南米の征服者たちは、なぜ、土着化したのか?

1800年代のうちには、南米の植民地は、ほとんどがその宗主国んら独立していった——という話を、前回は紹介しました。その独立に寄与したのが、ミッションで現地に派遣された宣教師たち。彼らは、「解放の神学」という独自の神学を掲げて、独特のキリスト教思想を広げていったのですが――。
Talker
哲雄 自ら著作を手がけるエッセイスト。当ブログの管理人です。
AKI 出張エステ嬢として働きながら、作家を目指すアラサーの美女。
【今回のキーワード】 解放の神学 ベトミン
AKI 中南米では、1800年代になると、次々に独立運動が起こり、19世紀のうちには、ほとんどの国が独立したんですよね? でも、北米の独立とは違って、中南米の場合は、入植したスペイン人やポルトガル人たちが「土着化」した結果の「独立」だった。それには、宣教師たちが所属していた「イエズス会」の布教の仕方が関係しているのではないか――とおっしゃいました。
哲雄 ハイ、申し上げました。「イエズス会」というのは、日本にキリスト教を伝えたと言われているフランシスコ・ザビエルが所属していた修道士会でもあるので、たぶん、名前ぐらいは聞いたことがあると思います。この修道会に特質的なのは、先住民たちが身に着けていた生活習慣や伝統、習俗……といった「異文化」に対する寛容な態度です。というより、当時の宣教師たちは、それらを許容し、教えの中に取り込むことによって、布教を円滑に進めようとした節が見られます。
AKI 生活習慣とか習俗とか――ですか? たとえば、結婚制度とか?
哲雄 そういうのもあるかもしれませんが、もう少し精神的なものですね。たとえばね、南米には、南米でしか崇敬されない「×××の聖母」というのが、何人かいます。
AKI エッ、聖母が何人もいるんですか?
哲雄 「聖母マリア」と言われているのは、イエスの母親ひとりです。しかし、カトリック教会は、各地の民衆が「女神」と崇めて信奉する対象がいることを否定はしませんでした。彼らがそういう聖母を祭る行事を行っても、抑圧的な行動はとりませんでした。そうして「多文化」との寛容な関係を築きつつ、カトリック教会は、中南米全体を「カトリック圏」化していくのですが、そんな中で、この地域独特の「新しい神学」も生まれました。
AKI 新しい神学……? それは、どんな?
哲雄 「解放の神学」と呼ばれる神学なんですが、ひと言で申し上げると、
貧困や抑圧と闘う人たちをキリスト教の教えで解放し、
救おうとする神学
と言っていいかと思います。その神学の中では、イエスを苦難からの「解放者」として位置づけ、教会はその使命に従うべき――と説きます。その神学には、社会主義やマルクス主義の影響もあるとされ、批判的な人たちからは「キリスト教社会主義」とも呼ばれました。
AKI ヘーッ、そんな動きもあったんですね。いまでも、中南米では、その……何て言いましたっけ、「解放の神学」? それが主流なんですか?
哲雄 進歩派は支持していますが、バチカンの保守派は否定しているようですね。
AKI バチカンはと言うと、つまり教皇庁は――ってことですか?
哲雄 そうですね。この神学がもっとも勢いを得ていたのは、1955年にラテンアメリカ司教会議(CELAM)が創設された頃で、バチカン公会議もその影響を受けたりしたのですが、1970年代になると、保守派が優勢となったようです。現在、カトリックの世界でどの程度、その影響が残っているかについては、残念ながら、私は判断の材料を持ち合わせておりません。
AKI でも、ラテンアメリカでは、土着化した入植者たちが本国と対立するという形で、独立が果たされていった――というわけですね? その他の地域ではどうだったんですか?
哲雄 ハイ、申し上げました。「イエズス会」というのは、日本にキリスト教を伝えたと言われているフランシスコ・ザビエルが所属していた修道士会でもあるので、たぶん、名前ぐらいは聞いたことがあると思います。この修道会に特質的なのは、先住民たちが身に着けていた生活習慣や伝統、習俗……といった「異文化」に対する寛容な態度です。というより、当時の宣教師たちは、それらを許容し、教えの中に取り込むことによって、布教を円滑に進めようとした節が見られます。
AKI 生活習慣とか習俗とか――ですか? たとえば、結婚制度とか?
哲雄 そういうのもあるかもしれませんが、もう少し精神的なものですね。たとえばね、南米には、南米でしか崇敬されない「×××の聖母」というのが、何人かいます。
AKI エッ、聖母が何人もいるんですか?
