自伝的創愛記〈10〉 「公」の発見

小学校5年生で転校を経験した。
転校した北部九州のその学校で、
ボクはカルチャー・ショックを受けた。
そこは「公」を重視する学校だった。
小学校5年の2学期、ボクの家は福岡市から北九州の小倉市(現・北九州市小倉北区)に引っ越した。
同じ福岡県ではあったが、福岡市と小倉市は、その土地柄に、「天と地」ほどの違いがあった。
福岡市は、かつて筑前黒田藩の城下町であった「福岡」と幕府の天領で町人の自治が許されていた「博多」が、明治維新の「廃藩置県」で合併して作られた市で、比較的自由な気風を重んじる土地柄だった。
一方の小倉市は、徳川譜代の小笠原藩の城下町だったが、明治以降は、近くに八幡製鉄所や住友金属の工場を抱え、石炭の集積地も控える重工業の街として発展していた。後に、陸軍の連帯本部が置かれたこともあって、どちらかと言うと、質実剛健の気風が優勢な街だった。
その気風の違いは、教室に入って「転校生」として紹介された瞬間から始まった。
「転校生ば紹介するけん、みんな、いろいろ教えちゃってくれ。竹内、席はおまえの隣にするけん、細かいことは、おまえが教えるとゾ」
なんか、乱暴な先生だなぁ――と、そのとき、ボクは思った。

竹内と呼ばれた子は、少し頭の弱そうな男の子だった。
その教室では、使えるノートも、鉛筆の濃さも、すべて決められていた。
特に驚いたのは、ノートだった。それまで当たり前のように使っていた大学ノートは、「ぜいたくだから」と「使用禁止」で、代わりに、役場で記録用に使われる薄葉紙を2つ折りにして、黒表紙をつけてそれを黒ヒモで綴じて使わくちゃいけない。鉛筆はHかHBだよ。
そういうことを、竹内クンは、「あのね、あのね」と言いながら教えてくれた。
「ノート使うときは、下敷きば使うとよ。それと、胸には名札ばつけんと。あとで、一緒に売店に行ってあげるけん」
横から、ユミという子が声をかけてきた。
長い髪をなびかせ、紺色の長いスカートの裾を揺らして、教室の中をツカツカと歩く、活発そうな女の子だった。お姉さん肌らしく、世話好きにも見える。
そのユミが、「あのネ」と教えてくれた。
「先生、ルールにうるさいけん、気をつけりぃ」
同じ福岡県ではあったが、福岡市と小倉市は、その土地柄に、「天と地」ほどの違いがあった。
福岡市は、かつて筑前黒田藩の城下町であった「福岡」と幕府の天領で町人の自治が許されていた「博多」が、明治維新の「廃藩置県」で合併して作られた市で、比較的自由な気風を重んじる土地柄だった。
一方の小倉市は、徳川譜代の小笠原藩の城下町だったが、明治以降は、近くに八幡製鉄所や住友金属の工場を抱え、石炭の集積地も控える重工業の街として発展していた。後に、陸軍の連帯本部が置かれたこともあって、どちらかと言うと、質実剛健の気風が優勢な街だった。
その気風の違いは、教室に入って「転校生」として紹介された瞬間から始まった。
「転校生ば紹介するけん、みんな、いろいろ教えちゃってくれ。竹内、席はおまえの隣にするけん、細かいことは、おまえが教えるとゾ」
なんか、乱暴な先生だなぁ――と、そのとき、ボクは思った。

竹内と呼ばれた子は、少し頭の弱そうな男の子だった。
その教室では、使えるノートも、鉛筆の濃さも、すべて決められていた。
特に驚いたのは、ノートだった。それまで当たり前のように使っていた大学ノートは、「ぜいたくだから」と「使用禁止」で、代わりに、役場で記録用に使われる薄葉紙を2つ折りにして、黒表紙をつけてそれを黒ヒモで綴じて使わくちゃいけない。鉛筆はHかHBだよ。
そういうことを、竹内クンは、「あのね、あのね」と言いながら教えてくれた。
「ノート使うときは、下敷きば使うとよ。それと、胸には名札ばつけんと。あとで、一緒に売店に行ってあげるけん」
横から、ユミという子が声をかけてきた。
長い髪をなびかせ、紺色の長いスカートの裾を揺らして、教室の中をツカツカと歩く、活発そうな女の子だった。お姉さん肌らしく、世話好きにも見える。
そのユミが、「あのネ」と教えてくれた。
「先生、ルールにうるさいけん、気をつけりぃ」

ユミが「うるさいけん」と言った先生は、その「ルール」をタテに転校生であるボクを攻撃してきた。
「オイ、長住、おまえが被っとる帽子は、何だ?」
「これは……野球帽ですけど」
「前の学校じゃ、それが学帽だったんか?」
「い、いや、特に学帽というのは、決まってなかったです」
「学帽が決まってない? そんな学校やったんか?」
「ハァ……」とうなずくと、永田というその教師は、手にしたチョークを黒板の溝にポンと捨てるように投げて、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「ここじゃ、そうはいかんぞ。学校には学帽ゆうもんがある。この学校の生徒になったからには、明日からは、学帽被って来い。ええな!」
小学校で学帽を被って通学するなんていう姿は、前の学校でも、その前の学校でも、目にしたことがなかった。
この学校だけが変わっているのか、それとも、この先生だけが……?
もしかして、この土地そのものが、変わっているのか?
転校したばかりのボクは、ちょっとしたカルチャー・ショックに襲われた。
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