処刑人ピートの憂鬱〈1〉 火刑の火は、なぜ、止められた?

第5話 処刑人ピートの憂鬱 1
R18
このシリーズは、性的表現を含む官能読み物です。
18歳未満の方は、ご退出ください。
「処刑を警備せよ」と命令を受けた。
火刑に処せられるのは、あの女。
「魔女」と審判されたあの小娘だった。
火が点けられ、服が焼け落ちると、
なぜか、その火が止められた——。
「おい、ピート。おまえ、処刑の警備につけ。あの女、例の魔女の処刑だよ」
命令を受けたとき、オレは「なんでオレが?」と思った。
オレたちをさんざん苦しめた、フランスの小娘、それが審判で「魔女」と判断され、火刑に処されることになったとき、オレたちは、「やった、これで安心して眠れる」と胸を撫で下ろしたものだった。
しかし、まだこの国には、あの女を信奉する連中がいる。そういう連中が、火刑を妨害するかもしれない。あるいは、女の身柄を取り戻そうとするかもしれない。
そんな事態にならないために。「おまえたち、しっかり警備しろ」と言うのだった。
気が乗らない仕事だったが、命令とあれば仕方がない。
オレは、しぶしぶ、甲冑を身に着けて、広場の任務に就いた。

あの女の体は、火刑台に高々とくくりつけられていた。
オレたちの目よりも高い位置に、女の足がある。
なんで、あんなに高い位置に――と、最初は不思議だった。
その下にうず高く積み上げられた薪。
「十字架を……」と、刑台の上の女が懇願した。
目に見えるところに十字架を立ててほしい――というのだ。
執行官が、「置いてやれ」とあごをしゃくった。
オレは、女が見下ろせる位置に、木で組んだ十字架を立てかけてやった。
女はその十字架を見て、目から涙をあふれさせた。
「主よ、この身を汚せし、すべての罪を許し給え。私は、灰となって、あなたの身許に参ります」
女の震える口が、祈りを唱えると、執行官の合図で、薪に火がつけられた。
薪はパチパチと音を立てて燃え上がり、男装のまま柱にくくりつけられた女の体は、紅蓮の炎に包まれた。
「オ――ッ! ヒ――ッ!」
女の断末魔の叫び声が、広場に響き渡り、取り囲んでいた見物人たちの口から「オーッ」とどよめきの声が上がる。
炎はすぐに、女がまとった服に燃え移り、短く刈りそろえられた女の髪を焼いた。
「ギャ――ッ! ノ――ッ!」
すぐに、その声は聞こえなくなった。
女の服はたちまち焼け落ち、燃え盛る炎が、女の肌を赤くただれさせていく。
そのときだった。
「薪を遠ざけよ!」
執行官の声がとどろいた。
命令を受けたとき、オレは「なんでオレが?」と思った。
オレたちをさんざん苦しめた、フランスの小娘、それが審判で「魔女」と判断され、火刑に処されることになったとき、オレたちは、「やった、これで安心して眠れる」と胸を撫で下ろしたものだった。
しかし、まだこの国には、あの女を信奉する連中がいる。そういう連中が、火刑を妨害するかもしれない。あるいは、女の身柄を取り戻そうとするかもしれない。
そんな事態にならないために。「おまえたち、しっかり警備しろ」と言うのだった。
気が乗らない仕事だったが、命令とあれば仕方がない。
オレは、しぶしぶ、甲冑を身に着けて、広場の任務に就いた。

