処刑人ピートの憂鬱〈2〉 フランス軍を奮い立たせた女

第5話 処刑人ピートの憂鬱 2
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
彼女がオレたちイギリス軍の前に
立ちはだかったのは、1429年5月
だった。彼女が、前線に立って以来、
フランス軍は連戦連勝。しかし、
その身は囚われて——。

ここまでのあらすじ オレが警備を命じられたのは、あの女、審判で「魔女」であると断じられフランス娘の火刑だった。オレたちをさんざん手こずらせた女の体が炎に包まれる直前、女はオレたちに、「十字架を」と懇願した。この女が魔女? オレには、どう見てもそうは見えなかった――
あの女がオレたちの前に姿を現したのは、1429年5月4日のことだった。
その頃、オレたちはオルレアンを包囲していた。臆病者のジャン・ド・デュノワ(注・オルレアン公シャルルの異母弟で、オルレアンを守備するフランス軍を指揮していた)は、城門を閉ざして閉じこもり、いっさい、積極的な攻撃を仕掛けてこなかった。
フランス野郎は、どいつも、こいつも腰抜けだ。
オレたちは、正直言うと、連中をなめきっていた。
ところが、そこへあの女がやってきた。
あの女は、「イングランド軍を駆逐して、王太子シャルルをフランス王位につけよ!」という啓示を受けた――と、王太子シャルルを説き伏せ、自分に軍の指揮を執らせてほしいと願い出た。
あの女は、甲冑に身を包み、自ら旗を手に軍の戦闘に立って城門から撃って出た。
女がオルレアンに到着したのは4月29日だったが、その5日後の5月4日には、オルレアン郊外のサン・ルー要塞を攻め落とし、その翌日、5月5日には、放棄されたままだったサン・ジャン・ル・ブラン要塞を占拠した。
何だ、あいつは?――と、オレたちは思った。
あいつが、旗を手に先頭に立つようになってから、フランス軍は勢いづいたように見えた。まるで魔物にでも取りつかれたように、遮二無二、オレたちの部隊に突進してくる。
イギリス軍が占領していた拠点は、次々と、勢いづいたフランス軍に奪い返されていった。
その頃、オレたちはオルレアンを包囲していた。臆病者のジャン・ド・デュノワ(注・オルレアン公シャルルの異母弟で、オルレアンを守備するフランス軍を指揮していた)は、城門を閉ざして閉じこもり、いっさい、積極的な攻撃を仕掛けてこなかった。
フランス野郎は、どいつも、こいつも腰抜けだ。
オレたちは、正直言うと、連中をなめきっていた。
ところが、そこへあの女がやってきた。
あの女は、「イングランド軍を駆逐して、王太子シャルルをフランス王位につけよ!」という啓示を受けた――と、王太子シャルルを説き伏せ、自分に軍の指揮を執らせてほしいと願い出た。
あの女は、甲冑に身を包み、自ら旗を手に軍の戦闘に立って城門から撃って出た。
女がオルレアンに到着したのは4月29日だったが、その5日後の5月4日には、オルレアン郊外のサン・ルー要塞を攻め落とし、その翌日、5月5日には、放棄されたままだったサン・ジャン・ル・ブラン要塞を占拠した。
何だ、あいつは?――と、オレたちは思った。
あいつが、旗を手に先頭に立つようになってから、フランス軍は勢いづいたように見えた。まるで魔物にでも取りつかれたように、遮二無二、オレたちの部隊に突進してくる。
イギリス軍が占領していた拠点は、次々と、勢いづいたフランス軍に奪い返されていった。

