自伝的創愛記〈12〉 才能の発見としごき

転校生のボクを待っていたのは、
ビンタが支配する教室だった。
何かと言うと手を挙げる教師は、
生徒の才能を見出して鍛える
熱血教師でもあった――。
あなたは、教師に手を挙げられた経験がおありだろうか?
かつては、鉄拳で生徒を従わせる――なんていう教育が行われたこともあったが、それは「戦前」の話。学校で「軍事教練」が行われ、学校に軍人が乗り込んで来たりする時代だった。
戦後になり、民主教育の時代になってからは、それはなくなった。
少なくとも、生徒を殴って指導する「体罰式の教育」は、表向きには退けられていた。
しかし、殴る先生はいた。殴るのは、主に、古い時代の教育を経験した年配の教師だったが、例外もいた。
青田先生は、まだ20代そこそこの若い教師だったが、手を振り上げる回数は、年配の教師たちよりはるかに多かった。
「あの先生、予科練上がりやけん、厳しかとよ。ほんとやったら、特攻隊員として出撃するはずやったんやけど、終戦で飛べんごとなったんやと。それが悔しいっちゃないと」
訳知り顔のユミが、得意げに解説してくれた。
親たちの態度は、二手に分かれていた。
「あんたんとこの先生、生徒ば叩きよっとやろ? ひどかねェ」
ボクの母親は、どちらかと言うと、ビンタを張りまくる教師・青田の教育法を嫌っているようだった。
「うちの子はふつうに育ててくれればいい」というのだが、クラスの父兄の中には、ビシビシ厳しくやってくれ――と、その教育方針にエールを送るお母さんたちもいた。
ボクの小学校5~6年の1年半は、そんなおとなたちの相反する声の狭間で過ぎていった。
かつては、鉄拳で生徒を従わせる――なんていう教育が行われたこともあったが、それは「戦前」の話。学校で「軍事教練」が行われ、学校に軍人が乗り込んで来たりする時代だった。
戦後になり、民主教育の時代になってからは、それはなくなった。
少なくとも、生徒を殴って指導する「体罰式の教育」は、表向きには退けられていた。
しかし、殴る先生はいた。殴るのは、主に、古い時代の教育を経験した年配の教師だったが、例外もいた。
青田先生は、まだ20代そこそこの若い教師だったが、手を振り上げる回数は、年配の教師たちよりはるかに多かった。
「あの先生、予科練上がりやけん、厳しかとよ。ほんとやったら、特攻隊員として出撃するはずやったんやけど、終戦で飛べんごとなったんやと。それが悔しいっちゃないと」
訳知り顔のユミが、得意げに解説してくれた。
親たちの態度は、二手に分かれていた。
「あんたんとこの先生、生徒ば叩きよっとやろ? ひどかねェ」
ボクの母親は、どちらかと言うと、ビンタを張りまくる教師・青田の教育法を嫌っているようだった。
「うちの子はふつうに育ててくれればいい」というのだが、クラスの父兄の中には、ビシビシ厳しくやってくれ――と、その教育方針にエールを送るお母さんたちもいた。
ボクの小学校5~6年の1年半は、そんなおとなたちの相反する声の狭間で過ぎていった。

教師・青田は、ビンタでボクたちを脅えさせる一方で、いったん見出した才能は、徹底的に鍛え上げようとする鬼コーチでもあった。
転校生だったボクは、ある特技に目をつけられた。
ひとつは、文章を書く力。もうひとつは、「声」だった。
ボクは過酷とも言える課題を課された。
「毎日、題を出してやるから、それで最低3枚から5枚、作文を書いて来い」
山ほど宿題を出す先生だったが、その上に、毎日3~5枚の作文。市の作文コンクールなどがあるときには、必ずと言っていいほど、応募作を提出させられたし、週に1回は学級新聞を出せと、その編集やガリ版切りを命じられた。
宿題をすませた上でそれらの課題をこなそうとすると、夜の11時、12時までかかってしまう。
「いつまで起きとぉとや。早ゥ寝ろ!」と、父親は声を荒げた。
子どもがそんな時間まで起きてなきゃいかんような課題を出すなんて、「おまえの先生、ちと、頭おかしいんじゃないか」と言うのだった。

もうひとつ、目をつけられたのは「声」だった。
子どもの割に、ボクの声は「野太い」と言われた、よく通る声でもあった。
それは、父親ゆずりの特質でもあった。自ら筑前琵琶を弾き、小唄を唸ったりする芸事好きでもあった父親。好きかどうかはともかく、ボクはその特質を受け継いでいたのだと思う。
小学校入学と同時に、教科書を朗読する声などを教師に認められ、朗読コンクールなどに引っ張り出されたり、放送劇に駆り出されたりしていたが、そういう才能に、教師・青田も目をつけた。
学芸会、クリスマス会、送別会……など、年に4回は、何かしら演劇発表の機会を設ける演劇好きでもあった青田教師は、ボクをそのすべての演目に起用した。
しかし、主役ではなかった。声がおとなびていたこともあって、『西遊記』であれば三蔵法師、『ベニスの商人』であれば金貸しシャイロックというふうに、おじいさん役とか憎まれ役とかを演じさせられることが多かった。
教師・青田は、そういう活動を通して、教師としての自分の名声を高めようとするところもあり、ボクたち生徒は、その道具に使われている――と見えることもあった。
何やら野望に満ちているようにも見える教師・青田の教育方針は、「ふつうの教育」を望む父兄たちとぶつかることもあった。
その板挟みにあったのは、ボクたち生徒だった。そして……。(続く)
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