あの女の体は、火刑台に高々とくくりつけられていた。
オレたちの目よりも高い位置に、女の足がある。
なんで、あんなに高い位置に――と、最初は不思議だった。
その下にうず高く積み上げられた薪。
「十字架を……」と、刑台の上の女が懇願した。
目に見えるところに十字架を立ててほしい――というのだ。
執行官が、「置いてやれ」とあごをしゃくった。
オレは、女が見下ろせる位置に、木で組んだ十字架を立てかけてやった。
女はその十字架を見て、目から涙をあふれさせた。
「主よ、この身を汚せし、すべての罪を許し給え。私は、灰となって、あなたの身許に参ります」
女の震える口が、祈りを唱えると、執行官の合図で、薪に火がつけられた。
薪はパチパチと音を立てて燃え上がり、男装のまま柱にくくりつけられた女の体は、紅蓮の炎に包まれた。
「オ――ッ! ヒ――ッ!」
女の断末魔の叫び声が、広場に響き渡り、取り囲んでいた見物人たちの口から「オーッ」とどよめきの声が上がる。
炎はすぐに、女がまとった服に燃え移り、短く刈りそろえられた女の髪を焼いた。
「ギャ――ッ! ノ――ッ!」
すぐに、その声は聞こえなくなった。
女の服はたちまち焼け落ち、燃え盛る炎が、女の肌を赤くただれさせていく。
そのときだった。
「薪を遠ざけよ!」
執行官の声がとどろいた。

兵士たちが、一斉に薪を遠ざけると、女は身に着けた服をすべて焼き払われた状態で、半焼けの裸身を公衆の目にさらした。
すでに、息はなかった。
「よぉく、見よ! 男の姿をしながら、この者は、女である。女の形も、よく見るがよい。悪魔とむつみしこの者は、もはや乙女ではない」
群衆は、火刑台ににじり寄って、赤く焼けた女の体を、しげしげと眺めた。
女の体を高々とくくりつけたのは、それが目的だったんだ――とわかった。
娘を、処女のまま処刑してはならない。
それは、オレたちの世界に受け継がれてきた不文律のようなものだった。
それに、女が処女のままでは、女を「悪魔に魂を売った異端」として処刑しようとした連中の言い分が立たない。悪魔と交わった娘が、処女であるはずがないからだ。
火刑台の周りに集まった群衆は、その徴を確かめようと、台の上で焼けただれた女の股間を覗き込んだ。
中には、手を伸ばして、女の脚を開かせようとするヤツもいた。
「コラ、触るんじゃない!」
オレたちは、女の体に触れようとする連中を、台の周りから追い払った。
手を伸ばす連中の中には、女の皮膚や体の一部を持ち帰って、復活を願おうとする者もいるかもしれない。「焼けた布きれ一枚とて、持ち帰らせてはならぬ」と、執行官に厳命されていたので、次々に伸ばされる手を、ヤリの柄で叩いて追い払った。
「やっぱり、生娘じゃねぇべ」
「んだ。ありゃあ、悪魔とまぐあった体だべ」
「それにしても、いい体してる。悪魔もよだれ垂らしたんでねか」
口々に下卑た言葉を口にする野次馬の横で、ひざまずいて手を合わせている連中もいた。
しばらくその様子を眺めていた執行官が、「もういいだろう」とばかりに、再び、目配せした。
「もう、おわかりかな。これより、異端者の体を灰にする。皆の者、火刑台より離れよ。火をそれへ!」
再び、燃え盛る薪が、火刑台を取り囲んだ。
人肉の焼ける匂いが、広場に立ち込めた。

フランスを救え! と立ち上がり、オレたちイングランドの軍勢をさんざん手こずらせた19歳の小娘、オルレアンの乙女・ジャンヌの体は、完全に紅蓮の炎に包まれ、黒く焼け焦げ、灰となって崩れ落ちた。
薪は、ジャンヌの体が完全に灰となってしまうまで、4時間にわたって燃やし続けられた。
白い灰になってしまうと、執行官たちは兵士たちに、その灰を「ひと粒残らずかき集めよ」と命じ、集めた灰をセーヌ川に流させた。
オレたちキリスト教徒にとって、それは、もっともむごい仕打ちと言えた。
灰として捨てられた遺体は、二度と「復活」できない。
あの、恐ろしいフランス娘を二度と生き返らせないために――。
この仕打ちは、そのための処置と思われた。
これで、シャルルのやつ(注・ジャンヌの尽力でイギリスからランスを奪還し、「フランス王」として戴冠をすませたオルレアン公・シャルル7世)も、意気消沈するに違いない。
1431年5月30日。
こうして「オルレアンの乙女」は、オレたちの前から、完全に姿を消した。
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