あいつが、実は、女である――ということを知ったのは、捕縛したフランス軍の兵卒の口を通してだった。
あの女は、進軍中も兵士たちと寝食を共にし、兵士たちと藁の寝床で雑魚寝することもあったという。甲冑を脱いで夜の支度を整える女の、形のいい乳房を目にしたこともあった――と、その兵卒は証言した。
その女が、旗を振って、部隊の先頭に立つ。しかも、その女は、「フランスを救え」の啓示を受け、神の加護を受けている存在だ。
そいつが、年頃のいい女で、美しい胸を甲冑に押し込んで、死をも恐れず部隊の先頭に立つ。そりゃ、男たちは奮い立つわなぁ――と、オレは思った。
その後も、ジャンヌ率いるフランス軍は、連戦連勝を重ねた。
オルレアンを解放すると、6月12日にジャルジョー、6月15日にマン=シュール=ロワール、6月17日にボージャンシー……と、オレたちが占領していた領土を、次々と取り戻していった。
6月18日には、パテーの戦いで、イングランド軍とフランス軍の主力同士がぶつかったが、この戦いで、オレたちのイギリス軍は壊滅的な打撃を受けた。
7月3日には、イギリスと同盟関係を結んでいたブルゴーニュ公国軍が降伏を申し出て、ついに7月16日、ランスはフランス軍に城門を開いた。
シャルル7世の戴冠式が行われたのは、翌17日だった。
女が神の啓示として受けた「シャルルをフランス王位につけよ」は、これでかなえられたことになった。
その後、イギリス軍とフランス軍は数か月間の休戦協定を結んだが、その協定が失効すると、再び、戦闘が再開された。
あれは、戦闘再開後の1430年5月23日のことだった。
あの女が捕虜になった――という知らせが、オレたちの元に届けられた。
コンピエーニュ包囲戦で、援軍として同地に向かったジャンヌが、ブルゴーニュ公国軍の捕虜となってしまった、というのだ。伝えられた話によると、ブルゴーニュ公国軍に6000人の援軍が到着したことを知ったジャンヌは、兵士たちに撤退を命じた。
この撤退作戦の中で、あの気丈なフランス娘は、自らの意思でしんがりを務めたという。撤退作戦のしんがりというのは、タフな任務だ。場合によっては、死を覚悟しなくちゃならない。
その役目を自ら買って出たのはいいのだが、ブルゴーニュ軍に退路を断たれ、包囲され、一矢を受けて落馬したところを取り押さえられた――というのだった。
知らせを聞いたオレたちは、歓声を挙げた。
八つ裂きにしても飽き足りないほどのあの女が、とうとう捕まった。これで、フランスの連中も、意気消沈することだろう。

ふつうなら、こういう場合、捕虜の身内が身代金を払って、その身柄を引き取るところだが、シャルル7世はジャンヌを見殺しにした。シャルルに代わって身代金を払い、その身柄を引き取ったのは、ブルゴーニュの同盟国・イングランドだった。
その目的は……?
オレに言わせれば、憎しみ余るあの女を、地獄へ叩き落とすため――としか考えられない。
イングランドの捕虜となったジャンヌは、イギリス寄りの司教、ピエール・コーションの手で異端審問にかけられることになった。
この異端審問では、さまざまな証言がイギリス側に都合いいように改ざんされた。しかし、ジャンヌは、頭のいい女だった。それを認めず、最後まで「異端ではない」と主張し続ければ、「改悛の情なし」として死罪を免れないところだったが、ジャンヌはあっさりと「異端」を認め、改悛の意を示した。
教会の定めから言って、改悛の意を示し、二度と異端を犯さなければ、死罪を科すことはできない。
そこで、コーションたちは一計を案じた。
異端と断じられたことの中には、ジャンヌの「男装」があったが、コーションたちは、ジャンヌに「二度と男装しない」ことを誓わせ、女装に戻した上で、その身柄をルーアンの城に監禁した。
異端審問中の被告は、ふつうなら、教会の修道院などに収容される。それを、イギリス兵がウジャウジャいる城の中に幽閉し、二度目の審問までの期間を過ごすように命じたのだ。
その監視役を仰せつかったのが、オレたちイギリス兵士だった。
その結果、どういうことが起こるか?
当然、コーションは予測していたはずだった。
オレは、いまでもハッキリ覚えている。
初めてオレたちの城に幽閉されたあの女が、どんな姿で牢獄に放り込まれ、どんな形で鎖につながれたか?
それは、まるでオオカミの檻に、子ウサギを放り込んだようなものだった。
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