自伝的創愛記〈11〉 ビンタの洗礼

小5で転校した学校で、ボクは、その
教師に会った。「学帽を被って来い」
と命じるその教師は、ビンタで
生徒を従わせる「魔王」だった――。
「この学校の生徒になるんだったら、学帽、被って来い」
そんな言葉で転校生のボクをビビらせた青田というその教師は、小5のボクたちにとって、「魔王」のような存在だった。
「魔王」は、ボクたちに、まるでおとなに求めるような規律や道徳心を求めた。その根底となる「社会性」を持て――とも命じた。
たとえば、朝の掃除。毎日、1時間目が始まる前に、ボクたちは、教室の清掃を命じられていた。しかし、クラスの中には、その当番をサボろうとする子もいる。
そういう子を見つけたり、報告を受けたりすると、「魔王」は怒りを爆発させた。
その朝も、ひとりの男子が、掃除の間、床を雑巾がけする女の子のスカートからのぞくパンツを指さして、からかったりしていた。それを、女子のひとりが、「魔王」に告げ口した。
「大介、おまえ、みんなが掃除しとるときに、何しとったんだ?」
「……」
大介と言われた子が口をつぐんでいると、「魔王」は「出て来い!」と声を荒げた。
「一生懸命掃除しとった女子を、おまえ、からかったそうやの?」
言うなり、魔王の右手が、肩の上に振り上げられた。
その手がビュッと振り下ろされ、男の子の頬が「ビシャッ」という音を立てた。
初めて見るビンタ。
それまでも、母親に背中を思いきり叩かれたことはあったし、父親から頭をげんこつでゴツンとやられたこともあった。
しかし、おとなの男が子どもに食らわす本気のビンタを見るのは、それが初めてだった。
頬をピシリと打つ音の鋭い響きに、ボクは脅えた。
そんな言葉で転校生のボクをビビらせた青田というその教師は、小5のボクたちにとって、「魔王」のような存在だった。
「魔王」は、ボクたちに、まるでおとなに求めるような規律や道徳心を求めた。その根底となる「社会性」を持て――とも命じた。
たとえば、朝の掃除。毎日、1時間目が始まる前に、ボクたちは、教室の清掃を命じられていた。しかし、クラスの中には、その当番をサボろうとする子もいる。
そういう子を見つけたり、報告を受けたりすると、「魔王」は怒りを爆発させた。
その朝も、ひとりの男子が、掃除の間、床を雑巾がけする女の子のスカートからのぞくパンツを指さして、からかったりしていた。それを、女子のひとりが、「魔王」に告げ口した。
「大介、おまえ、みんなが掃除しとるときに、何しとったんだ?」
「……」
大介と言われた子が口をつぐんでいると、「魔王」は「出て来い!」と声を荒げた。
「一生懸命掃除しとった女子を、おまえ、からかったそうやの?」
言うなり、魔王の右手が、肩の上に振り上げられた。
その手がビュッと振り下ろされ、男の子の頬が「ビシャッ」という音を立てた。
初めて見るビンタ。
それまでも、母親に背中を思いきり叩かれたことはあったし、父親から頭をげんこつでゴツンとやられたこともあった。
しかし、おとなの男が子どもに食らわす本気のビンタを見るのは、それが初めてだった。
頬をピシリと打つ音の鋭い響きに、ボクは脅えた。

その教室は、教師・青田のビンタが支配する教室だった。
言われた宿題をやってこなかったと言ってはビンタ。言いつけられた当番をサボったと言ってはビンタ。自習を命じられたのに、勝手に教室を抜け出したと言ってはビンタ。
ビンタは、与えられた責任を果たさなかったときや、集団の規律を乱す行動をとったときに繰り出されるらしい。転校して1カ月も経たないうちに、ボクはそのことを学習した。
何とか、あのビンタを食らわないようにしよう。ボクの最後の小学校生活は、そんなビクビク感を抱きつつ始まったのだが、ひとつだけ、ボクには理解のできないことがあった。
「魔王」がビンタを繰り出す生徒には、子どもの目から見ても、何かしらの偏りがあるように見えた。同じことをやっても、ビンタを食らいやすい子と食らいにくい子がいる。
不思議なのは、しょっちゅうビンタを食らっている子に限って、その「魔王」になついているように見えることだった。男子もそうだが、女子も――。

「魔王」は、女の子にもビンタを振るった。
女子の中にも、よくぶたれる子とそうでもない子がいた。
男子にも人気があるようなかわいい子とあまり注目されない子がいると、かわいい子のほうがぶたれる回数が多いように見えた。
行動が鈍くておとなしい子と活発で元気な子では、活発で元気な子のほうが、よくぶたれた。
利発そうだが口数の少ない子と、愚鈍そうで口の重い子、利発でも愚鈍というわけでもないが口だけは達者という子がいたら、「魔王」のビンタは、第三の口の達者な子の頬でよく鳴った。
しかし、そうしてよくビンタされる女の子ほど、やっぱり、「魔王」によくなついているように見えた。そして、その傾向は、男子よりも女子のほうが強かった。
ボクには、それは、不思議な光景だった。
休み時間になると、女の子の3人か4人が、教室の後ろにデンと置かれた「魔王」のデスクの周りに集まって、「先生、先生」と甘えたような声を出す。そのうちの1人か2人が、「先生」の首に抱きついて、「キャッキャッ」と嬌声を挙げる。
女の子たちは、先生の首筋に抱きつく権利を争っているようにも見えた。
転校生であるボクに「あの先生は……」と教えてくれたユミという女の子も、そのひとりだった。
教室の後ろに作られた教師・青田の要塞のようなデスクと、そこに群がる女の子たち。
それは、ボクにとって想像もできない世界だった。そして、そこは、ボクたちにとって近寄りがたい世界でもあった。
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