子はおかしい」と、ボクたち男子は感じていたが、しかし、何が彼女たちをそうさせるかについては、ボクらは、ほんとうのところはわかっていなかった。
ただ、ひとつだけ学んだことがあった。
女の子は、力を持って自分を支配しようとしてくる人間に、心を奪われてしまう生きものなんだ。
それを知って、自分も力をつけようと思った男の子もいた。
力に対抗する術を身に着けようと、知恵を磨こうとする男の子もいた。
どちらもできない男の子は、先生にすり寄ることによって、そのおこぼれにあずかろうとした。
ボクはそのどれでもなかったような気がする。
クラスの中でボクが取った行動は、「ウケねらい」だった。
周りから「重松クン、面白い」と言われる行動をとることによって、ボクは「勉強はできるけど三枚目」という地位を確保していった。
おかげでボクは、人気者という立場を得ることはでき、級長選挙や生徒会長選挙などでは、高得票で選ばれたし、学芸会では、いつも目立つ役を与えられはした。
しかし、それで女の子たちが寄ってくるかと言うと、そうはならなかった。
クラスには、好きな女の子も何人かいたが、彼女たちはほぼ全員、先生の「抱きつきっ子」だった。

青田先生には、きっと女の子を引き付けてしまう何かがあるに違いない――と、ボクたち男子はニラんでいたが、それが何であるかについては、見当がついていなかった。
まだ20代前半の若い教師。体形はシュッとしていて、脚も長い。広い額の下では、鋭い眼光を放つ瞳が、ときに険しくボクたちを睨みつけ、ときに柔和にボクらを見回す。
鋭い眼光でボクらにビンタをふるって震え上がらせたかと思うと、「よし、フォークダンスしよう」と、突然、言い出し、机を寄せて教室に広場を造り出し、ポータブル電蓄で『オクラホマ・ミキサー』をかける。
アメとムチ……。女の子たちが先生にまとわりつくのは、そのせいじゃないか――とも思ったが、確信はなかった。

先生の首に抱きつき、腕にぶら下がる女の子たちは、クラスの女子の4分の1程度。その顔ぶれは、だいたい決まっていた。
常時4~5人、多いときで6、7人。

青田先生は、そうして自分に抱きついてくる女の子の中のひとりを、自分のデスクの横にみんなと離れて机を置かせ、プリントをみんなに配らせたり、採点したテストを配らせたり……という仕事を手伝わせた。
「抱きつきっ子」たちにとって、その席に座ることは「先生のお気に入りナンバーワン」の座を手にすることでもあった。
最後に、その席に座ったのは、いつも「ミッチー」と呼ばれている女の子だった。
おかっぱがよく似合う、目の大きな女の子で、同年齢の男の子にとっては、とても手が届かないと感じる、おとなっぽい魅力も漂わせる女の子だった。
6年の2学期が始まって間もない日、教師・青田の発したひと言が、その悲劇の始まりだった。(続く)
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