哲雄 「聖母マリア」と言われているのは、イエスの母親ひとりです。しかし、カトリック教会は、各地の民衆が「女神」と崇めて信奉する対象がいることを否定はしませんでした。彼らがそういう聖母を祭る行事を行っても、抑圧的な行動はとりませんでした。そうして「多文化」との寛容な関係を築きつつ、カトリック教会は、中南米全体を「カトリック圏」化していくのですが、そんな中で、この地域独特の「新しい神学」も生まれました。
AKI 新しい神学……? それは、どんな?
哲雄 「解放の神学」と呼ばれる神学なんですが、ひと言で申し上げると、
貧困や抑圧と闘う人たちをキリスト教の教えで解放し、
救おうとする神学
と言っていいかと思います。その神学の中では、イエスを苦難からの「解放者」として位置づけ、教会はその使命に従うべき――と説きます。その神学には、社会主義やマルクス主義の影響もあるとされ、批判的な人たちからは「キリスト教社会主義」とも呼ばれました。
AKI ヘーッ、そんな動きもあったんですね。いまでも、中南米では、その……何て言いましたっけ、「解放の神学」? それが主流なんですか?
哲雄 進歩派は支持していますが、バチカンの保守派は否定しているようですね。
AKI バチカンはと言うと、つまり教皇庁は――ってことですか?
哲雄 そうですね。この神学がもっとも勢いを得ていたのは、1955年にラテンアメリカ司教会議(CELAM)が創設された頃で、バチカン公会議もその影響を受けたりしたのですが、1970年代になると、保守派が優勢となったようです。現在、カトリックの世界でどの程度、その影響が残っているかについては、残念ながら、私は判断の材料を持ち合わせておりません。
AKI でも、ラテンアメリカでは、土着化した入植者たちが本国と対立するという形で、独立が果たされていった――というわけですね? その他の地域ではどうだったんですか?
哲雄 20世紀になってからの独立運動は、ガラリと様子が変わります。ほとんどが、宗主国に対する民族自立運動、民族解放闘争として展開されます。いちばん大きかったのが、インドとパキスタンのイギリス領インド帝国からの分離独立(1947年)でしょうね。
AKI あ、それ、知ってる。ガンジーとかが活躍した独立運動ですよね?
哲雄 かつて大英帝国として栄華を誇ったイギリスも、第二次世界大戦で疲弊してましたからね。この独立は、比較的平和裏に進みました。しかし、インドシナではそうはいきませんでした。
AKI インドシナというと、現在のベトナムとかですか?
哲雄 ベトナムとラオスとカンボジアですね。この一帯は、仏領インドシナとも呼ばれ、フランスの植民地になっていました。しかし、第二次世界大戦で日本軍が進駐して、一時、フランス軍を遠ざけると、日本の無条件降伏後は、独立を唱える「ベトミン」が蜂起して、フランス軍とゲリラ戦を中心とする闘いを繰り広げました。
AKI 結局、ベトミンは勝利したんですよね?
哲雄 そうです。で、北部には、中国とソ連(当時)の承認を受けて「ベトナム民主共和国(ホー・チ・ミン政権)」が成立するのですが、フランスは、南部に傀儡政権の「ベトナム国」を設立させて、自分たちの権利を守ろうとします。
AKI そうだ、ベトナムは南北に分裂していたんですよね?
哲雄 当時は、「北ベトナム(首都はハノイ)」「南ベトナム(首都はサイゴン)」と呼ばれてましたね。北は、社会主義国家として統一されてたし、その正規軍には元日本軍の残留兵が入り込んで組織的な訓練に当たったりもして、統制のとれた軍隊組織になってたんですが、南の傀儡軍は、てんでバラバラ。フランスの支援軍なんてのは、外人部隊が主で、士気が上がらないことおびただしい。そのうち、フランスは、アルジェリアなど、アフリカの植民地の独立闘争が激化するなどして、インドシナどころじゃなくなっちゃった。
AKI エッ、インドシナどころじゃ……って、つまり、捨てちゃったんですか、ベトナムを?
哲雄 捨てはしないけど、任せちゃったんです、アメリカに。
AKI それで、アメリカとベトナムが闘うことになったんですか?
哲雄 アメリカとベトナムが闘ったわけじゃありませんよ。アメリカがフランスに代わって肩入れすることになった南ベトナムのかいらい政権と一緒になって、北ベトナムと闘ったんです。しかしね、最初は「肩入れ」するぐらいのつもりで介入したベトナムが、アメリカにとっては、とんでもない泥沼になっちゃった。
AKI なんか、その話、最後のほうは、リアルに見聞きしていたような気がしますけど……。
哲雄 もし、キミたちの世代がTVや新聞で見たり聞いたりしていたとすれば、ほんとに最後の最期のほうでしょうね。この話、話すと長いから。
AKI でも、知りたい。
哲雄 では、お話しましょう。それは、昔むかし、世界がアメリカ中心の西側と、ソ連・中国中心の東側に分かれて、「冷戦」と呼ばれる対立を続けていた時代のことでした。
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